島根女子大生殺人事件|遺体画像57枚で特定された死亡被疑者と、法廷なき終結

公開日 2026年2月4日
最終更新 2026年7月31日

島根女子大生殺人事件は、2009年10月26日夜、島根県浜田市で島根県立大学1年の平岡都さん(19歳)がアルバイト先を出た後に行方不明となり、11月6日以降、広島県北広島町の臥龍山で遺体の一部が発見された事件である。

島根県警と広島県警の合同捜査本部は約7年間の捜査を経て、事件当時島根県益田市に住んでいた会社員・矢野富栄を被疑者と特定した。矢野は遺体発見の2日後に交通事故で死亡していたため、2016年12月20日、殺人・死体損壊・死体遺棄の疑いで被疑者死亡のまま書類送検された。

関係先から押収されたデジタルカメラとUSBメモリーには、平岡さんの遺体、包丁、矢野の身体の一部などが写った計57枚の画像が保存されていたと警察発表に基づく報道で明らかになった。松江地検は2017年1月、被疑者死亡を理由に不起訴とした。刑事裁判が開かれていないため、動機、接触方法、犯行の全過程は法廷で認定されていない。

POINT
この記事でわかること
  • 平岡都さんがアルバイト後に帰寮しなかった夜の経過
  • 浜田市から約25キロ離れた臥龍山で遺体が発見された理由
  • 7年間の車両記録・関係先捜索から矢野富栄が浮上した流れ
  • デジタルカメラとUSBメモリーの57枚の画像が持った意味
  • 死亡した被疑者の書類送検と不起訴後に残った未解明部分
事件名島根女子大生殺人事件
主な公表名女子大学生死体遺棄等事件
行方不明2009年10月26日夜
行方不明場所島根県浜田市・アルバイト先から学生寮への帰路
遺体発見開始2009年11月6日
遺体発見場所広島県北広島町・臥龍山
被害者平岡都さん(19歳・島根県立大学1年)
送検された人物矢野富栄(死亡時33歳)
送検容疑殺人、死体損壊、死体遺棄
被疑者の死亡2009年11月8日、交通事故
書類送検2016年12月20日
最終処分2017年1月、被疑者死亡で不起訴
現在の状況警察は被疑者を特定して送致。裁判による事実認定なし

2009年10月26日夜、アルバイトを終えた平岡都さんが店を出た

平岡都さんは香川県出身で、島根県立大学へ進学し、浜田市内の学生寮で生活していた。

事件当日は、市内のショッピングセンターに入る店舗でアルバイトをしていた。勤務を終えた平岡さんは午後9時すぎに店を出て、学生寮へ戻る予定だった。

アルバイト先から寮までの移動は、本人にとって日常的な帰宅経路だった。しかし寮へ戻らず、携帯電話にもつながらなくなった。

大学、友人、家族が所在を確認し、警察へ届け出た。19歳の大学生が夜の帰宅途中で突然消息を絶ったことから、浜田市内の道路、店舗、バス停、寮周辺で目撃情報が集められた。

最後に確認された場所と、連れ去り場所は同じとは限らなかった

平岡さんが確実に確認されたのはアルバイト先を出た時点だった。その後、誰かと会ったのか、車へ乗ったのか、徒歩でどこまで進んだのかは分からなかった。

事件現場が判明していない行方不明事件では、どの地点を中心に物証を探すかを決めにくい。路上で連れ去られた場合、屋外に残る痕跡は交通や天候で短時間に失われる。

被害者と犯人に面識があったのか、偶然接触したのか、偽りの用件で車へ乗せられたのかも不明だった。 捜査は平岡さんの交友関係だけでなく、帰宅路を走行した車両、周辺の不審者、性犯罪歴のある人物、県境を越える移動へ広がった。

