2016年秋、慶應義塾大学の公認学生団体「広告学研究会」をめぐり、神奈川県葉山町の宿泊施設で女子学生が性的被害を受けたと訴える事案が表面化した。大学はその直前、同じ合宿で未成年者の飲酒や危険な飲酒行為があったとして団体に解散を命じ、同団体が運営していた2016年度のミス慶應コンテストも中止となっていた。
刑事手続では、神奈川県警が2017年8月、元メンバーの男子学生6人を集団準強姦の疑いで書類送検した。しかし同年11月28日、横浜地検は6人全員を不起訴とした。不起訴理由は公表されず、刑事裁判は開かれていない。大学の懲戒処分、警察の書類送検、検察の不起訴はそれぞれ別の手続である。
| 問題が起きたとされた日 | 2016年9月2日 |
|---|---|
| 場所 | 神奈川県葉山町の宿泊施設 |
| 学生団体 | 慶應義塾大学広告学研究会 |
| 大学の団体処分 | 2016年10月4日、解散命令 |
| ミス慶應コンテスト | 2016年度大会を中止 |
| 学生個人への大学処分 | 3人を無期停学、1人をけん責 |
| 警察の手続 | 2017年8月、元メンバー6人を書類送検 |
| 送検容疑 | 当時の刑法による集団準強姦 |
| 検察処分 | 2017年11月28日、6人全員を不起訴 |
| 不起訴理由 | 公表されていない |
大学が最初に公表したのは、未成年飲酒と危険な飲酒行為だった
慶應義塾大学が2016年10月4日に広告学研究会へ解散を命じた時点で、公表された理由の中心は性的暴行の認定ではなかった。塾生新聞が伝えた大学側の説明では、9月2日の懇親会で複数の未成年者が飲酒し、互いを指名して酒を飲ませたり、ゲームの勝敗に応じて酒をあおったりする危険な行為が確認された。
広告学研究会は大学の公認団体で、ミス慶應コンテストを運営していた。解散命令によって2016年度コンテストは中止された。団体への処分は、大学が学生組織の活動規律を判断して行ったもので、刑事事件の有罪・無罪を決める手続ではない。
塾生新聞は、広告学研究会では2009年にも会員が公然わいせつ容疑で書類送検された経緯があり、過去にも活動停止措置を受けていたと伝えている。2016年の解散命令は、単にコンテスト運営を中止する措置ではなく、公認学生団体そのものを存続させない処分だった。
大学が最初に示した処分理由と、数日後に報じられた性的暴行疑惑は時系列上も分けられる。10月4日の解散命令は未成年飲酒等を理由としており、性的被害の訴えが広く報じられた後、大学は改めて関係者への聴取と学生個人への処分を進めた。
その後、女子学生が性的被害を訴えていることが報じられた
解散命令後、同じ葉山町の宿泊施設で、当時18歳の女子学生が複数の男子学生から性的暴行を受けたと訴えていることが報じられた。J-CASTニュースは、女子学生が神奈川県警へ被害届を出し、警察が捜査していると伝えている。
大学側は2016年10月、関係者への事情聴取など可能な範囲の調査を行ったものの、報道されているような事件性を大学として確認するには至らなかったと説明し、捜査の推移を見ながら対処する姿勢を示した。大学に刑事捜査の権限はなく、その時点で刑事責任を確定したわけではなかった。
大学側の調査で「事件性を確認するには至らなかった」とされたことと、その後に警察が6人を書類送検したことも、必ずしも同じ証拠を同じ方法で評価した結果ではない。大学は学内の事情聴取や規律違反を調べ、警察は被害届や供述、関係資料などを刑事事件として捜査する。
実際、大学は刑事事件の結論を待つことなく、確認できた未成年飲酒や学生としての行動を理由に処分を行った。刑事責任を確定できない段階でも、教育機関としての規律違反に対応するという別の判断枠組みが使われた。
大学は4人を無期停学・けん責処分にした
2016年11月、大学は広告学研究会に関係する男子学生4人への懲戒処分を行った。デイリースポーツによると、商学部2年生1人と理工学部1年生2人の計3人を無期停学、環境情報学部2年生1人を学部長けん責とした。
大学側が処分理由として挙げたのは、合宿所での未成年飲酒や性行為、責任ある立場での監督責任などだった。大学は、新たな事実が判明した場合には処分を変更することがあるとし、警察の捜査に協力すると説明した。懲戒処分を受けたこと自体が、後の刑事事件で犯罪事実が認定されたことを意味するものではない。
警察の捜査対象は、2016年9月の葉山町での行為
共同通信が2017年8月に伝えた内容では、神奈川県警は、2016年9月に当時18歳だった女子学生に酒を飲ませ、複数人で性的暴行を加えた疑いで、広告学研究会の元メンバー6人を捜査した。女子学生側は、施設で酒を連続して飲まされた後に被害を受けたと訴えていた。
ここで公表されたのは警察が設定した被疑事実である。書類送検前の段階でも、誰がどの行為をしたか、女子学生がどの程度酔っていたか、各学生に共謀が成立するかなどが捜査対象となったが、その内容を判断する刑事公判は後に開かれていない。
2017年8月、男子学生6人を書類送検
2017年8月、神奈川県警は元メンバー6人を集団準強姦の疑いで書類送検した。共同通信配信記事は、女子学生を酒に酔わせて性的暴行を加えた疑いとしている。
書類送検は、逮捕や有罪判決と同じ意味ではない。身柄を拘束せずに捜査した事件でも、警察が捜査書類や証拠を検察へ送り、検察官が起訴するか不起訴にするかを判断する。6人については、この送検を受けて横浜地検が処分を決める段階へ進んだ。
容疑名が「集団準強姦」だったのは、2016年当時の刑法による
