1995年12月21日、東京都品川区のSMクラブで、店長の平賀聖浩さん(33)と経営者の橋口聖司さん(32)が数時間の間に相次いで殺害された。最高裁が認定した一連の犯行の中心には、経営者と店長を排除して店を乗っ取り、その収益を自分たちのものにする計画があった。
主犯とされた従業員の陸田真志は、殺害前から凶器や遺体を運ぶための品を準備していた。2人の死亡だけで終わらず、橋口さんの自宅から金庫を盗み、預金を引き出すための詐欺にも及び、殺害後は実際に店の経営を続けた。最高裁はこうした準備、利得、主導的役割を量刑上重く見た。
| 発生 | 1995年12月21日 |
|---|---|
| 場所 | 東京都品川区東五反田 |
| 被害者 | 橋口聖司さん(32)・平賀聖浩さん(33) |
| 主な被告 | 陸田真志 |
| 主な罪名 | 強盗殺人、死体遺棄、窃盗、詐欺など |
| 一審 | 1998年6月5日、東京地裁で死刑 |
| 控訴審 | 2001年9月11日、東京高裁が死刑を維持 |
| 最高裁 | 2005年10月17日、上告棄却 |
| 死刑執行 | 2008年6月17日、東京拘置所 |
店長を殺害し、数時間後に経営者も呼び出した
最高裁判決によると、陸田は他の従業員らと共謀し、まず店内で平賀さんを殺害した。その数時間後には橋口さんも同じ場所で殺害している。2件は別々に偶発したものではなく、経営者と店長を亡き者にして店と収益を奪うという一つの計画の中で実行されたと認定された。
殺害の具体的手段について判決は詳細に認定しているが、量刑判断で重要なのは、複数の凶器を使ったこと以上に、実行前から必要な物を買いそろえ、機会をうかがっていた点だった。最高裁は「周到な準備の上で敢行された計画的犯行」と位置づけている。
目的は「店を乗っ取り、その収益を奪うこと」
判決が示した動機は明確だった。陸田らは橋口さんと平賀さんを排除して、営業中の店を自分たちのものにしようとしていた。殺害後には店を閉めて逃げるのではなく、約8か月にわたって経営を続け、そこから利益を得ている。
この点は、単なる人間関係の対立から殺害に発展した事件としてではなく、殺害と財産取得が結び付いた強盗殺人として裁かれた理由にもつながる。最高裁は、人命を犠牲に自己の利得を図った動機と一連の犯行の計画性を、死刑を維持する中心的事情に挙げた。
橋口さんの財布、金庫、預金にも手を伸ばした
橋口さんを殺害した後、陸田らは現金約20万円が入った財布などを奪った。さらに橋口さんの自宅から、本人名義の定期預金通帳などが入った金庫を盗み出している。
盗んだ通帳を利用し、銀行などから預金解約名目で現金を得る行為も続いた。最高裁判決は、こうした詐欺などによって陸田が約4000万円を手にしたと認定している。殺害によって障害となる2人を排除し、その後に財産と営業利益を得る流れが、判決の事実認定では一体として示されている。
遺体は知人に処理を依頼し、約7か月海中に沈められた
犯行後、陸田らは2人の遺体の処理を知人に依頼した。遺体は木箱に入れられ、コンクリートで固められた状態で海中に沈められ、約7か月にわたって発見されない状態が続いたと最高裁は認定している。
遺体の隠匿は、殺害後にその場しのぎで行われたというより、犯行を隠して店の経営を継続する一連の行動の一部だった。裁判では死体遺棄も有罪となり、殺害後の行動も量刑判断の前提に置かれた。
一審初公判では大筋を認め、「金を奪う意思」を争った
1997年3月の初公判で、陸田は強盗殺人などの起訴内容を大筋で認める一方、被害者から金を奪う意図があったという点は争ったと報じられている。強盗殺人では、殺害と財物取得の目的がどのように結び付いていたかが罪名に直結する。
最終的に裁判所は、2人を殺害して店を乗っ取り、財布や金庫、預金、営業利益を得た一連の経過から、利得目的を認定した。1998年6月5日、東京地裁は陸田に死刑を言い渡した。
東京高裁も死刑を維持、最高裁へ
陸田は控訴したが、東京高裁は2001年9月11日、一審の死刑判決を維持した。さらに上告し、事件は最高裁第一小法廷へ移った。
最高裁では、弁護側が死刑に関する憲法上の主張や事実誤認、量刑不当などを訴えた。2005年10月17日の判決は上告を棄却し、記録を調べても死刑判断を破棄すべき事情はないとした。
最高裁が重視した「準備」「主犯性」「犯行後の利得」
