1984年1月10日、北海道札幌市で小学4年生の城丸秀徳君(当時9歳)が、自宅にかかってきた電話を受けて外出したまま行方不明になった。4年後、城丸君と最後に接触したとされた女性の元夫の農家から子どもの骨片が見つかり、後の鑑定で城丸君のものと認定された。
女性は1998年、殺人容疑で逮捕・起訴された。札幌地裁と札幌高裁は、女性が城丸君の死亡や遺骨の隠匿に関与した疑いは強いとしながら、死因と殺意を合理的疑いなく認定できないとして無罪を言い渡した。検察は上告せず、2002年に無罪が確定した。
| 事件名 | 城丸君事件 |
|---|---|
| 失踪日 | 1984年1月10日 |
| 発生場所 | 北海道札幌市豊平区 |
| 被害者 | 城丸秀徳君(当時9歳) |
| 刑事裁判 | 殺人罪で起訴、無罪確定 |
| 未解明点 | 死因と死亡に至る具体的経緯 |
電話を受けて自宅を出た城丸秀徳君
1984年1月10日午前、城丸秀徳君の自宅に電話がかかってきた。電話を受けた城丸君は、家族に対し「ワタナベさんのお母さんが借りた物を返したいと言っている」といった趣旨を伝え、外へ出た。その後、城丸君は帰宅せず、家族は行方を捜した。
城丸君が向かったとみられたのは、家族と面識のある女性の自宅だった。捜査や後の裁判では、女性が城丸君と最後に接触した人物と認定された。女性は、城丸君が訪ねてきたこと自体について説明を変えたとされ、警察は早い段階から事情を聴いた。
1月14日には公開捜査が始まり、通学路、近隣住宅、交通機関などが調べられた。しかし、身代金要求や明確な目撃情報はなく、城丸君の所在を示す直接的な手掛かりは見つからなかった。
秀徳君は自宅を出る前、家族に行き先を詳しく説明していなかった。電話の相手と会う約束があったとみられ、普段の生活圏から突然姿を消した。警察は友人、学校関係者、近隣住民に聞き込みを行い、当日の服装や持ち物、最後に目撃された場所を確認したが、生存を示す足取りは得られなかった。
行方不明届を受けた警察は、誘拐、事故、家出の可能性を並行して検討した。9歳という年齢から自発的に長期間失踪する可能性は低く、電話の相手と移動手段の特定が重視された。
任意捜査が続く中で失われた時間
女性は城丸君の失踪後、親族宅へ段ボール箱を運び、その後の転居でも同じような荷物を移したとされる。後の裁判では、箱の中に遺体が入っていた可能性と矛盾しない事情として検討されたが、当時の捜査で内容物を確認することはできなかった。
警察は女性から任意で事情を聴いたものの、城丸君の死亡を示す物証がなく、強制捜査へ進むだけの根拠を得られなかった。女性の経済状況や電話の目的も調べられたが、身代金目的誘拐や殺害に直結する明確な動機は特定されなかった。
失踪事件では、時間が経過するほど目撃者の記憶が薄れ、物が処分される可能性が高くなる。本件でも、城丸君がどのように女性宅へ行き、そこで何が起きたのかを確定する資料は残らなかった。
捜査線上に浮上した女性は、秀徳君の家族と接点があり、失踪当日の連絡にも関係したと疑われた。しかし、当時は遺体や犯行を直接示す物証がなく、逮捕や強制捜査に必要な嫌疑を固められなかった。任意の事情聴取と周辺捜査が続く間に、住居や関係先の状況が変わり、後から検証しにくい証拠も増えた。
失踪直後の強制捜査が行われなかった判断は後に批判されたが、当時の証拠状況で令状要件が満たされたかは記録に基づいて評価する必要がある。結果だけから違法な捜査だったと断定はできない。
焼けた農家の納屋から見つかった骨片
女性が後に結婚して暮らしていた農家は、1987年に火災で焼失した。翌1988年6月、焼け残った納屋などの整理中に、袋に入った子どものものとみられる骨片が見つかった。骨は強く焼け、全身がそろった状態ではなかった。
警察は骨の身元を調べ、年齢や性別、歯の特徴などを城丸君と照合した。しかし、当時の鑑定技術では個人を断定できず、女性への任意捜査は短期間で打ち切られた。骨が発見された場所と女性との関係は強い疑いを生んだが、それだけで殺人を立証することはできなかった。
火災前、女性が農家の敷地で長時間にわたり物を燃やしていたとの証言も集められた。裁判所は、骨片が女性以外の人物によって納屋へ持ち込まれた可能性は低いと評価したが、いつ、どのような状態で運ばれたかまでは確定できなかった。
1988年、女性の元夫が所有していた農家の納屋が火災で焼け、その跡から人骨とみられる骨片が見つかった。骨は長期間置かれ、火の影響も受けていたため、年齢や死因をすぐに確定することは難しかった。発見場所が失踪事件の関係者と結び付いたことで、警察は秀徳君の可能性を考えて再び捜査を進めた。
DNA鑑定の進歩による再捜査
1990年代にDNA型鑑定の技術が進み、焼損した骨からも個人識別に使える情報を得られる可能性が高まった。北海道警は保存していた骨片を再鑑定し、スーパーインポーズ法など他の鑑定結果と合わせ、骨が城丸君のものとみて矛盾しないとの結論を得た。
