狛江市強盗致死事件|90歳女性への暴行と、実行役・海外指示役に分かれた裁判

公開日 2026年2月6日
最終更新 2026年7月31日

狛江市強盗致死事件は、2023年1月19日、東京都狛江市駒井町の住宅へ複数の実行役が侵入し、住人の大塩衣与さん(90歳)を結束バンドで拘束して暴行し、外傷性ショックで死亡させ、腕時計などを奪った事件である。実行役はSNS等で集められ、フィリピンの収容施設にいた指示役側から、標的情報、侵入、金品探索などの連絡を受けていたと認定されている。別の強盗事件で押収されたスマートフォンから狛江市の標的情報が見つかったが、警察の確認は犯行後となった。

永田陸人受刑者の無期懲役は控訴取下げで確定し、加藤臣吾被告も最高裁の上告棄却により無期懲役が確定した。中西一晟被告は一審懲役23年、藤田聖也被告は指示役として一審無期懲役となるなど、関係者ごとに裁判手続が分かれている。

POINT
この記事でわかること
  • 2023年1月19日に狛江市の住宅で何が起きたのか
  • 90歳の大塩衣与さんが死亡するまでの犯行経緯
  • 別事件のスマートフォンから犯行情報が見つかった経過
  • SNSで集められた実行役と海外の指示役の関係
  • 永田陸人・加藤臣吾・中西一晟ら実行役の判決
  • 藤田聖也被告など指示役側の現在の裁判状況

狛江市強盗致死事件の概要

事件名狛江市強盗致死事件
別の呼称狛江強盗致死事件、狛江市90歳女性強盗殺人事件
発生日2023年1月19日
発生場所東京都狛江市駒井町3丁目の住宅
被害者大塩衣与さん(90歳)
犯行時間1月19日正午前後
遺体発見同日午後5時20分ごろ
犯行内容住宅へ侵入し、被害者を拘束・暴行して死亡させ、腕時計などを奪った
実行役複数人。永田陸人、加藤臣吾、中西一晟らが起訴
犯罪構造SNSなどで集めた実行役へ指示役側が遠隔指示
関連いわゆる「ルフィ広域強盗事件」の主要事件
永田陸人無期懲役確定
加藤臣吾無期懲役確定
中西一晟2024年9月、一審懲役23年
藤田聖也2026年2月、一審無期懲役。その後控訴
2026年の状況一部の刑は確定。主要被告人の裁判はなお継続

2023年1月19日、90歳の大塩衣与さんだけが住宅にいた

事件現場は、東京都狛江市駒井町3丁目の住宅でした。大塩衣与さんは90歳。家族と暮らしていましたが、犯行時間帯は他の家族が外出し、住宅内には大塩さん一人だったとされています。

事件当日の午前10時半ごろには、近隣住民が大塩さんの姿を目撃していました。 その後、複数の実行役が住宅へ向かいます。裁判で示された事件像では、男らは宅配業者を装うなどして玄関を開けさせ、住宅内へ侵入しました。 大塩さんにとって、普段と変わらない昼の時間帯です。突然、見知らぬ複数の男が家へ入ってくる。90歳の高齢女性が一人で逃げ切ることは極めて困難でした。

両手を結束バンドで拘束し、金品の場所を聞き出そうとした

実行役らは大塩さんの両手首を結束バンドで縛りました。 目的は金品です。住宅内には多額の現金があるという情報が指示役側へ伝わっていたとみられ、実行役らは室内を物色。大塩さんへ金の保管場所を尋ねました。

しかし、期待していた現金は容易に見つかりません。 そこから暴力は激しくなっていきました。後の裁判では、バールによる殴打など、大塩さんに対する暴行が「拷問ともいうべき」と評価されるほど苛烈だったことが明らかになります。 90歳の身体に多数の傷害を負わせ、金品の場所を聞き出そうとする。

