甲府殺人放火事件は、2021年10月12日未明、山梨県甲府市蓬沢1丁目の住宅で、当時19歳だった遠藤裕喜が夫婦を刃物で殺害し、次女にも襲いかかったうえ、住宅へ放火した事件である。2024年1月18日、甲府地裁は遠藤に死刑を言い渡した。事件当時19歳だった遠藤は改正少年法上の「特定少年」であり、特定少年への死刑判決は全国初。弁護人が控訴したものの、遠藤本人が2024年2月1日に控訴を取り下げ、翌2日に死刑判決が確定した。
- 2021年10月12日未明、甲府市蓬沢の住宅で何が起きたのか 長女への一方的な好意と交際拒否が犯行へつながった経緯
- 夫婦殺害、次女への襲撃、放火までの一連の犯行 特定少年として全国初の実名公表と死刑確定までの裁判経過
- 甲府殺人放火事件が発生してから事件が発覚するまでの経緯
甲府殺人放火事件の概要
| 事件名 | 甲府殺人放火事件 |
|---|---|
| 発生日・期間 | 2021年10月12日 |
| 発生場所 | 山梨県甲府市蓬沢1丁目の住宅 |
| 被害 | 死亡者数:井上盛司さん(当時55歳)、妻の章恵さん(当時50歳)負傷者夫婦の次女 |
| 被告人等 | 遠藤裕喜 |
| 裁判・捜査状況 | 2024年1月18日、甲府地裁が死刑控訴弁護人が2024年2月1日に控訴控訴取り下げ遠藤本人が2024年2月1日付で取り下げ/死刑死刑確定2024年2月2日現在の状況現在も死刑確定。執行を示す公的発表は確認されていない 2021年10月12日午前3時30分ごろ、住宅へ侵入 事件が起きたのは2021年10月12日未明である。 |
| 現在の状況 | 甲府殺人放火事件は、2021年10月12日未明、山梨県甲府市蓬沢1丁目の住宅で、当時19歳だった遠藤裕喜が夫婦を刃物で殺害し、次女にも襲いかかったうえ、住宅へ放火した事件である。2024年1月18日、甲府地裁は遠藤に死刑を言い渡した。事件当時19歳だった遠藤は改正少年法上の「特定少年」であり、特定少年への死刑判決は全国初。弁護人が控訴したものの、遠藤本人が2024年2月1日に控訴を取り下げ、翌2日に死刑判決が確定した。 |
2021年10月12日未明、甲府市蓬沢の住宅で何が起きたのか 長女への一方的な好意と交際拒否が犯行へつながった経緯
現場は山梨県甲府市蓬沢1丁目にある井上さん一家の住宅だった。家では盛司さん、妻の章恵さん、長女、次女の4人が暮らしていた。起訴内容などによると、遠藤は午前3時30分ごろ、1階の窓から住宅内へ侵入した。深夜から未明にかけて家族が就寝している時間帯を選んだ犯行だった。遠藤は偶然住宅へ入ったのではなく、長女の家族が暮らす家であることを認識していた。
裁判では、凶器や放火に使用する物を準備していたこと、侵入後も目的に沿った行動を続けたことから、犯行には十分な計画性があったと評価されている。
長女への一方的な好意|交際を断られ怒りを募らせた
事件の中心にあったのが、遠藤と夫婦の長女との関係である。両者は同じ高校に通う知人関係だった。遠藤は長女へ一方的な好意を抱くようになり、連絡を取っていた。しかし長女は遠藤との交際を望まず、関係を断ろうとした。公判で検察側は、交際を断られたことで遠藤が怒りを募らせ、家族全員を殺害しようとしたと主張した。
遠藤自身も後の被告人質問で、交際を断るLINEが犯行のきっかけになったと説明している。ただし、事件の背景を単純に「失恋したから殺害した」とだけ表現すると不十分である。裁判では遠藤の家庭環境や精神状態も審理されましたが、最終的に甲府地裁は、犯行時に完全な刑事責任能力があったと認定した。
「自分を忘れないようにしたい」法廷で語った異様な動機
