1986年2月20日、宮城県仙台市で82歳の男性と75歳の妻が殺害され、定額郵便貯金証書などが奪われた。2人の遺体は市内の松林に遺棄され、被害者男性の知人だった堀江守男が強盗殺人と死体遺棄に問われた。
仙台地裁は1988年に死刑を言い渡し、仙台高裁も1991年に控訴を棄却した。しかし上告審では、堀江が裁判手続を理解して防御に参加できる状態にあるかが問題となり、最高裁が1993年に公判手続を停止。1998年に停止が取り消されて審理が再開し、2005年9月26日に最高裁が上告を棄却した。事件発生から死刑確定まで約19年を要した。
| 事件名 | 仙台老夫婦強盗殺人事件 |
|---|---|
| 発生日 | 1986年2月20日 |
| 発生場所 | 宮城県仙台市 |
| 被害 | 82歳の男性と75歳の妻が死亡 |
| 被告人 | 堀江守男 |
| 罪名 | 強盗殺人、死体遺棄 |
| 一審 | 1988年9月12日、仙台地裁・死刑 |
| 控訴審 | 1991年3月29日、仙台高裁・控訴棄却 |
| 上告審の停止 | 1993年5月31日、最高裁が公判手続を停止 |
| 審理再開 | 1998年3月17日、最高裁が停止決定を取消し |
| 上告審 | 2005年9月26日、最高裁・上告棄却、死刑確定 |
被害者男性と知人関係にあった堀江守男
最高裁判決は、堀江が被害者男性の家を訪ねるうち、男性が自宅に多額の現金などを置いていると考えるようになったと認定している。そこで男性夫妻を殺害し、金品を奪う計画を立てた。面識のない家を偶然狙った強盗ではなく、知人関係を通じて生活状況を知った相手を標的にした事件だった。
アムネスティ・インターナショナルの報告書では、堀江は地元企業の幹部だった被害者男性と知り合いで、就職の取り計らいを求めていた経緯も紹介されている。ただし最高裁の最終判決が量刑上の中心に置いたのは、金品を奪うため夫妻の殺害を計画したという点だった。
82歳の男性を鉄筋と電気コードで殺害
1986年2月20日、堀江は被害者宅で、用意していた鉄筋などを使って82歳の男性の頭部等を数回殴打した。さらに電気コードで首を絞めて殺害したと最高裁は認定している。
犯行は、その場で突然生じた口論だけから偶発的に拡大したものとは評価されなかった。最高裁は、夫妻を殺害して金品を奪うことをあらかじめ企てた計画的な強盗殺人として整理し、金銭目的の動機に酌量の余地はないとした。
帰宅した75歳の妻も殺害
男性を殺害した後、75歳の妻が帰宅した。堀江は同じ鉄筋で妻の頭部などを複数回殴打し、妻も殺害した。最初の被害者だけで犯行を終えず、帰宅した家族の生命も奪ったことで、被害は夫婦2人に広がった。
その後、堀江は定額郵便貯金証書などを奪った。最高裁は、金品を奪う目的で夫妻を殺害した一連の行為を強盗殺人として認定している。被害者2人には殺害されるような落ち度はなく、結果の重大性が死刑判断の中心になった。
遺体を松林へ運んで遺棄
堀江は夫婦の遺体を被害者宅に残さず、市内の松林へ運んで遺棄した。強盗殺人に加えて死体遺棄罪も成立し、刑事裁判では殺害から金品奪取、遺体遺棄までの一連の行動が審理された。
最高裁は、金銭的利欲に基づく計画、鉄筋や電気コードを用いた殺害方法、2人の生命を奪った結果、遺族の被害感情や社会への影響を総合し、犯行の責任は極めて重いと判断した。前科がないという事情を考慮しても、死刑を変更する理由にはならないとした。
一審・控訴審はいずれも死刑
仙台地裁は1988年9月12日、堀江に死刑を言い渡した。堀江側は控訴したが、仙台高裁は1991年3月29日に控訴を棄却し、一審の死刑判断を維持した。
その後、事件は最高裁へ上告された。通常であれば上告審では憲法違反や判例違反などの主張とともに量刑が検討されるが、この事件では、堀江の精神状態と訴訟能力をめぐる問題によって審理が長期間止まることになる。
上告取下げをめぐって精神鑑定へ
アムネスティの報告書によると、堀江は1992年3月に上告を取り下げる意思を示した後、裁判所の求めで精神鑑定を受けた。死刑判決を受けた被告人が、上告をやめることの意味を理解し、合理的に手続へ参加できる状態なのかが問題となった。
ここで問われたのは、1986年の犯行時に善悪を判断できたかという刑事責任能力だけではない。上告審の時点で、訴訟の意味を理解し、弁護人と意思疎通しながら自分を防御できるかという訴訟能力の問題だった。この二つは時点も法的な意味も異なる。
1993年、最高裁が公判手続を停止
1993年5月31日、最高裁第二小法廷は刑事訴訟法314条1項などに基づき、公判手続を停止した。被告人が心神喪失の状態にあると判断された場合、公判手続は原則として停止される。
死刑事件の上告審で、被告人の訴訟能力を理由に審理そのものが止まるのは極めて異例だった。停止期間中は、堀江の精神状態が回復し、裁判を再開できるかどうかが継続して検討された。
1998年、最高裁が「心神喪失の状態ではない」と判断
