首都圏連続不審死事件は、2009年1月から8月にかけて、東京都、千葉県、埼玉県で木嶋佳苗と交際していた男性3人が相次いで死亡した連続殺人事件である。2012年4月13日、さいたま地裁は死刑を言い渡した。東京高裁も死刑を維持し、2017年4月14日に最高裁第二小法廷が上告を棄却。その後、判決訂正の申し立ても退けられ、2017年5月に死刑が確定した。
- 2009年に男性3人が相次いで死亡した事件の流れ
- 木嶋佳苗が婚活サイトなどで男性と接触し金銭を得た手口
- 睡眠薬と練炭を使ったと認定された3件の殺害方法
- 直接証拠が乏しい中で死刑判決に至った状況証拠 2012年の一審死刑判決から2017年の死刑確定までの経過
首都圏連続不審死事件の概要
| 事件名 | 首都圏連続不審死事件 |
|---|---|
| 発生日・期間 | 2009年1月から8月 |
| 発生場所 | 東京都青梅市、千葉県野田市、埼玉県富士見市 |
| 被害 | 寺田隆夫さん(当時53歳)、安藤建三さん(当時80歳)、大出嘉之さん(当時41歳)、死亡者数:確定判決の |
| 被告人等 | 木嶋佳苗 |
| 裁判・捜査状況 | 2012年4月13日、さいたま地裁が死刑/2014年3月12日、東京高裁が控訴棄却/2017年4月14日、最高裁第二小法廷が上告棄却/死刑死刑確定2017年5月現在死刑執行・死亡を示す公的発表は確認されておらず、公開資料上は死刑確定者として扱われている 事件の発覚は41歳男性が車内で死亡していたことから始まった 事件が大きく動き始めたのは2009年8月6日だった。 |
| 現在の状況 | 首都圏連続不審死事件は、2009年1月から8月にかけて、東京都、千葉県、埼玉県で木嶋佳苗と交際していた男性3人が相次いで死亡した連続殺人事件である。2012年4月13日、さいたま地裁は死刑を言い渡した。東京高裁も死刑を維持し、2017年4月14日に最高裁第二小法廷が上告を棄却。その後、判決訂正の申し立ても退けられ、2017年5月に死刑が確定した。 |
2009年に男性3人が相次いで死亡した事件の流れ
埼玉県富士見市の月極駐車場に止められた車内で、東京都内に住む会社員の大出嘉之さん(当時41歳)が死亡しているのが見つかった。車内では練炭が燃焼した形跡があり、死因は急性一酸化炭素中毒だった。一見すれば練炭自殺にも見える状況である。しかし捜査では、自殺として処理するには不自然な点が浮かんだ。
大出さんは死亡直前まで木嶋佳苗と行動しており、木嶋との間には多額の金銭授受があった。さらに木嶋が事件前に練炭や練炭コンロを入手していた事情も明らかになる。埼玉県警が木嶋周辺を調べると、過去にも交際男性が不自然な状況で死亡していたことが分かった。
木嶋佳苗は婚活サイトで何をしていたのか
木嶋は結婚相手を探す男性が登録するウェブサイトを利用していた。裁判所の認定によると、木嶋は複数の男性に対し、真剣に結婚を考えているように装いながら金銭的援助を求めた。金を必要とする理由として使われたのは、大学の学費、寄付金、料理学校の受講料などだった。
しかし確定判決では、実際には大学へ在籍していなかったケースや、受け取った金をクレジットカードの決済、生活費、マンションへの転居費用などへ使う目的だったケースが認定されている。木嶋は複数の男性と同時期に接触し、金銭的援助が見込めないと分かると短期間で交際を終えることもあった。
さいたま地裁は、木嶋に結婚意思がなかった複数の交際について、詐欺または詐欺未遂を認定した。
第1の殺人|53歳の寺田隆夫さんが青梅市の自宅で死亡
確定判決で最初の殺人とされたのは、寺田隆夫さん(当時53歳)の事件である。寺田さんは2009年2月4日、東京都青梅市の自宅で死亡しているのが発見された。室内には複数の練炭コンロが置かれ、練炭が燃焼していた。死因は一酸化炭素中毒だった。
