1998年12月25日、三重県松阪市のアパートで暮らしていたフィリピン人女性2人が首を絞められて殺害され、現金と貴金属を奪われた。強盗殺人に問われた森本信之は当時、沢本姓を名乗っており、被害者と面識がある立場を利用して共犯者2人を室内へ入れた。
森本らは被害者が多額の現金を持っていると考え、ネクタイやロープ、手袋を事前に準備した。実際に奪ったのは現金約1万3000円と、ネックレスなど時価約25万円相当だったが、金品を奪うために2人を殺害した結果は極めて重大だった。
| 事件名 | フィリピン人女性2人殺害事件 |
|---|---|
| 発生日 | 1998年12月25日 |
| 発生場所 | 三重県松阪市のアパート |
| 被害 | フィリピン人女性2人が死亡 |
| 被告人 | 森本信之(旧姓・沢本) |
| 主な罪名 | 強盗殺人、建造物侵入、強盗致傷 |
| 一審 | 2000年3月1日・津地裁で死刑 |
| 最高裁 | 2004年12月14日・上告棄却 |
| 法的状況 | 死刑確定 |
被害者との面識が、強盗計画の入口になった
森本は同居していたフィリピン人女性を通じ、松阪市で生活していた被害者2人を知っていた。被害者がまとまった現金を手元に置いているとの情報を聞き、居場所や生活状況を共犯者へ伝えた。無作為に住宅へ侵入したのではなく、森本の人的なつながりから標的を定めた事件だった。
裁判では、森本が被害者の住所を知り、警戒されず玄関を開けてもらえる立場だったことが重視された。情報を教えただけではなく、強盗計画を実行可能にする接点そのものを担っていた。
ネクタイ、ロープ、手袋を準備して殺害まで計画
3人は室内で2人を制圧するため、首を絞めるネクタイやロープ、手袋などを準備した。現場で偶然手にした物を使って殺害へ発展したのではなく、被害者を殺して金品を奪うことを前提に道具を用意していた。
被害者と面識のない2人を自然に室内へ入れるため、森本は「偽装結婚の相手を紹介する」という話を使った。森本が一緒にいることで被害者の警戒を解き、室内で同時に襲える状況を作った。
書類へ注意を向けさせ、背後から2人を襲った
12月25日、森本ら3人は被害者のアパートを訪れた。室内では森本が用紙を出し、被害者に氏名などを書かせた。2人が書面へ視線を向けている間に、共犯者らが背後からネクタイを首へ巻き付けた。
1人にはさらにロープが使われ、森本も殺害行為に加わったと認定された。被害者は訪問の目的を偽られたまま室内で襲われ、逃げたり周囲へ助けを求めたりする機会をほとんど与えられなかった。
2人を殺害しても、想定した大金は見つからなかった
殺害後、3人は室内を探したが、事前に期待していたような多額の現金はなかった。持ち去ったのは現金約1万3000円と、ネックレスなど4点、時価合計約25万円相当の貴金属だった。
強盗殺人では、実際にいくら奪えたかによって生命侵害の重大性が変わるわけではない。最高裁は、金品目的で2人を計画的に殺害した犯行の動機、態様、結果を量刑判断の中心に置いた。
女性2人の事件以前にも、パチンコ店で強盗致傷
森本は女性2人への強盗殺人とは別に、共犯者とパチンコ店へ侵入して現金を奪う強盗致傷にも関与していた。従業員に包丁を突き付け、木刀で頭部などを殴り、金庫から約1920万円を奪った。
従業員は頭蓋骨骨折、脳挫傷、左上腕骨骨折など、長期治療を要する重傷を負った。森本は計画段階から加わり、実行行為を分担して奪った金の一部を受け取っていたと認定された。
一審では共犯者3人全員に死刑
津地裁は2000年3月1日、森本を含む3人に死刑を言い渡した。しかし、その後の刑事手続は3人で分かれた。1人は控訴審の途中で死亡し、もう1人は名古屋高裁で無期懲役へ減刑され、その刑が確定した。
森本は、共犯者との刑の均衡や自身の前科の有無、反省などを死刑回避の事情として主張した。これに対し裁判所は、被害者との面識を利用して犯行を成立させ、殺害にも加わった森本の役割を軽いものとは評価しなかった。
森本の役割は「案内役」にとどまらないと認定