2016年9月の被疑事実について使われた「集団準強姦」という名称は、当時の刑法に基づく。2005年施行の改正で、2人以上が現場で共同して強姦・準強姦を行う類型を重く処罰する集団強姦等罪が設けられていた。
当時の「準強姦」は、暴行・脅迫そのものではなく、人の心神喪失や抗拒不能に乗じるなどして性交した場合を対象とする規定だった。警察が本件を集団準強姦容疑で送検したのは、女子学生が酒で抵抗困難な状態だったとの被害申告を前提に捜査したためと報じられている。
ただし、送検容疑の構成要件を最終的に満たしたかは裁判所で審理されていない。女子学生の酩酊状態、各学生の認識、共同関係などについて有罪認定を示す判決は存在しない。
2017年7月施行の性犯罪規定改正では、強姦罪が強制性交等罪へ改められ、法定刑の下限が引き上げられたことに伴って集団強姦等罪は廃止された。事件が報じられた2017年8月時点には既に制度が変わっていたが、捜査対象は改正前の2016年9月の行為だったため、旧法上の容疑名が用いられた。
11月28日、横浜地検は6人全員を不起訴
2017年11月28日、横浜地検は書類送検されていた6人を全員不起訴とした。時事通信は、地検が不起訴理由を明らかにしていないと報じている。
このため、嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予など、不起訴のどの類型に当たるのかを外部から確定することはできない。6人を被告人とする刑事裁判は開かれず、裁判所が被疑事実の有無を認定する手続には進まなかった。
不起訴理由が非公表である以上、「証拠がなかったから」「示談したから」「大学側が働きかけたから」など特定の説明を事実として置くことはできない。報道時にはさまざまな見方が広がったが、横浜地検が公式に示した処分結果は不起訴という結論までだった。
また、不起訴となったことで、検察側と弁護側が証拠を法廷へ提出し、証人尋問や被告人質問を経て事実関係を確定する機会も生じなかった。刑事裁判記録から事件の全容を再構成できないのは、この手続上の終わり方による。
不起訴は「有罪」でも「無罪判決」でもない
刑事裁判で無罪判決を受けるには、まず検察官が起訴し、裁判所が審理したうえで無罪を言い渡す必要がある。本件では横浜地検が起訴しなかったため、6人に有罪判決も無罪判決も存在しない。
同様に、警察が集団準強姦容疑で書類送検した事実だけから、6人が犯罪を行ったと確定することもできない。公開されている法的な結末は、6人が送検され、全員が不起訴となり、その理由は公表されなかったというところまでである。
大学の処分と地検の不起訴が違う結論に見える理由
大学は教育機関として、未成年飲酒、危険な飲酒行為、団体内での行動、監督責任などを校則や学生規律に照らして処分できる。一方、検察官が起訴するには、特定の刑罰法令に当たる事実を公判で立証できるかを判断する必要がある。
そのため、大学が解散・停学などの処分を行った後に刑事事件が不起訴となること自体は、制度上矛盾しない。大学が認定した規律違反の範囲と、警察が送検した性的暴行の被疑事実は完全に同じではなく、判断する主体と必要な証明の水準も異なる。
ミス慶應コンテスト中止は、団体解散の直接的な結果だった
広告学研究会はミス慶應コンテストの企画・運営主体だった。2016年10月4日の解散命令を受け、同年度のコンテストは開催中止となった。
この時点で大学が公式に示した解散理由は、未成年飲酒やゲーム形式の危険な飲酒行為などだった。後から性的暴行疑惑が報道されたことで二つが一体化して語られやすくなったが、大学の最初の団体処分と、翌年の警察による書類送検は時期も法的性質も異なる。
学生個人の氏名やネット上の推測は、司法判断の代わりにはならない
事件報道後、学生個人を特定する情報や、不起訴の理由をめぐるさまざまな推測がインターネット上に拡散した。しかし、横浜地検は不起訴理由を公表していない。
不起訴の背景を特定の家族関係、金銭、大学の影響力などに結びつける公的根拠は示されていない。被疑者として報道された人物についても刑事裁判による有罪認定はなく、事件を記録する際は、送検容疑と確定した事実を分ける必要がある。
2017年11月で刑事手続は起訴に進まず終了した
公表資料で確認できる刑事手続は、神奈川県警による2017年8月の6人書類送検と、横浜地検による同年11月28日の全員不起訴までである。その後、6人について同じ被疑事実で起訴され、刑事判決が出たとの公表はない。
この事案では、大学が確認した規律違反、女子学生が訴えた被害、警察が設定した被疑事実、検察が選択した不起訴という四つの層を重ねずに読む必要がある。最終的な法的状態は「6人書類送検後、全員不起訴」であり、性的暴行の事実を認定した刑事判決は存在しない。
参考資料・出典
- 慶應塾生新聞「今年度ミスコン中止 運営団体の解散処分受け」
- デイリースポーツ「慶大生3人無期停学処分 未成年の飲酒、性行為で」
- J-CASTニュース「慶應大学、女性暴行疑惑で『無期停学』処分」
- 共同通信配信・ライブドアニュース「慶大生6人を書類送検 集団準強姦の疑い」
- 時事通信「慶大生6人を不起訴=横浜地検」
- 法務省「2017年の刑法性犯罪改正」
- 法務省「令和元年版 犯罪白書 第1編第1章第1節6」
- 法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
資料確認日:2026年8月26日
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