遠藤は公判序盤、本人確認や起訴内容への認否を含め、ほとんど質問に答えなかった。しかし2023年11月28日の被告人質問では、それまでの態度を変え、自ら事件の動機を語り始めた。遠藤は、家庭内の問題などさまざまなことに疲れていたところへ、長女から交際を断る連絡が来たと説明。家族を殺害すれば長女がどのような表情をするのか見たい、自分を忘れられないようにしたいという趣旨の考えを述べた。
さらに公判では、長女に苦痛を与えようとする発想や、拷問への興味についても語っている。甲府地裁は最終的に、動機を自己中心的で理不尽なものと評価した。長女や家族側には、遠藤からこのような攻撃を受ける正当な理由はなかった。
父・井上盛司さんを刃物で繰り返し刺して殺害
住宅へ侵入した遠藤は、最初に盛司さんを襲ったとされている。起訴内容では、遠藤は午前3時50分ごろまでの間に、盛司さんの胸部などをナイフで複数回刺した。盛司さんは失血により死亡した。
犯行は一度だけ刃物を振るったものではない。裁判所は夫婦に対する攻撃を執拗かつ残虐で、強固な殺意に基づくものと評価している。遠藤は当時19歳でしたが、年齢だけを理由に犯行態様の重大性が軽減されることはなかった。
妻・章恵さんも刺殺|夫婦2人が死亡
続いて章恵さんも襲われた。遠藤は章恵さんの胸部などを刃物で複数回刺し、殺害した。章恵さんも失血死した。当初から長女本人だけを攻撃するのではなく、家族全体へ危害を加える意図があったことが裁判で問題となった。
後の被告人質問で遠藤は、長女の目の前で家族を殺害し、精神的なダメージを与えたかったという趣旨を述べている。被害者夫婦は、娘と遠藤との関係を理由に生命を奪われた。裁判では、2人に落ち度がないこと、残された娘たちへの影響が極めて深刻であることも量刑上重視された。
次女の頭部をなたで襲う|殺人未遂事件
犯行は夫婦2人の殺害だけでは終わらなかった。住宅内で遠藤と鉢合わせした次女も襲われた。起訴内容では、遠藤はなたで次女の頭部を攻撃したとされている。次女は負傷しましたが、命を落とすことはなかった。長女とともに住宅外へ逃げることに成功する。
刑事裁判では、この次女への行為について殺人未遂が問われた。初公判では、弁護側は次女への殺人未遂について殺意を否定した。遠藤本人は認否を述べませんでしたが、最終的に死刑判決は夫婦殺害、次女への犯行、放火を含む事件全体を踏まえて言い渡された。
長女と次女は住宅外へ逃走|8分15秒に及ぶ110番通報
娘2人は住宅から逃げ出した。長女は警察へ110番通報する。後の裁判では、この通報記録が証拠として取り上げられた。通話は約8分15秒に及び、家の中で重大な異変が起きていることを伝える緊迫した内容だった。長女は、自分の両親が被害に遭った可能性を伝えながら、警察へ助けを求めた。
遠藤が一方的に好意を抱いていた相手こそ、この長女だった。長女は事件後、自分との関係が原因で家族が被害に遭ったのではないかという自責の念にも苦しんだことを法廷で明らかにしている。しかし、犯行を選択し実行した責任は遠藤本人にある。甲府地裁も動機を理不尽なものと評価した。
ライター用オイルをまき住宅へ放火
娘2人が逃げた後、遠藤はさらに放火へ進んだ。起訴内容では、台所付近などへライター用オイルをまき、火をつけたとされている。火は住宅へ燃え広がり、建物は全焼した。焼け跡から夫婦の遺体が発見される。
遠藤は公判で、放火には証拠隠滅の意図もあったという趣旨を述べた。殺人後に混乱して偶然出火したのではない。裁判所は、準備した物を使用し、犯行目的に沿って行動していたことを責任能力や計画性の判断材料とした。
事件後に逃走し、その日の夜に警察へ出頭
