2014年10月と2015年9月、フィリピン・マニラ首都圏のラスピニャス市で、山梨県の鳥羽信介さん(32)と中村達也さん(42)が相次いで銃撃され死亡した。二つの殺人には日本国内で組まれた生命保険契約と会社の仕組みが重なり、現地の実行役へ殺害を依頼する計画があったと裁判所は認定した。
中心人物とされた岩間俊彦は一貫して殺人の共謀を否定したが、共犯者の供述、LINEのやり取り、送金や保険手続などが組み合わされ、2017年に甲府地裁で死刑判決を受けた。東京高裁、最高裁でも結論は変わらず、2023年に死刑が確定する。しかし刑は執行されず、岩間は同年8月、東京拘置所で死亡した。
| 事件発生 | 2014年10月、2015年8月末〜9月 |
|---|---|
| 場所 | フィリピン・ラスピニャス市 |
| 被害者 | 鳥羽信介さん(32)、中村達也さん(42) |
| 主な被告人 | 岩間俊彦 |
| 一審 | 2017年8月25日、甲府地裁・死刑 |
| 控訴審 | 2019年12月17日、東京高裁・死刑維持 |
| 上告審 | 2023年6月5日、最高裁第一小法廷・上告棄却 |
| その後 | 死刑確定後の2023年8月24日、東京拘置所で死亡 |
最初の標的から変更され、鳥羽信介さんがフィリピンへ渡った
甲府地裁判決によると、岩間らは生命保険の死亡保険金を得る目的で殺害計画を進めた。計画の過程では当初想定していた対象から変更があり、最終的に鳥羽信介さんが被保険者となる高額な保険契約や会社関係の手続が組まれ、フィリピンへ渡航する流れが作られた。
鳥羽さんは2014年10月18日午後11時30分ごろ(現地時間)、ラスピニャス市で銃撃され死亡した。日本時間では19日午前0時30分ごろに当たる。現地で偶発的に起きた銃撃ではなく、日本側で渡航、保険、資金、実行役との連絡が準備された殺害だったと後の判決は認定している。
一件目では、鳥羽さんをフィリピンへ向かわせる過程にも虚偽の事業話が使われた。判決によると、新会社設立資金として4人が各300万円を出すよう装い、鳥羽さんから300万円を振り込ませたほか、別に「見せ金」が必要だとして70万円も振り込ませていた。これらの詐欺は、渡航と殺害計画を進める資金面とも重なっていた。
現地の実行役を手配する話も、共犯者間の連絡に具体的に残っていた。殺害報酬は40万ペソとされ、実行予定日や鳥羽さんを現場へ連れ出す役割が共有されていた。日本国内の保険契約だけではなく、こうした現地側の準備と資金移動が、殺人共謀を裏付ける材料になった。
翌年、中村達也さんも同じ都市で銃撃された
一件目の後も計画は終わらなかった。2015年8月31日から9月1日にかけて、中村達也さんが同じラスピニャス市で銃撃され死亡した。二人はいずれも山梨県内で岩間らと接点があり、海外渡航と生命保険が殺害前の手続に組み込まれていた。
二つの事件が同じ地域で起き、いずれも日本側の関係者と保険契約がつながっていたことから、捜査は個別の海外犯罪ではなく、一連の保険金目的事件として進む。現場の実行役と日本側の計画者が分かれていたため、殺害現場だけでは岩間の関与を直接示せない点が立証上の難所となった。
一件目に関与した人物が、二件目では被害者になった
甲府地裁判決は、中村さんについて、鳥羽さんに対する殺人などに岩間らとともに関与していた事情を認定している。その中村さんが翌年には保険金目的殺人の対象となった。判決は、この事情を挙げたうえでも「そうであるからといって殺されなければならない理由はない」と明記した。
二件目では、中村さんをフィリピンへ誘い出す理由も作られた。岩間らの人間関係を利用して渡航させ、現地で実行役が銃撃する構造は一件目と共通していた。最初の殺害を知る関係者が次の標的になるという経過は、二つの事件が切り離せない一連の計画だったことを示している。
共犯者供述だけでなく、LINEや送金記録が裏付けに使われた
公判で重要になったのが、計画に関与した共犯者の供述だった。岩間側は、供述者が自らの責任を軽くするため岩間へ責任を転嫁しているとして信用性を争った。殺人の現場に岩間本人がいたわけではなく、「誰が計画を作り、誰が実行役へつないだのか」が核心だった。
甲府地裁は、共犯者の説明だけを単独で採用したのではなく、LINEのメッセージ、送金、保険契約や会社関係の客観資料と照合した。供述の重要部分が外部の記録と符合すると判断し、岩間が二件の殺害を企画し、共犯者を集め、役割を割り振って計画全体を主導したと認定した。
保険契約と受取会社を岩間が管理していた
判決は、被害者に高額の死亡保険を掛け、保険金の受取先となる会社や口座を利用する仕組みを重視した。岩間は保険手続を掌握し、誰を被保険者とするか、共犯者に何をさせるか、現地の実行役へどうつなぐかを指示する立場にあったとされた。
裁判所が岩間を「首謀者」と位置付けた理由は、殺害の実行行為を自ら行ったかどうかではない。保険金取得という目的を設定し、対象者を選び、渡航させ、実行役を使い、犯罪後の利益取得までを一つの計画として動かした点にあった。
保険金目的だったが、二件とも死亡保険金は取得されていない
