2015年4月30日未明、香川県小豆郡土庄町の水道工事会社事務所兼住宅で、経営者の喜田春夫さん(当時65歳)と妻の加代子さん(63歳)が殺害された。二人は就寝中に金づちなどで頭部を複数回殴られていた。約40日後、長男の喜田勝義が強盗殺人容疑で逮捕される。
しかし、裁判で確定した罪名は強盗殺人ではない。高松地検は金品を奪う目的まで立証できないとして、父母2人に対する殺人罪で起訴した。公判では喜田が殺害の事実を認めたため、有罪か無罪かではなく、発達障害が犯行や量刑にどこまで影響したかが中心争点となった。高松地裁は2016年12月2日、求刑どおり無期懲役を言い渡し、2017年に確定した。
| 発生日 | 2015年4月30日未明 |
|---|---|
| 場所 | 香川県小豆郡土庄町の水道工事会社事務所兼住宅 |
| 被害者 | 父・喜田春夫さん(65歳)、母・加代子さん(63歳) |
| 被告人 | 喜田勝義 |
| 逮捕 | 2015年6月8日・強盗殺人容疑 |
| 起訴 | 2015年9月18日・殺人罪 |
| 一審 | 2016年12月2日・高松地裁、無期懲役 |
| 控訴審 | 2017年4月11日・高松高裁、控訴棄却 |
| 上告審 | 2017年7月・最高裁が上告棄却 |
| 確定刑 | 無期懲役 |
就寝中の父母を金づちなどで襲った
2016年の高松地裁判決を伝えたTSCテレビせとうちによると、喜田は2015年4月30日、事務所兼住宅で眠っていた父・春夫さんと母・加代子さんを金づちなどで殴り、死亡させた。被害者二人はいずれも無防備な就寝中に襲われた。
初公判で喜田は起訴された殺人の事実を認めた。したがって、裁判員が判断する中心は「喜田が二人を殺害したか」ではなく、どのような事情を量刑に反映し、二人の生命を奪った犯罪にどの刑を科すかという点へ移った。
逮捕容疑は強盗殺人だった
香川県警は2015年6月8日、喜田を強盗殺人容疑で逮捕した。捜査段階では、父親の財布や携帯電話などがなくなっていたとされ、金品を奪う目的で殺害した可能性も調べられた。
強盗殺人と殺人は法的に別の犯罪である。捜査機関が逮捕時に強盗目的を疑っていても、起訴段階で証拠が足りなければ、その罪名のまま裁判へ進むわけではない。本件では、この区別が事件経過を理解するうえで重要になる。
逮捕まで約40日、捜査は家族関係と事件前後の行動へ向かった
事件発生から喜田の逮捕までは約40日あった。報道資料では、喜田は両親とは別に土庄町内で生活しながら実家にも出入りしており、警察は周辺への聞き込みや家族関係、事件前後の行動を調べたとされる。6月8日に任意同行を求め、強盗殺人容疑で逮捕した。
捜査初期には、外部の人物が金品を狙って侵入した可能性も排除できなかった。両親が殺害され、金品がなくなっている状況だけでは犯人を長男と決めることはできない。約40日の捜査を経て喜田へ容疑が向き、その後、逮捕容疑と起訴罪名がさらに絞り込まれていった。
鑑定留置を経て、殺人罪で起訴
報道資料の整理では、高松地検は6月23日、刑事責任能力を調べるため鑑定留置を請求し、裁判所が認めた。精神状態に関する鑑定を経て、検察は刑事責任を問えると判断した。
9月18日、高松地検は喜田を父母2人に対する殺人罪で起訴した。強盗目的については証拠関係から認めるに足りないと判断されたとされる。逮捕時の「強盗殺人容疑」と、最終的に有罪が確定した「殺人罪」を同じものとして扱うことはできない。
公判で殺害事実に争いはなかった
2016年11月22日に高松地裁で始まった裁判員裁判で、喜田は起訴内容を認めた。公判の焦点は量刑へ移り、検察側と弁護側は、犯行の計画性、家族関係、喜田に認められた発達障害の影響をそれぞれ異なる角度から主張した。
検察側は、父母への不満や恨みが蓄積していたことを動機として挙げ、物取りに見せかける行動などから犯行後も発覚を免れようとしていたと指摘した。求刑は無期懲役。弁護側は発達障害が犯行に大きく影響したとして、有期懲役22年が相当だと主張した。
発達障害が「ある」ことと、犯行への影響は別に判断された
一審で問題になったのは、診断名の有無だけではない。TSCの判決報道によると、高松地裁は喜田に広汎性発達障害があることを前提にしつつ、「犯行自体に影響していたとは認められない」と判断した。
刑事裁判では、障害が認められれば自動的に刑が軽くなるわけではない。犯行の動機形成、計画、実行、犯行後の行動にどの程度影響したかが具体的に検討される。本件では弁護側が影響の大きさを主張したのに対し、裁判所は量刑を大幅に軽減するほどの影響は認めなかった。
犯行後の『物取りに見せかける行動』が量刑でも扱われた
一審報道では、裁判所は殺害後に現場を強盗事件のように見せかけた点にも言及した。強盗目的が起訴されなかったことと、犯行後に物取りを装う行動があったと認定されることは別である。前者は「金品を奪う目的で殺害した」と証明できるか、後者は「殺害後に発覚を免れるため何をしたか」という問題になる。
この区別は責任能力や量刑判断にも関係した。弁護側は発達障害の影響を強く主張したが、検察側と裁判所は、犯行後に状況を偽装する行動を取ったことなどから、行動の意味や結果を理解していたことを示す事情として評価した。
検察は無期懲役、弁護側は懲役22年を求めた