最高裁が列挙した事情は、被害者が2人だったという結果だけではない。凶器や遺体を運ぶための布団袋などをあらかじめ準備したこと、店長と経営者を続けて殺害したこと、遺体を長期間隠したこと、預金詐欺などで約4000万円を得たこと、殺害後に約8か月店を経営したことを総合している。
さらに陸田について「終始犯行を主導した主犯」と評価した。共犯事件では、誰が計画を立て、誰が実行を主導し、その後の利益を誰が得たのかが量刑を左右する。この事件でも、陸田の役割が死刑維持の重要な理由になった。
5000万円余りを遺族に支払った事情も考慮された
量刑判断では被告側に有利な事情も検討された。最高裁は、陸田が事実関係をほぼ認めて反省の態度を示していることや、店の経営で得た利益などを原資とする現金5000万円余りを遺族へ支払ったことを挙げている。
それでも、計画性、利得目的、2人の生命を奪った結果、主犯としての役割などを踏まえれば、死刑はやむを得ないと判断した。被害弁償があったことだけで量刑が決まったわけではなく、有利・不利双方の事情を総合した結論だった。
2005年に死刑確定、2008年6月17日に執行
最高裁第一小法廷が2005年10月17日に上告を棄却し、陸田の死刑が確定した。それから約2年8か月後の2008年6月17日、東京拘置所で死刑が執行された。
同日の執行は、法務当局の発表を受けたアムネスティ日本の声明でも、陸田真志、宮崎勤、山崎義雄の3人に対して行われたと記録されている。橋口さんの親族が後年公表したコメントでも、橋口さんが1995年の事件で死亡し、陸田の刑が2008年に執行された経過に触れている。
失踪後の捜査は預金の動きと関係者の逮捕へ進んだ
橋口さんと平賀さんが姿を消した後、警察は失踪と金銭の動きを追った。橋口さん名義の預金を動かした関係者らが詐欺容疑などで逮捕され、捜査の中で殺害後の財産取得と遺体処理に関する供述が得られていったとされる。
事件が長期間発覚しなかった背景には、2人を同時期に失踪させ、店の営業そのものを陸田側が引き継いだことがあった。最終的に遺体が見つかり、失踪事件は2人を対象とした強盗殺人事件として立件された。
双子の兄には無期懲役――同じ事件でも役割で量刑が分かれた
一審では陸田真志に死刑が言い渡された一方、共犯とされた双子の兄・陸田賢志には無期懲役が言い渡された。共犯者が同じ現場や計画に関与していても、計画を主導した程度、殺害行為への関与、犯行後の利益などは個別に評価される。
真志について最高裁は、計画立案から実行、財産取得、店の経営まで一連の犯行を主導したと評価した。この「主犯性」が、共犯者との量刑差を考えるうえでも大きい。単に2人死亡という結果だけで死刑が選択されたのではなく、役割と動機、準備、犯行後の行動が積み重ねられている。
「殺害後に金を取った」のではなく、利得目的が殺害前からあったと認定
強盗殺人が成立するかを考えるうえで重要なのは、殺害が終わった後に偶然金品を持ち去ったのか、それとも財物を得る目的と殺害が最初から結び付いていたのかという点である。陸田は初公判で金を奪う意思を一部争ったが、裁判所は後者と判断した。
店を乗っ取る計画、2人を続けて殺害した経過、財布や金庫の取得、通帳を使った預金解約、殺害後の店舗経営までが連続していたためだ。最高裁判決が「次々と敢行された一連のもの」と表現したのは、各行為を別々の犯罪として眺めるだけでは事件の目的を捉えられないことを示している。
被害者親族が後年公表した言葉
橋口さんの親族は後年、公開コメントの中で、1995年に橋口さんが殺人事件の被害者になったこと、その後家族が長く事件と向き合ってきたことに触れている。事件をめぐっては被害者側にも心ない言葉が向けられ、事件に触れること自体が難しい時期があったという。
刑事判決には「経営者32歳」「店長33歳」と年齢・立場が記されている。被害者は橋口聖司さんと平賀聖浩さんであり、2人が同じ計画の中で相次いで命を奪われた。
参考資料・出典
- 最高裁判所第一小法廷判決(平成13年(あ)第1667号、2005年10月17日)
- アムネスティ日本「日本:死刑の執行に抗議する」(2008年6月17日)
- MotionGallery・被害者親族による公開コメント(橋口聖司さん)
- 死刑確定判決資料(陸田真志・一審、控訴審、上告審の経過)
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