栃木小1女児殺害事件(今市事件)|吉田有希さん殺害、東京高裁が一審破棄後も無期懲役

公開日 2026年3月18日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2005年
都道府県
栃木県
事件分類
冤罪事件 / 性犯罪 / 殺人事件
最終刑・処分
無期刑

2005年12月1日午後、栃木県今市市(現在の日光市)で、小学1年生の吉田有希さん(当時7歳)が下校途中に姿を消した。翌2日午後2時ごろ、約60キロ以上離れた茨城県常陸大宮市の山林で遺体が見つかった。胸部には刃物による多数の傷があった。

事件から約8年後の2014年、勝又拓哉が殺人容疑で逮捕・起訴された。勝又は捜査段階で犯行を認める供述をしたが、公判では「殺していない」と否認。宇都宮地裁は2016年に無期懲役とした。東京高裁は2018年、一審の証拠評価と殺害日時・場所の認定に誤りがあるとして判決を破棄しながら、間接事実を総合すれば勝又が殺害犯人だと認められるとして改めて無期懲役を言い渡した。2020年3月、最高裁の上告棄却で確定した。

失踪2005年12月1日午後2時38分ごろ以降
被害者吉田有希さん(7歳・小学1年生)
遺体発見2005年12月2日午後・茨城県常陸大宮市の山林
被告人勝又拓哉
別件逮捕2014年1月29日・商標法違反
殺人容疑逮捕2014年6月3日
殺人罪起訴2014年6月24日
一審2016年4月8日・宇都宮地裁、無期懲役
控訴審2018年8月3日・東京高裁、一審破棄の上で無期懲役
最高裁2020年3月4日付・上告棄却
現在無期懲役確定、再審請求に向けた活動が続く

下校途中、同級生と別れた後に姿を消した

東京高裁判決によると、有希さんは2005年12月1日午後2時38分ごろまで同級生と下校していた。その後、一人になった区間で行方が分からなくなった。

同級生らは付近で古い白色セダン車が不審な動きをしていたと証言した。郵便局員も同じ周辺で白色セダンの動きを目撃しており、高裁は白いセダンを運転する男が有希さんを連れ去った可能性が高いと認定した。

翌日、茨城県常陸大宮市の山林で遺体発見

12月2日午後2時ごろ、有希さんは茨城県常陸大宮市の山林で遺体となって発見された。失踪から遺体発見まで24時間に満たない。

胸部にはナイフのような刃物による多数の刺し傷があった。高裁は、連れ去り、殺害、山林への遺体遺棄が時間的に近接しており、一連の行為を同一人物が行った可能性が高いと判断した。

拉致と遺体遺棄は時効、起訴されたのは殺人

東京高裁判決は、有希さんを連れ去った行為と遺体を遺棄した行為について、勝又が起訴された2014年には当時の公訴時効が完成していたと説明している。

そのため刑事裁判で正式に起訴された中心罪名は殺人だった。裁判所は殺害犯人を判断する過程で拉致や遺棄の経過も検討したが、それらについて別個の有罪判決を言い渡したわけではない。

長期未解決の後、2014年に別件で身柄拘束

事件は長期間未解決だった。2014年1月29日、警察は勝又を偽ブランド品販売などに関する商標法違反で逮捕し、2月18日に起訴した。

その身柄拘束中に今市事件についての取調べが行われ、6月3日に殺人容疑で逮捕、6月24日に殺人罪で起訴された。別件逮捕から殺人の取調べへ移った経過は、後の裁判でも自白の信用性・任意性をめぐる重要な背景となった。

捜査段階では犯行を認める供述、公判では全面否認

勝又は検察官の取調べで、有希さんを連れ去り、車で移動し、山林付近で刺したとする内容の供述調書を作成された。取調べの一部は録音・録画されていた。

ところが裁判が始まると勝又は「殺していません」と述べ、供述は虚偽だったと主張した。弁護側は、長い身柄拘束と取調べの中で捜査側の想定に合わせた自白が形成されたとして無罪を求めた。

2016年、宇都宮地裁は自白と客観証拠を合わせて有罪

宇都宮地裁の裁判員裁判は、勝又の自白には重要部分で信用性があると判断した。さらに車両、猫の毛、スタンガンなどの間接事実を加え、勝又が有希さんを殺害したと認定した。

2016年4月8日、無期懲役を言い渡した。勝又側は、自白の信用性や客観証拠の評価に誤りがあるとして東京高裁へ控訴した。

東京高裁は一審判決をそのまま維持しなかった

2018年8月3日、東京高裁は主文で「原判決を破棄する」とした。これは一審の無期懲役を取り消して無罪にしたという意味ではない。

高裁は、一審が自白の信用性を確かめる補助証拠として採用した取調べ録音録画を、犯罪事実の直接認定にまで用いた点に訴訟手続の法令違反があると判断した。また、自白に基づき殺害日時と場所を具体的に固定した点も事実誤認とした。

殺害日時と場所を広げた予備的訴因で審理

一審の起訴内容は、2005年12月2日午前4時ごろ、常陸大宮市の山林西側林道で殺害したという具体的な日時・場所を設定していた。

控訴審では検察側が予備的に、12月1日午後から2日未明までの間、栃木県・茨城県またはその周辺で殺害したという幅を持たせた訴因を追加した。東京高裁はこの広い訴因なら間接証拠から直ちに判断できるとした。

自白の細部を外しても、間接事実で犯人性を認定できるか

高裁が再構成した裁判の核心は、自白が語った正確な殺害場所や時刻を使わなくても、客観的な間接事実だけで勝又を殺害犯人と認定できるかだった。

高裁は一つ一つの証拠の強さを吟味し、すべてを検察側の主張どおり高く評価したわけではない。それでも複数の事情を総合すると、勝又が犯人でない場合には説明が困難な事実が重なっていると判断した。

