2024年7月28日午後2時半ごろ、静岡県菊川市本所の住宅から警察へ通報が入った。家にいた次女・渋谷留美子さん(当時52歳)から連絡を受けた姉が、家の中で男が暴れている趣旨を伝えたと報じられている。警察官が到着した時、住宅内では3人が血を流して倒れていた。祖母の渋谷育子さん(81)はまだ会話ができる状態で、そこで孫にあたる片山宏一の名前が捜査線上に浮かんだ。
死亡したのは、元大工の渋谷昭一さん(87)、妻の育子さん、次女の留美子さんの3人だった。3人はいずれも刃物による傷を負っており、搬送先の病院で死亡が確認された。事件から間もなく、警察は住宅から姿を消した片山を追い始める。やがて捜査は、静岡県内だけではなく、列車で西へ移動する一人の男を追う広域捜査へ変わっていった。
祖父母と叔母が暮らしていた住宅で何が起きたのか
現場となった住宅には、昭一さんと育子さん、次女の留美子さん、そして片山の母にあたる長女が暮らしていた。片山は長女の息子で、死亡した3人から見れば孫、甥にあたる。静岡朝日テレビの取材では、昭一さんは大工として働いていた人物で、近隣の住宅の建築にも携わったとされる。留美子さんは介護関係の仕事に就いていたと報じられた。
事件は日曜日の午後に起きた。起訴状で示された犯行時間帯は午後2時ごろから2時半ごろまで。後に検察は、片山が刃渡り約11センチのナイフで3人の首や胸などを多数回突き刺して殺害したとして起訴している。発生直後の報道でも、現場には刃物が残され、3人の胸や腹などに刺し傷があったことが伝えられていた。
警察が到着した時、育子さんはまだ受け答えができたとされる。この初動時の情報が、逃走した人物の特定につながった。翌29日、静岡県警は片山について殺人容疑の逮捕状を取り、顔写真を公表して全国に指名手配した。当時27歳。住所と職業は不詳と発表され、元自衛官だったことも報じられた。
玄関と浴室に残された被害
捜査関係者への取材では、育子さんは玄関付近、昭一さんは浴室で倒れていた。育子さんは腹部や背中を刺されるだけでなく、蹴られた痕跡もあったとされ、昭一さんは胸、留美子さんは腹部を中心に傷を負っていた。現場に残された刃物と3人の傷の状況から、警察は当初から刃物を使った殺人事件として捜査した。
事件当時、同居する長女は外出していた。留美子さんから連絡を受けた長女が警察へ通報し、警察官が到着した時に育子さんが孫について説明できたことが、初動捜査では極めて重要だった。ANNの報道では、育子さんは片山が刃物で切り付け、徒歩で逃げたという趣旨も説明したとされる。犯人像が不明な状態から始まった事件ではなく、発生直後から特定の親族を追う捜査に移れた理由がここにあった。
被害者一家が暮らしてきた地域
現場は東名高速道路の菊川インターチェンジにも近い住宅地だった。集英社オンラインの現地取材によると、昭一さんの家は親の代から工務店に関わり、昭一さん自身も大工として長く地域で仕事をしていた。高齢になってからも夫婦で畑の手入れをする姿が近隣で見られていたという。留美子さんは介護士として働いていたと報じられている。
事件では3人が「祖父母と叔母」という続柄でまとめられやすいが、それぞれ地域で生活を続けていた人物だった。同居していた長女は、わずかな外出の間に父母と妹を失ったことになる。しかも最初の通報は、その妹からの連絡を受けて行われた。事件発覚までの数分間には、被害者側から外へ助けを求める動きが残されていた。
掛川駅の防犯カメラに映った片山
事件後、片山は現場から離れた。捜査で大きな手がかりとなったのが鉄道駅の防犯カメラだった。静岡朝日テレビによると、片山とみられる姿がJR掛川駅のカメラに残っており、警察は新幹線を利用して西へ逃走した可能性が高いとみていた。県警は約100人体制で行方を追い、県内外から寄せられる情報も確認した。