殺人罪の公訴時効が迫る中、警察は過去の供述、段ボール箱の移動、農家での焼却行為、骨の発見場所を改めて検討した。1998年11月、女性は城丸君を殺害した疑いで逮捕され、札幌地検が殺人罪で起訴した。
一方、骨の発見からも長い年月がたっており、死因は判明しなかった。病死、事故、暴行による死亡などを医学的に区別できず、殺害方法を示す傷も確認できなかった。DNA鑑定は身元の問題を前進させたが、死亡の仕組みまでは明らかにしなかった。
発見当時の鑑定では身元を決められなかったが、DNA型鑑定の技術が進歩し、保存されていた骨と秀徳君の家族の資料を比較できるようになった。鑑定結果は、骨が秀徳君である可能性を強く支持した。警察は失踪ではなく死亡事件として捜査を組み直し、女性の行動や納屋へ骨が置かれた経緯を再検討した。
骨片は量が限られ、火災による損傷もあったため、鑑定には慎重な処理が必要だった。技術の進歩によって古い資料から身元へ近づけたことは、長期未解決事件の保存証拠の重要性を示した。
黙秘のまま進んだ殺人裁判
女性は起訴事実を否認し、公判ではほとんどの質問に答えず黙秘権を行使した。検察は多数の状況証拠を積み重ね、女性が電話で城丸君を呼び出し、何らかの犯罪行為によって死亡させ、遺体を長期間隠したと主張して無期懲役を求刑した。
弁護側は、死因が不明で殺意を示す証拠もなく、状況証拠から殺人罪を認定することはできないと反論した。女性の黙秘は刑事訴訟法上の権利であり、説明しないこと自体を有罪の根拠にしてはならないと訴えた。
傷害致死、死体損壊、死体遺棄などが考えられるとしても、それらの罪は起訴時点で公訴時効が成立していた。裁判所が判断できるのは、時効が完成していなかった殺人罪が合理的疑いなく証明されたかという点に限られた。
女性は1998年に殺人容疑で逮捕、起訴されたが、捜査段階から公判まで黙秘を続けた。検察は、失踪当日に女性が秀徳君と接触したこと、骨が関係先から見つかったことなどを積み重ねた。直接の目撃者、自白、死因を示す医学的証拠がないため、状況証拠だけで殺意と実行行為を認定できるかが裁判の中心となった。
死亡への関与を疑いながら無罪とした裁判所
2001年5月、札幌地裁は、骨片が城丸君のものであり、女性が最後の接触者だったことを認定した。さらに、女性が遺体を保管し、焼損した骨を隠した疑いが強く、城丸君が女性の犯罪的行為によって死亡した可能性も高いと判断した。
しかし、死因が分からず、女性が最初から殺す意思を持っていたのか、別の行為の結果として死亡したのかを区別できなかった。殺人罪には故意の立証が必要であるため、裁判所は殺意の認定に合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡した。
判決は、女性が黙秘したことを不利益に扱えないとも明示した。説明を拒む態度が疑念を強めても、検察が証明すべき構成要件を補う証拠にはならないという刑事裁判の原則が確認された。
札幌地裁は、女性が秀徳君の死亡や遺体の隠匿に何らかの形で関わった疑いは強いと指摘した。一方、骨の状態から死因を特定できず、事故や別の経過を排除して殺人と断定するには合理的な疑いが残ると判断した。刑事裁判では疑いが濃くても、起訴された殺人罪の構成要件が証明されなければ有罪にできない。
刑事裁判の無罪は、検察が選んだ罪名と立証に対する判断である。遺体の隠匿など別の行為が疑われても、時効や証拠、起訴内容により裁判の対象外となる場合がある。
控訴棄却と現在も残る死亡経緯の空白
検察は一審判決を不服として控訴したが、2002年3月、札幌高裁は無罪判断を維持した。高裁も、女性が重大な犯罪によって城丸君を死亡させた疑いは強いとしつつ、殺意をもって死亡させたと認定するには合理的な疑いが残ると判断した。
検察は最高裁への上告を断念し、女性の無罪が確定した。無罪確定は、女性以外の人物が犯人だと認定したものでも、城丸君が犯罪被害に遭わなかったと判断したものでもない。殺人罪としての証明が足りなかったという法的結論である。
刑事裁判の終了後も、城丸君の死因、死亡時期、女性宅で起きた具体的な出来事は明らかになっていない。無罪が確定した人物を犯人と断定することはできず、事件は法的結論と事実上の疑問が併存したまま残っている。
検察は一審無罪を不服として控訴したが、札幌高裁は2002年3月、一審の証拠評価を維持して控訴を棄却した。検察が上告しなかったため無罪が確定した。無罪は、女性が事件と無関係だと積極的に確定したものではなく、殺人罪を証明できなかったという法的結論である。秀徳君がどのように死亡し、骨が納屋へ置かれたのかは現在も確定していない。
無罪確定後は同じ女性を同一の殺人事実で再び起訴できない。別の証拠が見つかっても、一事不再理の原則により確定判決は維持される。
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