1988年2月、名古屋市緑区の大高緑地で、若い男女が少年を中心とする6人の集団に襲われた。2人は金品を奪われ、車で各地を連れ回されながら暴行を受けた後、殺害されて遺体を遺棄された。
被告人らは事件当時、少年または若年成人だった。一審の名古屋地裁は主犯格の一人に死刑、複数の共犯者に無期懲役などを言い渡した。名古屋高裁は1996年、死刑を無期懲役へ変更し、集団心理、少年期の未成熟さ、関与の違い、更生可能性を量刑で考慮した。検察は上告を断念し、判決が確定した。
| 事件名 | 名古屋アベック殺人事件 |
|---|---|
| 発生日・期間 | 1988年 |
| 発生場所 | 愛知県名古屋市・三重県周辺 |
| 被害・事件 | 1988年2月、名古屋市緑区の大高緑地で、若い男女が少年を中心とする6人の集団に襲われた。2人は金品を奪われ、車で各地を連れ回されながら暴行を受けた後、殺害されて遺体を遺棄された。 |
| 現在の状況 | 判決確定・服役 |
| 判決 | 主犯格は控訴審で無期懲役。共犯者は無期懲役・不定期刑などが確定 |
大高緑地で狙われた若い男女
被害者の男女は車で大高緑地を訪れていた。集団は金品を奪う目的で2人へ接近し、抵抗を抑えて車を支配した。被害者と加害者側に、犯行前からの関係はなかった。
当初の強盗は、その場で金を奪って終わらず、2人を車内に拘束したまま移動する形へ進んだ。顔を見られたことや通報を恐れ、集団内で被害者を解放しない判断が共有された。
若者が集まって行動する中で、誰か一人の指示だけで全員が動いたのか、それぞれが暴行や監視へ加わりながら犯行を拡大させたのかが、後の裁判で役割を区別する問題になった。
連れ回しの間に続いた暴行と性的被害
2人は車で移動させられ、複数の場所で殴る蹴るなどの暴行を受けた。女性には性的暴行も加えられた。長時間にわたり複数人が関与したため、被害者は逃走や外部への連絡が困難だった。
集団の一部が直接暴行する間、他の者は車を運転し、見張り、場所を探すなどの役割を担った。直接手を下していない時間があっても、拘束を維持して犯行を継続させた行動が共犯責任の判断に含まれた。
被害者から奪った金品の利用や、車の移動記録、事件後の発言が捜査で確認された。供述には責任を他人へ向ける違いがあり、裁判所は相互の供述を客観資料と照合した。
被害者は、最初の強盗から殺害まで長時間拘束された。途中で人目のある場所を通る機会があっても、複数人が車内外を監視し、暴行を重ねて抵抗を弱めたため逃走できなかった。犯行が一つの場所で短時間に終わらず、移動のたびに解放や通報を選べたことは、各被告人の継続的な意思を判断する材料になった。
女性に対する性的暴行は、金品目的の強盗とは別の被害を加え、集団内で犯行が拡大した経過を示した。誰が直接行為をしたかだけでなく、他の者が監視や運転を続け、被害者を支配下に置いたことが共同責任として評価された。少年であることは、被害行為への参加を否定する事情ではなく、刑を選ぶ段階で考慮された。
六人の中には、初めから殺害を目的として集まった者と、途中で加わった者がいたわけではなく、当初の強盗が集団内の判断によって監禁、暴行、殺人へ進んだ。裁判所は、殺害方針が話し合われた時点、各人がそれを理解した時点、その後も現場に残った理由を供述から分けて認定した。
集団内で消極的だったとする主張も、途中で逃げたり通報したりする現実的な機会があったか、被害者への支配を維持する行動を続けたかによって評価された。単なる同席者と、犯罪結果を認識して運転や監視を担当した共犯者は区別されるが、本件では複数の被告人に殺人を含む共同責任が認められた。
事件名には「アベック」という当時の呼称が残るが、被害者は金品を奪われ、長時間拘束され、集団暴行と性的被害を受けた後に殺害された二人である。量刑論だけに焦点を寄せると被害の経過が見えにくくなるため、裁判所が少年性を考慮したことと、犯行の重大性を否定しなかったことを併せて理解する必要がある。
事件後の口裏合わせや証拠処分は、被告人らが自分たちの行為が重大犯罪であると理解していたことを示す事情とされた。誰かが警察へ連絡するまで集団内で沈黙が保たれ、被害者の発見が遅れた。犯行後の態度も、反省と更生可能性を評価する資料になった。
発覚を恐れた殺害と遺体遺棄
集団は、2人を生きて帰せば強盗や暴行が発覚すると考え、殺害する方針を決めた。被害者は別々に攻撃され、死亡した。犯行の終盤まで複数の被告人が現場に残り、殺害を止めたり離脱したりしなかった。
遺体は名古屋市外へ運ばれ、発見されにくい場所へ遺棄された。車内や遺棄場所の痕跡、被告人らの供述から、連れ去りから殺害までの移動が復元された。
事件後、集団は口裏を合わせ、証拠を処分しようとした。共犯者の一人から情報が伝わったことなどをきっかけに捜査が進み、6人が逮捕、起訴された。
