宮崎・高千穂6人殺人事件|家族5人と仲裁に訪れた知人が死亡、刑事裁判なきまま残った動機

公開日 2026年3月9日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2018年
都道府県
宮崎県
事件分類
大量殺人事件 / 未解決事件
事件状況
未解決
司法状況
該当なし
最終刑・処分
容疑者死亡・裁判なし

2018年11月26日午前、宮崎県高千穂町押方の民家で、同居する家族5人と知人男性1人が死亡しているのが見つかった。被害者は72歳の父、66歳の母、42歳男性の妻、21歳の長男、7歳の長女、そして夫婦間のトラブルを仲裁するため訪れた44歳の知人男性だった。

この家に暮らしていた飯干昌大は現場から姿を消し、同日午後、約3キロ離れた神都高千穂大橋の下を流れる五ケ瀬川で死亡しているのが確認された。捜査は本人から事情を聴けないまま進み、宮崎県警は翌2019年、飯干を6人に対する殺人容疑で書類送検した。刑事裁判は開かれていない。

事件名宮崎・高千穂6人殺人事件
発覚2018年11月26日
発生場所宮崎県西臼杵郡高千穂町押方
死亡者家族5人と知人1人の計6人
被疑者とされた人物飯干昌大(当時42歳)
被疑者の状況事件発覚当日に五ケ瀬川で死亡
捜査宮崎県警が単独犯行とみて2019年7月24日に殺人容疑で書類送検
刑事手続本人死亡のため公判は開かれず、不起訴で終了
動機最終的な解明には至らず

消防団の集まりを抜け、松岡史晃さんは「仲裁」に向かった

事件の前夜、家族以外で唯一現場にいたのが五ケ瀬町の農業、松岡史晃さん(44)だった。報道によると、松岡さんは地元消防団の点検後の集まりに参加していたが、飯干昌大夫妻から「トラブルになったので来てほしい」と連絡を受けた。周囲には夫婦げんかの仲裁へ行く趣旨を話し、軽トラックで飯干家へ向かったという。

この経緯は、事件が外部から侵入した人物による無差別な襲撃ではなく、少なくとも発生直前に家庭内の深刻なトラブルがあったことを示す重要な手掛かりになった。ただし、夫婦間に何が起きていたのか、それが6人全員への殺害にどう結び付いたのかまで明らかになったわけではない。

翌朝、住宅の内外から三世代の家族と知人の6人

遺体で見つかったのは、飯干保生さん(72)、妻の実穂子さん(66)、昌大の妻・美紀子さん(41)、長男の拓海さん(21)、長女の唯さん(7)、松岡史晃さん(44)の6人だった。祖父母、親世代、孫世代の家族に、仲裁のため訪れた知人が加わっている。

26日午前になっても家族と連絡が取れないことから異変が判明し、警察が住宅へ入った。複数の遺体は室内で、実穂子さんは屋外の倉庫付近で見つかったと報じられている。事件がいつ始まり、6人がどの順番で襲われたのかを示す確定的な説明は残されていない。

妻と7歳長女には首を圧迫した痕、ほか4人には刃物傷

捜査段階の報道では、美紀子さんと唯さんには目立った刃物傷がなく、首を手で圧迫されたような痕が確認された。一方、保生さん、実穂子さん、拓海さん、松岡さんには頭部や首などに刃物による傷があった。寝室からは血の付いたなたが見つかっている。

同じ現場で6人が死亡しながら攻撃方法が一様ではなかったことは、捜査が犯行の順序や各被害者との接触状況を検討する材料になった。傷の違いや発見場所は、誰がどこで襲われたのかを復元する上で重要な捜査事項だった。

現場から消えていた飯干昌大、約3キロ先の橋へ

6人の遺体が発見された時点で、同居していた飯干昌大の所在が分からなかった。警察は行方を追い、26日午後、神都高千穂大橋の下を流れる五ケ瀬川で男性の遺体を発見。後に飯干本人と確認された。

