コスモ・リサーチ事件|見学和雄さんら2人殺害、死刑執行後も続いた再審請求をめぐる訴訟

公開日 2026年8月3日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
1988年
都道府県
京都府 / 大阪府
事件分類
強盗・監禁・暴行事件 / 死体遺棄事件 / 殺人事件
司法状況
確定

1988年1月29日、大阪市内のマンションに先に連れ込まれたのは、投資顧問会社「コスモ・リサーチ」の社員・渡辺裕之さん(当時23歳)だった。岡本啓三、末森博也らは渡辺さんから社長・見学和雄さん(当時43歳)の居場所を聞き出し、帰宅した見学さんも拉致した。狙いは、見学さんが動かせる多額の現金だった。

最高裁判決によれば、見学さんの手元にあった現金40万円を奪っただけではない。さらに1億円を調達させ、その現金も奪った。二人を殺害したのは、強盗の犯跡を隠すためだったと認定されている。被害者二人の遺体はコンクリート詰めにされたうえ、京都府南山城村の山中に埋められた。

岡本と末森には死刑が確定し、2018年12月27日に大阪拘置所で執行された。しかし事件をめぐる法的な争いはそこで完全に終わったわけではない。岡本が第4次再審請求中に執行されたことをめぐり、元弁護人が国を訴えた国家賠償訴訟が続き、2026年5月には大阪高裁が二審判決を言い渡している。

事件発生日1988年1月29日
主な発生場所大阪市内、京都府南山城村
被害者見学和雄さん(43歳)、渡辺裕之さん(23歳)
被告人岡本啓三(旧姓・河村)、末森博也ほか1人
被害金現金40万円と、調達させた現金1億円など
一審1995年3月23日・大阪地裁、岡本・末森に死刑
控訴審1999年3月5日・大阪高裁、控訴棄却
最高裁2004年9月13日、上告棄却
死刑執行2018年12月27日、岡本・末森
執行後の訴訟2025年大阪地裁、2026年大阪高裁で元弁護人側の請求棄却

まず社員を拘束し、社長の自宅を聞き出した

最高裁判決が認定した犯行は、見学さんをいきなり襲うところから始まってはいない。岡本と末森は、もう1人の共犯者とともに、先に社員の渡辺さんをマンションの一室へ連れ込んだ。そこで見学さんの自宅を聞き出し、帰宅を待って身柄を押さえるための足掛かりにした。

見学さんは外出先から自宅前へ戻ったところを拉致され、渡辺さんがいるマンションへ連れて行かれた。二人は手足を縛られるなどして抵抗できない状態に置かれた。標的である見学さんへ到達するため、社員を先に利用する段取りが組まれていたことになる。

40万円を奪った後、さらに1億円を調達させた

犯人側は見学さんが所持していた現金40万円を奪い、さらに外部から現金1億円を用意させた。最高裁は、岡本、末森らが多額の現金を奪う目的で見学さんを拉致し、犯跡を隠すために殺害することまで企てていたと認定している。

この点は、単に「拉致の途中で殺人に発展した事件」と整理するのとは意味が違う。最高裁が維持した事実認定では、金を奪う計画と、被害者を生かして帰さないという計画が結び付いていた。量刑でも、多額の現金獲得を狙った計画性が強く重視された。

見学さんと渡辺さんの二人が殺害され、遺体は山中へ運ばれた

現金を奪った後、岡本ら三人は抵抗できない状態の見学さんと渡辺さんを相次いで殺害した。具体的な犯行態様は確定判決にも記載されているが、事件理解に必要な範囲を超えて詳細に再現する必要はない。重要なのは、二人を生かしたまま解放するのではなく、証拠を消す目的で殺害したと司法判断が確定している点である。

殺害後、二人の遺体はコンクリート詰めにされ、最終的に京都府南山城村の山中へ埋められた。最高裁は、この大がかりな遺体遺棄も犯情を重くする事情として挙げた。強盗、殺人、犯跡隠蔽が一連の計画として進められた事件だった。

三人の共犯者のうち、岡本と末森に死刑、1人に無期懲役

事件では岡本と末森のほか、もう1人の共犯者も起訴された。共同通信の事件解説などによれば、その共犯者には無期懲役が確定している。これに対し、岡本と末森について大阪地裁は1995年3月23日、死刑を言い渡した。

二人の弁護側は、誰が主導したのか、殺害の意思がいつ成立したのかなどを争った。だが最高裁は、岡本と末森が強盗殺人に積極的に関与し、それぞれ重要な役割を果たしたと評価した。主犯格を一人だけに限定し、もう一人の責任を大きく軽くする判断は採られなかった。

裁判では「殺害を決めた時期」も強盗殺人の認定に関わった

公判や後の再審請求で繰り返し問題になったのが、殺害の意思がいつ形成されたのかという点だった。弁護側には、現金を奪った後に殺害が決まったとして、確定判決の強盗殺人の認定を争う主張があった。岡本の再審請求でも、この時期をめぐる主張が続いたとされる。

これに対し、確定判決が前提としたのは、見学さんから金を奪い、その犯跡を隠すために殺害することまで企てていたという事実関係である。最高裁もこの認定を覆さず、二人を強盗殺人などの罪で死刑とした一、二審の判断を維持した。

共犯者1人が無期懲役となった理由を、岡本・末森の最高裁判決だけから推測はできない

三人で実行された事件だが、2004年の最高裁判決で上告を審理されたのは死刑判決を受けた岡本と末森だった。共同通信の事件解説では、もう1人の共犯者には無期懲役が確定したとされる。ただし、最高裁判決はその共犯者の量刑理由を詳しく示す文書ではない。

