富岡八幡宮殺人事件|宮司の富岡長子さん殺害、姉弟対立と計画的襲撃の経緯

公開日 2026年6月15日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2017年
都道府県
東京都
事件分類
殺人事件
司法状況
該当なし
最終刑・処分
容疑者死亡・裁判なし

2017年12月7日午後8時半ごろ、東京都江東区の富岡八幡宮近くで、宮司の富岡長子さん(58)が車から降りた直後に襲われた。警視庁は、弟で元宮司の富岡茂永(56)が日本刀で長子さんを殺害したとみた。長子さんの運転手だった男性(33)も、茂永の妻・真里子(49)に切りつけられて重傷を負った。

襲撃はそこで終わらなかった。警察の捜査では、茂永が境内で真里子を刺して死亡させた後、自らも刃物で胸を刺して死亡したとされた。結果は3人死亡、1人重傷。茂永夫妻がともに死亡したため、起訴された被告人の供述や公開法廷での証拠調べは行われていない。事件の経過は、現場状況、防犯カメラ、遺書や文書などを基に捜査機関が組み立てたものとなる。

発生日2017年12月7日
場所東京都江東区富岡・富岡八幡宮周辺
死亡した被害者宮司・富岡長子さん(58)
負傷者長子さんの男性運転手(33)
被疑者富岡茂永(56)、妻・真里子(49)
事件後茂永が真里子を殺害した後に自殺したと警視庁が判断
主な背景宮司職、神社運営、親族関係をめぐる長年の対立
送検両名を容疑者死亡のまま殺人・殺人未遂などで書類送検
処分2018年9月28日、東京地検が不起訴
刑事裁判被疑者死亡のため開かれていない

長子さんが車を降りる時刻を待ち、姉弟の対立は刃物による襲撃へ変わった

共同通信の整理では、長子さんは運転手の車で帰宅し、車から降りた直後に茂永から日本刀で襲われた。真里子は車から逃れた運転手を追い、日本刀で切りつけた。男性は重傷を負ったものの生存した。現場には日本刀やナイフ類が残り、偶発的な口論から武器を手にした事件ではなかったことがうかがえる。

茂永夫妻は長子さんの帰宅動線に近い場所にいた。事件後の捜査では、夫妻が現場近くのマンション最上階の部屋を2017年6月20日に契約していたことも判明した。部屋は襲撃地点から約30メートルで、周辺を見渡せる位置にあり、日本刀のほか大型包丁、サバイバルナイフ、双眼鏡などが見つかったと報じられている。

事件の約6か月前、夫妻は現場近くの部屋を借りていた

マンション契約の日付は、富岡八幡宮が神社本庁からの離脱を決めた時期と重なる。日刊スポーツによると、富岡八幡宮の責任役員会が離脱を決めたのは2017年5月。夫妻が部屋を契約したのはその約3週間後だった。これだけで殺害計画の開始時点を断定することはできないが、事件直前だけの準備ではなかったことを示す事情の一つとなった。

さらに、部屋からは真里子名義で警察と報道機関に宛てた12月1日付の封書が見つかった。そこには長子さんへの積年の恨みを理由に殺害する趣旨や、自害するつもりであること、自分でできない場合は夫に助けを求める趣旨が記されていたと報じられた。警視庁は、この文書を夫妻が事前に襲撃と死亡を想定していた重要な資料として扱った。

茂永は1995年に宮司となったが、2001年に退任した

姉弟の対立は事件直前に始まったものではない。富岡八幡宮では長子さんと茂永の父・興永が長く宮司を務めていたが、茂永は1995年3月に父の後を継いで宮司となった。ところが2001年5月に退任し、父が再び宮司へ戻った。報道では、金銭や女性をめぐる問題などが退任の背景として伝えられている。

その後、神社側では長子さんを後継宮司にする動きが進んだ。神社本庁の包括下では宮司の任命権を本庁が持つため、神社は長子さんの宮司就任を繰り返し具申した。しかし家族間の対立や係争が続いていたことなどを理由に、任命は実現しなかった。長子さんは宮司代務者として神社運営を担う期間が続いた。

2006年には姉への脅迫容疑で逮捕されていた

姉弟間の対立は刑事事件にもなっていた。報道によると、長子さんは2002年に宮司の地位をめぐる親族間トラブルを警察へ相談し、茂永は2006年、長子さんへ「地獄へ送る」などと記したはがきを送ったとして脅迫容疑で逮捕された。

この過去があるため、2017年の事件を単に「神社本庁から離脱したことへの反発」だけで説明するのは正確ではない。宮司職、家族関係、経済的支援、神社運営をめぐる対立が長期にわたり積み重なり、離脱問題はその最終局面の一つだった。

長子さんの宮司任命が進まず、富岡八幡宮は神社本庁から離脱した

宗教情報リサーチセンターによると、富岡八幡宮は2010年以降、長子さんを宮司に任命するよう神社本庁へ複数回申し入れた。氏子総代や神輿総代の関係者も長子さんを支持する嘆願を行ったが、本庁側は親族間の問題や裁判などを理由に任命しなかった。

