1994年12月19日夜、栃木県芳賀郡市貝町の住宅で、牧場を経営する72歳の男性と68歳の妻が殺害された。室内から現金数十万円と貴金属類が奪われ、翌20日未明には住宅に灯油がまかれて放火された。夫妻のもとで以前住み込みで働いていた平野勇が、住居侵入、強盗殺人、非現住建造物等放火などに問われた。
平野は捜査段階では夫妻の殺害を自白したが、公判では殺人と放火を否認し、自白の任意性や殺意を争った。宇都宮地裁は2000年2月17日に死刑を言い渡し、東京高裁も2002年7月4日に控訴を棄却。最高裁第二小法廷は2006年9月1日に上告を棄却し、死刑が確定した。刑は2008年9月11日、東京拘置所で執行された。
| 事件名 | 牧場夫婦殺人放火事件 |
|---|---|
| 発生日 | 1994年12月19日~20日 |
| 発生場所 | 栃木県芳賀郡市貝町 |
| 被害 | 牧場経営者の男性(72歳)と妻(68歳)が死亡、住宅が全焼 |
| 被告人 | 平野勇 |
| 一審 | 2000年2月17日、宇都宮地裁・死刑 |
| 控訴審 | 2002年7月4日、東京高裁・控訴棄却 |
| 上告審 | 2006年9月1日、最高裁・上告棄却 |
| 死刑執行 | 2008年9月11日、東京拘置所 |
以前働いていた牧場の経営者夫妻を標的にした
最高裁判決によると、平野は金銭に窮し、まとまった金を得る目的で、以前住み込みで働いていた牧場の雇用主夫妻から金品を奪う計画を立てた。見知らぬ住宅への侵入ではなく、かつて勤務していた相手の家を狙った事件だった。
事件当時の平野には窃盗事件や道路交通法違反もあり、本件と合わせて審理された。最高裁が整理した罪名には、夫妻に対する住居侵入・強盗殺人・非現住建造物等放火のほか、それ以前の窃盗8件と道路交通法違反1件が含まれている。
12月19日夜、夫妻宅へ侵入して2人を殺害
1994年12月19日夜、平野は夫妻宅へ侵入した。最高裁判決は、夫について、平野が所持していたサバイバルナイフで胸部などを複数回刺し、失血死させたと認定している。妻についても、千枚通しで頸部付近などを刺したうえ、室内にあった花瓶で頭部を強打して死亡させたとされた。
犯行後、平野は現金数十万円と貴金属類などを奪った。最高裁は、金品を得る目的で夫妻を殺害して財物を奪った一連の行為を強盗殺人として認定している。夫妻側の行為に犯行を正当化する事情はなく、金銭目的そのものに酌量の余地はないという判断だった。
殺害後に灯油をまき、住宅へ放火
夫妻を殺害して金品を奪った後、平野は犯行の痕跡を隠すため、住宅内に灯油をまいて火を付けた。住宅は焼損し、強盗殺人とは別に非現住建造物等放火が成立するとされた。
殺害と放火を切り離した偶発的な出来事としてではなく、金品奪取から犯跡隠蔽までが連続した行動として審理された点が、この事件の骨格になる。最高裁も量刑判断の中で、夫妻殺害後に放火して住宅を焼損した経過を重くみている。
別件の取調べから夫妻殺害の自白へ
平野は事件後、道路交通法違反など別件で身柄を確保された。捜査段階では夫妻殺害について自白し、反省の態度を示していたが、公判に入ると殺人と放火を否認した。
裁判で大きな争点になったのが、自白を証拠として使えるかという点だった。弁護側は取調べ状況を問題にし、自白の任意性を争った。最高裁は記録を検討し、自白の任意性を疑わせる事情は認められないとして、この主張を退けている。
最高裁では自白の任意性と死刑制度も争われた
上告審で弁護側は、自白の扱いに加えて、死刑制度が憲法13条、31条、36条に反するとの主張も行った。最高裁第二小法廷は、死刑制度を合憲としてきた過去の最高裁判例を示し、この点を退けた。
自白については憲法38条2項違反も主張されたが、最高裁は記録上、捜査段階の供述が強制されたと疑う事情は見当たらないと判断した。事実誤認や量刑不当などの主張についても、判決を破棄すべき理由はないとして一審・二審の判断を維持した。
公判では殺意と放火を否認
平野側は、窃盗目的で住宅に入ったこととは別に、夫妻を殺す意思があったか、放火まで平野が行ったかを争った。第一審は捜査段階の供述だけでなく、犯行態様や犯行後の状況を踏まえて強盗殺人と放火を認定し、死刑を選択した。
東京高裁も2002年7月4日、一審判決を維持して控訴を棄却した。平野はさらに上告し、自白の任意性、事実認定、量刑などを争ったため、最終判断は最高裁へ移った。
強盗殺人と放火は一連の計画として評価された
最高裁が示した事件の骨格は、金品を得るために元雇用主夫妻を殺害し、財物を奪った後、犯行の痕跡を隠すために住宅へ火を付けたというものだった。殺害と放火は別々の偶発的行動ではなく、財産目的の犯行とその隠蔽という連続した経過として評価されている。
起訴された罪は夫妻に対する事件だけではない。それ以前の窃盗8件と道路交通法違反1件も併合して審理され、最高裁判決の事件名にも窃盗、道路交通法違反、住居侵入、強盗殺人、非現住建造物等放火が列挙された。量刑は夫妻殺害の重大性を中心にしつつ、平野の犯罪歴全体も踏まえて判断された。
最高裁が死刑を維持した理由
最高裁第二小法廷は2006年9月1日、平野の上告を棄却した。判決は、金銭目的で元雇用主夫妻を狙ったこと、2人を殺害して金品を奪ったこと、さらに住宅へ放火したことを一体として評価している。
量刑では被害者が2人であることに加え、殺害方法、犯跡隠蔽の放火、平野に複数の服役前科があり、過去に殺人罪で長期間服役していたことも考慮された。捜査段階で自白し反省を示した事情を踏まえても、一審の死刑を変更する理由にはならないと結論付けた。
2006年に死刑確定、2008年に執行
最高裁の上告棄却により、平野の死刑は2006年9月1日に確定した。宇都宮地裁の一審から東京高裁、最高裁まで、殺人・放火の事実認定と自白、量刑が争われた末の確定だった。
2008年9月11日、平野の死刑は東京拘置所で執行された。アムネスティ・インターナショナル日本の当日声明でも、同日に東京拘置所の平野勇ら3人の刑が執行されたことが確認できる。平野は61歳だった。
事件を通じて争われたのは自白と犯人性だけではない
事件の公判では、平野が犯人かという一点だけではなく、捜査段階の自白が任意にされたものか、夫妻への殺意が認められるか、放火を含む一連の行為をどのように評価するかが争われた。最高裁は自白の任意性を認め、客観的な犯行態様を踏まえて強盗殺人と放火を認定した下級審判断を維持した。
最終的な法的結末は、2006年9月の死刑確定と2008年9月の執行である。夫妻の殺害、財物奪取、住宅への放火という三つの行為が同じ金銭目的の犯行として審理され、量刑判断までつながった事件だった。
参考資料・出典
- 最高裁判所「平成14(あ)1550 窃盗、道路交通法違反、住居侵入、強盗殺人、非現住建造物等放火被告事件」
- 最高裁判所「同事件・判決全文」
- アムネスティ・インターナショナル日本「日本:死刑執行抗議声明」
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