最高裁第二小法廷は1998年3月17日、堀江がもはや心神喪失の状態にはないと認め、1993年の公判手続停止決定を取り消した。この決定によって、長期間止まっていた上告審が再び進むことになった。
重要なのは、1998年の決定が「犯行時に責任能力がなかった」と判断したものではない点である。停止と再開は、上告審を続けられる現在の精神状態についての手続判断だった。犯行時の責任能力は、その後の最終判決で別に検討された。
再開後も犯行時の責任能力が争われた
審理再開後、弁護側は犯行時の責任能力などを争い、死刑判決の破棄を求めた。最高裁は2005年の最終判決で記録を調べ、各犯行時に堀江に完全な責任能力があったとした原審判断を是認した。
上告審が精神状態の問題で長期化したことと、1986年の犯行について刑事責任能力が認められたことは両立する。裁判途中に訴訟能力を欠く時期があったとしても、それだけで犯行時の責任能力まで否定されるわけではない。
2005年、最高裁が死刑を維持
2005年9月26日、最高裁第二小法廷は堀江の上告を棄却した。判決は、知人宅に多額の現金があると考えて夫婦を殺害し金品を奪う計画を立て、82歳の男性と75歳の妻を相次いで殺害した事実を認定した。
最高裁は、金銭目的の計画的犯行であること、殺害方法、2人が死亡した結果、遺体を松林へ遺棄した経過を重視した。堀江に前科がないことなどを十分考慮しても、仙台地裁が選択し仙台高裁が維持した死刑はやむを得ないと結論付けた。
最終判決は裁判官全員一致で上告を棄却
2005年9月26日の最高裁第二小法廷判決は、裁判官全員一致で上告を棄却した。弁護側の憲法違反の主張に加え、事実誤認や量刑不当をいう主張についても、判決を破棄する理由はないとした。
判決文は、夫妻殺害と金品奪取、遺体遺棄という犯罪事実を簡潔に示したうえで、前科がない事情まで含めて量刑を再検討している。長期の公判停止を経た事件だったが、最終判断では手続問題と犯行そのものの刑事責任を分け、死刑を維持した。
事件発生から死刑確定まで約19年
事件が起きた1986年2月から、最高裁が上告を棄却した2005年9月まで約19年が経過した。その大きな要因となったのが、1993年から1998年まで続いた上告審の公判手続停止だった。
この事件は、2人を殺害した強盗殺人の重大性に加え、死刑事件の被告人が裁判手続へ参加できる精神状態にあるかを最高裁が長期にわたって確認した点でも特徴がある。最終的には、訴訟能力の問題を経たうえで上告審が再開され、犯行時の完全な責任能力と死刑の量刑が維持された。
1992年の上告取下げが訴訟能力の確認につながった
アムネスティの報告書によると、堀江は1992年3月27日に上告を取り下げた。最高裁はその後、本人の精神状態を確認する必要があるとして鑑定を求め、同年6月29日に精神鑑定が実施され、鑑定書は1993年2月に最高裁へ提出された。
死刑判決に対する上告を取り下げれば、通常はそれ以上の上級審審理を受けず判決確定へ向かう。その意思決定を有効な訴訟行為として扱える状態だったかが問題になり、最終的には公判手続そのものを止める判断へつながった。
停止期間中も精神状態の評価が続いた
公判手続停止後、堀江は医療施設で処遇され、裁判所は状態の推移を確認した。1997年には最高裁が再度の精神鑑定を命じ、以前みられた妄想的な訴えや規律違反の状態が変化しているかが検討された。
その結果を踏まえ、最高裁は1998年3月17日、堀江はもはや心神喪失の状態にないとして停止決定を取り消した。公判再開は、精神疾患の有無を全面的に否定したという意味ではなく、上告審の内容を理解して防御に参加できる程度に手続能力が回復したとの判断だった。
最高裁では死刑制度の憲法適合性も主張された
2005年の上告審では、弁護側から死刑制度が憲法31条、36条に反するという主張も出された。最高裁は従来の大法廷判例を引用し、死刑制度そのものを違憲とする主張を退けた。
そのうえで事実認定と量刑を検討し、犯行時の完全な責任能力を肯定した原判断は正当だとした。最終判決は、長期間の訴訟能力審理を経た後でも、1986年の強盗殺人についての刑事責任と死刑判断は変わらないと結論付けている。
前科がないことも量刑上は考慮された
最高裁は、堀江に前科がないことを被告人に有利な事情として明示的に考慮した。それでも、金品を奪うために知人夫妻2人を計画的に殺害し、遺体まで遺棄した結果は重く、死刑を回避するには足りないとした。
量刑判断では、精神状態に関する争いが長く続いた事実だけで刑が軽くなるわけではなかった。犯行時の責任能力、犯行の計画性、被害者数、殺害方法、金銭目的という事情を基礎に、一・二審の死刑を最終的に是認している。
参考資料・出典
- 最高裁判所「平成3(あ)519 強盗殺人、死体遺棄被告事件・2005年9月26日判決」
- 最高裁判所「平成3(あ)519 公判手続停止取消決定・1998年3月17日」
- アムネスティ・インターナショナル日本「首に掛けられたロープ―日本における精神衛生と死刑」
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