光市母子殺害事件|無期懲役を破棄した最高裁判断と第3次再審請求

公開日 2026年2月4日
最終更新 2026年8月28日
カテゴリー 1990年代 少年犯罪 死刑 殺人事件

事件ステータス

発生年月日
1999年
都道府県
山口県
事件分類
少年犯罪 / 殺人事件
最終刑・処分
死刑

1999年4月14日、山口県光市の社宅で本村弥生さん(当時23歳)と、生後11か月の長女・夕夏さんが殺害された。被告人は事件当時18歳1か月の少年で、配管工事を装って室内へ入ったと認定された。刑事裁判は、犯行そのものだけでなく、18歳になって間もない少年に死刑を適用するかという量刑判断をめぐって長期化した。

山口地裁と最初の広島高裁はいずれも無期懲役を選んだ。ところが最高裁は2006年、その量刑判断を破棄して広島高裁へ差し戻す。差戻し審は2008年に死刑を言い渡し、2012年に最高裁が上告を棄却して確定した。2026年には第3次再審請求も広島高裁で棄却され、弁護側が異議を申し立てている。

事件発生1999年4月14日
場所山口県光市
被害者本村弥生さん(当時23歳)、長女・夕夏さん(生後11か月)
被告人大月孝行(事件当時18歳1か月)
主な罪名殺人、強姦致死、窃盗
一審2000年3月22日、山口地裁が無期懲役
第一次控訴審2002年3月14日、広島高裁が検察側控訴を棄却
第一次上告審2006年6月20日、最高裁が原判決破棄・差戻し
差戻し控訴審2008年4月22日、広島高裁が死刑
第二次上告審2012年2月20日、最高裁が上告棄却・死刑確定
現在第3次再審請求棄却に対し弁護側が異議申立て中

配管工事を装って本村家の室内へ入った

確定判決が前提とした事実によれば、被告人は配水管の検査を装って本村家を訪れた。室内で弥生さんに性的暴行をしようとし、抵抗されたため殺害したうえで姦淫し、泣き続ける夕夏さんも殺害した。さらに室内から財布を持ち去ったとして、殺人、強姦致死、窃盗の罪で起訴された。

被害者は母親と乳児の2人である。本村弥生さんの夫で夕夏さんの父・本村洋さんは事件後、裁判の傍聴や記者会見を通じて量刑や被害者遺族の権利について発言を続けたが、刑事裁判で判断されたのは被告人の犯罪事実と刑事責任である。

事件当時18歳1か月――少年法上は死刑を科すことが可能な年齢だった

事件当時、被告人は18歳になって約1か月だった。当時の少年法は20歳未満を少年として扱う一方、犯行時18歳未満の者には死刑を科さず無期刑とする規定を置いていた。被告人はこの18歳未満の除外規定には該当しない年齢だった。

ただし、死刑を法的に選択できることと、実際に死刑を選ぶべきかは別問題になる。一・二審は年齢、未成熟さ、更生可能性、計画性などを考慮し、死刑を回避して無期懲役を言い渡した。ここから量刑をめぐる長い争いが始まった。

山口地裁は死刑求刑に対して無期懲役を選択

山口地裁は2000年3月22日、検察側の死刑求刑に対して無期懲役を言い渡した。犯行結果の重大性や動機に酌量の余地が乏しいことを認めながらも、犯行時の年齢や成長途上にあったことなどを量刑上考慮した。

検察側は量刑不当を理由に控訴したが、広島高裁は2002年3月14日、一審の無期懲役を維持した。ここまでの裁判は、犯罪事実を軽く評価したというより、少年の年齢と更生可能性をどこまで死刑回避の事情として重視するかで判断が分かれた。

検察側の上告で最高裁が無期懲役判決を破棄

検察側は広島高裁判決を不服として最高裁へ上告した。2006年6月20日、最高裁第三小法廷は無期懲役を維持した控訴審判決を破棄し、広島高裁へ差し戻した。最高裁がこの段階で直接死刑を言い渡したわけではない。

