1925年、東京府荏原郡大岡山の住宅で一家3人が殺害され、金品が奪われた。捜査は田宮頼太郎を犯人とみて起訴したが、田宮は公判中に拘置施設で死亡した。約3年後、東京市千住で別の一家3人が殺害され、逮捕された五味銕雄と田中藤太が大岡山事件にも関与していたことが明らかになった。
二つの事件で計6人が死亡し、五味と田中には死刑が言い渡され、1933年に執行された。一方、誤って起訴された田宮は生きて無実の結論を受けることができなかった。事件は連続強盗殺人だけでなく、自白や状況証拠へ偏った捜査が別人を公判へ送った歴史的な冤罪問題として残っている。
| 事件名 | 大岡山・千住連続殺人事件 |
|---|---|
| 第1事件 | 1925年、大岡山で一家3人殺害 |
| 第2事件 | 1928年、千住で一家3人殺害 |
| 真犯人 | 五味銕雄、田中藤太 |
| 誤認起訴 | 田宮頼太郎 |
| 被害 | 計6人死亡 |
| 法的結末 | 五味・田中は死刑執行。田宮は公判中に獄死 |
1925年の大岡山一家3人殺害
当時の報道は捜査機関の発表や社会的偏見に強く影響され、被疑者を犯人と断定する見出しが公判前から掲載されることがあった。田宮が起訴された後、無罪の可能性を示す情報が社会へ伝わりにくくなった。刑事裁判の推定無罪は、判決前の報道や世論が被告人の有罪を前提にしないためにも重要な原則である。
大岡山の事件では、住宅内の一家が殺害され、金品が奪われた。現在のようなDNA型鑑定や広範な防犯カメラはなく、捜査は現場の遺留品、指紋、盗品の流通、関係者の供述へ大きく依存した。重大事件への早期解決圧力の中で、被害者と接点のあった田宮頼太郎へ疑いが集中し、反対方向の証拠を十分に検討しないまま起訴へ進んだ。
大岡山の住宅で家族3人が殺害され、室内から金品が奪われた。外部から侵入した者による強盗殺人とみられたが、現在のようなDNA鑑定や防犯カメラはなく、現場の指紋や遺留品の分析にも限界があった。
警察は被害者の交友関係、周辺の前歴者、盗品の流通を調べた。田宮頼太郎が捜査線上に浮かび、取り調べを受けた後、犯人として起訴された。
公開資料には取調べの全記録が残っておらず、田宮の供述がどのように得られ、客観証拠とどこまで一致していたかには不明点がある。後の真犯人判明によって、少なくとも起訴の結論が誤っていたことが明らかになった。
田宮頼太郎の起訴と公判中の死亡
拘置中の健康管理や長期勾留の影響も、田宮が生きて無罪を争えなかった問題として指摘される。ただし、死亡原因と捜査機関の責任について資料によって記述が異なる部分は、確認できる範囲に限る必要がある。確実なのは、田宮が否認したまま公判中に死亡し、その後に別人の犯行を示す物証が現れたことである。
田宮は犯行を否認し続けたが、長期勾留と公判の途中で死亡した。被告人が死亡すると刑事裁判は有罪・無罪を確定する判決を出さず、公訴棄却などで終了する。したがって、田宮には有罪判決が確定していない一方、生前に正式な無罪判決を受ける機会も失われた。後に真犯人が判明しても、死亡した本人の通常裁判を再開することはできなかった。
田宮は大岡山事件の被告人として裁判を受けた。無罪を主張したとされるが、公判が最終判決へ至る前に拘置中に病気で死亡した。
被告人が死亡すると、その人に対する刑事手続きは終了する。裁判所が無罪判決を言い渡し、誤りを公式に是正する機会も失われた。
当時、田宮の家族や周囲は犯人とされた社会的影響を受けたと考えられる。真犯人が後に判明しても、本人は名誉回復を知ることができず、誤認起訴の損失は刑事手続き終了だけでは回復しなかった。
1928年の千住一家殺害
千住の事件でも一家が襲われ、金品が奪われた。捜査で逮捕された五味銕雄と田中藤太の所持品や供述から、大岡山事件の盗品が見つかり、二つの事件の関連が判明した。新たな容疑者が知り得ないはずの場所や品物を説明できるか、供述が現場の状況と一致するかが確認され、田宮を犯人とした従来の見立てが崩れた。
1928年、東京市千住の住宅で一家3人が殺害され、金品が奪われる事件が起きた。大岡山事件から約3年がたっていた。
現場の手口や盗品を調べる過程で、五味銕雄と田中藤太が逮捕された。二人の周辺から得られた品や供述が、千住事件だけでなく大岡山事件へつながった。
同じ二人が二つの一家を襲ったことで、計6人が死亡した連続強盗殺人として捜査された。大岡山事件で田宮を起訴した捜査の前提は崩れた。
盗品が二つの事件を結んだ経過
真犯人の発見後、田宮の家族や関係者にとっては、本人が無罪判決を聞けないまま死亡した事実が残った。誤認起訴の訂正は、別人を有罪にすることだけで完了しない。捜査機関や司法が、なぜ誤った人物を起訴し、どの証拠で誤りが判明したかを記録することが、名誉回復と再発防止の基礎になる。
