山口連続殺人放火事件|5人殺害、妄想性障害でも完全責任能力とした最高裁判断

公開日 2026年2月3日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2013年
都道府県
山口県
事件分類
大量殺人事件 / 放火事件
最終刑・処分
死刑

2013年7月21日夜、山口県周南市金峰の郷集落で住宅2棟が相次いで燃え、焼け跡から3人の遺体が見つかった。翌22日には、近くの別々の住宅でさらに2人が死亡しているのが発見された。亡くなったのは、いずれも同じ集落に暮らしていた5人だった。

捜査の結果、近隣に住む保見光成が逮捕・起訴され、裁判では5人の殺害と2棟への放火が認定された。最大の争点の一つは、精神鑑定で診断された妄想性障害が刑事責任能力にどこまで影響したかだった。最高裁は2019年、完全責任能力を認めた一、二審を維持し、死刑が確定した。

発生日2013年7月21日〜22日
場所山口県周南市金峰(みたけ)の郷集落
被害者貞森誠さん(71)、喜代子さん(72)、山本ミヤ子さん(79)、石村文人さん(80)、河村聡子さん(73)
被告人保見光成
罪名殺人、非現住建造物等放火
一審2015年7月28日・山口地裁、死刑
控訴審2016年9月13日・広島高裁、控訴棄却
上告審2019年7月11日・最高裁第一小法廷、上告棄却
再審2025年1月、最高裁が特別抗告を棄却

住宅2棟の火災から始まり、翌日にさらに2人が見つかった

7月21日午後9時ごろ、貞森誠さん(当時71)と妻の喜代子さん(同72)が暮らす住宅、山本ミヤ子さん(同79)の住宅が相次いで全焼した。焼け跡から3人の遺体が発見され、単なる火災ではない可能性が浮上した。

翌22日、近くの石村文人さん(同80)と河村聡子さん(同73)が、それぞれ自宅で死亡しているのが見つかった。5人はいずれも同じ金峰地区の住民だった。事件は二夜にわたって続いたのではなく、裁判では21日夜から22日にかけて行われた一連の犯行として扱われた。

保見光成は山中で発見され、殺人・放火事件の被告人となった

山口県警は近隣住民の保見光成の行方を追い、7月26日に周辺の山中で発見した。捜査段階では殺害や放火への関与を認める内容の供述調書が作成された一方、刑事裁判では犯行そのものを否認した。捜査段階の供述と公判での主張は一致していない。

山口地検は同年12月までに、5人に対する殺人と、2棟に対する非現住建造物等放火の罪で起訴した。裁判では犯人性に加え、精神状態が責任能力をどこまで制限していたかが大きな争点となった。

精神鑑定は「妄想性障害」と診断した

起訴後の精神鑑定で、保見は妄想性障害と診断された。近隣住民からうわさを流されたり嫌がらせを受けたりしているという認識が、犯行動機の形成に影響したとされた。

ただし、精神障害の診断があることと、刑法上の責任能力が失われることは同義ではない。裁判で問われたのは、犯行時に善悪を判断する能力や、その判断に従って行動を制御する能力が失われ、または著しく低下していたかどうかだった。

「妄想が動機に影響」しても完全責任能力と判断

山口地裁は2015年7月28日、保見に完全責任能力があったと認定し、死刑を言い渡した。広島高裁も2016年9月13日、一審判決を維持した。

最高裁第一小法廷も2019年7月11日、平成28年(あ)1508号事件で上告を棄却した。最高裁は、妄想が動機形成に影響したこと自体は踏まえながらも、保見が自らの価値観に基づいて犯行を選択・実行しており、その影響は限定的だったと評価した。精神障害の存在を認めつつ、心神耗弱には当たらないとした判断である。

5人を個別に襲い、2軒へ放火した結果を量刑で重視

量刑では、被害者が5人に及んだこと、複数の住民を相手に殺害行為を繰り返したこと、さらに住宅2棟へ放火したことが重く評価された。責任能力が認められた以上、妄想性障害の診断だけで刑が軽くなるとは判断されなかった。

最高裁の上告棄却により死刑判決は確定した。ここで確定したのは、捜査機関の見立てではなく、5人の殺害と2件の放火について刑事裁判を経た有罪認定である。

「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」は犯行声明と確定したわけではない

事件報道で強く印象に残ったのが、保見宅に掲げられていた「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という文言だった。放送ライブラリーに登録された事件10年後のドキュメンタリー概要によれば、当初は犯行声明のように受け止められたが、ここでの「つけび」は放火ではなく「うわさ」を指す意味で使われていたとされる。

同じ資料は、事件後に「保見が集落でいじめられ、追い込まれた」という説明が広がった一方、最高裁判決では近隣住民によるうわさや嫌がらせを受けているという認識が妄想として扱われたことを指摘している。川柳の存在から、集落住民側の行為を刑事裁判で確定した事実のように結び付けることはできない。

被害者や集落への中傷は、事件後も残った

事件から10年を扱った毎日新聞の取材では、被害者の山本さん、石村さん、河村さんが地域の植樹活動にも関わっていたことが紹介された。ところが事件後、被害者や遺族、集落住民に対して「村八分にして追い込んだ」などの中傷が向けられたという。

この点は事件の背景を考える際に重要になる。裁判が認定したのは保見の責任能力と具体的な犯行であり、ネット上で広まった集落像まで認定したわけではない。被害者側の行動について、裏付けのない説明を動機の確定事実として扱うことは避ける必要がある。

