名古屋マッチングアプリ巨額結婚詐欺事件|「社長」と「秘書」を装い女性6人から1億6244万円

公開日 2026年6月15日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2021年
都道府県
愛知県
事件分類
マッチングアプリ・SNS関連 / 詐欺

「会社名義の口座は凍結されているが、50億円以上の資産がある」。結婚を意識する女性の前で、会社社長とその秘書を装った2人は、資金繰りに困っているように見せた。実際には会社を経営しておらず、女性たちから渡された金が約束どおりの工事代金に使われることもなかった。

江尻舟一と武田佑氣は、2021年9月から2024年3月までに、マッチングアプリなどで知り合った39〜47歳の女性6人から計1億6244万円を詐取したとして起訴された。2025年8月27日、名古屋地裁は江尻に懲役7年、武田に懲役4年を言い渡した。

犯行期間2021年9月〜2024年3月
被害者39〜47歳の女性6人
被害額計1億6244万円
被告人江尻舟一、武田佑氣
役割江尻が会社社長役、武田が秘書役
初公判2025年1月20日・2人とも起訴内容を認める
求刑江尻 懲役8年、武田 懲役7年
一審判決2025年8月27日 江尻 懲役7年、武田 懲役4年

マッチングアプリで「会社社長」として女性へ近づいた

江尻はマッチングアプリなどを通じて女性と知り合い、会社経営者で多額の資産を持つ人物のように振る舞った。交際を深める過程で結婚を約束し、恋愛関係と将来の生活を同時に信じさせていった。

2人が作ったのは、単に「金を持っている」という設定だけではない。江尻が経営者として仕事の話をし、武田が秘書として予定や金の動きを補足することで、女性の前に会社組織があるように見せた。交際が深まった後に資金の相談を持ちかけるため、金銭要求の時点ではすでに結婚相手としての信用が積み上がっていた。

2025年の起訴内容で対象となった被害者は6人。年齢は当時39歳から47歳で、犯行期間は約2年半に及ぶ。被害額は一人ごとに異なるが、合計は1億6244万円に達した。

武田佑氣は「秘書役」として江尻の設定を支えた

この事件は一人が交際相手へ金を求めるだけの手口ではなかった。武田は江尻の秘書役として女性の前に現れ、江尻が本当に会社経営者であるかのような外形を作った。

女性から見れば、交際相手本人だけでなく、業務を補佐する第三者まで同じ会社や取引の話をする。二人が役割を分けたことで、会社の実在や資金需要にもっともらしさが加わった。裁判では江尻と武田の2人が共に詐欺罪に問われた。

捜査段階の報道では、江尻は「黒瀬舟」などの名前を使い、武田も別名で行動していたとされる。女性側が手掛かりにできるのは、本人が示す身分、語られる会社の状況、目の前にいる秘書役の言葉だった。複数の虚偽を互いに補強することで、一つの話が崩れても別の説明で関係を維持できる形になっていた。

財布や通帳を失った芝居から「工事代金」へ

判決報道では、2人が財布や通帳を紛失したように装い、資金をすぐ用意できない状況を演出したことが明らかにされている。「請け負っていた工事が予定より早く終わったため、下請け業者への支払いが必要」といった説明で、一時的な立て替えを求めた。

金を持つ会社社長がなぜ交際相手から借りる必要があるのかという疑問には、会社口座が凍結されている、資産自体は数十億円ある、入金されればすぐ返せるといった説明を重ねた。短期の立替金という形にすることで、女性側に「今だけ助ければよい」と思わせる構造だった。

要求は一度の大金だけではなく、取引上の急な支払い、資金が動かせない事情、返済の見込みを一続きの物語として示す方法だった。被害者にとっては、将来の結婚相手が一時的に困っている場面に見える。判決は、2人が金策に苦慮しているように装い、相手の「助けたい」という気持ちを利用したと認定した。

約1億円を一人の女性からだまし取った起訴事実も

2025年1月の初公判で扱われた起訴事実の一つでは、当時47歳の女性に結婚を約束し、2024年3月に約1億円を詐取したとされた。江尻は実際には会社を経営していなかったが、工事代金が必要だと説明した。

1億円という金額は、通常の生活資金の貸し借りとは規模が異なる。それでも女性が資金を渡した背景には、単なる投資話ではなく、結婚する相手を助けるという関係が作られていた。恋愛感情と資金要求を結び付けた点が、事件の被害を拡大させた。

CBCは初公判を傍聴した別の女性について、約2600万円をだまし取られたと訴えていたと報じている。集英社オンラインの取材では、交通事故後のリハビリ中だった女性が約2700万円の被害を訴えた例も伝えられた。捜査が広がる過程で、同じ人物と交際し金銭を渡したとする女性が複数名乗り出た。

最初の逮捕では偽名の身分証が問題になった

報道によると、2人は2024年10月11日に偽造有印公文書行使容疑で逮捕され、その後、詐欺容疑で再逮捕された。江尻は「黒瀬舟」、武田は別名を名乗るなど、交際相手に本名とは異なる身元を示していたと報じられた。