この事件では「保険金殺人」という呼称から、二人の死亡後に岩間側が保険金を受け取ったように受け取られやすい。しかし甲府地裁判決は、二件の殺害によって死亡保険金を最終的に取得した事実はないと明記している。
それでも殺人の動機と計画性の評価は変わらなかった。保険金を得る目的で高額契約を組み、被害者を海外へ誘い出し、現地の実行役に殺害させるところまで実行された以上、利益の取得に失敗したことは殺人そのものの成立を左右しない。保険金請求に関しては、詐欺未遂なども起訴対象となった。
保険金を得られなかった理由についても判決は触れている。二件目では捜査が進み、会社の印鑑が押収され、関係者が逮捕されたため請求を進められなかったとされた。「計画がずさんだったから保険金を得られなかった」という弁護側の主張は、共謀を否定する事情にはならないと退けられた。
岩間の事件では、二件の殺人だけでなく、過去の偽装交通事故による保険金詐欺、鳥羽さんから金銭をだまし取った詐欺、遺族に対する詐欺未遂、会社登記や文書に関する犯罪も有罪認定の対象となった。ただし死刑選択の中心に置かれたのは、あくまで鳥羽さんと中村さんの二件の計画殺人だった。
岩間は殺人の共謀を否定した
岩間側は、殺害計画の中心は別の共犯者であり、自身は二人の殺害を指示していないと主張した。共犯者供述の変遷や利害関係も取り上げ、死刑につながる二件の殺人について慎重な認定を求めた。
甲府地裁はこの主張を退けた。保険手続や資金の管理、被害者選定、共犯者への指示などを総合すると、二つの殺人を実現できる中心的立場にいたのは岩間であり、個々の行為が一人の共犯者だけで作られた計画とは考えにくいと判断した。
二人をフィリピンへ向かわせた説明も同じではなかった。鳥羽さんは岩間らと共同事業を行う話を信じて渡航した。中村さんは、別の関係者の所在が判明したという話を受けて渡航したと認定されている。裁判所は、信頼関係や既存の人間関係を利用して被害者を国外へ誘い出した点を、計画性の高さを示す事情とみた。
甲府地裁は2017年、岩間に死刑を言い渡した
2017年8月25日、甲府地裁は岩間に死刑を言い渡した。判決は、金銭目的で二人を対象にし、日本からフィリピンへ誘い出したうえで実行役を使って殺害した計画性、二人の生命が奪われた結果、岩間が首謀者だったことを重視した。
岩間に重大な前科がなかったことなども量刑上検討されたが、裁判所は二件の計画殺人の重さを上回る事情ではないとした。直接銃を撃っていないことも、計画全体を作り動かした責任を軽くする事情とは評価されなかった。
東京高裁でも死刑は維持された
控訴審でも、共犯者供述の信用性、岩間が首謀者といえるか、死刑が重すぎないかが争われた。2019年12月17日、東京高裁は一審判決を維持した。
最高裁の裁判記録にも、原審が東京高裁平成29年(う)第1637号、判決日が2019年12月17日と記録されている。事件名は詐欺、殺人など複数の罪名を含むが、上告審で最大の焦点となったのは二件の殺人について死刑を維持できるかだった。
最高裁は2023年6月5日、上告を棄却した
2023年6月5日、最高裁第一小法廷は岩間の上告を棄却した。裁判所の公表資料は「死刑の量刑が維持された事例(マニラ保険金殺人事件)」として整理している。これにより一、二審の死刑判断が維持され、その後、死刑が確定した。
共犯者のうち久保田正一については無期懲役が確定している。実行役と計画者が分かれた事件で、共犯者ごとの役割、供述の裏付け、利益取得の仕組みが別々に審理され、岩間には首謀者として最も重い刑が選択された。
最高裁は、法人を使って高額な死亡保険を掛け、国外へ誘い出し、現地の実行役を雇うという仕組みを踏まえて量刑を検討した。岩間に前科がないことなど被告人側に有利な事情を考慮しても、二人を対象にした計画殺人を主導した責任は極めて重く、死刑を回避する事情にはならないと判断した。
死刑は執行されず、2023年8月に拘置中に死亡した
死刑確定から間もない2023年8月24日、岩間は収容されていた東京拘置所で死亡した。49歳だった。死刑執行による死亡ではなく、拘置中の死亡である。
二件の殺人は「保険金を受け取ったから成立した事件」ではない。裁判で確定した核心は、高額保険を利益の目的に据え、二人を海外へ誘い、現地の実行役を使う殺害計画を岩間が主導したことにある。そして死亡保険金の取得自体は果たされないまま、二人の生命だけが失われた。
参考資料・出典
- 甲府地方裁判所「平成28年(わ)第149号ほか 判決」2017年8月25日
- 最高裁判所「令和2年(あ)第124号 裁判例結果詳細」2023年6月5日
- 最高裁判所「安浪亮介裁判官 主な担当裁判」
- コトバンク(共同通信ニュース用語解説)「まにら保険金殺人」
- UTY/TBS NEWS DIG「マニラ保険金殺人事件 岩間俊彦死刑囚が死亡」2023年8月25日
- UTY/TBS NEWS DIG「マニラ保険金殺人事件 最高裁で弁論」2023年4月19日
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