鳥取連続不審死事件|上田美由紀が2人を睡眠薬で溺死・死刑確定後に拘置所で死亡

公開日 2026年3月9日
最終更新 2026年7月31日
カテゴリー 2000年代 大量殺人事件 死刑

鳥取連続不審死事件は、2009年に鳥取県で男性2人が相次いで水死し、元スナック従業員の上田美由紀が強盗殺人2件などで死刑判決を受けた事件である。現在では、上田本人の死亡によって刑の執行可能性は失われている。死刑判決は確定したままですが、執行前に死亡したというのが最終的な経過である。

POINT
この記事でわかること
  • 鳥取連続不審死事件と呼ばれるようになった経緯
  • 上田美由紀の周辺で「6人死亡」と報じられた意味
  • 矢部和実さんと圓山秀樹さんの2件の強盗殺人
  • 睡眠薬を使い海や川で溺死させたと認定された手口
  • 直接証拠が乏しい中で死刑判決が維持された理由
  • 2017年の死刑確定と2023年の拘置所内死亡
事件名鳥取連続不審死事件
主な事件発生年2009年
場所鳥取県北栄町、鳥取市など
死刑確定者上田美由紀
職業元スナック従業員など
周辺で報じられた死亡者6人
殺人として有罪認定された被害者2人
被害者矢部和実さん(47歳)、圓山秀樹さん(57歳)
認定された手口睡眠薬などを服用させ、意識もうろう状態で水中へ誘導し溺死させる
主な動機債務の返済を免れる目的
一審2012年12月4日、鳥取地裁が死刑
控訴審2014年3月20日、広島高裁松江支部が控訴棄却
最高裁2017年7月27日、上告棄却
確定刑死刑
上田の死亡2023年1月14日、広島拘置所収容中に窒息死
現在上田本人は死亡。刑事裁判は終了

なぜ「連続不審死事件」と呼ばれたのか

事件名だけを見ると、上田が6人全員を殺害した事件のように受け取られがちである。しかし、実際の刑事裁判は異なる。2009年秋、上田の周辺で男性が相次いで死亡していたことが表面化した。過去へさかのぼると、2004年以降にも交際相手や知人男性らの死亡があり、計6人の「不審死」として大きく報道される。

死亡者の中には新聞記者や警察官も含まれていた。こうした状況から、捜査機関は過去の死亡例も調べ直する。ただ、刑事裁判で上田による殺人と認定されたのは2件だった。「周辺で6人が死亡した」ことと、「6人殺害で有罪になった」ことは同じではない。

事件を正確に理解するうえで、この区別は欠かせない。

2009年4月4日、矢部和実さんが北栄町の海で死亡

最初に強盗殺人として認定されたのは、トラック運転手の矢部和実さん(当時47歳)の事件である。事件は2009年4月4日、鳥取県北栄町の海岸周辺で起きた。確定判決によると、上田は矢部さんから約270万円の債務を負い、返済を求められていた。

そこで返済を免れるため、あらかじめ入手していた睡眠薬などを矢部さんに服用させる。意識がもうろうとした状態に陥らせたうえで、水中へ誘導し溺死させたと認定された。矢部さんは自らの意思で正常に海へ入ったのではない――裁判所は、薬物の影響を受けた状態が利用されたと判断している。

借金を返せないなら話し合うこともできたはずである。それでも裁判で認定されたのは、債権者そのものを死亡させ、返済義務を免れようとする犯行だった。

約半年後、圓山秀樹さんが摩尼川で遺体となって発見

矢部さんの死から約半年後、よく似た水死事件が起く。被害者は電気工事業の圓山秀樹さん(当時57歳)だった。2009年10月7日、鳥取市内を流れる摩尼川で、圓山さんの遺体が発見される。前日から行方が分からなくなっていた。

圓山さんは上田側へ家電製品を販売しており、その代金を請求する立場だった。確定判決では、上田がこの債務の支払いを免れるため、圓山さんにも睡眠薬などを服用させたと認定されている。そして意識もうろう状態となった圓山さんを水中へ誘導し、溺死させた。