「闇バイト」という言葉から受ける軽い印象とはかけ離れた、強盗犯罪でした。

大塩さんは外傷性ショックで死亡した

大塩さんは激しい暴行によって重傷を負いました。 裁判では、多発する骨折などの傷害に基づく外傷性ショックで死亡したと認定されています。実行役らは大塩さんを救護しませんでした。 住宅から腕時計などを持ち去り、現場を離れます。

後の捜査当初には、高級腕時計3本とダイヤモンド付き指輪1個の計4点、約60万円相当が被害品として公表されました。裁判では被害品の認定範囲が争われた部分もあるため、判決ごとの認定内容を分けて見る必要があります。大塩さんの命は、奪われた物品の金額では到底測れません。 家族が戻るはずの住宅で、90歳の女性は一人、暴力を受けて亡くなりました。

午後5時20分ごろ、警察官らが地下で大塩さんを発見

大塩さんが発見されたのは、事件当日の午後5時20分ごろです。 場所は住宅の地下1階付近。両手首を結束バンドで縛られ、血を流して倒れていました。 ここで異例なのは、警察が偶然通報を受けて住宅へ来たのではないことです。「この住宅が強盗に狙われている可能性がある」という情報を得て、確認へ向かっていました。 しかし間に合いませんでした。

千葉県大網白里市の強盗事件から「狛江」の情報が見つかった

狛江市事件の数日前、2023年1月12日、千葉県大網白里市のリサイクルショップで強盗傷害事件が起きていました。 警察は関係者のスマートフォンを解析。すると、狛江市の大塩さん宅を標的にする趣旨の情報が見つかりました。 この情報が千葉県警から警視庁側へ伝えられ、警察官が住宅を確認することになります。

ところが、その時点ですでに犯行は実行されていました。 広域犯罪では、別々の都道府県で起きた事件が同じグループにつながっていることがあります。一つの県警が押収したスマートフォンの情報を、別の警察本部がどれだけ速く受け取り、危険を評価し、被害者を保護できるのか。 狛江市事件は、都道府県をまたぐ捜査と情報共有の難しさも突きつけました。

実行役はSNSなどで集められ、指示役と通話しながら犯行

事件の背景には、いわゆる「闇バイト型」の犯罪構造がありました。 実行役の中にはSNS上の高額報酬をうたう募集などをきっかけに犯罪グループへ接触した者がいました。固定された仲間同士が長年かけて計画した強盗ではありません。 指示役側は、その都度人員を集めます。

  • 住宅へ入る実行役
  • 車を運転する役
  • 見張り役
  • 盗品を回収する役
  • 実行役へ遠隔指示を出す人物

裁判では、狛江事件の実行役らがイヤホンなどを使い、指示役側と通話できる状態で犯行していたことが明らかになりました。 現場にいない人物が「金を探せ」「聞き出せ」と指示する。一方、実際に高齢女性を拘束し、暴力を加えるのは現場の若者たちです。 この分業構造が、後の刑事裁判でも大きな焦点となりました。

2023年2月、実行役らを相次いで逮捕

警視庁は防犯カメラ映像、犯行車両、スマートフォン、別事件で逮捕された人物との関係などを調べました。2023年2月22日、実行役とみられた永田陸人、野村広之、当時19歳の男らを逮捕。さらに同月28日、加藤臣吾も逮捕されます。

当時19歳だった男は、その後、改正少年法上の「特定少年」として家庭裁判所から検察官送致され、強盗致死罪などで起訴されました。 起訴後は氏名公表が可能となり、中西一晟被告として裁判を受けています。実行役の刑事責任は、全員同じ形ではありません。