最高裁は、犯行時18歳になって間もない少年であることには相応の配慮が必要だとしつつ、それを死刑回避の決定的事情とはしなかった。罪質、動機、態様、結果、遺族感情、犯行後の事情などを総合したうえで、死刑を回避する特に酌むべき事情があるか改めて審理するよう求めた。

差戻し審では殺意と強姦目的そのものも争われた

差戻し後の広島高裁では、弁護側が従来の供述とは異なる説明を示し、弥生さんを殺す意思や強姦目的を否定した。殺害ではなく傷害致死にとどまるという主張や、行為の意味をめぐる説明が示され、量刑だけでなく事実認定も重要な争点となった。

広島高裁は2008年4月22日、弁護側の新たな主張を客観的証拠や従前の供述と整合しないとして退け、殺意と強姦目的を認定した。そのうえで、被害結果や犯行態様、犯行後の情状などを踏まえ、無期懲役ではなく死刑を選択した。

2008年の死刑判決は「少年だから死刑になった」のではない

差戻し審で年齢は無視されたわけではない。被告人が18歳1か月だったこと、家庭環境、精神的成熟度、更生可能性などは量刑資料として検討された。それでも広島高裁は、2人の生命を奪った結果と犯行態様などを総合すれば、年齢を考慮しても死刑を回避できないと判断した。

この事件を理解する際は、「18歳以上なら自動的に死刑」という捉え方も、「少年だから原則無期」という捉え方も正確ではない。死刑を選択できる年齢かという法律上の線引きと、個別事件で極刑が相当かという量刑判断は別々に検討された。

2012年の最高裁は死刑を維持したが、裁判官の意見は一致しなかった

被告人側は差戻し審の死刑判決を不服として上告した。最高裁第一小法廷は2012年2月20日、上告を棄却し、死刑が確定した。多数意見は、年齢や生育環境など被告人に有利な事情を考慮しても刑事責任は重大だとして、広島高裁の死刑判断を是認した。

一方、宮川光治裁判官は反対意見を述べ、被告人の精神的・道徳的成熟度や更生可能性について、さらに審理を尽くす必要があるとの考えを示した。最終的な結論は死刑確定だったが、量刑判断の中核部分について最高裁内部でも異なる見方があった。

第1次・第2次再審請求はいずれも退けられた

死刑確定後、弁護側は再審を求めた。第1次再審請求では殺意や強姦致死の故意、責任能力などを争い、法医学・心理学分野の資料を新証拠として提出したが、広島高裁は再審開始を認めなかった。異議、最高裁への特別抗告も退けられた。

第2次再審請求でも、幼少期の虐待による脳機能への影響や責任能力、取調べ供述の信用性などが争われた。広島高裁は2022年に請求を棄却し、異議申立てを経て、2023年12月に最高裁が特別抗告を棄却したため、再審開始は認められなかった。

第3次再審請求は2026年2月に棄却、弁護側が異議を申立て

弁護側は2023年12月、第3次再審請求を広島高裁へ申し立てた。脳科学者の意見書など4点を新証拠として提出し、幼少期の虐待に由来する脳の障害が認識や行動に影響したと主張した。

広島高裁は2026年2月27日付で請求を棄却した。共同通信によれば、高裁は新たな主張について「確定判決に対する主張の域を超えない」などと判断した。弁護側は同高裁へ異議を申し立てており、2026年8月26日時点で死刑判決は確定したまま、再審手続が続いている。

無期懲役から死刑へ変わったのは、最高裁が直接刑を変更したからではない

本件の裁判経過は、山口地裁の無期懲役、広島高裁の控訴棄却、最高裁の破棄差戻し、差戻し広島高裁の死刑、最高裁の上告棄却という順序になる。2006年の最高裁判決は死刑を直接言い渡したものではなく、量刑判断をやり直すため審理を広島高裁へ戻した。

死刑を実際に言い渡したのは2008年の差戻し控訴審であり、その判決が2012年の上告棄却によって確定した。この区別は、光市母子殺害事件が少年事件の死刑判断でどのように先例として参照されるのかを理解するうえでも重要になる。

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