遠藤は事件現場から逃走した。逃走中には負傷していたとされ、捜査では現場周辺などに残された血痕も手がかりになった。事件当日の夜、当時19歳だった遠藤は警察へ出頭した。その後、次女への傷害容疑で身柄を確保され、2021年10月13日未明に逮捕された。
捜査は夫婦2人の死亡、次女への攻撃、住宅火災の全容解明へ進む。遠藤が少年だったことから、事件は成人の刑事事件とは異なる少年事件手続を経ることになった。
19歳だった遠藤裕喜|少年法上の「特定少年」とは
事件当時、遠藤裕喜は19歳だった。2022年4月に施行された改正少年法では、18歳と19歳は少年法の対象に残りつつ、「特定少年」として17歳以下とは一部異なる扱いを受ける。特定少年が一定の重大事件で正式起訴された場合、起訴後の実名報道を可能とする制度も導入された。
遠藤の事件では、改正法施行後の2022年4月8日に起訴され、甲府地検が実名を公表した。これは改正少年法施行後、特定少年の実名を検察が公表した全国初のケースとされ、大きな議論を呼んだ。
家庭裁判所への送致と逆送を経て正式起訴
少年事件では、重大犯罪であっても原則として一度家庭裁判所の手続を経る。遠藤についても鑑定留置などを経た後、2022年3月、甲府地検が殺人や現住建造物等放火などの非行事実で甲府家庭裁判所へ送致した。その後、刑事処分が相当として検察官へ送り返す逆送の手続が取られ、2022年4月8日に正式起訴された。
起訴された時点で、逮捕された「少年」から、刑事裁判で責任を問われる「被告人」へ法的段階が移る。遠藤は殺人2件、次女への殺人未遂、現住建造物等放火などの重大犯罪について裁判員裁判を受けることになった。
2023年10月25日初公判|遠藤被告はほぼ沈黙
2023年10月25日、甲府地裁で裁判員裁判が始まった。遠藤被告は本人確認や起訴内容への認否について答えず、法廷では沈黙を続けた。弁護側は次女への殺人未遂について殺意を否定。また、遠藤は犯行時に精神状態の影響を受け、心神耗弱だったと主張した。
一方の検察側は、遠藤には完全な責任能力があり、長女から交際を拒否された怒りを背景に一家を狙った計画的犯行だと主張した。こうして裁判の重要な争点は、犯行時の刑事責任能力と、19歳という年齢を死刑判断でどう評価するかという点になった。
心神耗弱か完全責任能力か|精神状態が最大の争点
弁護側は、遠藤の生育環境や精神状態が犯行へ大きな影響を及ぼしたとして、完全な責任能力を否定した。刑法上、犯行時に心神喪失なら処罰されず、心神耗弱なら刑が減軽される。そのため、死刑が求刑される事件では責任能力の判断が量刑を大きく左右する。しかし甲府地裁は、精神鑑定を行った医師の証言や犯行前後の行動を検討した。
遠藤に精神面の問題が認められるとしても、犯行では目的に沿って準備し、状況に応じて行動していたと判断。完全な刑事責任能力があったと認定した。この判断により、心神耗弱を理由とした法律上の減軽は認められなかった。
検察が死刑求刑|特定少年への極刑要求は全国初
2023年12月11日、検察側は遠藤被告へ死刑を求刑した。改正少年法施行後の特定少年に対する死刑求刑として、全国初とされた。検察側は、夫婦2人の生命を奪った結果の重大性、次女まで襲ったこと、放火で証拠隠滅を図ったこと、十分な計画性、謝罪や明確な反省が乏しいことなどを指摘した。
弁護側は、遠藤が事件当時19歳であったことや生育環境などを挙げ、死刑を回避し、謝罪と贖罪を生涯背負わせるべきだと主張した。遠藤自身は結審時、控訴しないという趣旨の言葉を述べている。
2024年1月18日、甲府地裁が遠藤裕喜に死刑判決
2024年1月18日、甲府地裁の三上潤裁判長は遠藤裕喜被告に死刑を言い渡した。判決は、夫婦殺害について執拗かつ残虐で、強固な殺意があり、十分な計画性が認められると評価した。また、遠藤に完全な責任能力があったと認定。動機についても自己中心的で理不尽と判断した。
