2006年4月10日、秋田県藤里町で9歳の畠山彩香さんが遺体で見つかった。警察は事件か事故かを断定できないとしながらも、川岸から転落して流された事故の可能性が高いと判断した。
約1か月後、近所に住む7歳の米山豪憲君が行方不明となり、翌日に遺体で発見された。捜査は彩香さんの母・畠山鈴香へ向かい、最終的に2人の殺人などで無期懲役が確定した。事件を理解するには、最初の死亡を事故寄りに見た警察の初動と、後の刑事裁判を分けて追う必要がある。
| 発生 | 2006年4月〜5月 |
|---|---|
| 場所 | 秋田県藤里町・能代市周辺 |
| 被害者 | 畠山彩香さん(9)、米山豪憲君(7) |
| 被告人 | 畠山鈴香 |
| 一審 | 2008年3月19日 秋田地裁・無期懲役 |
| 控訴審 | 2009年3月25日 仙台高裁秋田支部・双方控訴棄却 |
| 確定 | 2009年5月18日 上告取下げ |
彩香さんは4月9日に行方不明となり、翌日に遺体で発見された
彩香さんは2006年4月9日に所在が分からなくなり、翌10日、川で遺体が見つかった。司法解剖では直接の死因が溺水による窒息死とされた。
秋田県警は、遺体に事件性を強く示す特異な損傷がないと判断し、警察犬の臭気追跡、川岸の痕跡、水量などから、自宅付近の川岸から誤って転落した可能性が高いとみた。
政府答弁書は、事故寄りの判断が結果的に事実と異なったとした
豪憲君殺害後、彩香さんの死亡も殺人事件として立件されたことで、最初の捜査が国会で問われた。秋田県公安委員会への苦情申立てを踏まえ、衆議院では県警の対応に関する質問主意書が提出された。
政府答弁書は、当時の資料から事故の可能性が高いと判断した経緯を説明した上で、その判断は結果的に事実と異なるものだったと認めた。後の刑事裁判では、彩香さんの死亡は殺人と認定される。
関係地区への聞き込みを行わなかったことも認められた
質問主意書では、事故の可能性が高いという判断の下で、関係地区住民への聞き込みが行われなかった点も問題視された。政府答弁もこの事実関係を認めている。
秋田県公安委員会は、事故の可能性が高いとの判断の下で進めた捜査が必ずしも十分ではなかったことは反省すべき点だとし、今後の捜査へ生かすよう県警を督励するとした。
初動が十分なら豪憲君事件を防げた、と政府が断定したわけではない
質問主意書は、彩香さんの死亡を早期に殺人事件として捜査していれば、二人目の事件を防げた可能性があるのではないかと問いただした。
ただし、政府が『初動の不十分さが豪憲君殺害を発生させた』と法的な因果関係まで認定したわけではない。初動捜査の問題と、二件目の殺害発生との関係は区別して記述する必要がある。
5月17日、米山豪憲君が行方不明になった
2006年5月17日、彩香さんと同じ小学校に通い、近所に住んでいた豪憲君が行方不明となった。翌18日、能代市内の川沿いで遺体が見つかった。
殺人事件として捜査が進み、畠山鈴香が捜査線上に浮上した。豪憲君に対する殺人・死体遺棄に続き、彩香さんの死亡についても殺人容疑で立件された。
裁判では、彩香さんを殺害する意思があったかが争われた
豪憲君を殺害したこと自体については大きな争いがなかった一方、彩香さんの死亡について弁護側は、殺害しようと決意して川へ落としたのではなく、事故または過失にとどまると主張した。
秋田地裁はこの主張を退け、彩香さんへの殺意を認定した。結果として、刑事裁判では2人の児童に対する殺人が認定された。
豪憲君殺害時の責任能力も争点となった
弁護側は、豪憲君の事件当時の精神状態を理由に責任能力も争った。精神鑑定や犯行前後の行動などが審理された。
一審は刑事責任能力を認め、殺人と死体遺棄について有罪とした。責任能力が争われたことと、最終的に責任能力が否定されたことは同じではない。
死刑求刑に対し、秋田地裁は無期懲役を選んだ
検察側は死刑を求刑した。2008年3月19日、秋田地裁は2件の殺人を認定しながらも、刑は無期懲役とした。
量刑では、2件が周到に準備された一体的な連続殺人ではなく場当たり的な面が強いこと、財産目的などの利欲犯罪ではないこと、前科・前歴がないことなどが検討された。2人を殺害した結果を重く見ながら、死刑選択にはなお慎重であるべきだと判断した。
検察側と弁護側の双方が控訴した
一審判決に対し、検察側は無期懲役では軽すぎるとして死刑を求め、弁護側は彩香さんへの殺意認定や量刑などを争った。双方控訴だった。
2009年3月25日、仙台高裁秋田支部は双方の控訴を棄却した。高裁も彩香さんへの殺意を認める一方、一審の無期懲役を維持した。
高裁も計画性と利欲性の乏しさを死刑回避の事情として考慮
控訴審も、犯行がいずれも場当たり的な面を持ち、金銭目的の連続殺人とは異なることなどを検討した。
死亡被害者が2人だから自動的に死刑になるという判断ではない。動機、計画性、犯行態様、前科、犯行後の事情を総合し、無期懲役が著しく軽いとはいえないとした。
最高裁は実体判断をせず、本人の上告取下げで刑が確定した
高裁判決後、仙台高検は上告を断念した。一方、畠山は最高裁へ上告したが、2009年5月18日に取り下げた。
これにより、最高裁が殺意や量刑について新たな判断を示すことなく、二審が維持した無期懲役が確定した。『最高裁が無期懲役判決を出した』のではなく、上告取下げで確定したという経路である。
地域紙は一審・控訴審を125回の連載で追った
日本新聞協会が紹介した北羽新報の連載『検証 幼い命がなぜ…』は、事件1年後から一審・控訴審まで計125回に及んだ。
同紙は、裁判が終わっても、なぜ幼い2人の命が奪われなければならなかったのかという背景のすべてが解明されたとは言い難いと振り返っている。有罪と刑が確定したことと、事件の動機や背景に関する疑問がすべて解消されたことは同じではない。
現在の法的状態は、2人の殺人などで無期懲役が確定
畠山鈴香について、刑事裁判の最終結論は2人の殺人などによる無期懲役である。一度死刑判決を受けて無期へ減刑された事件でも、最高裁が無期を言い渡した事件でもない。
同時に、この事件は警察初動の検証を切り離せない。彩香さんの死亡を事故寄りに判断した経緯、政府答弁が認めた不十分な捜査、豪憲君殺害後に2件が結び付いた流れまで含めて記録する必要がある。
参考資料・出典
・衆議院「秋田県警本部の連続児童殺害事件への対応に関する質問主意書」
・政府「秋田県警本部の連続児童殺害事件への対応に関する質問に対する答弁書」
・J-CASTニュース「畠山鈴香被告、2審も無期判決」2009年3月25日
・日本新聞協会「連続児童殺害 追い続け125回」2009年4月14日
・文春オンライン「秋田連続殺害事件・畠山鈴香」2025年
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