2019年に再審請求、山口地裁と広島高裁が退けた

死刑確定後の2019年11月、保見側は再審を請求した。山口地裁は2021年3月22日付で請求を棄却。弁護側は即時抗告したが、広島高裁も再審開始を認めなかった。

再審手続で争われたからといって、確定判決の効力が失われたわけではない。再審は、確定判決を覆すだけの新たな証拠などがあるかを審査する別の手続である。

2025年1月、最高裁が特別抗告を棄却

弁護側は広島高裁の判断を不服として最高裁へ特別抗告したが、最高裁は2025年1月29日付で棄却した。テレビ山口は同年2月3日、5人殺害事件の再審をめぐる特別抗告が認められなかったと報じている。

この第1次再審請求では再審開始に至らず、死刑判決の確定状態が続くこととなった。

5人の被害者は、同じ地域で生活していた住民だった

亡くなったのは貞森誠さん、喜代子さん夫妻、山本ミヤ子さん、石村文人さん、河村聡子さんの5人。毎日新聞の事件10年後の取材では、山本さん、石村さん、河村さんが、金峰を桜の里にしようとする地域活動にも関わっていたことが伝えられている。

事件は「人口の少ない集落で5人が死亡した」という数字だけでは捉えにくい。発生後には地域そのものが事件のイメージで語られ、被害者や住民にまで根拠のない責任を負わせるような言説が広がった。この二次的な影響も、後年の報道が繰り返し検証している。

捜査段階の供述と、公判での否認を混同しない

保見については、逮捕後の捜査段階で殺害や放火への関与を認める供述調書が作成されていたとされる。しかし公判では犯行を否認した。したがって「本人が自白したから有罪になった」と単純化するのは正確ではない。

裁判所は供述の変遷だけではなく、事件現場の状況や犯行前後の行動、被害者との関係、精神鑑定などを含めて犯人性と責任能力を判断した。刑事裁判上の最終的な事実認定は、捜査段階の説明ではなく確定判決に基づく。

責任能力の争点は「病名があるか」ではなかった

妄想性障害という診断名が付いたこと自体は、一審から最高裁まで否定されていない。争われたのは、その障害が犯行時の判断能力や行動制御能力をどの程度損なっていたかだった。責任能力の判断は、診断名の有無だけで決まるものではない。

最高裁は、近隣住民から危害や嫌がらせを受けているという妄想が動機形成に影響したことを踏まえつつ、保見が複数の相手を選び、行動を組み立てて実行した点などから、妄想の影響は限定的と評価した。ここが「妄想性障害なのに完全責任能力」という結論の中核にある。

「集落で迫害されたから事件を起こした」とは確定していない

事件後には、保見が地域で孤立し、住民から継続的ないじめを受けたことが直接の原因だったという説明が広く流通した。しかし、最高裁が認定したのは、近隣住民からうわさや嫌がらせを受けているという保見の認識に妄想が含まれていたという点である。

実際の人間関係に摩擦が一切なかったとまで断定する必要はないが、ネット上で語られた個別の「嫌がらせ」を裁判で確定した事実のように扱うこともできない。動機の背景を説明する際は、本人の認識、報道、裁判所の認定を区別する必要がある。

2019年の死刑確定と、2025年の再審棄却は別の手続

2019年7月の最高裁上告棄却は、5人の殺害と2件の放火について有罪・死刑とした通常の刑事裁判を確定させた判断だった。これに対し、死刑確定後に始まった再審請求は、確定判決をやり直す要件があるかを審査する別の手続である。

2025年1月の特別抗告棄却は、最高裁が犯行事実や責任能力を一から認定し直して再び死刑を言い渡したという意味ではない。再審開始には至らず、2019年に確定した死刑判決が維持された、という位置付けになる。

最高裁が見たのは、病名より「犯行を選べたか」だった

最高裁平成28年(あ)第1508号判決は、保見に妄想性障害があり、その妄想が近隣住民への被害意識や犯行動機の形成に影響したこと自体を否定していない。それでも、自らの価値観に基づいて報復を選び、被害者を個別に狙って一連の行為を実行したとして、妄想の影響は限定的だったと判断した。

責任能力の判断は、精神疾患があるかないかの二択ではない。善悪を判断し、その判断に従って行動する能力が障害によってどの程度損なわれていたかが問題になる。最高裁は、一、二審が完全責任能力を認めた判断を合理的として維持した。

「つけび」の貼り紙を犯行予告と決めつけると、確定判決から離れる

保見宅に掲げられていた『つけびして 煙り喜ぶ 田舎者』という文言は、事件報道で強く印象づけられた。後年の現地取材では、事件より前から地域内の噂や出来事への不満を表したものだったとの証言も紹介され、単純な犯行予告として扱うことには慎重さが必要になる。

最高裁が死刑を維持した根拠は、貼り紙の解釈ではない。被害者を選び、複数の住宅へ侵入し、5人を殺害して2棟へ放火した具体的行為、妄想の影響の程度、結果の重大性を総合した判断だった。

再審請求でも中心は責任能力だった

死刑確定後の2019年11月、保見は精神科医の意見書などを新証拠として山口地裁へ再審を請求した。山口地裁は2021年3月、確定判決の責任能力判断を揺るがす証拠ではないとして棄却。広島高裁も2022年に即時抗告を退けた。

弁護側は最高裁へ特別抗告したが、最高裁第二小法廷は2025年1月29日付で棄却した。これにより、この再審請求について再審を開始しない判断が確定した。2019年の上告棄却による死刑確定と、2025年の再審手続の終了は別の司法手続である。

参考資料・出典

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