江尻が女性から金を借りる際、偽名の運転免許証を示したとされる。恋愛関係で語る名前、会社での肩書、秘書という第三者の存在、身分証まで組み合わせることで、虚偽の人物像を現実のものに見せていた。

最初の身柄拘束から詐欺事件としての立件が重ねられ、10月22日には詐欺容疑で再逮捕、11月にも別の女性に対する詐欺容疑で捜査が続いたと報じられた。複数の女性から寄せられた被害申告を一件ずつ捜査し、最終的に起訴された6人分の被害が2025年の裁判で審理された。

捜査の入口となった偽造身分証は、江尻が交際相手に示していた人物像を裏から支える道具でもあった。マッチングアプリ上の名前、会社社長という肩書、秘書役の存在、運転免許証という外形が重なることで、女性側が一つの情報だけを疑っても全体の虚偽へたどり着きにくい状態が作られていた。

捜査段階の「約3億円」と裁判で認定された1億6244万円

逮捕後の報道では、15人以上の女性が被害を訴え、被害総額が約3億円規模に上る可能性も伝えられた。一方、2025年8月の名古屋地裁判決で量刑の対象となったのは、女性6人に対する計1億6244万円の詐欺だった。

捜査段階では、起訴された6人以外からも被害申告が寄せられ、約3億円規模の被害がある可能性が報じられた。これに対し、一審判決が有罪認定と量刑の対象にしたのは、2021年9月から2024年3月までの女性6人、計1億6244万円の詐欺だった。

2025年1月20日の初公判で2人とも認めた

名古屋地裁で2025年1月20日に開かれた初公判で、江尻と武田はいずれも起訴内容について「間違いありません」と認めた。犯行の有無を全面的に争う裁判ではなく、役割の違いや量刑が大きな焦点となった。

検察側は冒頭陳述で、会社名義口座が凍結されているが50億円以上の資産があるなど、女性に虚偽の説明をしていたと主張した。返済できる資産が存在するように装い、交際相手の不安を抑える説明が重ねられていた。

2人は起訴内容自体を争わなかったため、公判では個々の虚偽説明がどう組み合わされ、江尻と武田がどの程度主体的に関与していたかが量刑判断の材料になった。被害額が大きく、被害弁償が進んでいない一方、武田については江尻との関係や従属的立場をどこまで考慮するかも焦点となった。

武田は法廷で江尻との関係を語った

2025年6月の公判では、武田が秘書役として江尻に従っていた経緯が取り上げられた。武田は取材でも、江尻の顔色をうかがい、怒らせないようにしていたという趣旨を語っている。

弁護側は、武田が江尻へ意見できる立場ではなく、指示に従っていたとして刑を軽くするよう求めた。検察側は江尻に懲役8年、武田に懲役7年を求刑した。2人の関係性と犯行への関与の程度が、最終的な刑の差にもつながった。

名古屋地裁は江尻に懲役7年、武田に懲役4年

2025年8月27日、名古屋地裁の吉田智宏裁判長は、江尻に懲役7年、武田に懲役4年を言い渡した。判決は、金策に奔走しているように装い、被害者の恋愛感情や「助けたい」という気持ちにつけ込んだ手口を厳しく評価した。

また、被害弁償がなされていないことに加え、弁償金を工面するために別の被害者への犯行に及んだ面があると指摘した。ある被害者から得た金で別の女性への返済を行えば、一時的には信用を維持できる。その循環が被害を広げる要因になった。

求刑は江尻が懲役8年、武田が懲役7年だった。判決は江尻を中心人物として懲役7年とし、武田については関与の程度などを踏まえて懲役4年とした。2人とも実刑で、被害女性との交際や結婚の約束があったことは、金銭取得の違法性を弱める事情とはならなかった。

武田側は、江尻に逆らいにくい関係にあり、指示に従う立場だったと訴えた。公判前の取材でも武田は江尻を怖いと感じていたという趣旨を話している。地裁は2人の刑に3年の差を付けたが、秘書役として詐欺の信用を支えた武田にも実刑を選択した。

「社長」と「秘書」の役割分担が信用を作った

この事件の特徴は、金を求める本人以外の人物が、同じ虚偽設定を支えた点にある。会社社長を名乗る江尻に対し、武田が秘書として行動することで、女性にとっては会社組織そのものが存在するように見えた。

さらに、財布や通帳を失った芝居、架空の工事代金、巨額資産の説明、結婚の約束が組み合わされた。単一のうそではなく、複数の出来事を積み重ねて相手が疑いを持ちにくい環境を作る手口だった。

6人への詐欺が有罪認定され、被害弁償は進まなかった

名古屋地裁が有罪としたのは、39〜47歳の女性6人に対する計1億6244万円の詐欺だった。判決は被害弁償がなされていない点を重視し、恋愛感情に加えて被害者の善意を利用した手口を厳しく評価した。

一部の被害者へ返す金を用意するため、別の女性からさらに金を得る犯行もあったとされた。返済によってそれまでの説明への信用をつなぎ、その信用を背景に別の資金要求へ進む。約2年半にわたって被害が続いた背景には、交際関係と金銭のやり取りを切り離しにくくする仕組みがあった。

参考資料・出典

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