Nシステムに残った深夜の車両通行記録

高裁判決によると、勝又の車は12月2日午前1時50分ごろから午前6時39分ごろにかけ、宇都宮市内の複数地点を通過した記録がNシステムに残っていた。

その地点は当時の勝又宅から遺体発見現場へ向かう経路上にあり、再現実験では現場付近まで約1時間47分で到達できた。勝又は以前、骨董市へ通うため遺体発見現場に近い地域を通った経験もあった。

遺体の手に付着した1本の猫の毛

有希さんの右手には猫の毛が1本付着しており、ミトコンドリアDNA型は勝又が当時飼っていた猫と同じグループに属した。

一審はこの一致を比較的強く評価したが、東京高裁は、そのDNA型がどの程度一般的に存在するかを踏まえれば「勝又の飼い猫の毛である可能性が相当に高い」とまで評価するのは適切でないと修正した。それでも完全に無関係な事情として排除はしなかった。

首の傷と、勝又が所持していたスタンガン

有希さんの右頸部には特徴的な損傷があり、勝又が当時所持していたスタンガンによって生じても矛盾しないと鑑定された。

この傷だけで使用器具を一つに特定できるわけではないため、高裁は単独の決定的証拠としては扱わなかった。車両やその他の事情と組み合わせる間接事実の一つとして位置付けた。

白い4ドアセダンと拉致現場への到達可能性

勝又の当時の車は古い白色4ドアセダンで、下校路周辺で目撃された不審車両と色・車種の特徴が重なっていた。

勝又は有希さんが姿を消した時間帯に拉致現場まで車で移動可能な場所にいた。さらに過去に今市市内へ居住し、現場周辺の土地勘もあったと高裁は認定した。

粘着テープのDNAが勝又と一致しない事実も審理された

遺体に付着していた粘着テープからは、勝又と一致しないDNA型が検出された。弁護側は、犯人が残したDNAであり、勝又ではないことを示すと主張した。

裁判所は、テープのDNAが必ず殺害犯人から付着したとまでは証明されていないとして、勝又の犯人性を否定する決定的証拠とは扱わなかった。高裁は検察に有利な事情だけでなく、こうした不一致証拠も検討した。

母親へ送った「事件」を謝罪する手紙

高裁が重要視した事情の一つに、勝又が今市事件の取調べ開始直後、実母へ送った手紙がある。手紙には自分が「事件」を起こしたことを謝る趣旨の記載があった。

一審は手紙だけで犯人性を直接基礎付けるのは難しいとしたが、高裁は、文脈上ここでいう「事件」は今市事件を指すと読むのが自然で、無関係なら説明しにくい事情として評価した。

児童ポルノや刃物収集は、直接証拠ではない

勝又が児童ポルノ画像や複数の刃物を所持していたことも公判で取り上げられた。

東京高裁は、こうした嗜好や所持品が有希さん殺害を直接示すわけではないとしつつ、犯行態様から想定される人物像と一定の整合性がある程度の事情として扱った。趣味や所持品だけで殺人犯と認定した判決ではない。

個々の証拠は弱くても、全体として説明できるか

高裁は、猫の毛、スタンガン、白色セダンなどの一部について、一審ほど強い証明力を認めなかった。

それでも、深夜の車両移動、現場への土地勘、拉致現場で目撃された車との一致、手紙など多数の事情が同時に存在し、勝又が犯人でないとすると合理的に説明することが難しいと判断した。

2018年、原判決を破棄した上で再び無期懲役

東京高裁は、一審に手続違反と事実誤認があるとして判決を破棄した。そのうえで、控訴審で追加された広い日時・場所の訴因について勝又の殺人を認定し、自ら無期懲役を言い渡した。

「一審破棄」は無罪方向の最終結論ではなく、誤った認定方法を修正して別の証拠構造で有罪を認定し直す破棄自判だった。

2020年3月、最高裁が上告を棄却

勝又側は最高裁へ上告したが、最高裁第二小法廷は2020年3月4日付で上告を棄却した。これにより東京高裁の無期懲役が確定した。

最高裁が東京高裁判決の証拠を一から詳細に再評価する長文判決を示したわけではない。上告理由が刑事訴訟法上の要件に当たらないなどとして棄却し、確定判決としては東京高裁の無期懲役が残った。

勝又は現在も無実を主張

2026年8月現在、勝又は千葉刑務所に服役しながら、自分は有希さんを殺害していないと主張している。支援団体も確定判決の証拠評価に疑問があるとして再審を求める活動を続ける。

ただし、無罪判決や再審開始決定が出た状態ではない。現在の法的結論は殺人罪の無期懲役確定であり、無実の主張は確定判決を覆すための再審活動の段階にある。

2025年、再審請求へ向けた新しい弁護団が結成

再審えん罪事件全国連絡会によると、2025年に今市事件の再審を求める弁護団が結成された。支援側は現地調査、証拠の再検討、再現実験などを進めている。

再審請求は、確定判決に対し無罪を言い渡すべき新証拠などを示して裁判のやり直しを求める手続である。2026年8月時点で再審開始が認められたとの公表はなく、準備・申立てに向けた活動が続く状況にある。

事件の現在地は「有罪確定」と「再審を求める主張」の併存

吉田有希さんが7歳で殺害された事実と、勝又拓哉に無期懲役が確定している事実は現在の司法記録として残る。一方、勝又本人と支援側は犯人性を争い続けている。

東京高裁が一審の認定方法を否定しながら、別の間接証拠の組み合わせで同じ無期懲役へ至ったことが、この事件の司法経過を理解する中心になる。

参考資料・出典

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