したがって、「一人だけ従属的だったから無期になった」などと、別事件の量刑構図を当てはめることはできない。確実に言えるのは、最高裁が岡本と末森の二人について、強盗殺人に積極的に関与し重要な役割を果たしたと評価し、両者の死刑を維持したことだ。

「河村啓三」と「岡本啓三」は同一人物

事件当時や一、二審期の報道では「河村啓三」の名で掲載された資料がある。後に姓が変わり、死刑執行時の法務省発表は「旧姓河村こと岡本啓三」としている。資料によって姓が異なるのは別人だからではなく、同一人物の姓の変更によるものだ。

1999年の大阪高裁、2004年の最高裁も死刑を維持

大阪高裁は1999年3月5日、岡本と末森の控訴を棄却した。さらに最高裁は2004年9月13日、両名の上告を棄却。二人の死刑判決はその後確定した。事件発生から最高裁判断までは16年以上が経過していた。

最高裁は、被害者二人に何ら落ち度がなく、結果が重大であること、多額の現金を狙った計画的犯行であること、犯跡を隠すため大がかりな遺体遺棄まで行ったことを挙げた。岡本に前科がなく、末森も罰金前科にとどまるなど有利な事情を考慮しても、死刑を回避できないと判断した。

確定した犯罪は「1億円強奪と2人殺害」だけではない

事件は1億円を奪った強盗殺人として知られるが、2018年の法務大臣臨時記者会見は、岡本と末森に関する犯罪事実として別の事件も説明している。証券会社従業員から約1億4000万円相当の株券をだまし取った詐欺や、拳銃と実包の所持も有罪となった犯罪に含まれていた。

罪名は強盗殺人、死体遺棄だけでなく、詐欺、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反にも及ぶ。事件名だけから「被害者二人への一件だけで死刑になった」と捉えると、確定した犯罪全体を見落とすことになる。

遺体を隠した貸倉庫の痕跡と、別の詐欺事件から捜査が進んだ

二人の遺体は当初から山中に埋められたわけではなく、コンクリート詰めにして貸倉庫へ置かれた後、山中へ移されたとされる。死刑確定者資料が引用する当時の新聞報道では、貸倉庫の異臭やセメントを扱った痕跡などが捜査の手掛かりになった。

同じ年には、別の証券会社従業員から約1億4000万円相当の株券をだまし取った詐欺事件も発生していた。末森は詐欺容疑で指名手配され、9月に逮捕。共犯者への捜査が進み、岡本も10月に詐欺容疑で逮捕されたと当時の報道記録は伝えている。

10月18日には、供述に基づいて京都府内の山林から二人の遺体が発見され、翌日、三人は強盗殺人や死体遺棄の容疑で再逮捕されたとされる。事件発生から遺体発見まで約9か月。強盗殺人だけを単独で追うのではなく、遺体遺棄の痕跡と別件詐欺の捜査が重なって全体像へ近づいていった。

死刑確定から執行まで約14年、事件発生からは約31年

岡本と末森の上告が棄却されたのは2004年9月で、死刑執行は2018年12月だった。最高裁判断から執行までには約14年があり、1988年1月の事件発生から数えると約31年後になる。刑事裁判の終結と刑の執行は別の段階であり、死刑判決が確定したからといって直ちに執行されるわけではない。

法務大臣会見では、執行命令に至る個別の検討内容について詳細は明らかにされない一方、確定判決の犯罪事実が改めて公表された。そこで示された罪名や犯罪事実は、後年の事件紹介で省略されがちな株券詐欺や拳銃・実包所持まで含んでいる。

2018年12月27日、岡本啓三と末森博也の死刑を執行

法務省は2018年12月27日、岡本啓三と末森博也の死刑を執行したと発表した。岡本は旧姓・河村で、執行時60歳。末森は67歳だった。二人の死刑が最高裁で維持されてから約14年、事件発生からは約31年が経っていた。

会見では、岡本や末森が再審請求中だったかとの質問も出たが、法務大臣は個別の再審請求の有無について回答を控えた。その後に公になった資料では、岡本は第4次再審請求中に執行されたとされている。この事実が、執行後の国家賠償訴訟につながった。

岡本の元弁護人3人が「再審請求中の執行」をめぐり国を提訴

岡本の元弁護人3人は2020年、再審請求中に死刑を執行されたことで弁護活動を続ける権利を侵害されたとして、国に計約1650万円の損害賠償を求めた。ここで争われたのは、コスモ・リサーチ事件の有罪認定そのものを民事裁判でやり直すことではない。

争点は、再審請求という非常救済手続が続いている間に死刑を執行することと、弁護人側の権利・国の職務上の義務との関係だった。国側は、刑事訴訟法442条が「再審の請求は刑の執行を停止する効力を有しない」と定めていることなどを根拠に請求棄却を求めた。

大阪地裁は2025年、大阪高裁は2026年に元弁護人側の請求を棄却

大阪地裁は2025年5月14日、元弁護人側の請求を棄却した。原告側は憲法32条の裁判を受ける権利や国際人権規約との関係を主張したが、地裁は国に損害賠償責任があるとは認めなかった。

控訴審の大阪高裁も2026年5月13日、一審判決を支持して原告側の控訴を棄却した。したがって、事件を「2018年の死刑執行」で終わらせると、岡本の再審請求中執行をめぐって後年に生じた司法判断が抜け落ちる。刑事裁判の確定と死刑執行、その執行方法をめぐる民事訴訟は、それぞれ別の法的段階として整理する必要がある。

参考資料・出典

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