2017年10月、東京都八王子市の23歳女性が行方不明になった。女性の兄がSNSで情報を求め、白石隆浩と面識のある女性が警視庁の捜査に協力したことで、捜査員は神奈川県座間市のアパートへたどり着く。室内から見つかったのは、当時15歳から26歳までの女性8人と男性1人、計9人の遺体だった。
白石は2017年8月から約2か月の間に、SNSで自殺願望を示す投稿をした人へ接触し、自宅へ誘い出した。東京地裁立川支部は2020年、金銭や性的欲求を満たす目的で9人を殺害したと認定し、被害者側の「承諾」を全員について否定した。死刑判決後、弁護人は控訴したが、白石本人が取り下げ、2021年1月に死刑が確定。2025年6月27日、東京拘置所で刑が執行された。
| 事件期間 | 2017年8月から10月 |
|---|---|
| 場所 | 神奈川県座間市のアパート |
| 被害者 | 当時15~26歳の女性8人、男性1人 |
| 被告人 | 白石隆浩 |
| 主な罪名 | 強盗・強制性交等殺人、強盗殺人、死体損壊、死体遺棄 |
| 初公判 | 2020年9月30日、東京地裁立川支部 |
| 一審判決 | 2020年12月15日、死刑 |
| 控訴 | 弁護人が控訴後、白石本人が2020年12月21日に取下げ |
| 死刑確定 | 2021年1月5日 |
| 死刑執行 | 2025年6月27日、東京拘置所 |
最後の被害者を捜す兄のSNS投稿が捜査を動かした
事件発覚の入口は、9人目の被害者となった女性の行方捜査だった。女性の兄は2017年10月24日に警視庁へ捜索願を出すとともに、妹がSNSで接触した人物について情報提供を呼びかけた。その投稿を見た女性が、白石とやり取りをした経験があると名乗り出た。
警視庁はこの女性に協力を求め、白石を待ち合わせ場所へ誘い出した。捜査員が白石を尾行して座間市のアパートを特定し、室内を確認したことで事件が発覚する。複数の遺体が確認され、白石はまず死体遺棄容疑で逮捕された。
SNS上の「死にたい」を殺害への同意と同一視できるか
裁判で最大の争点となったのは、9人が白石に殺されることを承諾していたかだった。弁護側は、被害者が自殺願望を示し、自ら白石に会いに行ったことなどから承諾殺人の成立を主張した。承諾殺人であれば、起訴された通常の殺人より法定刑が軽く、死刑を選択できない。
これに対し検察側は、被害者が「死にたい」と考えていたことと、白石に殺害されることへ同意したことは別だと主張した。公判では被害者が殺害直前まで生きる方向へ気持ちを変えたことを示すメッセージや、殺害時の抵抗状況などが検討された。白石本人も、公判では被害者に明確な殺害承諾がなかったという趣旨の供述をしており、弁護側の主張と食い違った。
東京地裁は9人全員について殺害への承諾を否定
2020年12月15日、東京地裁立川支部は9人の被害者はいずれも殺害を承諾していなかったと判断した。自殺願望の存在だけで第三者による殺害への同意を認めず、それぞれのやり取りや行動を個別に評価した結論だった。
判決は、白石が被害者の心理状態につけ込み、信頼を得て自宅へ誘ったうえで、自己の金銭的・性的欲求を満たすため犯行に及んだと認定した。女性8人に対する強盗・強制性交等殺人、男性1人に対する強盗殺人など、複数の重大犯罪が約2か月に集中している点も量刑上重く評価された。
「自殺を手助けした事件」ではなく、強盗・性犯罪を伴う殺人として裁かれた
事件はSNS上の自殺投稿をきっかけに被害者と接触したため、「自殺志願者を集めた事件」と説明されることがある。しかし確定した一審判決が認定したのは、自殺幇助を目的とした行為ではない。白石は女性被害者に性的暴行を加え、金品を奪うなどしたとして強盗・強制性交等殺人に問われた。
男性被害者についても、消息を絶った知人女性を捜して白石と接触した後に殺害されたとされ、強盗殺人が認定された。9人すべてを「自殺願望を持つ人」という一括した説明で捉えると、個々の被害経過と裁判上の罪名が見えにくくなる。
約2か月の間に被害が9人へ拡大した
最初の犯行は2017年8月、最後の犯行は同年10月とされる。白石は複数のSNSアカウントを使い、自殺や孤独に関する投稿をする若者へ接触した。被害者は15歳から26歳までで、女子高校生も含まれていた。
公判では、白石が相手の状況を聞き出し、自らも同じような悩みを持つ人物であるかのように振る舞って関係を作った経過が示された。事件の特徴はSNSという手段そのものより、助けや理解を求める相手の状態を、被害へ結び付けるために利用した点にある。
責任能力も争われたが、完全責任能力が認定された
弁護側は精神鑑定の内容を問題とし、再鑑定の必要性なども主張した。公判では鑑定医の証言が行われ、白石の精神状態と、連続した犯行を理解・制御する能力が検討された。
東京地裁立川支部は、白石には犯行時に完全な刑事責任能力があったと判断した。被害者への接触方法、犯行の反復、発覚を避けるための行動なども、目的に沿って行動できていたことを示す事情として扱われた。
弁護人の控訴を白石本人が取り下げた
死刑判決の3日後、弁護人は東京高裁へ控訴した。ところが白石は2020年12月21日、その控訴を自ら取り下げた。本人は判決前から、死刑が言い渡されても控訴しない意向を報道機関に示していた。
このため高裁で一審の事実認定や量刑を審理する判決は出されなかった。控訴期限が過ぎた2021年1月5日、一審の死刑判決が確定した。座間事件の死刑は、最高裁まで争われて確定したものではない。
遺族が匿名報道を求めた中で9人の実名と顔写真が報じられた
被害者の身元判明後、多くの報道機関は9人の実名や顔写真を報じた。一方、東京弁護士会の2017年12月の声明によれば、遺族の多くは警視庁を通じ、実名や顔写真を報道しないよう要請していた。事件では自殺に関する投稿や性被害など、極めてセンシティブな事情も報道対象となった。
本記事では、事件理解に必要な年齢層と被害者数を示す一方、遺族の意向を踏まえ、被害者9人の氏名を列挙しない。被害者を匿名にすることは人数だけに置き換えることではなく、9人それぞれが白石の犯罪によって生命を奪われた事実を損なわず記録するための扱いである。
2025年6月27日、白石隆浩の死刑が執行
法務省は2025年6月27日、東京拘置所で白石隆浩の死刑を執行した。法務大臣は同日の臨時記者会見で、約2か月の間に9人を殺害し、所持金を奪うなどした犯罪事実を説明した。白石の死刑確定から執行までは約4年5か月だった。
この執行により、白石本人に対する刑事手続は終了した。事件の司法判断として残る中心は、被害者の自殺願望と殺害承諾を明確に分け、9人全員に承諾がなかったと認定した2020年の一審判決である。
参考資料・出典
- 法務省「法務大臣臨時記者会見の概要(令和7年6月27日)」
- 共同通信取材班「座間9人殺害事件裁判」集英社新書プラス
- 日本テレビ「座間9人殺害事件 ある女性の捜査協力とその後」
- 東京弁護士会「犯罪被害者の実名報道に対する会長声明」
- 東京新聞 2020年12月15日号外「座間9人殺害 死刑判決」
- TBS NEWS DIG「弁護側が判決を不服として控訴」
- テレ東BIZ「座間事件 白石被告の死刑判決が確定」
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