1999年7月23日、羽田発新千歳行き全日空61便が離陸後に乗っ取られた。乗客503人、乗員14人を乗せたボーイング747-400Dの操縦室へ西沢裕司が侵入し、長島直之機長(51)を刃物で刺して死亡させ、自ら操縦席に座った。
乗務員らが西沢を取り押さえ、副操縦士が操縦を引き継いで機体を羽田へ戻した。西沢は殺人、航空機強取等致死などに問われ、東京地裁は責任能力を認めながら犯行時は心神耗弱だったと判断し、2005年3月23日に求刑通り無期懲役を言い渡した。控訴はなく一審で確定した。
事件の基本情報
| 発生日 | 1999年7月23日 |
|---|---|
| 便 | 全日空61便 羽田発・新千歳行き |
| 機材 | ボーイング747-400 |
| 乗客乗員 | 乗客503人、乗員14人 |
| 被害者 | 機長・長島直之さん死亡 |
| 被告人 | 西沢裕司 |
| 判決 | 2005年3月 東京地裁・無期懲役 |
| 確定 | 控訴せず無期懲役確定 |
到着ロビー側から出発エリアへ逆流し、刃物を機内へ持ち込んだ
国土交通省は事件後、犯人が到着ロビーの受託手荷物受取場側から出発ロビーへ逆流し、保安検査を回避して犯行に及んだと説明している。西沢は事件前から羽田空港の保安上の弱点を指摘する文書を関係機関へ送っていた。
実際にその動線上の弱点を利用して刃物を持ち込み、全日空61便へ搭乗した。空港保安の不備を指摘していた人物が、その不備を自ら犯行に利用した形となった。
離陸後に操縦室へ侵入し、長島機長を刺殺した
全日空61便が羽田を離陸した後、西沢は客室乗務員を脅して操縦室へ入り、副操縦士を室外へ出した。長島機長に進路や操縦を要求し、刃物で刺して死亡させた。
西沢は操縦席に座り、実際に大型旅客機を操作した。機内には計517人が搭乗しており、操縦を誤れば乗客乗員だけでなく地上にも甚大な被害が及ぶ危険があった。
乗務員らが操縦室を奪還し、羽田へ緊急着陸した
副操縦士らは操縦室へ入り西沢を取り押さえ、機体の操縦を取り戻した。全日空61便は羽田空港へ引き返して着陸し、西沢は警察に逮捕された。
警察庁の白書によれば、乗客に負傷者は出なかった。機長が死亡する重大な被害が生じた一方、乗務員による奪還で500人を超える搭乗者と地上へのさらなる被害は回避された。
公判では責任能力が争われ、東京地裁は心神耗弱と認定した
西沢は殺人、航空機強取等致死などで起訴され、公判では犯行時の精神状態が大きな争点になった。弁護側は心神喪失または心神耗弱を主張し、複数の精神鑑定が行われた。
東京地裁は刑事責任を負えない心神喪失ではなく、判断能力が著しく低下した心神耗弱だったと認定した。責任能力そのものは認められ、有罪判決の前提となった。
2005年3月23日、求刑通り無期懲役となり一審で確定した
東京地裁は、長島機長を死亡させ、500人を超える乗客乗員を重大な危険にさらした結果を重く評価し、2005年3月23日に無期懲役を言い渡した。検察側の求刑も無期懲役だった。
判決後に控訴はなく、一審の無期懲役がそのまま確定した。上級審で責任能力や量刑が再判断された事件ではない。
事件後、逆流防止と保安検査の厳格化が進められた
国土交通省は事件後、到着側から出発側への旅客の逆流を防ぐ警備員配置や施設改善、旅客の保安検査の厳格化を進めた。さらに、保安体制に関する外部からの投書への対応マニュアル、金属探知器等の更新、国内線受託手荷物検査の強化も実施された。
全日空61便事件は、日本のハイジャック事件の中でも機長が殺害された重大事件であると同時に、空港施設の動線と保安検査の設計そのものを見直す契機となった。
西沢は事件前、空港の保安上の弱点を文書で指摘していた
西沢は航空機や空港への強い関心を持ち、事件前に羽田空港の保安上の問題を指摘する文書を運輸行政機関や警察、報道機関などへ送っていたとされる。国土交通省は後に、実際に利用されたのが到着側から出発側への逆流経路だったと説明した。
外部から具体的な脆弱性の指摘を受けた場合に、情報をどの部署で評価し、対策まで結び付けるかも事件後の課題となった。
操縦室を奪われたB747は羽田周辺で高度を下げる場面もあった
西沢が操縦席へ座った後、機体は羽田周辺を飛行した。大型旅客機を乗客が事実上操作する異常事態で、乗務員らは機体を安全に保ちながら操縦室を奪還する必要があった。
警報などを受けた乗務員らが操縦室へ突入して西沢を制圧し、操縦を取り戻した。機長を失った状態で副操縦士らが羽田へ着陸させたことが、多数の二次被害を防いだ。
事件を受け、投書対応・金属探知・受託手荷物検査まで見直された
国土交通白書は、事件後の再発防止策として、保安体制への外部からの投書に対応するマニュアルの策定、保安検査場の金属探知器等の更新、国内線受託手荷物検査の強化を挙げている。
到着客の逆流防止に加え、警備上の弱点を指摘する情報を組織として扱う仕組みまで見直された。事件は単に機内の対応だけでなく、空港の入口から搭乗までの保安全体を再点検する契機となった。
参考資料・出典
- 警察庁「平成12年警察白書」全日空61便ハイジャック事件
- 国土交通省「全日空ハイジャック事件で国が提訴された件について」
- 国土交通省「平成13年度国土交通白書・ハイジャック対策」
- Aviation Wire「ANAの747、JA8966が離日」
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
