2017年8月から10月にかけて、神奈川県座間市のアパートで、15歳から26歳までの女性8人と男性1人が相次いで殺害された。白石隆浩は、SNSに自殺や孤独に関する投稿をしていた人へ連絡し、相談に乗るように装って自宅へ誘い入れた。女性被害者には性的暴行を加え、所持金を奪い、殺害後に遺体を損壊して室内の収納箱などへ隠していた。
2017年10月、行方不明になった女性の兄がSNS上のやり取りを追い、白石と接触していたことを警察へ伝えた。捜査員が白石宅を確認すると、室内から複数人の遺体の一部が発見され、短期間に9人が被害に遭った連続殺人が明らかになった。裁判では殺害行為そのものに大きな争いはなく、被害者が死亡を承諾していたかが主要な争点となった。東京地裁立川支部は9人全員について承諾を否定して死刑を言い渡し、白石が控訴を取り下げたため2021年に確定した。死刑は2025年6月27日に執行された。
| 事件名 | 座間9人殺害事件 |
|---|---|
| 事件期間 | 2017年8月~10月 |
| 発生場所 | 神奈川県座間市緑ケ丘のアパート |
| 被害 | 15~26歳の女性8人、男性1人が死亡 |
| 加害者 | 白石隆浩 |
| 現在の状況 | 死刑確定後、2025年6月27日に執行 |
SNS上の投稿を探し、相談相手を装って接触
白石は2017年夏、東京都内から座間市のアパートへ転居した。入居後まもなく、SNS上で自殺をほのめかしたり、生活への疲れや孤独を書き込んだりしている女性を探し、直接メッセージを送るようになった。自身も死にたいと考えているように装う場合や、実行を手伝えると持ちかける場合があり、やり取りの中で相手の住む地域、家族との関係、所持金などを把握した。
被害者の多くは、白石と会うまで面識がなかった。白石は駅などで待ち合わせ、自宅まで同行させた。裁判で示された経過によれば、被害者が部屋へ入った後、抵抗しにくい状況を作り、首を締めるなどして動きを封じた。自殺を望む人に寄り添った結果ではなく、性的欲求や金銭を得る目的で、弱っている人を選別して接近した行為だった。
最初の被害者は2017年8月下旬に殺害された。その後、短い間隔で被害が続き、9月には複数の女性が、10月には高校生を含む男女が白石宅へ連れて行かれた。被害者同士に関係はなく、SNS上で白石に見つけられたことが共通していた。
女性被害者への性的暴行と、発覚を避けるための殺害
女性8人について、白石は自宅で性的暴行を加えたうえ、発覚を免れる目的などから殺害した。被害者の中には、実際に会った後で帰宅を望んだ人や、白石の行動へ抵抗した人もいた。白石は犯行後に現金やキャッシュカードを奪い、口座から金を引き出すこともあった。
男性被害者は、先に行方不明になった女性を捜して白石宅を訪れた。白石は、この男性から警察や家族へ情報が伝わることを避けるため殺害した。自殺に関する投稿をきっかけにした女性への犯行と異なり、男性は被害女性の所在を確認しようとして巻き込まれていた。
遺体は室内で切断され、頭部などが収納箱に入れられた。その他の部分はごみとして投棄されたものもあり、発見時点で9人全員の遺体が完全な形で残っていたわけではない。白石は消臭剤や猫砂を使い、狭い部屋で発生する臭いを抑えようとしていた。
行方不明女性の兄が追ったSNSの履歴
事件が発覚する直接のきっかけは、2017年10月下旬に行方不明となった女性の家族による捜索だった。女性の兄は、妹のSNSアカウントを調べ、白石とみられる人物とのやり取りを確認した。さらにSNS上で情報提供を呼びかけ、白石と会ったことがある女性の協力を得た。
警視庁は行方不明者届を受け、白石の行動を追った。協力者の女性が白石と待ち合わせをした際、捜査員が尾行し、座間市のアパートを突き止めた。10月30日、警察官が白石宅へ入り、室内を確認すると、収納箱から人の頭部などが見つかった。
白石は当初から遺体があることを認め、捜査は身元確認と被害経過の解明へ移った。DNA型鑑定や歯の治療記録、所持品、家族からの資料などによって、発見された遺体が行方不明となっていた9人であることが順次確認された。
9人の身元確認と、約2か月間の犯行の再構成
被害者は神奈川、東京、埼玉、群馬、福島などに住んでいた。年齢は15歳から26歳で、高校生を含んでいた。警察は、白石の携帯電話、SNSのアカウント、交通系ICカード、防犯カメラ映像などを調べ、各被害者との接触から座間市の部屋へ入るまでの経路を確認した。
白石は、被害者ごとの犯行について詳細な供述をした。もっとも、供述だけで事件を組み立てるのではなく、通信履歴、駅や店舗の映像、金融機関の記録、室内から見つかった所持品などとの照合が行われた。約2か月で9人が殺害されたことから、個別の事件としてではなく、同じ接触方法と犯行場所を用いた連続犯罪として全体像が整理された。