橋の欄干からは飯干の指紋が検出されたと報じられ、現場と橋の位置関係、移動経路なども捜査対象となった。遺書は確認されておらず、本人が事件後に何を考え、なぜ橋へ向かったのかを説明する直接資料は残らなかった。

警察は第三者の関与を洗い、飯干の単独犯行と判断した

被害者が6人に及ぶ以上、捜査では当然、第三者の侵入や共犯の可能性も検討された。県警は現場の血痕やDNA型、凶器とみられる刃物、通信や移動の状況、被害者との関係などを調べ、第三者が犯行に加わったことを示す痕跡はないと判断した。

2019年7月24日、県警は死亡している飯干昌大を6人に対する殺人容疑で書類送検した。逮捕して取調べることができない事件でも、警察が集めた証拠と捜査記録を検察へ送り、処分判断を求める手続きは行われる。本件では、この送検が捜査上の大きな区切りとなった。

夫婦間のトラブルは事件直前にあったが、動機の全体像は残らなかった

松岡さんが仲裁のため呼ばれた経緯から、夫婦間のトラブルが事件直前に存在したこと自体は複数の報道で確認できる。一部では男女関係をめぐる問題も取り沙汰されたが、本人の供述や裁判所の認定が存在しない以上、特定の不倫関係を6人殺害の確定した原因として記すことはできない。

より大きな問題は、仮に夫婦間の対立が発端だったとしても、なぜ父母、21歳の長男、7歳の長女、さらに仲裁に来た松岡さんまで命を奪われたのかという点にある。飯干本人が死亡し、事件当夜の当事者も全員死亡したため、この部分を埋める供述は得られなかった。

「書類送検された」ことと「有罪が認定された」ことは同じではない

県警は飯干の単独犯行と判断して殺人容疑で送検したが、飯干は被疑者の段階で死亡している。検察官が公判請求し、証拠を法廷へ提出し、弁護側の反論を経て裁判所が有罪を認定する手続きは行われなかった。

したがって、法的経過は「県警が6人殺害の疑いで書類送検した」「県警は単独犯行と判断した」と整理される。同時に、不起訴は警察が飯干を無関係と判断したことを意味しない。

被疑者死亡による不起訴で刑事手続きは終わった

送検後、宮崎地検は飯干を不起訴処分とした。被疑者本人が死亡していれば刑罰を科すための公判を維持できず、本件には一審判決、控訴審、確定刑といった通常の裁判経過が存在しない。

刑事手続きが終わったことと、事件の全てが説明されたことは別である。捜査機関は実行者を飯干とみた一方、本人から動機や殺害順序を聴けないまま捜査を終えた。誰が疑われたのかは整理されているが、なぜ6人が被害に遭ったのかという核心には空白が残った。

「犯人不明の未解決事件」ではなく、動機と経過に未解明部分が残る事件

高千穂6人殺人事件は、一般的な意味で「誰がやったのか全く分からない事件」とは性質が異なる。県警は飯干昌大の単独犯行と判断し、殺人容疑で送検まで行った。しかし本人死亡によって公判での事実認定はなく、動機や一人ひとりを襲った順序、どの時点で松岡さんが巻き込まれたかなどは確定しなかった。

捜査上の結論と、裁判で確定した犯行事実は別のものとなった。県警は実行者を飯干とみた一方、本人の説明や司法判断は存在しない。残された資料から確認できるのは、夫婦トラブルの仲裁に向かった知人を含む6人が一夜のうちに死亡し、その翌日に捜査の中心となった人物も死亡していたという経過である。

事件は、町外の親族が「実家と連絡が取れない」と警察へ相談して発覚した

26日午前、町外に住む親族から飯干家と連絡が取れないとの相談が高千穂署へ入り、署員が住宅を訪れた。宮崎日日新聞によると、午前11時ごろ、屋内外で6人の死亡が確認された。事件が発覚した時点では、誰が住宅にいたのか、行方不明者がいるのかを一つずつ確認する段階だった。