11月6日、臥龍山で遺体の一部が発見された

行方不明から11日後の11月6日、広島県北広島町の臥龍山で、キノコ採りに来た人が女性の遺体の一部を発見した。

DNA型鑑定により、平岡さんの遺体と確認された。その後も周辺の山林が捜索され、11月19日までに別の部位が相次いで見つかった。

臥龍山は浜田市から直線距離で約25キロ離れている。犯人は殺害後、遺体を車両などで県境を越えて運んだ可能性が高いと考えられた。

遺体の状態から、警察は殺人だけでなく死体損壊・死体遺棄事件として捜査した。被害の具体的描写を繰り返すことより、山中への移動と遺棄が犯人の行動範囲を示す点が重要である。

島根・広島両県警は合同捜査本部を設置した

行方不明となった浜田市は島根県警、遺体が見つかった臥龍山は広島県警の管轄である。 両県警は合同捜査本部を設置し、失踪、殺害、損壊、遺棄を一連の事件として捜査した。

浜田市内では帰宅経路と目撃者、臥龍山では遺留品や車両の進入経路が調べられた。県境をまたぐ道路の通行記録、防犯カメラ、料金所や自動車ナンバー自動読取装置の記録も検討対象となった。

捜査範囲が広いことは、情報量が増える一方、事件と無関係な車両・人物を大量に除外する必要があることを意味した。

公開捜査と報奨金制度でも、すぐに被疑者へ届かなかった

警察は平岡さんの写真や当日の服装を公開し、アルバイト先と寮の周辺、臥龍山の利用者へ情報を求めた。 2010年には警察庁の捜査特別報奨金制度の対象となり、事件解決へ結び付く情報に上限300万円が設定された。

多数の情報が寄せられ、捜査員は車両、人物、過去の犯罪歴、山の利用状況を確認した。それでも、平岡さんと特定人物を直接結ぶ目撃・通信記録は容易に見つからなかった。

年月が経つと、車両は廃棄・売却され、電子機器のデータも失われる。長期捜査では、事件当時に保存された記録を別の条件で再検索する作業が重要になる。

車両記録の見直しから、益田市に住んでいた矢野富栄が浮上した

2016年、捜査本部は事件当時の車両記録などを改めて解析し、浜田市周辺を不自然に行き来していた可能性のある車両へ注目したと報じられている。 車両の使用者をたどる中で、事件当時33歳で、島根県益田市の会社借り上げ住宅に住んでいた矢野富栄が捜査線上に浮上した。

矢野は住宅設備関係の会社で勤務し、営業などで島根県西部を移動していた。浜田市と臥龍山の双方へ車で行ける生活圏にいたことは捜査対象となる事情だった。

ただし、地域を移動していたことや過去の犯罪歴だけでは本件への関与を証明できない。警察が最終的に重視したのは、関係先から回収された電子データだった。

関係先からデジタルカメラとUSBメモリーが押収された

捜査本部は矢野の関係先を捜索し、デジタルカメラ、USBメモリーなどを押収した。 削除済み・長期間保管されたデータを含めて解析した結果、平岡さんの遺体や包丁などを撮影した画像が見つかった。

報道によると画像は計57枚で、撮影者側の身体の一部も写っていた。背景や室内の特徴、矢野の身体的特徴などが照合され、矢野が遺体へ直接接触して撮影したと判断する重要資料となった。

単に遺体画像を所持していたというだけではなく、一般には入手できない犯行直後の状況と、撮影者を示す要素が組み合わされたことが、被疑者特定の決め手となった。

警察は、平岡さんが窒息死させられたとみて送検した

捜査本部は画像、遺体の鑑定、矢野の住居・車両、移動記録などを総合し、矢野が平岡さんを殺害したと判断した。 警察発表に基づく報道では、平岡さんは首を圧迫されて窒息死したとみられている。

殺害後、遺体を損壊し、臥龍山へ運んで遺棄したという容疑が構成された。 本人の自白がない事件では、電子画像が作成された時刻、機器の所有・使用状況、改変の有無を確認し、ほかの客観資料と一致するかが重要になる。

