MENU

栃木小1女児殺害事件(今市事件)|勝又拓哉に無期懲役が確定した一方、立証構造をめぐる議論が続く未解明要素の多い事件

事件概要

項目内容
事件名栃木小1女児殺害事件(今市事件)
発生日時2005年12月1日(失踪)〜12月2日(遺体発見)
発生場所栃木県今市市(現・日光市)周辺、茨城県常陸大宮市の山林
被害者小学1年生女児(当時7歳)
犯人勝又拓哉
犯行種別殺人(拉致・死体遺棄は公訴時効完成)
死亡者数1人
判決無期懲役確定
動機判決上、詳細は確定的に解明されたとは言い難い
特徴決定的物証に乏しい中、自白と情況証拠の評価が最大争点となり、控訴審では自白の一部信用性を否定しつつ有罪が維持された

事件の注目ポイント

今市事件は、下校途中の小学校1年生女児が忽然と姿を消し、翌日に県境を越えた山林で遺体となって発見されたという点で、当時の地域社会に極めて大きな衝撃を与えた。判決文でも、被害者は2005年12月1日午後2時38分ごろに旧今市市内で下校中に連れ去られ、翌2日午後2時ごろに茨城県常陸大宮市の山林で遺体が発見されたと整理されている。

この事件が特異なのは、有罪は確定しているが、その認定過程が単純ではないことにある。一審は自白を重く見て無期懲役を言い渡したが、東京高裁は2018年、一審の自白評価には問題があるとして原判決を破棄した。そのうえで高裁は、殺害の日時・場所を広げた訴因なら証明できるとして、自白の細部ではなく情況証拠の総合評価により改めて無期懲役を言い渡した。つまり、確定判決は「自白どおりの犯行」をそのまま認めたものではない。

このため本件は、単なる誘拐殺人事件としてだけでなく、間接証拠型立証、自白の信用性、別件逮捕後の取調べ、再審可能性まで含めて語られる事件になっている。2025年には新弁護団が再審請求に向けて動いていると報じられており、判決確定後もなお論争性を失っていない。

事件の発生

2005年12月1日、被害女児は栃木県今市市内で下校中に行方不明になった。東京高裁判決は、被害者が旧今市市内で下校中、何者かに拉致されたと認定している。さらに、拉致現場周辺では古い白色系セダン車と若い感じの男に関する目撃が複数あり、高裁もこうした客観状況を情況証拠の一部として扱っている。

翌12月2日午後2時ごろ、遺体は茨城県常陸大宮市の山林内で発見された。判決文によれば、被害者は胸部をナイフ様のもので多数回刺されて殺害され、遺体は山林内に遺棄されていたと認定されている。被害者宅周辺から遺体発見現場までは相当距離があり、犯行には車両移動が前提だったとみられる。

ここで重要なのは、確定判決が「拉致・殺害・遺棄は一連の行為であり、同一人物による可能性が高い」と推認している点である。ただし、拉致と遺棄そのものは公訴時効が完成していたため、最終的に起訴・有罪認定の対象となったのは殺人罪のみだった。

捜査経過

初動捜査

事件直後、警察は広域捜査を展開したが、長く未解決が続いた。2005年の発生から、勝又拓哉が本件で逮捕される2014年まで、約8年半にわたって決定的進展はなかった。

別件逮捕から本件立件へ

捜査が動いたのは2014年である。勝又は2014年1月29日に商標法違反で逮捕され、その後、同年6月3日に本件殺人容疑で逮捕、6月24日に起訴された。いわゆる別件逮捕後に本件の取調べが進んだ構図であり、これ自体が後に防御側から強く問題視されることになった。

立証の柱

一審・二審を通じて争点になったのは、自白供述の信用性情況証拠の評価である。一審は、自白に加え、白色セダン車、被告の車両事情、土地勘、獣毛や各種周辺事情などの間接証拠を組み合わせて有罪を認定した。他方で高裁は、自白の細部をそのまま採用するのはできないとしつつ、情況証拠だけでも犯人性は合理的疑いなく認められると判断した。

ここは記事上かなり重要で、本件は「自白で有罪になった事件」と単純化すると不正確である。一審は自白を重視し、控訴審は自白の一部を切り離して情況証拠中心で有罪を維持したという二段構えで理解した方が正確である。

裁判

一審

2016年4月8日、宇都宮地裁の裁判員裁判は勝又拓哉に無期懲役を言い渡した。一審は、客観証拠だけでは犯人性認定に足りないとしつつも、自白供述には信用性があるとして有罪を認定した。

控訴審

2018年8月3日、東京高裁は一審判決を破棄した。ただし、これは無罪方向への破棄ではなく、一審が自白の補助証拠として録音録画媒体を扱った手法や、殺害日時・場所を自白どおりに認定したことに問題があると判断したためである。そのうえで高裁は、「2005年12月1日午後2時38分頃から同2日午前4時頃までの間に、栃木県内、茨城県内又はその周辺で殺害した」という広い訴因なら証明できるとして、自判で再び無期懲役を言い渡した。

これは非常に特徴的で、自白の一部は信用できないが、犯人性自体は情況証拠から認めるという構成である。東京高裁は、原判決のように自白どおりの殺害場所・態様を認定するのは不合理としながらも、犯人性だけは維持した。

上告審・確定

2020年3月4日、最高裁第二小法廷は上告を棄却し、無期懲役が確定した。以後、勝又は服役を続けており、2025年時点では支援団体や新弁護団が再審請求に向けた活動を進めていると報じられている。

関連事件

足利事件

同じ栃木県内の幼女事件であり、足利事件がDNA鑑定の誤りによる冤罪として再審無罪に至ったことから、今市事件もたびたび比較対象とされる。ただし、両事件は証拠構造が同じではなく、今市事件では自白と情況証拠の総合評価が中心になっている。

社会的影響

この事件はまず、防犯面で大きな影響を残した。下校中の児童が通学路上で姿を消したという事実は、学校・地域の見守り体制強化につながり、栃木県内外で集団下校や防犯パトロールの意識を高める契機になった。20年後の2025年報道でも、地域の学校現場が事件を節目として子どもの見守りを続けている様子が伝えられている。

一方、司法面では、別件逮捕、自白の任意性、録音録画の扱い、情況証拠のみでの有罪認定といった論点が集中的に議論された。特に東京高裁が、自白の細部は信用できないとしながら有罪を維持したことは、本件を単なる「自白事件」ではなく、間接証拠評価の象徴的事件にしている。