逃走中、片山は事件時とは服装を変え、列車などを乗り継いでいたと報じられている。FNNは、犯行後に現場近くの土手沿いを徒歩で移動したとみられることも伝えた。そこから掛川駅へ出て、鉄道で県外へ向かったとみられる。現場から鳥取市までは直線でも数百キロ離れている。
指名手配から間もない7月30日午後7時ごろ、警察は鳥取市内の宿泊施設で片山の身柄を確保した。発見時、腹部には刺し傷があった。片山は自分で傷つけた趣旨を説明したと報じられ、病院へ搬送された。けがは軽傷とされ、警察は治療を優先したため、その場では逮捕せず、回復を待って静岡へ移送する手続きを取った。
8月1日午前、片山は病院を出て静岡県警へ移送され、まず育子さんに対する殺人容疑で逮捕された。全国指名手配の段階では住所・職業不詳とされていたが、逮捕時には川崎市多摩区の無職と発表された。事件から逮捕までの間に、警察は逃走経路を追う捜査と、現場で3人に何が起きたかを解明する捜査を並行して進めた。
身柄確保時の取材では、片山が犯行を認める趣旨の話をしたことも伝えられた。治療後の8月1日、警察は祖父を殺害した疑いで片山を逮捕し、その後、祖母と叔母に対する殺人容疑についても捜査を進めた。捜査段階で本人が認める供述をしていても、それだけで刑事責任や最終的な事実認定が確定するわけではない。ここから事件の焦点は、逃走者の確保から、3人が殺害された経緯と刑事責任の解明へ移った。
片山は隣の掛川市で育ったと報じられた
片山については、被害者宅で同居していた人物ではなく、隣の掛川市で育ったとする取材報道がある。集英社オンラインによると、父は歯科技工士、母は昭一さん夫妻の長女で、兄を含む4人家族で生活していた。地元の高校へ通った後、自衛隊に入隊し、数年後に退職したと知人らが証言している。
一方、事件当時、片山の母は父母と妹が暮らす菊川の住宅で同居していた。片山の父はすでに死亡しており、両親はそれ以前に離婚していたとも報じられている。片山と祖父母側の家族がどの程度行き来していたのか、事件直前に何を話していたのかについて、捜査機関から詳しい説明は公表されていない。
周辺取材では、祖父の昭一さんが片山一家の住宅建築にも関わったことや、二つの家族の関係が以前より悪化していたとする証言が紹介された。ただし、これはあくまで近隣や親族周辺への取材で得られた情報であり、片山本人の供述や裁判所の認定と同じものではない。家族関係に摩擦があったとしても、それが3人を殺害する直接の動機だったかは別に立証される必要がある。
家族関係は報じられたが、動機はまだ司法判断を受けていない
片山がなぜ祖父母と叔母を襲ったのか。事件直後から家族間の関係をめぐる報道は相次いだ。近隣住民への取材では、片山が隣の掛川市で育ち、高校卒業後に自衛隊へ入ったこと、母親が被害者夫婦の長女であることなどが伝えられている。集英社オンラインは、祖父が建てた二世帯住宅をめぐる親族間の関係悪化を指摘する周辺証言も報じた。
ただし、こうした周辺証言と、刑事裁判で認定される動機は別のものだ。検察が公表した起訴内容は3人に対する殺人行為が中心で、具体的な動機の全体像が確定したわけではない。家族の不和があったという報道だけから、殺害の直接の原因を断定することはできない。片山の行動、3人との直前のやり取り、犯行準備の有無などは、公判で証拠に基づいて検討される事項となる。
約6か月の鑑定留置
逮捕後、捜査は通常の起訴判断より長い時間を要した。静岡地検浜松支部は2024年9月から片山を鑑定留置し、医師による精神鑑定を実施した。鑑定留置は2025年3月21日まで続き、およそ6か月に及んだ。目的は、犯行時に刑事責任を問える状態だったかを調べることだった。