最大の焦点となった19歳という年齢について、裁判所は当然考慮した。しかし、一般に19歳は一定程度、社会の一員として責任ある行動を期待される年齢であり、本件では死刑を回避する決定的理由にならないと判断した。改正少年法の「特定少年」に死刑判決が言い渡されたのは、全国で初めてだった。
なぜ19歳でも死刑が選択されたのか
日本では、18歳未満の時に行った犯罪について死刑を科すことはできない。一方、遠藤は犯行時19歳だった。そのため法律上、死刑そのものが禁止されていたわけではない。ただし、若年性や更生可能性は重要な量刑事情となる。甲府地裁が死刑を選択した背景には、次の事情があった。
- 夫婦2人の生命を奪った結果が極めて重大
- 被害者夫婦に何の落ち度もなかった
- 複数の凶器などを準備した計画性
- 夫婦への攻撃が執拗かつ残虐
- 次女にも殺害目的と認定された攻撃を加えた
- 住宅へ放火し全焼させた
- 長女へ苦痛を与えるという理不尽な動機
- 完全な刑事責任能力が認められた
- 明確な反省や謝罪が乏しいと評価された
- 改善・更生可能性が低いと判断された
裁判所は19歳という事情を無視したのではなく、これを考慮しても死刑を回避できないと判断した。
弁護人が控訴するも遠藤本人が即日取り下げ
死刑判決後、裁判長は遠藤に対し、控訴期限まで考えることを諦めないよう促した。2024年2月1日、弁護人は東京高裁へ控訴した。ところが同日、遠藤本人が控訴を取り下げた。
刑事裁判では、被告本人が有効に控訴を取り下げれば、一審判決が確定することがある。本件でも遠藤本人の取り下げによって控訴審は開かれなかった。2024年2月2日、死刑判決が確定した。このため本件には東京高裁判決も最高裁判決も存在しない。甲府地裁の一審死刑判決が、控訴取り下げによって確定した事件である。
特定少年として初の死刑確定
甲府殺人放火事件は、少年法制の面でも重要な事件となった。遠藤は犯行時19歳。改正少年法により、18歳と19歳を対象とする「特定少年」に位置づけられた。本件では、特定少年としての実名公表、死刑求刑、死刑判決、死刑確定のいずれも全国初の事例として大きく報じられた。
ただし、「特定少年になったから自動的に実名公表される」「19歳なら必ず成人と同じ刑になる」という意味ではない。個別事件の重大性、起訴の有無、量刑事情などを分けて考える必要がある。本件は、改正少年法施行後の重大事件において、19歳という年齢を裁判所がどこまで死刑回避事情として評価するかが初めて具体的に問われた事件だった。
現在の状況|死刑判決はすでに確定
現在も、遠藤裕喜の死刑判決は確定している。死刑確定日は2024年2月2日である。弁護人が控訴したものの、本人が取り下げたため、一審判決のまま確定した。現在も、遠藤について死刑が執行された、または死亡したことを示す公的発表は確認されていない。公開されている死刑確定者資料でも、遠藤は死刑確定者として掲載されている。
本件は未解決事件ではない。犯人は特定され、逮捕・起訴され、裁判員裁判を経て刑が確定している。一方、事件が残した影響は終わっていない。夫婦2人が死亡し、次女は襲撃を受け、長女は自分への一方的な好意を発端に家族を奪われた。甲府地裁が示した結論は、19歳という若さを考慮しても、計画性、残虐性、結果の重大性、理不尽な動機を総合すれば極刑を回避できないというものだった。甲府殺人放火事件は、重大犯罪と少年法、実名報道、死刑制度をめぐる議論に大きな影響を与えた事件である。
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