昌大だけが現場におらず、同日午後には橋の近くで昌大が使っていた車が見つかり、五ケ瀬川から男性の遺体が発見された。捜査初日の時点で『住宅の6人死亡』と『行方不明の同居男性』『橋下の遺体』という三つの情報が並び、身元確認と事件との関係を詰める作業が進められた。

事件直後に広がった男女関係の説明には、報道同士でも食い違いがあった

事件直後、夫婦間のトラブルについて複数の報道が出た。日刊スポーツは昌大の女性関係をめぐって口論になっていたと伝えた一方、後の取材記事には、近隣住民から『不倫の話は聞いたことがない』という証言も掲載された。ここから特定の男女関係を事件の確定動機へ直結させることはできない。

確実に言えるのは、松岡さんが夫婦げんかの仲裁へ向かったと複数の関係者が話していること、そして県警が最終的に動機を完全には解明できなかったことである。確認された直前行動と、周辺で語られた原因説には明確な隔たりがある。

被害者の名前を並べるだけでは見えない、事件当夜の立場の違い

保生さんと実穂子さんは同居する両親、拓海さんと唯さんは昌大の子ども、美紀子さんは妻だった。松岡さんだけは家族ではなく、家庭内の争いを収めようとして外から訪れた人物である。同じ住宅で亡くなった6人でも、事件当夜にその場へいた理由は同じではない。

とりわけ唯さんは小学2年生だった。家庭内の大人同士の問題があったとしても、子どもを含む家族全員と、仲裁に入った知人まで被害が広がった理由は説明されていない。ここに、警察が実行者を絞り込んだ後もなお残った事件の未解明部分がある。

時間軸を整理すると、25日夜に松岡さんが飯干家へ向かい、26日午前に親族の相談を受けた警察が6人を発見し、同日午後に昌大の遺体が川で見つかった。警察が把握できたのは、事件後に残った現場と周辺の痕跡であり、6人の殺害が何時何分に、どの順番で行われたかを当事者供述から再現することはできなかった。

このため、報道で示された推定時刻や『夫婦げんかから始まった』という説明は、確認された事実の範囲を超えて固定的な物語にしない方がよい。事件当夜の入口はある程度見えているが、六つの殺害へ拡大した過程には、現在も説明できない部分が残っている。

被疑者が死亡した事件では、取調べ供述が得られないだけでなく、法廷で証拠の意味を争う機会も失われる。高千穂事件で県警が示した単独犯行という捜査結論と、刑事裁判による有罪認定が存在しないという法的事実は両立する。どちらか一方だけを強調せずに記録することが、この事件の現在地を最も正確に示す。

その意味で、事件の「未解明」は捜査対象者が決まっていないという意味ではない。警察の捜査結論は示されたが、本人死亡によって動機と具体的経過を確かめる最後の手段が失われた、という種類の未解明である。

事件の入口と捜査上の結論は残っているが、当夜の全経過を一本の確定した時系列にするだけの証拠は残されなかった。

参考資料・出典

宮崎日日新聞「高千穂町の民家で6人死亡、殺人事件として捜査」(2018年11月27日)

宮崎日日新聞「知人男性は夫婦トラブルの仲裁へ」(2018年11月28日)

日刊スポーツ「高千穂6人殺害、家族外の松岡さんは夫婦げんか仲裁」(2018年11月29日)

毎日新聞動画「宮崎・高千穂町の住宅で男女6人の遺体」(2018年11月)

CNN「宮崎県高千穂町、住宅から男女6人の遺体見つかる」(2018年11月28日)

週刊女性PRIME配信記事「高千穂6人殺人・男女関係をめぐる証言」(2018年12月5日)

関連事件

同じテーマの書籍を探す

この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。