殺人罪で2人を死亡させた事件でも、量刑は被害結果だけで機械的に決まらない。検察側は、就寝中の父母を襲った態様や犯行後の行動などを踏まえ、無期懲役を求刑した。
弁護側は有期懲役22年を求め、発達障害の特性が犯行へ与えた影響をより大きく評価すべきだと訴えた。起訴内容自体を否認する事件とは異なり、二つの主張の距離は「無罪か有罪か」ではなく、「無期懲役が必要か、有期刑で足りるか」という量刑の幅にあった。
二人を殺害した事件で、死刑ではなく無期懲役が求刑された
検察側の求刑は無期懲役で、死刑ではなかった。裁判員裁判では、検察官が提示した求刑を上限として機械的に刑が決まるわけではないが、本件では裁判所も無期懲役を選択した。
一審判決が重視したのは、被害者が二人であることだけではなく、就寝中で抵抗しにくい父母を金づちなどで繰り返し襲った犯行態様と、事件後の行動だった。発達障害の特性が全く存在しないとしたのではなく、それを踏まえても有期刑にとどめる事情にはならないという量刑判断だった。
2016年12月2日、高松地裁が無期懲役
高松地裁は2016年12月2日、求刑どおり喜田に無期懲役を言い渡した。野村賢裁判長は、広汎性発達障害が犯行自体に影響したとは認められないとし、就寝中の両親を金づちなどで襲った行為を重く評価した。
この判決により、強盗目的が認定されないままでも、二人を殺害した結果と犯行態様だけで無期懲役が選択されたことになる。逮捕段階の強盗殺人容疑が外れたことは、必ずしも刑が軽くなることを意味しなかった。
控訴審では「無期懲役は重すぎる」と争った
喜田側は一審判決を不服として控訴した。2017年3月の控訴審で弁護側は、両親2人を被害者とする他の殺人事件との量刑比較や、一審が発達障害の影響を過小評価したことを主張し、懲役22年への減刑を求めた。
高松高裁は同年4月11日、一審の無期懲役を支持して控訴を棄却した。犯行後に発覚を免れるための行動を取っていたことなどを踏まえ、障害の影響を理由に無期懲役を不当に重いとすることはできないと判断した。
2017年3月9日の控訴審は即日結審
報道資料では、控訴審初公判は2017年3月9日に高松高裁で開かれた。弁護側は、同種の両親殺害事件との量刑比較と発達障害の評価を挙げて一審判決を批判し、懲役22年を求めた。検察側は一審判決の維持を求め、審理は同日で結審した。
4月11日の判決で高松高裁は控訴を棄却した。控訴審でも、殺害そのものを否認して新たな犯人を主張する展開にはならず、一審が無期懲役を選んだ量刑判断に誤りがあるかが審理の中心だった。
最高裁への上告も退けられ、無期懲役が確定
控訴棄却後、喜田側は最高裁へ上告した。2017年7月、最高裁第二小法廷が上告を棄却し、父・春夫さんと母・加代子さんに対する2件の殺人罪で無期懲役が確定した。
ここでも法的な結論は「強盗殺人で無期懲役」ではない。強盗目的は起訴されず、裁判所が有罪としたのは殺人。事件の記録では、逮捕容疑と起訴罪名、確定罪名を分けて残す必要がある。
家族間の確執は、裁判で動機の背景として扱われた
検察側は、公判で喜田が父に長年不満を抱き、母にも自分を守ってくれないとの感情を持っていたことなどを動機の背景として主張した。家族内での扱いをめぐる不満が重なったという説明である。
ただし、家族関係の複雑さは殺害を正当化する事情ではない。一審は、背景事情と犯行に対する刑事責任を分け、二人が就寝中に襲われ死亡した結果と、犯行後の行動を量刑の中心に置いた。
「発達障害が原因だった」という単純な事件ではない
本件では発達障害が裁判の主要論点となったため、事件そのものを診断名だけで説明する記述も見られる。しかし、裁判所が示したのは逆で、障害の存在と犯行への影響を分けて判断する姿勢だった。
一審・控訴審は、喜田が自らの行動を組み立て、犯行後にも発覚を避ける行動を取ったことなどを検討した。結論として、障害を無期懲役から有期刑へ大きく減軽する事情とは評価しなかった。確定判決の核心は診断名ではなく、二人を殺害した犯罪の重大性と具体的な犯行経過にある。
刑事責任能力と量刑上の考慮も別の問題
鑑定留置が行われたことから、喜田に刑事責任能力がなかったように受け取られることがあるが、検察は鑑定後に殺人罪で起訴し、裁判でも責任能力を理由とする無罪判決は出ていない。
また、完全な刑事責任能力が認められても、発達障害の特性が量刑事情として考慮される余地は残る。本件では弁護側がその点を強く主張したが、地裁と高裁は犯行への影響を限定的に評価し、二人を殺害した重大性を上回る減軽事情とはしなかった。
現在の法的状態は「殺人罪で無期懲役確定」
2017年の最高裁判断により、喜田の無期懲役は確定した。公開資料上、無罪判決や再審開始によって確定判決が取り消されたとの情報はない。
事件を短くまとめるときにも、「父母を殺害した」「無期懲役」とだけ書けば十分ではない。強盗殺人容疑で逮捕されながら殺人罪で起訴されたこと、殺害事実は争われず量刑が中心争点だったこと、発達障害の影響を三審の中で検討したうえで無期懲役が維持されたことまで追って、司法手続の全体像が見えてくる。
参考資料・出典
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