誰が暴行したのか。誰が指示したのか。誰が犯行全体を取り仕切ったのか。死亡につながる暴力をどこまで予見していたのか。それぞれの裁判で具体的な役割が審理されました。

中西一晟被告|「死亡への責任」を争い一審懲役23年

実行役の中で先に裁判員裁判が進んだのが、事件当時19歳だった中西一晟被告です。 中西被告は住宅へ押し入る強盗への関与自体は認めました。一方、弁護側は、大塩さんを死亡させた激しい暴行は共犯者によるものであり、バールを使うような暴力を共謀していなかったとして、強盗致死罪の成立を争います。 しかし東京地裁立川支部は、その主張を退けました。

犯行前のやり取りや、強盗で暴力が使われる可能性の認識などから、死亡結果についても責任を負うと判断します。 2024年9月6日、判決は懲役23年。検察側の求刑は懲役25年でした。 その後、控訴したと報じられており、現在も確定判決として扱うことはできません。

永田陸人受刑者|実行役リーダー格として無期懲役

永田陸人は、狛江市事件を含む複数の広域強盗事件へ関与し、実行役側で中心的役割を担ったと認定されました。 2024年11月7日、東京地裁立川支部は無期懲役を言い渡します。判決は、永田が単に遠隔指示へ従っただけではなく、自ら他の実行役を動かし、一連の犯行で大きな役割を果たしたと評価しました。 狛江市事件では、大塩さんから金品の場所を聞き出す過程で暴力を加え、さらに他の実行役による苛烈な暴行を止めませんでした。2026年の別被告人の公判でも、永田は無期懲役が確定した受刑者として証人出廷しています。

加藤臣吾受刑者|無期懲役が2025年に確定

加藤臣吾も狛江市事件の実行役として責任を問われました。 2024年12月16日、東京地裁立川支部は求刑通り無期懲役を言い渡します。判決では、狛江市事件だけでなく、広島市で起きた強盗事件などへの関与も審理されました。 2025年7月、東京高裁は被告側の控訴を棄却。さらに同年10月、最高裁も上告を退けました。 これにより無期懲役が確定しています。

フィリピンにいた「指示役」側の捜査へ

実行役の逮捕だけでは、事件全体の解明にはなりません。 捜査当局が追ったのは、海外から犯行を動かしたとされる人物たちでした。フィリピンの入管収容施設には、日本で特殊詐欺事件への関与を疑われた複数の日本人が収容されていました。その中には、後に広域強盗事件で捜査を受ける渡邉優樹、今村磨人、藤田聖也、小島智信がいました。通信では「ルフィ」「キム」「ミツハシ」など複数の偽名が使われたとされます。

警視庁は2023年、狛江市事件についても指示役側の関与を捜査し、再逮捕を進めました。ただし「ルフィ」という一人の人物が、すべての指示を単独で出したと考えるのは正確ではありません。複数人物が複数の名義を使い、事件ごとに役割を分担していた疑いがあるからです。

藤田聖也被告|2026年2月、一審で無期懲役

指示役側の主要被告人として先に判決へ進んだ一人が藤田聖也被告です。藤田被告は、狛江市の強盗致死事件を含む複数の強盗事件などについて、現場の実行役へ指示を伝える役割を果たしたとして起訴されました。

公判では一部の具体的な指示内容を争います。一方、無期懲役が確定した永田陸人受刑者は証人として出廷。犯行中も通話がつながっており、指示役側が現場状況を把握していたという趣旨の証言をしました。

2026年2月16日、東京地裁は藤田被告へ無期懲役を言い渡しました。藤田被告は控訴しています。したがって、現在では無期懲役が確定したわけではありません。

なぜ狛江市事件は「闇バイト犯罪」の転換点になったのか

事件以前から、SNSで実行役を募る犯罪は存在しました。特殊詐欺の現金受取役。キャッシュカードの回収役。盗品の運搬役。そこから犯罪は、住宅へ直接押し入り、人を拘束して金品を奪う強盗へ変化していきます。狛江市事件では、ついに90歳の女性が死亡しました。

