2017年3月24日朝、千葉県松戸市で小学3年生のレェ・ティ・ニャット・リンさん(9)が登校途中に行方不明になった。2日後、我孫子市の排水路脇で遺体が見つかり、警察は通学経路、防犯カメラ、車両の動き、遺留物を追った。
逮捕された渋谷恭正は、リンさんが通っていた小学校の保護者会活動や見守りに関わっていた。渋谷は無罪を主張し、検察は死刑を求刑したが、千葉地裁は無期懲役を選択。東京高裁もこれを維持し、2022年5月11日に最高裁が被告側の上告を棄却して刑が確定した。
事件の基本情報
| 行方不明 | 2017年3月24日 |
|---|---|
| 遺体発見 | 2017年3月26日・千葉県我孫子市 |
| 被害者 | レェ・ティ・ニャット・リンさん(9) |
| 逮捕 | 2017年4月14日 |
| 被告人 | 渋谷恭正 |
| 一審 | 2018年7月6日 千葉地裁・無期懲役 |
| 控訴審 | 2021年3月23日 東京高裁・双方の控訴棄却 |
| 最高裁 | 2022年5月11日 被告側上告棄却・無期懲役確定 |
登校途中に姿を消し、2日後に我孫子市で遺体が見つかった
リンさんは3月24日朝、自宅を出て小学校へ向かったが、学校には到着しなかった。家族の届け出を受けて捜索が始まり、26日朝、松戸市から離れた我孫子市の排水路付近で遺体が発見された。ランドセルなどの所持品は別の場所から見つかった。
警察は複数の現場を結ぶ車両の動きや防犯カメラ映像を調べ、遺体や遺留物から得られた資料を鑑定した。捜査は、通学路でリンさんと接触できた人物と、遺棄現場まで移動できた車両の双方から絞り込まれた。
捜査線上に浮かんだのは、地域の見守りに関わっていた渋谷恭正
4月14日、警察は渋谷を死体遺棄容疑で逮捕した。渋谷は小学校の保護者会長を務めた経験があり、登校時の見守り活動にも参加していた。地域で子どもの安全に関わる立場にいた人物が被疑者となった。
その後の捜査で、DNA型、車両の移動、遺留物などが積み上げられ、検察は連れ去りから性的被害、殺害、遺棄までを一連の犯罪として起訴した。渋谷は公判で犯人性を争い、無罪を主張した。
起訴罪名は、わいせつ目的略取・誘拐から殺人、死体遺棄まで及んだ
渋谷は、わいせつ目的略取・誘拐、強制わいせつ致死、殺人、死体遺棄の各罪で起訴された。裁判では、DNA型や車内・遺留物の鑑定結果、防犯カメラ、車両の移動状況などを総合して渋谷を実行者と認定できるかが争われた。
千葉地裁は複数の客観証拠を組み合わせ、渋谷の犯人性を認定した。被告側は証拠の評価や捜査手法を争い、この点は控訴審でも審理された。
死刑求刑に対し、千葉地裁は無期懲役を選択した
検察側は死刑を求刑した。2018年7月6日の千葉地裁判決は、9歳の児童を対象とし、生命を奪って遺体を遺棄した結果を厳しく評価した一方、殺害までを事前に計画していたとまでは認められないことなどを考慮し、無期懲役を言い渡した。
被告側は有罪認定を不服として控訴し、検察側も量刑を不服として控訴した。高裁では、犯人性と証拠収集の適法性に加え、死刑と無期懲役のどちらが相当かが改めて争われた。
東京高裁も無期懲役を維持し、検察は上告しなかった
2021年3月23日、東京高裁は双方の控訴を棄却した。弁護側は捜査員が入手したたばこの吸い殻などの証拠の扱いも争ったが、高裁は一審の犯人性認定を維持した。検察側が求めた死刑についても、一審の量刑判断を変更しなかった。
高裁判決後、検察側は最高裁へ上告しなかった。渋谷側のみが上告し、2022年5月11日、最高裁第一小法廷が上告を棄却。これにより無期懲役が確定した。
遺族は判決確定後も娘を失った被害と向き合い続けている
刑の確定は事件の司法手続に区切りを付けたが、リンさんの家族にとって事件が終わったわけではない。父親はその後も取材に応じ、娘を失った苦しみや、被告から十分な説明・謝罪がないことへの思いを語っている。
事件は通学途中の児童が被害に遭ったことに加え、地域の見守りに参加していた人物が有罪となった点でも重い影響を残した。学校や地域の防犯活動では、肩書や役割だけに依存しない安全確保が改めて課題となった。
ランドセルや遺留物は、遺体発見場所とは別の場所でも見つかった
リンさんの遺体が見つかった後、ランドセルなどの所持品も捜索の対象となり、遺体発見場所とは別の場所から発見された。警察は複数の地点を結ぶ車両の移動を調べ、渋谷が使っていた車両との関係を追った。
遺体、所持品、車内などから得られた資料が個別に鑑定され、ひとつの証拠だけではなく複数の客観証拠が犯人性認定の基礎になった。
控訴審では、捜査員が得たたばこの吸い殻の扱いも争われた
弁護側は、捜査員が渋谷のDNA型を得る目的で、捨てられたたばこの吸い殻などを収集した手法についても争った。東京高裁は捜査手法に関する主張を検討しつつ、証拠全体から一審の有罪認定を覆すことはできないとした。
刑事裁判では、証拠の内容だけでなく、どのように収集されたかも審理の対象になる。本件ではその論点を経たうえで、有罪認定と無期懲役が維持された。
死刑を選択しなかった理由では、殺害の計画性が重く検討された
検察は被害者が9歳の児童で、性的目的を伴う犯行であることなどから死刑を求めた。裁判所も結果の重大性を厳しく評価したが、殺害そのものまで事前に計画していたと認める証拠には限界があるとした。
死刑か無期懲役かは被害者数だけで機械的に決まらない。犯行の計画性、動機、態様、結果、前科など複数の量刑事情を踏まえ、一、二審はいずれも無期懲役を選択した。
参考資料・出典
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