盗品は単に被害者の所有物であるだけでなく、いつ、どこから、誰の手へ移ったかを追うことで犯行後の行動を示す。大岡山事件から数年後に別事件の容疑者周辺で発見されたことは、田宮の起訴時に想定されていなかった新しい事実だった。物証の保管と記録がなければ、後発事件との照合はできず、誤認を訂正する端緒も失われる。
大岡山事件で奪われた品の一部が、五味や田中の関係先と結び付いたとされる。盗品は犯人が被害者宅へいたことを示す重要な物証であり、田宮への立証と異なる方向を示した。
二人の供述も得られたが、真相解明では供述だけでなく、品物の出所、処分経路、事件当日の所在を照合する必要があった。田宮事件の失敗は、自白や疑いを客観証拠より先に置く危険を示していた。
五味と田中の供述によって田宮の無実が知られたとしても、なぜ最初の捜査が誤ったかを検証する独立した制度は当時十分ではなかった。捜査機関の責任や補償も現在の基準とは異なる。
五味銕雄と田中藤太の裁判
五味と田中の裁判では、千住事件だけでなく大岡山事件への関与も審理され、盗品、供述、現場との一致が検討された。二人への判決によって、田宮を起訴した捜査が誤りだったことが司法記録上明確になった。後発事件の自白だけに頼らず、犯人しか知り得ない内容と物証が結び付いた点が、誤認訂正の根拠となった。
五味と田中は二つの事件について強盗殺人などに問われた。公判では犯行分担、殺害方法、盗品処分、供述の信用性が審理された。
裁判所は一家6人を殺害した責任を認め、両名に死刑を言い渡した。複数の住居へ侵入し、金品目的で家族全員の生命を奪った結果が最も重く評価された。
上級審を経て死刑が確定し、1933年に刑が執行された。戦前の死刑制度と裁判記録は現在と公開状況が異なり、細かな期日や判決理由は当時の新聞・公文書を照合する必要がある。
誤認起訴が生じた捜査上の問題
田宮への疑いを裏付けるとされた供述や状況証拠が、後に真犯人と盗品が見つかったことで再評価された。誤認事件の検証では、当時の捜査員が悪意を持っていたかだけでなく、どの情報が共有されず、反証がなぜ検討されなかったかを見る必要がある。組織の判断過程を検証しなければ、担当者が変わっても同じ偏りが繰り返される。
現在の再審制度では、有罪判決確定後に新証拠で無罪の合理的疑いが生じる場合、再審開始を求められる。しかし田宮は判決確定前に死亡しており、通常の再審事件とは手続が異なる。歴史上「冤罪」と評価されていても、どの裁判決定によって名誉が回復したかを正確に示す必要がある。
一度容疑者を決めると、その人物に不利な証拠を集め、有利な事情を軽視する確認偏向が起こり得る。自白を得ることへ捜査が集中すれば、供述の内容が秘密の暴露を含むか、客観証拠と矛盾しないかの検証が弱くなる。本件は戦前の事件だが、取調べの録音・録画、証拠開示、弁護人の関与が現代の冤罪防止で重視される理由を示す例として扱われている。
田宮が疑われた理由には、周辺情報、供述、前歴などがあったとみられる。しかし真犯人の物証と両立しない以上、捜査の途中で反対証拠を十分検討できなかったことになる。
容疑者を早期に一人へ絞ると、その人物に合う情報だけを重視し、矛盾する事実を小さく扱う危険がある。現在では確証バイアスと呼ばれる問題で、取り調べの録音録画や証拠開示が必要とされる理由の一つである。
自白があっても、秘密の暴露、物証、客観的な時間経過と一致するかを確かめなければならない。田宮の事件は、後に真犯人が現れたことで誤りが明白になったが、同じ誤りが常に発見されるとは限らない。
事件から100年後に残る位置付け
戦前の判決文や捜査記録は全てが公開・保存されているわけではなく、新聞の旧字体や地名表記にも違いがある。後年の研究書が引用する内容も、原資料を直接確認できない場合がある。そのため、詳細な会話や取調べ場面を再現せず、複数資料で一致する発生日、被害、起訴、真犯人判明という骨格を中心に記述する。
田宮の名誉回復は、本人への無罪判決という形では実現しなかった。後の真犯人の裁判記録や研究によって誤認起訴が明らかにされ、冤罪史の中で位置付けられている。古い事件では新聞記事や判決資料の表記が異なり、被害者人数や地名にも揺れがあるため、資料の作成年と法的結論を確認し、後世の要約だけで断定しないことが必要となる。
2025年で大岡山事件から100年となった。五味と田中の刑事責任は死刑執行で終わり、田宮について現在進行中の再審手続きがある事件ではない。
それでも、誤認起訴された人物が判決前に死亡した事実は、刑事司法史の問題として残る。無罪判決がないことを理由に田宮を「真犯人の一人」と扱うことは、後に判明した事件経過と矛盾する。
古い事件では資料の欠落が多く、後世の書籍やインターネット記事が細部を補っている場合がある。確認できる公文書、当時の新聞、裁判記録を区別し、不明な会話や心理を再現しないことが必要となる。
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