被告人らの供述は、誰が殺害を提案したか、誰が凶器を使ったかという点で食い違った。自己の刑を軽くするため他の者へ責任を移す可能性があるため、裁判所は供述同士が一致する部分だけでなく、車両、遺体、奪った物、事件後の行動によって裏付けられるかを確認した。
六人それぞれの関与を分けた刑事裁判
起訴された6人は年齢、参加時期、直接行為が異なっていた。検察は、強盗、監禁、性的暴行、殺人、死体遺棄が連続する共同犯行であり、途中から加わった者も結果を理解して協力したと主張した。
弁護側は、集団内で強い立場の者に従わされたこと、殺害の合意へ加わっていない者がいること、事件当時の少年性を考慮すべきことを訴えた。
裁判所は、単にその場にいたかではなく、暴行、監視、運転、凶器の使用、遺体処理、犯行後の隠蔽を個別に認定し、刑を分けた。
被害者遺族は、一審死刑が高裁で変更されたことに強い不満を示した。裁判所は遺族感情を量刑事情として考慮しながらも、それだけで刑を決めることはできない。死刑判断には、犯行の重大性に加えて被告人ごとの主導性や更生可能性を検討する必要があるとした。
名古屋地裁の死刑・無期懲役判決
名古屋地裁は1989年、中心的な被告人の一人に死刑を言い渡し、他の主な被告人には無期懲役、少年の一部には不定期刑などを科した。
一審は、面識のない2人を金品目的で襲い、長時間にわたって暴行し、犯行発覚を防ぐため殺害した経過を重視した。被害者が2人であること、集団で拘束して逃げ道を奪ったことから、少年であっても極刑を回避できないとした。
一方、被告人ごとの主導性や年齢には差があるため、全員へ同じ刑は選ばれなかった。死刑判決を受けた被告人らは控訴し、量刑と事実認定を争った。
一審で死刑を言い渡された被告人は、犯行時19歳で、少年法上は少年だった。当時の少年法も18歳未満の者への死刑を禁じていたが、18歳・19歳への死刑を一律に禁止してはいなかった。そのため、年齢だけで死刑が排除されるのではなく、精神的成熟、主導性、犯行後の態度、更生可能性を個別に判断することになった。
名古屋高裁は、二人が死亡した結果や犯行態様を極めて重く評価しながらも、死刑を選ぶには、共犯集団の中での主導性と少年の未成熟さを慎重に見る必要があるとした。一審が認定した事実の大枠を変えず、量刑評価を変更して無期懲役とした点に、この控訴審判決の特徴がある。
名古屋高裁が死刑を無期懲役へ変更
名古屋高裁は1996年12月16日、一審で死刑とされた主犯格の刑を無期懲役へ変更した。犯行の重大性を否定したのではなく、死刑を選ぶために考慮すべき個別事情を改めて評価した。
控訴審は、被告人が犯行時に少年で精神的に未成熟だったこと、集団の影響を受けて犯行が拡大したこと、各人の主導関係が固定的ではなかったこと、公判までの反省や更生可能性を挙げた。
被害結果と態様から無期懲役でも軽いとはいえないとしつつ、生命を奪う死刑を選択するには、少年性を含む有利な事情を考慮してもやむを得ないといえる必要があると判断した。
検察の上告断念と確定した量刑
検察内部では、2人を殺害した事件で一審死刑を変更したことへの反対意見があった。しかし当時、量刑不当だけを理由に最高裁へ上告することには法律上の制約があり、判例違反など明確な上告理由を構成することが難しいとされた。
名古屋高検は上告を断念し、控訴審判決が確定した。主犯格は無期懲役となり、他の被告人についても無期懲役や有期・不定期刑が確定した。
事件は、少年が関与した重大事件で、被害の重大性と発達段階、更生可能性を量刑上どう扱うかを示す裁判例となった。高裁判決は犯行を軽く評価したものではなく、死刑と無期懲役の境界を個別事情に基づいて判断したものである。
検察が上告しなかったことで、最高裁が量刑の当否を判断する機会はなく、無期懲役判決が確定した。後年の少年重大事件と単純に比較することはできず、法改正前の制度、各被告人の年齢、証拠上の役割認定を踏まえて読む必要がある。二人への被害が軽く評価されたのではなく、極刑の適用に必要な個別事情が争われた裁判だった。
判決確定後、無期懲役を受けた者の仮釈放の有無などについて不確かな情報が流通している。刑事施設内の処遇や個別の釈放判断は、公的に確認できる範囲が限られる。確定しているのは、名古屋高裁が一審死刑を無期懲役へ変更し、検察が上告せず各被告人の刑が確定したという法的経過である。
犯行当時の少年審判と刑事裁判の関係も、被告人の年齢によって異なった。家庭裁判所から検察官送致された少年は成人と同じ公開法廷で裁かれたが、年齢と発達段階は量刑資料として調査された。若年であることは免責ではなく、死刑か無期懲役かを選ぶ際の重要な事情だった。
高裁判決後に検察が上告を断念したのは、無期懲役が妥当だと全面的に同意したからではない。刑事訴訟法上、単なる量刑不当は通常の上告理由にならず、最高裁判例への違反や重大な法令解釈の誤りを示す必要があった。法的な上告可能性と検察の量刑評価は区別される。
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