2019年10月18日午後6時台、福井県坂井市の東尋坊で、嶋田友輝さん(20)は高さ約20メートルの崖の縁に立たされた。背後には複数の加害者が並び、飛び降りるよう命じていた。
嶋田さんは自分の足で崖から落ちた。しかし大津地裁は、これを本人の自由な意思による自殺とは扱わなかった。長期間の暴行で極度に畏怖させ、加害者らから逃れるには飛び降りる以外の選択肢がない状態にしたうえで死亡させたとして、殺人罪を認定している。
事件には犯行当時17~19歳の少年6人と成人男性1人が関与した。中でも当時19歳だった元少年は、暴行の開始から殺害まで全過程の意思決定に中心的に関わったとして、2021年7月14日に懲役19年を言い渡された。
| 事件名 | 東尋坊殺人事件 |
|---|---|
| 殺害日 | 2019年10月18日 |
| 殺害場所 | 福井県坂井市三国町・東尋坊 |
| 主な暴行・監禁場所 | 滋賀県内 |
| 被害者 | 嶋田友輝さん(20) |
| 関与者 | 犯行当時17~19歳の少年6人、成人男性1人 |
| 主な罪 | 傷害、監禁、殺人など |
| 監禁 | 10月16日午後11時頃~18日午後6時20分頃 |
| 殺害の認定 | 極度に畏怖させ、飛び降り以外の選択肢を失わせて死亡させた |
| 主導した元少年 | 2021年7月14日 大津地裁・懲役19年 |
| 成人男性 | 2021年6月 大津地裁・懲役10年 |
9月中旬に知り合い、嶋田さんの生活は短期間で変化した
主導的役割を認定された元少年は、2019年8月に少年院を仮退院し、9月中旬ごろ嶋田さんと知り合った。当初は友人として接し、一緒に寝泊まりするなどしていたが、判決はほどなく元少年が嶋田さんを「便利な存在」として利用する側面が強くなったと認定している。
元少年は嶋田さん名義で複数のレンタカーを借り、運転免許を持つ嶋田さんに運転させて移動に使っていた。嶋田さんは母親と頻繁に連絡を取り合う関係だったが、9月18日に勤務先を無断欠勤し、母親からの連絡にも応じなくなったため、母親は同日、警察へ捜索願を出した。
母親は9月20日にも嶋田さん本人と電話で話したが、通常の連絡はその後ほぼ途絶えた。判決によれば、母親のもとには10月10日ごろまで金銭を求める趣旨のメッセージが届いていた。外形上は連絡が続いているように見えても、母親が知っていた日常的なやり取りとは異なる状態になっていた。
元少年は嶋田さん名義で借りたレンタカーを移動に利用し、運転免許を持つ嶋田さんに運転させていた。二人の関係は短期間で対等な友人関係から離れ、元少年側が行動や移動を決める比重が大きくなっていった。
元少年の一方的な不満が暴行のきっかけになった
判決では、元少年が嶋田さんへ不満を募らせた経緯も検討された。元少年が元同級生らとのトラブルに巻き込まれた際、嶋田さんが助けなかったことや、別のトラブルで居場所を相手に伝えたことなどを理由に悪感情を強めたという。
大津地裁は、それらを嶋田さんの落ち度とは認めなかった。トラブルには元少年自身の行動が大きく関わっており、嶋田さんへの暴行を正当化する事情にはならないと判断している。
10月8日ごろから暴行が始まり、複数人へ拡大
10月8日ごろから、元少年らによる暴行が続くようになった。途中から複数の人物が加わり、顔や体を殴る、蹴るなどの行為が反復された。10月16日夜から18日にかけては暴行の程度がさらに強まり、嶋田さんは多数の傷害を負った。
犯行態様には極めて強い暴力が含まれるが、事件理解に必要なのは個々の傷の描写よりも、暴行が一度で終わらなかった点である。大津地裁は、長期間にわたる暴力と監禁によって嶋田さんの人格と尊厳が著しく踏みにじられたと量刑判断で評価した。
裁判所は、暴行の原因とされた過去のトラブルについても、嶋田さん側に責められる事情はないと判断した。元少年が周囲との問題を起こした際に助けなかったことや、居場所を伝えたことなどが不満の理由とされたが、それは繰り返し暴力を加える理由にはならないと評価された。
暴行には一人だけでなく複数人が加わり、途中から集団としての支配が形成された。誰か一人から逃げれば終わる状況ではなく、車で移動しながら複数の共犯者に囲まれる状態が続いたことが、後の殺害場面で嶋田さんの選択肢を奪った背景として認定されている。
約43時間、車のトランクなどから逃げられない状態に置かれた
監禁は10月16日午後11時ごろに始まった。嶋田さんは、加害者らの言動を恐れている状態で自動車のトランクへ入れられ、その後も車内などから脱出しにくい状態に置かれた。
判決が認定した監禁の終わりは、東尋坊で殺害された10月18日午後6時20分ごろである。計算すると約43時間に及ぶ。この間、嶋田さんは自由にその場を離れることができず、暴力を受けながら複数の場所を移動させられていた。
当初から殺す計画ではなかったが、発覚を恐れて殺害へ転じた
大津地裁は、一連の暴行や監禁が最初から殺害を目的として始まったとは認定していない。事件の法的な流れで重要なのは、警察への発覚のおそれが現実化した後に、被害者をどうするかという話し合いが重ねられた点である。