実行役同士に強固な信頼関係は必要ありません。SNSで人を集める。身分証を提出させる。指示役が遠隔から動かす。逮捕されれば別の実行役を補充する。この構造では、現場の人間が次々と入れ替わります。警察庁が後に「匿名・流動型犯罪グループ」への対策を強化した背景には、こうした一連の事件があります。

「指示されたから断れなかった」で責任はなくなるのか

実行役の裁判では、共通する主張が見られました。指示役に逆らえなかった。身分証を握られていた。途中で抜けられなかった。犯罪グループが応募者の個人情報を集め、本人や家族への危害をほのめかして拘束する問題は現実にあります。しかし裁判所は、そうした事情だけで強盗や暴行の責任が消えるとは判断しませんでした。

特に狛江市事件では、現場で90歳の大塩さんを拘束し、暴力を加え、金品を探し続けています。遠隔の指示役に重大な責任があることと、実際に住宅へ入り被害者へ危害を加えた実行役の責任は両立します。

現在の裁判状況

現在も、狛江市強盗致死事件をめぐる主な司法状況は次のように整理できます。

  • 永田陸人受刑者:無期懲役確定
  • 加藤臣吾受刑者:2025年に無期懲役確定
  • 中西一晟被告:2024年9月、一審懲役23年。確定判決としては扱えない段階
  • 藤田聖也被告:2026年2月、一審無期懲役。その後控訴
  • そのほかの実行役・指示役側被告人:個別に裁判手続きが継続

このため、事件を「犯人全員の刑が確定した事件」と説明することはできません。一方、大塩さんを死亡させた強盗致死事件そのものについては、複数の実行役に重い有罪判決が出され、一部は確定しています。

住所情報と遠隔指示だけで、90歳の生活が標的にされた

事件当日の朝、大塩衣与さんは近所で姿を見られていました。90歳になっても、自宅で家族と暮らす一人の女性でした。

数時間後、住宅には複数の男が押し入ります。男たちの多くは、大塩さんに個人的な恨みがあったわけではありません。

指示役から送られた住所。そこに金があるという情報。報酬目的で集まった実行役。それだけで、一人の高齢女性の日常は突然破壊されました。しかも警察は、別事件の捜査から「狛江の住宅が狙われている」という情報へ近づいていました。あと少し早ければ救えたのか。その問いは残ります。狛江市強盗致死事件が示したのは、単に若者が「闇バイト」に応募したという問題ではありません。

海外や遠隔地にいる人物が住所情報を与え、SNSで集めた実行役を送り込み、現場と通話しながら暴力を使わせる犯罪システムが現実に成立していたことです。その結果、死亡したのは90歳の大塩衣与さんでした。事件から3年以上が過ぎた2026年にも、指示役側を含む裁判はなお続いています。

実行役2人の無期懲役は確定した

実行役のリーダー格とされた永田陸人受刑者は、狛江市事件を含む6事件で無期懲役を言い渡され、2025年3月31日付で控訴を取り下げたため確定した。加藤臣吾被告も一・二審で無期懲役となり、最高裁が2025年に上告を棄却したことで確定した。裁判所は、強い金銭欲から主体的・積極的に参加したと評価した。中西一晟被告は犯行時特定少年で、一審懲役23年となり、東京高裁が控訴を棄却した。指示役・募集役側の裁判は別に続き、事件のすべての関係者が確定した状態ではない。

藤田聖也被告は指示役の共同正犯として一審無期となった

東京地裁は2026年2月16日、藤田被告について、実行役を確保し、犯行時に詳細な指示を出して強盗を成功させる必要不可欠な役割を果たしたと認定した。藤田被告は暴行の具体的指示を否定し、ビクタン収容施設で渡辺被告へ逆らえなかったと主張したが、裁判所は実行役の供述などを信用できるとして共同正犯を認めた。2026年7月30日現在、藤田被告の一審判決が確定したとする信頼できる公表は確認できない。渡辺優樹・今村磨人両被告の主要公判も未確定である。

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