シンドラーエレベーター死亡事故|市川大輔さん死亡、製造・保守責任をめぐり存命被告は全員無罪

公開日 2026年10月6日
最終更新 2026年8月31日
カテゴリー 2000年代 事故・災害 無罪

事件ステータス

都道府県
東京都
事件分類
事故・災害

2006年6月3日、東京都港区の住宅「シティハイツ竹芝」で、高校2年の市川大輔さん(16)がエレベーターから降りようとした際、扉が開いたままかごが上昇し、かご床と出入口の間に挟まれて死亡した。

事故は「製造会社が悪いのか、保守会社が悪いのか」という単純な二択では決着しなかった。複数の会社関係者が起訴されたものの、最終的に存命の被告は全員無罪となった。刑事責任を認定するために必要な、事故前の具体的な故障状態と予見可能性を証明しきれなかったためである。

事件の基本情報

発生日2006年6月3日
場所東京都港区・シティハイツ竹芝
被害者市川大輔さん(16)
事故扉が開いたままエレベーターが上昇
関係会社シンドラーエレベータ、保守会社SECなど
一審一部有罪・一部無罪
控訴審2018年までに存命の被告全員無罪
制度改正戸開走行保護装置・二重ブレーキ等を新設機で義務化

扉が開いた状態で、かごが上昇した

市川さんは自転車とともにエレベーターを利用していた。停止して扉が開いたため降りようとしたところ、かごが上昇し始め、出入口枠とかご床の間に挟まれた。

通常のエレベーターでは、扉が開いている状態では駆動しない安全回路が働く。事故は、その前提が崩れた「戸開走行」だった。

ブレーキに何が起きていたのか

港区の事故調査報告では、ブレーキの保持力が不足し、かごを停止位置に保持できなかったことが事故の中心とされた。ブレーキ部品の摩耗や調整、保守状態が検討された。

ただし、機械的な事故原因が説明できることと、特定の担当者に刑事上の過失を認定できることは別である。刑事裁判では、事故前の点検時点で異常を認識できたかが厳しく争われた。

製造会社側と保守会社側が起訴された

検察はシンドラー側の元保守責任者や、事故当時に保守を担当していたSEC側の元社長・管理者らを業務上過失致死罪で起訴した。

一審ではシンドラー側の被告に無罪、SEC側の3人に執行猶予付き有罪が言い渡された。製造後の長期使用と保守会社の交代がある設備で、誰のどの行為が死亡結果につながったかが争点になった。

東京高裁はSEC側の有罪も破棄した

2018年3月、東京高裁はSEC側3人について一審有罪判決を破棄し、無罪を言い渡した。高裁は、事故9日前の点検時点で異常なブレーキ摩耗がすでに存在したと認定するには合理的な疑いが残ると判断した。

点検方法に改善の余地があるとしても、その点検をしていれば事故を確実に回避できたと刑事裁判で証明できなければ、過失致死の有罪にはできないという判断だった。

シンドラー側の無罪も維持され、存命被告は全員無罪に

シンドラー側の元保守責任者についても東京高裁は2018年1月に無罪を維持し、検察は上告しなかった。別の被告1人は公判中に死亡し、公訴棄却となった。

結果として、存命の被告全員について刑事有罪は確定しなかった。これは事故そのものがなかったという意味ではなく、個人の刑事責任を合理的疑いなく立証できなかったという結論である。

事故後、新設エレベーターに戸開走行保護装置を義務化

事故を受け、建築基準法関係の安全基準が見直された。新設エレベーターでは、主ブレーキとは独立した仕組みで戸開走行を防ぐ装置や、二重化されたブレーキなどが求められるようになった。

2026年、国土交通相は事故20年に際し、既存エレベーターへの戸開走行保護装置の改修率がなお約4割にとどまると説明し、改修促進を呼びかけている。

港区は事故後、独自の調査を長期に続けた

事故現場の建物を管理していた港区は、原因究明と再発防止のため独自の調査を続け、機械構造、保守履歴、ブレーキの状態、刑事裁判の経過まで整理した最終報告書を公表した。

刑事裁判が存命被告全員無罪で終わった一方、事故原因の技術的検証と安全基準の見直しは別に進められた。事故後の法令改正では、戸開走行を防ぐ装置が新設エレベーターに義務付けられた。

戸開走行保護装置は主ブレーキ故障を前提にする

事故前の一般的な設計では、主ブレーキが正常に働くことを前提に停止位置を保持していた。事故後に義務化された戸開走行保護装置は、扉が開いた状態でかごが動いた場合に独立した仕組みで停止させる。

安全装置を二重化する考え方は、点検ミスや単一部品の故障がそのまま死亡事故へつながらないようにする「フェイルセーフ」の発想である。

2026年でも既存機の改修は途上

新設機への義務化が進んでも、事故前から使われている既存エレベーターは自動的に新基準へ置き換わるわけではない。国土交通省は事故20年の2026年時点で、戸開走行保護装置の既存機への設置率が約4割と説明した。

設備は数十年使われるため、法改正の効果が社会全体へ行き渡るには時間がかかる。既存設備の改修をどう進めるかが、事故後も残る安全課題である。

参考資料・出典

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