債務を負う相手に睡眠薬を飲ませ、水中で死亡させる。別々の機会に起きた2件には、極めて重要な共通点があった。

2件に共通した手口|睡眠薬と水死

最高裁が重く見たのは、単に2人が水死したという事実だけではない。2人はいずれも上田に対して債権を持ち、返済や代金支払いを求める立場だった。

  • 上田が被害者に債務を負っていた
  • 被害者の体内から特徴的な組み合わせの睡眠薬成分が検出された
  • 上田が同種の薬を事前に入手していた、または入手可能だった
  • 被害者が行方不明になる直前に最後に接触した人物だった
  • 事件後、上田の身体がぬれた状態だったとの目撃証言があった

こうした事情が、一つだけ存在したわけではない。最高裁は複数の間接事実を総合し、2件について上田が犯人であることは合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明されたと判断した。

2009年11月、詐欺事件での逮捕から捜査が拡大

上田が最初から強盗殺人容疑で逮捕されたわけではない。2009年11月2日、鳥取県警は上田を詐欺容疑で逮捕した。その後、上田の周辺で男性が相次いで死亡していたことが注目され、捜査は過去の死亡例にも広がる。

当時の報道は急速に過熱した。「6人不審死」「男性が次々死亡」といった情報が全国へ流れ、同時期に注目されていた首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗と比較されることも増えていく。しかし捜査と報道は同じではない。

最終的に上田が強盗殺人で起訴されたのは、矢部さんと圓山さんの2事件だった。このほか、複数の詐欺、窃盗、住居侵入なども裁判対象となる。

上田美由紀は強盗殺人2件を一貫して否認

上田は詐欺など一部の事件とは異なり、2件の強盗殺人について無罪を主張した。裁判では、現場で殺害そのものを直接目撃した証人や、犯行場面を記録した映像があったわけではない。いわゆる直接証拠が乏しい事件である。

そのため弁護側は、上田が犯人ではないとして争った。別の人物が関与したという主張も展開されている。これに対し検察側は、薬物、債務関係、事件直前の接触、事件後の状態など、複数の間接証拠を積み重ねた。この「間接証拠だけで死刑を言い渡せるのか」という問題が、裁判の大きな焦点になる。

2012年、鳥取地裁の裁判員裁判が死刑判決

2012年9月、鳥取地裁で裁判員裁判が始まった。そして2012年12月4日、鳥取地裁は上田に死刑を言い渡す。裁判所は、矢部さんと圓山さんの2件について上田の犯行と認定した。

量刑で重く見られたのは、2件が偶発的な殺人ではなかったことである。返済や支払いを求める債権者に対し、睡眠薬を服用させる。そして抵抗しにくい状態にしたうえで水中へ誘導する。債務を消すため、別々の機会に2人の生命を奪った。

地裁は、その計画性と冷酷さを極めて重く評価した。

2014年、広島高裁松江支部も死刑を維持

上田側は一審判決を不服として控訴した。控訴審でも、強盗殺人2件の犯人性が争われる。しかし2014年3月20日、広島高裁松江支部は控訴を棄却。一審の死刑判決を維持した。

上田側はさらに最高裁へ上告する。死刑事件でありながら、犯行そのものを直接示す決定的証拠が乏しい。最高裁が間接証拠をどう評価するのか、大きな注目が集まった。

2017年、最高裁が上告棄却|死刑判断を維持

2017年7月27日、最高裁第一小法廷は上田側の上告を棄却した。最高裁は、2件の強盗殺人について複数の事実を総合的に評価する。被害者が行方不明になった際に最後に接触していたこと。事件後まもなく、上田がぬれた状態で目撃されたこと。

