2004年12月、大阪府和泉市で元会社社長の浅井建治さん(当時74歳)と妻きよさん(当時73歳)が姿を消した。2人の行方は長く分からなかったが、約5年後の2009年11月、大阪府阪南市の貸しガレージに置かれたドラム缶から遺体が発見された。捜査は、夫婦宅の工事に関わったことがある鈴木勝明へ及び、最終的に強盗殺人などで死刑が確定した。
鈴木は殺害への関与を否定し、夫婦を殺したのは別人だと争った。最高裁は、事件直後の被害品換金、鈴木が自ら借りたガレージへの遺体隠匿、被害者夫婦の生活状況を知っていたこと、当時の債務状況などを総合し、強盗殺人が合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されていると判断した。
| 事件発生 | 2004年12月3日ごろ |
| 被害者 | 浅井建治さん(74)、妻きよさん(73) |
| 主な現場 | 大阪府和泉市の夫婦宅敷地 |
| 遺体発見 | 2009年11月、大阪府阪南市の貸しガレージ |
| 被告人 | 鈴木勝明 |
| 主な罪名 | 窃盗、強盗殺人、住居侵入 |
| 一審 | 2013年6月26日、大阪地裁堺支部・死刑 |
| 控訴審 | 2014年12月19日、大阪高裁・控訴棄却 |
| 上告審 | 2017年12月8日、最高裁・上告棄却、死刑確定 |
夫婦宅の工事を通じ、生活状況を知る立場にあった
鈴木と浅井さん夫婦には事件以前から接点があった。最高裁判決は、鈴木が以前に居宅などの工事へ関わり、その関係で高齢の夫婦の生活状況を把握していたと認定している。面識のない家へ偶然侵入した事件ではなく、仕事上の接点から被害者側の事情を知り得る立場にあった。
判決によれば、鈴木は当時、債務の弁済などをしなければならない状況にあった。2004年12月3日ごろ、金品を奪う目的で夫婦方の敷地へ赴き、2人の頭部を重量のある鈍器で殴打するなどして短時間のうちに死亡させ、200万円を超える金品を奪ったと認定された。
殺害直後に被害品を換金し、債務の支払いへ
犯人性を判断するうえで大きな意味を持ったのが、事件直後の金銭の動きだった。最高裁は、鈴木が債務を弁済する必要に迫られていた一方、浅井さん夫妻が殺害された直後に被害品を換金し、その支払いへ充てた事実を挙げている。
金銭的に困っていたことだけでは殺人の証明にはならない。しかし、被害者の財産が失われた直後に鈴木がその財産を現金化していたことは、被害品と鈴木を直接結び付ける事情となった。裁判所は、この事実を後に判明するガレージ契約や遺体隠匿と組み合わせて評価した。
約2日後に自らガレージを借り、遺体をドラム缶へ
最高裁判決によると、鈴木は夫婦の殺害から約2日後には自らガレージを賃借した。そして2人の遺体を梱包したうえでドラム缶へ入れ、そのガレージ内に隠したと認定されている。遺体が発見された場所と鈴木の間には、第三者を介した間接的なつながりではなく、賃借行為そのものによる接点があった。
遺体は長期間発見されず、夫婦は行方不明の状態が続いた。約5年後の2009年11月、阪南市の貸しガレージからドラム缶に入れられた2人の遺体が見つかり、身元が浅井さん夫妻と判明した。2004年の失踪は、2人が殺害され財産を奪われた事件として本格的に捜査されることになった。
窃盗事件の捜査から強盗殺人の立件へ
鈴木は2009年、夫婦の自動車や腕時計などをめぐる窃盗容疑で逮捕された。その後、被害品の処分状況、ガレージの賃借、夫婦宅との過去の接点などについて捜査が進められ、2010年12月に強盗殺人容疑で再逮捕された。
最高裁の事件名は「窃盗,強盗殺人,住居侵入被告事件」で、強盗殺人のほか窃盗3件なども審理対象となった。もっとも、量刑判断の中心とされたのは浅井さん夫妻2人に対する強盗殺人であり、窃盗事件の存在だけで死刑が選択されたわけではない。
鈴木は「殺したのは別の人物」と主張
鈴木は、遺体の処理につながる行為との関係を指摘されながら、夫婦を殺害した実行者ではないと主張した。弁護側は上級審でも、遺体発見場所や被害品との結び付きがあっても、それだけで殺害者であることまで証明したことにはならず、第三者が犯行に関わった可能性が残ると争った。
この主張に対し、裁判所は「遺体を隠したから殺害者」と一足飛びに判断したのではない。鈴木が夫婦の生活状況を知り、債務の支払いを抱え、殺害直後に被害品を換金し、約2日後には自ら借りたガレージへ遺体を隠していたという一連の事実を総合した。最高裁は、この証拠評価に不合理な点はないとした。
情況証拠の積み重ねで犯人性を認定
最高裁判決は、強盗殺人の犯人性について、債務状況、殺害直後の被害品換金、ガレージ賃借、遺体隠匿などを明示している。個々の事情には別の説明を考える余地があっても、事件の時間軸に沿って全体を見れば、それらが同じ人物の行動として連続していた。
そのため最高裁は、一、二審が鈴木による強盗殺人を合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に認定したことを是認した。殺害を直接目撃した証言や被告人の自白だけに依存するのではなく、複数の間接事実が互いに補強し合うかどうかが上告審まで検討された事件だった。