神社側は2017年に包括関係から離れる手続きを進め、同年9月28日、東京都が規則変更を認証した。これにより富岡八幡宮は単立の宗教法人となり、長子さんが宮司に就いた。事件が起きたのは、それから約2か月後だった。

神社本庁からの離脱だけを、殺害動機と断定することはできない

富岡八幡宮が神社本庁から離脱し、長子さんが宮司に就いた時期と事件発生は近い。茂永名義の文書には長子さんの排除を求める内容があり、真里子名義の遺書には「積年の恨み」を理由に長子さんを殺害する趣旨が記されていた。捜査では宮司職や神社運営をめぐる長年の対立が重要な背景として扱われた。

ただし、事件は被疑者2人が死亡した状態で終わり、検察官による起訴も裁判所による事実認定も行われていない。「神社本庁から離脱したから殺害した」と一つの原因へ絞るより、1990年代から続く宮司継承、2006年の脅迫事件、経済的支援をめぐる問題、2017年の離脱と警告が重なっていた経過として捉える必要がある。

神社側は事件5か月前、迷惑行為が続けば経済支援を打ち切ると警告した

富岡八幡宮の代理人弁護士は事件後、2017年6月から7月にかけて氏子らへ長子さんを中傷する電話があり、7月10日付の内容証明で茂永へ警告したと説明した。茂永が神社を離れた後も富岡家は経済的支援を続けていたが、中傷や迷惑行為を続けるなら支援を停止するという内容だった。

警告後はいったん迷惑行為が止まったとされる。表面上の連絡が途絶えた一方で、夫妻は現場近くの部屋を借りており、後に多数の刃物や文書が発見された。外から見えるトラブルの沈静化と、実際の危険性が同じではなかったことになる。

事件後に約2800通の文書が届き、長子さんの排除などを要求していた

事件後、全国の神社関係者や氏子関係先などへ茂永名義の文書が大量に届いた。共同通信は約2800通と報じている。文書には長子さんを富岡八幡宮から永久に追放することなど複数の要求が記され、要求が実行されなければ死後も祟り続ける趣旨の文言が含まれていた。

文書は事件後に突然書かれたものではなく、あらかじめ作成・発送の準備がなされていた。こうした大量発送、現場近くの部屋、武器、真里子名義の遺書は、警察が事件を計画的な襲撃として捜査する材料となった。ただし、その動機や役割分担が公開法廷で被告人の反論を受けながら認定されたわけではない点は残る。

運転手は襲撃地点から逃走し、約90メートル先まで血痕が続いた

長子さんを乗せていた男性運転手は、車から離れて逃走したところを真里子に追われ、刃物で切りつけられた。事件翌日の現場では、長子さんが襲われた神社裏手付近から男性が倒れたスーパー方向まで、約90メートルにわたって血痕が続いていたと報じられている。男性は重傷を負ったが生存した。

警視庁は、茂永が長子さんを、真里子が運転手をそれぞれ襲ったとみて捜査した。現場近くの部屋を事前に借り、複数の刃物を用意し、夫婦が別々の相手を追った経過は、突発的な一人の犯行ではなく、夫妻が事前に役割を持って襲撃した可能性を捜査機関が重視する材料となった。

真里子は運転手を襲った後、茂永に刺されて死亡した

警視庁の見立てでは、真里子は長子さんの運転手を襲う役割を担った。運転手が逃走すると追跡して切りつけ、その後、富岡八幡宮の境内へ戻った。そこで茂永が真里子を刺殺したとされた。

真里子の遺書には、自害できない場合には夫に手助けを求める趣旨があった。このため茂永が真里子を死亡させた行為については嘱託殺人容疑も捜査対象となった。もっとも、真里子本人も死亡しており、文書の作成状況や意思の最終確認を法廷で検証する機会はなかった。

茂永夫妻は死亡のまま書類送検され、2018年9月に不起訴となった

警視庁は茂永と真里子について、容疑者死亡のまま殺人、殺人未遂などの容疑で書類送検した。茂永には真里子に対する嘱託殺人容疑も含まれた。2018年9月28日、東京地検は両名を不起訴とした。

ここで「不起訴」と「無罪」は区別が必要となる。両名は死亡しており、刑事裁判を開いて有罪・無罪を判断する手続には進んでいない。長子さん殺害などについて警察が立件した事実と、裁判所による有罪認定は同一ではない。

事件後も神社は存続し、長子さんの神社葬が営まれた

2018年1月24日には長子さんの神社葬が営まれ、神職や氏子ら約300人が参列したと報じられた。神社では権宮司が宮司代務者を務め、祭礼や日常の神事は継続された。

富岡八幡宮殺人事件は、現職宮司が実弟に殺害されたという結果だけでなく、宮司継承をめぐる長年の対立が、脅迫、神社本庁との関係解消、事前準備を伴う襲撃へ至った事件だった。一方、被疑者が死亡したため、最終的な動機や夫妻間の詳細な共謀内容について刑事裁判上の事実認定は存在しない。

参考資料・出典

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