そこで加害者らは、嶋田さんを東尋坊から飛び降りさせ、自殺したように見せかけて殺害する方針を決めた。傷害や監禁の延長で偶然死亡したのではなく、途中で殺害の意思決定が形成され、実行段階へ移ったと認定された。
殺害方針が固まるまでには、被害者を自殺したように見せる方法について共犯者間でやり取りがあった。判決は、東尋坊へ向かう前にも橋から飛び降りさせようとした経過を認定しており、殺害の決定が現地到着後に突然生じたものではないことが分かる。
最終的に選ばれたのが東尋坊だった。観光地として知られる断崖から本人が飛び降りたように見せれば、それまでの暴行や監禁を隠せると考えたためで、発覚回避という保身的な目的が殺害へ結びついた。
東尋坊では「飛び降りる以外に選択できない状態」を作った
10月18日午後6時10分ごろ、嶋田さんは東尋坊の駐車場で車のトランクから出され、崖まで歩かされた。高さ約20メートルの崖の縁に立たされると、複数人が後方に立ち、飛び降りるよう命じた。
判決は、一連の暴行で嶋田さんが極度に畏怖し、加害者らの意のままに従わざるを得ない状態にあったと認定した。そこへ複数人で飛び降りを迫ったことで、暴行から逃れるには崖から飛び降りる以外の選択ができない状態にし、死亡させたというのが殺人罪の認定である。
自分で飛び降りても、殺人罪が成立した理由
殺人罪の成立は、加害者が直接手で突き落としたかどうかだけで決まらない。本件では、暴行・監禁による支配を背景に、被害者の自由な意思決定を事実上失わせ、死につながる行為を選ばせたことが問題となった。
外形だけを見れば、嶋田さんは自ら崖の外へ身を移している。しかし裁判所は、その直前までの支配関係と現場での強制を切り離さなかった。「自殺に見せ掛ける」という加害者側の目的も明確に認定されている。
元少年は犯行全体の「流れを作った」と認定された
2021年7月の判決で被告となった元少年は、暴行の開始からエスカレート、監禁、東尋坊での殺害まで全過程に中心的に関与した。共犯者を集め、場所の移動や殺害を含むグループ全体の行動・方針について意思決定し、犯行全体の流れを作ったと認定されている。
東尋坊から飛び降りさせる案そのものは別の共犯者が出したが、元少年が採用し、反対する者がいないままグループの方針になった。裁判所は、他の共犯者と比べて主導性に格段の差があり、最も重い責任を負うと評価した。
元少年は、最後の場面でも受動的な立場ではなかった。判決は、電話を通じて飛び降りるよう求める発言をし、現場の共犯者の行動にも関与したと認定している。自分で直接崖から突き落としていないことは、主導性を弱める事情とは評価されなかった。
裁判所は、元少年だけが全てを一人で決めたとはしていない。しかし、共犯者を集め、暴行を拡大させ、殺害案を採用し、グループ全体の流れを作った役割は他の共犯者より格段に大きいと判断した。
2021年7月14日、元少年に懲役19年
大津地裁は元少年に求刑どおり懲役19年を言い渡した。同種の「殺人1件・共犯」事件の量刑傾向と比べ、最も重い部類とまではいえないものの、懲役15年前後に多く分布する事案より相当程度重いと位置づけた。
一方で、元少年が犯行当時19歳だったことなどの個別事情も量刑判断の対象になった。それでも、主導的役割、暴力への積極的関与、発覚を免れるために殺害へ進んだ保身的な動機を踏まえ、長期の有期懲役が選択された。
ほかの少年5人と成人男性にも実刑判決
共犯者についても、役割に応じて刑事責任が問われた。犯行当時少年だった5人には、懲役10年以上15年以下、5年以上10年以下、6年以上12年以下、5年以上9年6カ月以下などの不定期刑が言い渡された例が確認されている。
成人だった上田徳人被告には、2021年6月、大津地裁が懲役10年を言い渡した。年齢だけで刑が決まったのではなく、暴行、監禁、殺害の意思決定や実行で各人がどこまで関与したかが個別に審理された。
事件の中心は東尋坊の数分間ではなく、そこまで続いた支配だった
嶋田さんの死亡場面だけを切り取ると、崖からの転落という一点に目が向く。しかし判決が殺人認定の前提としたのは、その前から続いていた暴行、監禁、恐怖による支配である。
母親が捜索願を出していた20歳の男性は、複数人の中で行動の自由を失い、最後には死を選ばされる状態に追い込まれた。東尋坊殺人事件は、集団暴行が発覚回避のための計画的殺害へ変化し、その強制の過程まで含めて殺人罪が認定された事件である。
参考資料・出典
- 大津地方裁判所「令和2年(わ)第17号、第47号 傷害・監禁・殺人等被告事件」
- びわ湖放送「東尋坊殺人事件 主犯格の元少年に懲役19年判決」
- 毎日新聞「東尋坊殺人『執拗で苛烈な暴行、非常に悪質』 滋賀の少年6人…」
- Girls Channel掲載・読売新聞記事引用「集団暴行後に車トランク監禁、崖から飛び降りさせて殺害…41歳男に懲役10年判決」
- NEWSの波・共同通信記事転載「東尋坊殺人事件 18歳少年の初公判」
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