さらに、遺体から検出された特徴的な組み合わせの睡眠薬を事前に入手していた、または入手可能だったこと。そして2人への債務があり、殺害する動機が認められること。これらを合わせれば、上田が犯人だと認定した一審判断は正当だと結論づけた。量刑についても、死刑を維持する。

なぜ2人殺害で死刑が維持されたのか

最高裁は、単に被害者が2人だから死刑としたわけではない。判決が重く見たのは、別々の機会に同じ目的で債権者を殺害したことだった。

  • 債務の弁済を免れるという利己的な動機
  • 睡眠薬を事前に用意した計画性
  • 意識もうろう状態の被害者を水中へ誘導したこと
  • 強固な殺意に基づく冷酷な犯行
  • 何の落ち度もない2人が死亡した結果
  • 遺族の厳しい処罰感情

最高裁は、上田に罰金前科しかないことなどを考慮しても、死刑はやむを得ないと判断した。上告棄却後の手続きを経て、2017年8月に死刑判決が確定する。

2023年1月14日、広島拘置所で窒息死

死刑確定から約5年半。上田の刑は執行されていなかった。そして2023年1月14日、収容先の広島拘置所で異変が起く。上田は居室で食事中にむせ、その後倒れた。職員が口内の食べ物を取り除くなどして救命措置を行い、外部の病院へ搬送する。

しかし死亡が確認された。死因は窒息。49歳だった。法務省の発表をもとにした報道では、遺書などはなく、食べ物を喉に詰まらせたことによる死亡とみられている。つまり上田は、死刑を執行されたのではない。

死刑確定者として収容中に死亡したのだ。

現在の状況|上田本人はすでに死亡

現在も、上田美由紀はすでに死亡している。そのため「現在も死刑囚として収容されている」「死刑執行を待っている」という説明は正確ではない。法的な経過は、次のように整理できる。

  • 2012年:鳥取地裁が死刑判決
  • 2014年:広島高裁松江支部が控訴棄却
  • 2017年:最高裁が上告棄却
  • 2017年:死刑確定
  • 2023年:広島拘置所収容中に窒息死

死刑確定判決が再審で取り消されたわけではない。一方、死刑執行が行われたわけでもない。本人死亡によって、刑の執行可能性が失われた。

「6人を殺害した事件」と誤解してはいけない

鳥取連続不審死事件には、現在も誤解されやすい点がある。もっとも大きいのが被害者数である。上田の周辺で6人の男性が死亡したことは広く報じられた。しかし刑事裁判で上田による強盗殺人と認定されたのは2人である。

残る死亡例まで一括して「上田が殺害した」と書くことは、確定判決の範囲を超える。同様に、上田が2件の強盗殺人について最後まで無罪を主張していたことも事実である。そのうえで司法は、間接証拠の積み重ねから犯人性を認め、三審を通じて死刑判断を維持した。

鳥取連続不審死事件が残したもの

この事件では、2人の男性が異なる時期、異なる場所で死亡した。一人は北栄町の日本海。もう一人は鳥取市内の川。表面だけを見れば、別々の水死である。

しかし捜査と裁判によって、2人はいずれも上田へ返済や支払いを求める立場だったことが明らかになる。さらに体内から睡眠薬成分が検出され、上田の行動や薬物の入手状況が積み重ねられた。直接の犯行目撃がない中で、どこまで間接証拠から殺人を認定できるのか。

その問題は最高裁まで争われた。一方、報道では「周辺で6人死亡」という強い数字が独り歩きした。過去の死亡例が一斉に掘り起こされ、上田は木嶋佳苗事件と並べて語られることも増えていく。けれど、事件記事で優先すべきなのは印象ではない。

司法が認定した2件の強盗殺人。上田が無罪を主張した事実。間接証拠を総合して犯人性を認めた最高裁。そして死刑確定後、執行前に本人が死亡した経過。鳥取連続不審死事件は、2人の生命が金銭債務を免れる目的で奪われた重大事件であると同時に、間接証拠による死刑判断と「不審死報道」のあり方を考えさせる事件でもある。

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