佐賀女性7人連続殺人事件|7件の未解決と北方事件3人殺害の無罪確定

公開日 2026年2月3日
最終更新 2026年8月1日

1975年から1989年までの約14年間、佐賀県の杵島郡、武雄市、三養基郡周辺で、女性7人が相次いで殺害された。発生地域が近く、複数の被害者が水曜日に行方不明となり、多くが首を絞められていたことから、後に「佐賀女性7人連続殺人事件」と総称された。

最後の3人は1989年1月、当時の北方町にある山林の同じ場所から遺体で発見され、「北方事件」として捜査された。2002年に男性が逮捕、起訴され、検察は死刑を求刑したが、佐賀地裁と福岡高裁はいずれも無罪を言い渡した。2007年に無罪が確定し、7件すべてで犯人は特定されていない。

事件名佐賀女性7人連続殺人事件
発生日・期間1975~1989年
発生場所佐賀県杵島郡・武雄市・三養基郡周辺
被害・事件1975年から1989年までの約14年間、佐賀県の杵島郡、武雄市、三養基郡周辺で、女性7人が相次いで殺害された。発生地域が近く、複数の被害者が水曜日に行方不明となり、多くが首を絞められていたことから、後に「佐賀女性7人連続殺人事件」と総称された。
現在の状況7件すべて未解決
判決北方事件の被告人は2007年に無罪確定。真犯人は未特定

1975年から続いた女性の失踪と遺体発見

最初の事件は1975年に起きた。若い女性が行方不明となり、後に遺体で発見された。その後も数年おきに、比較的近い地域で女性の失踪と殺害が続いた。被害者の年齢や生活状況は同一ではなく、行方不明になった場所も一つに限られていなかった。

遺体の発見まで時間がかかった事件が多く、死後の経過によって物証が失われていた。衣服や所持品、発見場所の状況から殺人と判断されても、正確な死亡時刻、犯行場所、犯人の移動経路を確定できない例があった。

一連の事件は同じ県内の近接地域で発生したが、警察が当初から一人の連続犯と断定していたわけではない。各事件で得られた証拠の量や質が異なり、関連性を示す共通点と、被害者属性や手口の違いを分けて捜査する必要があった。

七つの事件は同じ県内で起きたが、発生場所、被害者の年齢、失踪から遺体発見までの期間、死因などに違いがあった。「水曜日」という共通点も、一部の事件で失踪日や発見日が重なることから注目されたもので、同一人物が七件すべてを実行したことを証明する物証ではなかった。

七件のうち、北方町の三事件以外では被告人が起訴されておらず、裁判で犯行経過が認定された事実はない。被害者の失踪状況や遺体発見場所について報道上の共通点が語られても、警察が保有する非公開証拠を含めた関連性は確認できないため、事件ごとに未解決として扱われる。

北方事件の公判では、被害者ごとに最後の目撃、被告人との接点、遺体発見状況が検討された。三事件をまとめて見ると疑いが強くなるという検察の構成に対し、裁判所は各事件について有罪を支える証拠があるかを個別に確認した。ある事件の疑いを別事件の不足分へ流用することはできないとされた。

「水曜日の絞殺魔」と呼ばれた共通点の限界

7人のうち多くが水曜日に姿を消し、首を絞められたとみられることから、報道では「水曜日の絞殺魔」という呼称も使われた。発生地域がおおむね半径20キロ圏に収まるとの指摘もあり、同一犯説が広く知られるようになった。

しかし、曜日が一致しない事件もあり、遺体の状態から死因を確定できない例も含まれていた。首を絞める方法は殺人事件で特異な手口とは限らず、地域の近さだけで同一人物の犯行と証明することはできない。

裁判で扱われた北方事件の3人についても、先行する4件との関連は起訴事実ではなかった。総称として7事件を並べることと、刑事裁判で一人の犯人による連続殺人と認定することは別であり、確認済みの証拠に基づく区別が必要となる。

北方町の山林で発見された3人の遺体

1989年1月27日、北方町の山林で女性3人の遺体が発見された。3人はそれぞれ別の時期に行方不明となっており、一つの場所に遺棄されていたことから、同一人物または共通する関係者による犯行の可能性が強く疑われた。

発見時には死後長期間が経過した遺体もあり、直接犯人へ結び付くDNA型や指紋を得ることは難しかった。警察は被害者の交友関係、最後に目撃された場所、車両の利用、遺棄現場へ出入りできる人物を調べたが、直ちに逮捕へ至らなかった。

3人の事件は「北方事件」と呼ばれ、捜査は長期化した。遺棄場所が共通しているという強い関連がある一方、誰がどこで殺害し、どの時点で山林へ運んだのかを示す客観証拠は限られていた。

2002年の逮捕と取調べで作成された上申書

事件発生から十数年後の2002年、警察は被害者の一人と接点があった男性を逮捕した。男性は任意の事情聴取を長期間受けた後、3人の殺害を認める趣旨の上申書を作成したが、正式な取調べでは否認へ転じた。

検察は、上申書や知人への発言、被害者との接触機会などを組み合わせ、男性が3人を殺害して同じ山林へ遺棄したと主張した。弁護側は、取調べが深夜まで及び、捜査員の誘導によって事実と異なる文書を書かされたとして、信用性を争った。