しかし裁判では、寺田さんが自ら練炭を準備した形跡があったのかが詳しく検討される。寺田さんは日常的に練炭コンロを使っていたわけではなく、現場にあった大量の練炭を購入した明確な形跡も確認されなかった。一方、木嶋側には、現場の物と特徴が一致する練炭や練炭コンロを事件前に入手した事情があった。
さいたま地裁は、寺田さんが自殺した可能性を退け、木嶋が返済などを免れるため、練炭自殺に見せかけて殺害したと認定した。
寺田さん事件は「殺害場面を見た人がいない」中で認定された
寺田さん事件には、木嶋が練炭へ着火する瞬間を見た目撃者はいなかった。このため弁護側は、寺田さんが自殺した可能性があるとして殺人罪の成立を争った。裁判所は、一つの証拠だけで有罪としたわけではない。
- 寺田さん自身が練炭を入手した形跡が乏しいこと
- 木嶋が事件直前に寺田さんと行動していたこと
- 木嶋が特徴の一致する練炭類を事前に入手していたこと
- 両者に多額の金銭関係があったこと
- 木嶋の嘘が維持できなくなる状況が生じていたこと
こうした事情を総合し、殺人事件であり、犯人は木嶋だと判断した。
第2の殺人|80歳の安藤建三さん宅で火災
2件目の殺人とされたのは、千葉県野田市の安藤建三さん(当時80歳)の事件である。2009年5月15日、安藤さん宅で火災が発生し、安藤さんは死亡した。確定判決によると、木嶋は安藤さんとの交際中に金銭の交付を受けており、その問題について責任を追及されることを免れるため殺害を企てた。
木嶋は安藤さんへ、睡眠薬成分であるトリアゾラムとブロチゾラムを含む薬物を服用させて睡眠状態に陥らせ、練炭を燃焼させたと認定されている。安藤さんは一酸化炭素中毒となり、さらに住宅火災による熱傷を負った。裁判所は、急性一酸化炭素中毒と気道熱傷が重なって死亡したと認定し、事故死ではなく殺人罪を成立させた。
第3の殺人|41歳の大出嘉之さんをレンタカー内で殺害
3件目が、事件全体の発覚につながった大出嘉之さん(当時41歳)の事件である。大出さんは結婚相手を探すウェブサイトを通じて木嶋と知り合った。裁判所は、木嶋が真剣に結婚する意思がないにもかかわらず、料理学校の受講料を借りたいなどと虚偽を伝え、約470万円をだまし取ったと認定した。
その多くは、新たなマンションへの転居費用などに使われたと認定されている。木嶋は返済や嘘の発覚による追及を免れるため、大出さんを殺害しようと企てた。2009年8月5日ごろ、木嶋は大出さんへゾルピデム、トリアゾラム、ブロチゾラムを含む薬物を服用させ、睡眠状態に陥らせたとされている。
その後、埼玉県富士見市の駐車場に止めた車内で練炭を燃焼。一酸化炭素を吸引させ、急性一酸化炭素中毒で死亡させたと認定された。
なぜ木嶋佳苗は男性3人を殺害したと認定されたのか
最高裁は、3件について共通する重要な状況証拠を整理している。
- 各被害者の死亡時期に近接して、木嶋が死亡場所で被害者と2人だけで行動していた
- 木嶋が現場の物と特徴の一致する練炭コンロや練炭を犯行前に入手していた
- 各事件で自殺または事故死の可能性がないと認定された
- 木嶋は各被害者から経済的利益を得ていた
- 交際上の嘘をつき通せず、返済要求や追及を受ける危険が高まっていた
最高裁は、これらを総合すれば、3件とも木嶋が犯人であることは合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明されているとする一審・二審判断に不合理な点はないとした。つまり本件は、「木嶋と付き合った男性が3人死亡したから犯人」という単純な推論で有罪になった事件ではない。