責任能力の判断では、精神疾患の有無そのものではなく、犯行時に自分の行為の意味や善悪を理解し、それに従って行動を制御する能力がどの程度保たれていたかが問題になる。地検浜松支部は鑑定結果を踏まえ、刑事責任を問えると判断した。2025年3月31日、当時28歳となっていた片山を殺人罪などで静岡地裁浜松支部に起訴した。
起訴状によると、片山は2024年7月28日、菊川市本所の住宅で、昭一さん、育子さん、留美子さんを刃渡り約11センチのナイフで多数回突き刺し、殺害したとされる。逮捕時には「はい、合っています」などと事実関係を認める趣旨の供述をしていたと報じられている。
捜査段階の「認める供述」と公判での認定は別になる
片山は身柄確保後、「自分がやった」とする趣旨の説明をし、逮捕後にも犯行を認めたと報じられた。だが、起訴後の刑事裁判では、供述があるから直ちにすべての争点がなくなるわけではない。起訴状に記載された3人への行為、犯行時の責任能力、計画性や動機などは、それぞれ証拠に基づいて審理される。
とりわけ本件では、検察が約6か月の鑑定留置を行ったこと自体が、責任能力の検討に相当の時間をかけたことを示す。検察は起訴可能と判断したが、責任能力について最終的な判断権を持つのは裁判所である。公判で弁護側が鑑定結果や犯行時の精神状態を争えば、鑑定医の見解や犯行前後の行動も重要な材料になる。
起訴で終わった事件ではない
2026年8月23日時点で、片山について判決が確定したとの公表はない。片山は「殺人事件の犯人として有罪が確定した受刑者」ではなく、殺人罪などで起訴された被告人の段階にある。3人が死亡したこと、片山が事件後に逃走して鳥取市内で確保されたこと、鑑定留置を経て起訴されたことは確認されている一方、最終的な有罪認定や量刑は裁判所の判断に委ねられる。
この事件で今後重要になるのは、捜査段階の供述だけではない。3人それぞれに対する行為がどのような順序で行われたのか、犯行前にどのような準備があったのか、家族間にどのような事情があり、それが動機とどこまで結びつくのか、そして鑑定で調べられた責任能力を裁判所がどう評価するのか。発生から鳥取での身柄確保まではわずか2日ほどだったが、事件の法的な結論は、そこから先の審理で決まる。
参考資料・出典
- 静岡朝日テレビ LOOK「家族3人殺害事件 指名手配された男は新幹線で逃走か」(2024年7月30日)
- 静岡朝日テレビ LOOK「家族3人殺害事件 3人は腹や胸などを刺される」(2024年7月30日)
- テレビ朝日 ANN「静岡・菊川市で男女3人殺害 被害者の孫を全国指名手配」(2024年7月29日)
- 静岡朝日テレビ LOOK「元自衛官の身柄を鳥取市で確保」(2024年7月31日)
- 静岡朝日テレビ LOOK「祖母殺害容疑で孫を逮捕」(2024年8月1日)
- FNNプライムオンライン「犯行後、現場近くの土手沿いを歩いて逃走か」(2024年8月2日)
- 集英社オンライン「菊川・孫が祖父母と叔母を殺害した容疑で指名手配」(2024年7月29日)
- 集英社オンライン「菊川・元自衛官の孫が祖父母と叔母を刺殺」(2024年7月31日)
- 集英社オンライン「2世帯住宅を巡って家同士がトラブル」(2024年8月1日)
- Daiichi-TV NEWS NNN「菊川市3人殺害事件 殺人罪などで孫の男を起訴」(2025年4月1日)
- 静岡朝日テレビ LOOK「静岡・菊川市で家族3人が殺害された事件 28歳の孫を起訴」(2025年3月31日)
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