矢野は遺体発見の2日後、交通事故ですでに死亡していた

矢野は2009年11月8日、山口県内の高速道路で起きた交通事故により死亡していた。臥龍山で最初の遺体が発見されてから2日後である。

2016年に被疑者として浮上した時点で、逮捕、取調べ、自宅での実況見分を本人の立会いで行うことはできなかった。

矢野が事故を起こした理由、事件発覚を知っていたか、死亡が自殺目的だったかについて、警察が刑事裁判で立証した事実はない。交通事故死を「犯行後の自殺」と断定してはならない。

被疑者死亡は、犯行を否認・説明する機会も、検察の主張を弁護側が争う機会も失われたことを意味する。

2016年12月20日、被疑者死亡のまま書類送検された

島根県警・広島県警合同捜査本部は2016年12月20日、矢野を殺人、死体損壊、死体遺棄の疑いで松江地方検察庁へ送致した。

死亡した人物であっても、警察が捜査を終えた事件は原則として検察へ送られる。検察官が証拠と捜査手続を確認し、事件の最終処分を決めるためである。

書類送検は有罪判決ではない。警察が犯罪の嫌疑があると判断して事件記録を検察へ送った手続であり、裁判所の事実認定とは区別される。

島根県警は公式ページで、被疑者を特定し、殺人・死体損壊・死体遺棄罪で送致したとして捜査への協力に謝意を示した。

2017年1月、被疑者死亡を理由に不起訴となった

松江地検は2017年1月、矢野が死亡していることを理由に不起訴処分とした。

死亡した被疑者を起訴して公判へ出廷させることはできない。刑事裁判は本人の防御権を保障しながら有罪・無罪を判断する手続であり、死者へ有罪判決を言い渡す制度ではない。

そのため、検察が証拠を公判へ提出し、裁判官が目撃・画像・鑑定を検討する機会はなかった。 警察捜査としては被疑者特定で終結した一方、司法上は矢野の有罪が確定した事件ではない。

情報提供者3人へ、捜査特別報奨金が支払われた

2017年3月、警察庁は事件解決へ貢献した情報提供者3人へ、合計300万円の捜査特別報奨金を支払うことを決めた。 報奨金の支払いは、提供情報が被疑者特定や証拠発見へ実質的に役立ったと警察が判断したことを示す。

どの情報提供者が何を伝えたかは、プライバシーや捜査上の理由から全て公表されない。 公開捜査は不特定多数の推理を集める制度ではなく、具体的な人物、車両、物品、時刻を知る人からの情報を捜査資料へ変える仕組みである。

動機と接触方法は、法廷で明らかにされなかった

電子画像は矢野の関与を示す強い資料となったが、なぜ平岡さんを狙ったのか、どこで接触したのかを本人の供述から確認することはできなかった。 平岡さんと矢野に事件前の面識があったのか、帰宅路で偶然見つけたのか、仕事や用件を装って車へ乗せたのかも、公表資料だけでは確定しない。

殺害場所、損壊場所、臥龍山へ運んだ正確な時刻と経路について、警察が把握した情報の全ては公開されていない。

被疑者死亡事件で「警察が解決した」と記す場合も、被疑者特定と、動機を含む全容解明を同じ意味にしてはならない。

2026年現在、刑事手続は不起訴で終了している

事件について新たな刑事裁判が開かれる見込みはない。送検された唯一の被疑者が死亡しており、2017年に不起訴処分が出ているためである。

近年の取材では、警察が被疑者特定に至るまでの車両解析や、書類送検時に公表されなかった事情が検証されている。

新しい取材事実が示されても、裁判所の有罪認定が後から生じるわけではない。報道上「真犯人」と表現される場合でも、法的には被疑者死亡で不起訴となった人物である。

事件の中心にあるのは、大学生活を始めた平岡都さんが日常の帰宅途中で命を奪われ、遺族が被疑者へ問いただす機会も裁判を通じた説明も得られなかったことである。

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