森本だけが被害者と接点を持ち、アパートの場所を知っていた。訪問の口実を作り、被害者と会話を続け、書面へ注意を向けさせた行為は、共犯者が背後から襲うための重要な役割だった。
さらに森本自身も絞殺行為に加勢していた。最高裁は、犯行の計画段階から実行まで森本が中核的な役割を果たしたとみて、他の共犯者の1人が無期懲役となったことだけで死刑との均衡が崩れるとは判断しなかった。
名古屋高裁も死刑を維持し、最高裁へ
名古屋高裁は2001年5月14日、森本の控訴を棄却した。上告審では、共犯者の量刑との差や、前科がないこと、反省の態度などが改めて検討された。
死刑事件では被害者数だけで刑が決まるわけではない。最高裁は、動機、計画性、犯行態様、被害結果、森本の役割、強盗致傷を含む一連の犯罪、反省など有利・不利双方の事情を総合した。
2004年12月14日、最高裁が上告を棄却
最高裁第三小法廷は2004年12月14日、森本の上告を棄却した。判決は、金銭を得るために2人を殺害した動機に酌量の余地がなく、犯行が周到に準備され、無防備な被害者を欺いて殺害した点を重く評価した。
また、別件の強盗致傷で従業員に重傷を負わせて多額の現金を奪った後、再び金銭目的の重大犯罪に及んだ経過も量刑上の重要な事情となった。森本に前科がなかったことなどを考慮しても、死刑を是認せざるを得ないと結論付けた。
死刑確定後、2026年8月まで執行公表はない
最高裁の上告棄却によって、森本の死刑は2004年12月に確定した。確定から20年以上が経過しているが、2026年8月27日までに法務省から森本について死刑を執行したとの公表は出ていない。
この事件の司法判断で重要なのは、実際に奪えた金額の大小ではなく、金銭目的で2人を欺いて殺害した計画性と、森本が被害者との関係を利用して犯行を成立させた役割である。最高裁はそこに先行する強盗致傷も重ね、死刑を維持した。
強盗計画は「被害者が現金を持っている」という見込みから始まった
森本らが犯行へ向かった背景には、被害者2人がまとまった現金を保管しているという見込みがあった。ところが、殺害後に室内を探して得た現金は約1万3000円にとどまり、ほかにネックレスなどの貴金属を持ち去った。
犯行側の見込み違いによって奪取額が少なくなっただけで、準備された強盗殺人の性質は変わらない。金額の大小ではなく、財物を奪う目的で被害者の信頼を利用し、殺害まで実行したことが裁判で重く評価された。
先行する強盗致傷でも、金銭目的で暴力をエスカレートさせた
パチンコ店事件では、閉店後の店舗へ侵入し、従業員を脅して金庫を開けさせたうえで約1920万円を奪った。従業員は木刀で激しく殴られ、頭蓋骨骨折や脳挫傷などの重傷を負っている。
この事件で森本は、単に犯行現場へ同行したのではなく、計画と実行を分担し、奪った金の配分も受けたと認定された。数か月後の松阪事件で今度は2人を殺害して金品を奪った経過が、量刑上の連続性として見られた。
共犯者の刑が分かれても、森本の死刑は維持された
一審では3人全員が死刑となったが、その後、1人は手続中に死亡し、もう1人は控訴審で無期懲役となった。森本側は共犯者との刑の均衡を主張したが、最高裁は各人の役割や関与の程度を個別に評価した。
森本は被害者との面識を利用して室内へ入る口実を作り、被害者の注意を引き付け、実際の絞殺にも加勢した。計画を成立させるために不可欠な役割だったことから、他の共犯者が無期懲役になったことだけで森本の死刑を変更すべきとはされなかった。
前科がないことや反省も検討された上での死刑判断
最高裁判決は、森本に前科がなかったことや、一定の反省を示していることも有利な事情として検討した。死刑判断で有利な事情が無視されたわけではない。
それでも、金銭目的で2人を計画的に殺害した結果、先行する強盗致傷の重大性、森本の主導的・中核的な役割などを総合すると、極刑を回避するには足りないとされた。2004年の上告棄却は、こうした総合評価の結論だった。
参考資料・出典
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