死亡の事件性、練炭の入手経路、薬物、行動記録、金銭関係、メール、購入履歴など、多数の間接事実が積み重ねられた。
木嶋佳苗は殺人3件を一貫して否認
木嶋は3件の殺人について、一貫して無罪を主張した。寺田さんと大出さんについては自殺の可能性、安藤さんについては失火による死亡の可能性があるというのが弁護側の主張だった。木嶋は交際関係についても、男性らと真剣に結婚を考えていたという趣旨の説明をした。
一方、さいたま地裁は、木嶋が別の男性との親密な関係を続けながら複数男性と交際し、金銭援助が見込めなくなると短期間で関係を終了させていた事情などを検討。複数の交際について、最初から結婚意思がなかったと認定した。
起訴されたのは殺人3件だけではない
首都圏連続不審死事件は、3件の殺人だけで構成された裁判ではない。さいたま地裁が有罪としたのは合計10件だった。
- 殺人:3件
- 詐欺:3件
- 詐欺未遂:3件
- 窃盗:1件
詐欺事件では、大学の学費や料理学校の受講料など虚偽の理由を使い、結婚意思があるように装って男性から金銭を得たと認定されている。また別の男性がホテル客室で眠った後、財布から現金5万円がなくなった事件についても、木嶋による窃盗が認定された。こうした金銭犯罪は、3件の殺人動機を判断するうえでも重要な背景となった。
周辺では他の不審死も報じられたが、殺人認定は3人
木嶋佳苗事件では、捜査や報道の過程で、木嶋と関係のあった別の男性らの死亡も注目された。そのためインターネット上では「6人殺害事件」などと記載されることがある。しかし法的には明確に分ける必要がある。
殺人罪で起訴され、有罪が確定した被害者は3人である。周辺人物の死亡が報じられたことと、その全てについて木嶋の殺人が刑事裁判で認定されたことは同じではない。
2009年9月、まず詐欺事件で逮捕
木嶋は最初から3件の殺人容疑で逮捕されたわけではない。2009年9月、まず交際男性から金銭をだまし取ったとする詐欺事件で逮捕された。その後、埼玉県警、警視庁、千葉県警などが男性らの死亡を詳しく調べ、殺人事件としての立件が進む。
2010年には大出さん事件などをめぐって殺人容疑で逮捕され、寺田さん、安藤さんの事件についても捜査・起訴が続いた。最終的に3件の殺人と7件の詐欺・詐欺未遂・窃盗が、一つの裁判で審理されることになる。
約100日に及んだ異例の裁判員裁判
木嶋佳苗の一審は、裁判員裁判として異例の長期審理となった。2012年1月から、さいたま地裁で本格的な公判が進む。最大の争点は、直接証拠が乏しい3件について、そもそも殺人事件だったのか、そして犯人が木嶋だったのかという点だった。
検察側は、3事件に共通する練炭、睡眠薬、木嶋の行動、被害者との金銭関係などを提示した。弁護側は、自殺や事故死の可能性を主張し、状況証拠を積み重ねても殺人を合理的疑いなく証明したことにはならないと争った。この「状況証拠だけで死刑まで認定できるのか」という問題が、事件の裁判上の大きな焦点となった。
2012年4月13日、さいたま地裁が死刑判決
2012年4月13日、さいたま地裁は木嶋佳苗被告に死刑を言い渡した。検察側の求刑も死刑だった。裁判所は、3件の殺人と詐欺、詐欺未遂、窃盗をすべて有罪と認定した。
量刑理由では、真剣な交際を装って男性から多額の金銭を受け取った末、返済などを免れるため3人を殺害したことを最も重視した。さらに、あらかじめ練炭コンロや練炭を準備し、被害者を睡眠状態などの無抵抗状態にしてから一酸化炭素を吸引させた方法を、計画的で冷酷かつ悪質と評価した。
裁判所が認定した動機|贅沢な生活と嘘の発覚回避