検察は、女性8人への強盗・強制性交等殺人、男性1人への強盗殺人、9人の死体損壊と死体遺棄などで白石を起訴した。被害者が自殺を考えていたことは、殺害への同意を意味しないため、裁判では各人が白石に何を伝え、部屋でどのように行動したかが詳しく検討された。
殺害の承諾をめぐった裁判員裁判
2020年9月、東京地裁立川支部で裁判員裁判が始まった。白石は9人を殺害した事実を認めた一方、弁護側は、被害者が殺害されることを承諾していたとして、承諾殺人などの成立を主張した。承諾が認められれば、強盗・強制性交等殺人より法定刑が軽くなるため、量刑を左右する中心争点だった。
検察側は、被害者がSNS上で死にたいと書いていたとしても、白石と会うまでの行動や部屋での抵抗から、現実に殺されることへ同意していなかったと主張した。被害者の中には、家族や知人へ帰宅する予定を伝えていた人、将来の予定を立てていた人、白石の拘束に抵抗した人がいた。白石自身も、抵抗されたことや、承諾の有無を確かめずに犯行に及んだことを供述した。
2020年12月15日の判決は、9人の誰にも殺害への承諾はなかったと認定した。自殺願望を示す発言と、他人によって殺されることを具体的に承諾する意思は別であり、被害者の言動、抵抗、白石の認識を総合すれば、承諾殺人は成立しないと判断した。
死刑判決、控訴取り下げ、2025年の刑執行
東京地裁立川支部は、女性への性的暴行と金品奪取を伴う犯行が反復され、2か月ほどで9人が死亡した結果を重視した。白石が被害者の弱い立場を利用し、自宅へ誘い込む方法を繰り返したこと、犯行後に遺体を損壊・隠匿したことなどから、刑事責任は極めて重いとして死刑を言い渡した。
弁護人は控訴したが、白石本人が2020年12月に控訴を取り下げた。取り下げの効力が確定し、2021年1月に死刑判決が確定した。白石は東京拘置所に収容され、確定後も報道機関やノンフィクション作家との面会、書簡のやり取りが報じられた。
2025年6月27日、法務省は白石隆浩の死刑を執行した。執行時34歳だった。国内の死刑執行は、2022年7月の秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大以来、2年11か月ぶりだった。刑の執行によって白石に対する刑事手続は終わったが、SNS上で孤立した人へ接近する犯罪への対策や、行方不明者の情報を早期に結び付ける仕組みは、事件後も検討が続いている。
新宿のスカウト経験と座間市の部屋の準備
白石は事件前、東京都新宿区の繁華街で、風俗店へ女性を紹介するスカウトとして働いていた。女性へ声をかけ、生活状況や金銭面の事情を聞き出し、店との間を取り持つ仕事を通じて、初対面の相手との距離を縮める話し方を身に付けていた。2017年には職業安定法違反で逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた後、実家を離れた。
座間市のアパートは2017年8月に契約した。白石はSNSで知り合った女性に契約手続を手伝わせ、入居後にはロープ、のこぎり、収納箱、消臭用品などをそろえた。物品の中には一般の生活にも使えるものが含まれるが、連続する犯行では被害者の拘束、遺体の損壊、室内での隠匿に使用された。
白石は一人目の被害者を殺害した後も同じアカウントや接触方法を使い続けた。被害者から得た現金の一部を生活費や次の接触に使い、室内に遺体を残した状態で別の被害者を招き入れていた。犯行間隔が短くなっていったことは、突発的な一件ではなく、相手を探し、誘い、殺害し、証拠を隠す行動が反復されていたことを示している。
被害者のうち何人かは、白石に会う直前まで家族や友人と連絡を取っていた。連絡が途絶えた後、それぞれの地域で行方不明者届が出されていたが、当初は共通する相手や場所が分からなかった。最後の女性の兄がSNSの履歴を調べたことで、別々に見えていた失踪が座間市の一室へつながった。
被害者の捜索では、家族が持つ写真や歯科診療の記録が身元確認に使われた。室内からは携帯電話、バッグ、身分証明書なども見つかったが、白石が処分した物もあり、遺体の鑑定と通信・移動記録を組み合わせる必要があった。捜査本部は各地の警察から行方不明者情報を集め、家族へ経過を説明しながら9人の特定を進めた。
裁判では、被害者一人ひとりについてSNSの発言を切り取るのではなく、会う前後の生活、白石との会話、室内での抵抗、白石自身の認識を検討した。この審理は、自殺願望を口にした人の意思を第三者が都合よく解釈し、生命を奪うことは許されないという刑事判断を具体的に示すものとなった。
死刑執行を発表した法務省は、犯罪事実として、9人の首を締めるなどして殺害し、所持金を奪い、遺体を切断して箱に隠すとともに一部を投棄した経過を示した。これは確定判決で認定された行為を基礎にした説明であり、執行時点でも事件の法的評価に変更はなかった。
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