最高裁は「犯人性」と「死刑相当性」を分けて審査
最高裁判決は、まず鈴木が強盗殺人の実行者であると認定できるかを検討し、その後に死刑という量刑が相当かを判断している。犯人性については、被害者宅との接点、事件直後の被害品換金、債務返済、ガレージ賃借、遺体隠匿という複数の情況事実を時系列で評価し、一、二審の認定に不合理な点はないとした。
そのうえで量刑では、2人が死亡した結果、財産目的、頭部を重量のある鈍器で殴打した殺害態様、遺体を長期間隠した犯行後の行動、遺族感情、反省状況などを検討した。犯人であることを示す証拠と、死刑を選択する事情は同じ問題ではなく、最高裁は両者を段階的に判断した。
事件前後の行動が一つの流れとして結び付いた
鈴木と強盗殺人を結び付けたのは、単独の決定的証拠ではなく、事件の前後に続いた行動だった。工事を通じて夫婦の暮らしを知っていたこと、返済すべき債務を抱えていたこと、夫婦が殺害された直後に被害品を換金して返済へ回したこと、さらに約2日後には自らガレージを借りて2人の遺体を隠したことが、時間的に連続していた。
最高裁は、この一連の事実を個別に切り離して評価しなかった。被害品を持っていた事情だけ、遺体を隠した事情だけで結論を出すのではなく、金品を奪う動機につながる事情から犯行直後の財産処分、遺体の長期隠匿までが同じ被告人の行動としてつながる点を重視した。その総合評価から、第三者が夫婦を殺害したという弁護側の主張を採用しなかった。
裁判員裁判で死刑、大阪高裁も維持
2013年6月26日、大阪地裁堺支部の裁判員裁判は鈴木に死刑を言い渡した。鈴木は控訴したが、2014年12月19日、大阪高裁は一審の犯人性と量刑判断を支持して控訴を棄却した。鈴木側はさらに最高裁へ上告し、事実誤認や量刑不当などを主張した。
最高裁第三小法廷は2017年12月8日、上告を棄却した。裁判所の判例ページでは平成27年(あ)第120号として公開され、「死刑の量刑が維持された事例(大阪ドラム缶遺体事件)」と位置付けられている。これにより一、二審の死刑判決が確定した。
最高裁が示した死刑選択の理由
最高裁は、鈴木が生活状況を把握していた高齢夫婦の財産を狙い、200万円を超える金品を奪い、その機会に2人の頭部を重量のある鈍器で殴打するなどして死亡させたと認定した。殺害態様は冷酷かつ悪質で、強固な殺意と高い利欲性が認められると評価した。
何の落ち度もない2人の生命が奪われた結果に加え、遺体をガレージ内のドラム缶へ入れて放置したこと、遺族が厳しい処罰感情を示していたこと、鈴木が不合理な弁解を続け反省を示していないことも量刑事情とされた。
一方で、最高裁は被告側に有利な事情も検討している。夫婦方へ赴いた当初から殺害まで意図していたとは認められないこと、重大な前科ではなく罰金前科しかなかったことなどである。それでも、2人を奪った強盗殺人の重大性を踏まえれば死刑はやむを得ないとして、原判決を維持した。
「当初から殺害する計画」までは認めず、それでも死刑を維持
最高裁は被告側に有利な事情として、夫婦宅へ向かった当初から2人を殺害する意図まで持っていたとは認められない点を明記した。金品を奪う目的で接近したことと、最初から殺害まで計画していたことを同一視せず、証拠から認められる範囲を区切っている。
一方、実際の殺害場面では、2人の頭部を重量のある鈍器で殴打するなどして短時間に死亡させており、最高裁は強固な殺意を認定した。犯行前の計画性が限定的であることを考慮しても、高齢の夫婦2人を財産目的で殺害した結果と態様の重大さは変わらないとして、死刑回避には至らなかった。
2004年の失踪から2017年の最高裁判決まで
事件の時間軸は長い。浅井さん夫妻が姿を消したのは2004年12月で、遺体が見つかったのは2009年11月だった。その後、窃盗事件の捜査から強盗殺人の立件へ進み、2013年6月に大阪地裁堺支部が死刑、2014年12月に大阪高裁が控訴棄却、2017年12月に最高裁が上告を棄却した。
失踪から最高裁判決までは約13年に及ぶ。鈴木が殺害そのものを否認したため、裁判では「遺体を隠した人物である」ことだけではなく、「夫婦を殺して財産を奪った人物でもある」と言えるかが継続して争われた。上告審まで維持されたのは、その間を埋める複数の情況証拠が一つの時間軸として結び付いたためだった。
失踪から約13年を経て死刑確定
事件は2004年の失踪から約5年間、被害者2人の所在が分からない状態が続いた。遺体発見後も、鈴木が殺害を否認したため、被害品の換金や遺体隠匿といった情況証拠がどこまで強盗殺人の実行者を示すかが争われた。
2017年の最高裁判決は、犯人性の認定と死刑相当性をそれぞれ検討し、いずれも一、二審の判断を是認した。鈴木勝明の法的状況は、窃盗、強盗殺人、住居侵入による死刑確定である。
参考資料・出典
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