木嶋は殺人を認めていないため、本人が「この理由で3人を殺した」と自白した事件ではない。そのため動機は、客観的な行動や金銭状況などから裁判所が認定したものだ。さいたま地裁は、木嶋が働かずに贅沢で虚飾に満ちた生活を維持するため、男性らから多額の金銭を受け取ったと評価した。
そして返済を求められる、あるいは結婚をめぐる嘘が発覚して追及されることを避けるため殺害したと認定した。最高裁も2017年、正業に就かないまま贅沢な暮らしをするため男性らから多額の金銭を受け取り、その返済や嘘の発覚による追及を免れる目的などで3人を殺害したという原判決を維持している。
2014年3月12日、東京高裁が控訴棄却
木嶋側は一審死刑判決を不服として控訴した。控訴審でも、3人は自殺または事故で死亡した可能性があり、木嶋を犯人とする証明は不十分だという主張が続いた。しかし2014年3月12日、東京高裁は控訴を棄却。
さいたま地裁の有罪認定と死刑判決を維持した。木嶋側はさらに最高裁へ上告した。
2017年4月14日、最高裁が上告棄却
2017年4月14日、最高裁第二小法廷は木嶋側の上告を棄却した。最高裁は、木嶋が各被害者の死亡時期に近接して死亡場所で2人だけで行動していたこと、現場の物と特徴が一致する練炭類を事件前に入手していたこと、自殺・事故死の可能性がないこと、経済的利得と殺害動機があったことなどを重視した。
そして3件の犯人性は、合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明されているとした一審・二審判断を是認した。量刑についても、半年余りで男性3人を次々と殺害し、睡眠状態などにしたうえで事前準備した練炭を燃焼させ、自殺などに見せかけた犯行は計画的で極めて悪質と評価した。
2017年5月、木嶋佳苗の死刑が確定
最高裁の上告棄却判決後、木嶋側は判決訂正を申し立てた。しかし2017年5月9日、最高裁第二小法廷が申し立てを棄却。これにより死刑が確定した。
したがって木嶋は現在、「一審で死刑判決を受けた被告人」や「上告中の人物」ではない。殺人3件などで死刑判決が確定した人物である。
「平成の毒婦」という呼称と事件の本質
木嶋佳苗は報道でしばしば「平成の毒婦」と呼ばれた。また一審公判では、木嶋の服装、話し方、男性関係、外見、性生活などが過剰なほど注目された。しかし「毒婦」は法的な用語ではない。
事件の核心は、木嶋の外見や恋愛技術ではなく、結婚意思があるように装って金銭を得る犯罪を重ね、返済や嘘の追及を免れる目的などで男性3人を殺害したと司法が認定したことにある。同時に、直接証拠が乏しい重大事件で、多数の状況証拠をどのように総合評価するかが問われた刑事裁判でもあった。
現在|木嶋佳苗は死刑確定者として扱われている
現在も、木嶋佳苗について死刑が執行された、または死亡したことを示す公的発表は確認されていない。2025年末にも木嶋を死刑確定者として扱う報道があり、2026年に更新されている公開資料でも死刑確定者として掲載されている。そのため、現在の状況を「死刑執行済み」「獄死した」と説明することはできない。
一方、本件を「周囲で不審死した全員を木嶋が殺害した事件」とするのも正確ではない。司法上確定しているのは、寺田隆夫さん、安藤建三さん、大出嘉之さんの男性3人に対する殺人である。木嶋は最後まで殺人を否認しましたが、さいたま地裁、東京高裁、最高裁はいずれも、多数の状況証拠を総合して3件の殺人を認定した。
婚活サイトを利用した詐欺、交際男性との金銭関係、睡眠薬、事前購入された練炭、自殺偽装、そして直接証拠の乏しい中での死刑判断が複雑に絡み合う点で、首都圏連続不審死事件は日本の犯罪史・刑事裁判史でも特に注目された事件である。
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