自白に依存する事件では、犯人しか知らない秘密が正確に語られているか、その内容が客観証拠と一致するかが重要になる。本件では、上申書の内容と遺体の状況、殺害方法、遺棄経過の間に食い違いがあると指摘された。

北方町で遺体が見つかった三人については、同じ被告人を起訴して一つの裁判で審理した。検察は、被告人の生活圏、被害者との接点、取調べ中の上申書などを組み合わせたが、犯行現場を直接示す血痕、指紋、DNA型、目撃証言などは得られていなかった。三件を結び付ける推論の強さが、有罪判断の中心になった。

上申書は、被告人が取調官の質問へ答える形で作られた。そこに記された内容が、捜査機関から得た情報ではなく、犯人だけが知る秘密の暴露を含むかが検討された。佐賀地裁は、内容に客観事実との食い違いがあり、誘導や迎合の影響を排除できないとして、信用性を認めなかった。

取調べでは録音・録画が行われておらず、供述ができるまでのやり取りを後から完全に検証できなかった。自白調書だけを読むと具体的に見えても、その情報を誰が先に示したのか、訂正がどのように行われたのかが不明であれば、犯人性を支える力は弱くなる。この事件は、取調べ過程を客観的に残す必要性を考える例の一つとして扱われてきた。

佐賀地裁が指摘した客観証拠の不足

検察は男性に死刑を求刑したが、佐賀地裁は2005年、3件すべてについて無罪を言い渡した。判決は、男性と被害者の接点があることだけでは犯行を証明できず、殺害や遺棄へ直接結び付く物証がないとした。

上申書についても、取調べの経過や内容の変遷を検討し、信用できない部分が多いと判断した。犯人であれば正確に説明できるはずの事項が客観的事実と合わず、捜査側から得た情報を基に供述が形づくられた疑いを排除できなかった。

刑事裁判で有罪とするには、被告人が犯人であることを合理的な疑いを超えて証明する必要がある。別の人物による犯行の可能性や、被害者ごとに犯人が異なる可能性が残る以上、疑わしいという印象だけで有罪にできないとされた。

福岡高裁の控訴棄却と無罪確定

検察は一審判決を不服として控訴した。福岡高裁は2007年3月、一審と同様に、男性を3件の犯人と認定するには証拠が足りないとして控訴を棄却した。上申書の成立過程と信用性、関係者証言の変遷、客観証拠との不一致が改めて検討された。

福岡高検は上告を断念し、同年4月に無罪が確定した。無罪は、3人が殺害されなかったことを意味するものではなく、起訴された男性が犯人だと証明されなかったという判断である。真犯人を特定する刑事手続は残されたが、事件からの時間経過はさらに長くなった。

男性は長期間の取調べと身柄拘束を受け、死刑を求刑された後に無罪となった。北方事件は、物証の乏しい長期未解決事件で自白をどのように評価するか、取調べを客観的に記録することがなぜ必要かを示す事例として取り上げられている。

無罪判決は、被告人が真犯人ではない人物を積極的に特定したものではない。検察の提出証拠では、合理的な疑いを超えて三人を殺害したと認められないという判断である。福岡高裁も一審の証拠評価を維持し、検察が上告しなかったため無罪が確定した。

北方事件の無罪確定後も、三人の殺害犯が別に特定されたわけではなく、他の四事件を含む七件は未解決のまま残った。古い事件では物証の残存状況や公訴時効が問題となるが、未確認の同一犯説で事件を一括せず、それぞれの発生経過と証拠を分けて検討することが必要である。

公訴時効が完成した事件では、後に犯人を疑う情報が得られても刑事訴追できない場合がある。北方事件の無罪確定は誤った処罰を防いだ一方、真犯人の特定を意味しなかった。長期未解決事件では、古い供述を新しい科学鑑定と照合し、無理に一つの犯人像へ合わせない姿勢が必要になる。

報道や書籍では七件を一つの連続殺人として扱うことがあるが、公式の事件名や捜査単位は一様ではない。被害女性の氏名や状況にもプライバシー上公表されていない部分があり、推測で補うべきではない。現在確認できる法的結論は、北方町の三件で起訴された男性の無罪が確定し、七件の真犯人が特定されていないことである。

7件すべてが未解決のまま残った現在

先行する4事件は、当時の法律による公訴時効が完成し、犯人が判明しても起訴できない状態となった。2010年に殺人罪の公訴時効は廃止されたが、改正前にすでに時効が完成していた事件を復活させるものではない。

北方事件の3件については男性の無罪確定後、別の犯人が特定されていない。無罪判決によって捜査機関の立証が否定されたため、確定判決と矛盾しない新たな証拠を集め、真犯人を捜す必要があるが、遺体発見から長期間が経過している。

7件には地域、曜日、殺害方法などの共通点が指摘される一方、すべてを一人の連続犯によるものと確定する証拠はない。現在の法的状況は、北方事件の被告人が無罪であり、7人を殺害した犯人または犯人らは特定されていない、というものである。

関連事件

同じテーマの書籍を探す

この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。