2022年6月、広島県安芸郡海田町の事務所で、自営業の竹内義博さん(71)が複数人に拘束され、暴行を受けた。現金11万円が奪われ、竹内さんはその後姿を消す。遺体は現在も発見されていないが、刑事裁判では暴行によって死亡したと認定された。
事件には男女7人が関与し、2023年3月、今泉俊太と門美帆子の2人が強盗致死罪など、ほか5人が強盗罪などで起訴された。門には2024年7月に懲役11年、今泉には同年10月に無期懲役が言い渡される。今泉は控訴したが、広島高裁は2025年7月22日に棄却し、一審の無期懲役を維持した。
| 発生時期 | 2022年6月 |
|---|---|
| 発生場所 | 広島県安芸郡海田町の事務所 |
| 被害者 | 竹内義博さん(当時71歳) |
| 被害 | 現金11万円を奪われ、暴行後に死亡したと認定。遺体は未発見 |
| 起訴 | 今泉俊太・門美帆子を強盗致死など、ほか5人を強盗などで起訴 |
| 門美帆子 | 2024年7月11日、広島地裁が懲役11年 |
| 今泉俊太 一審 | 2024年10月10日、広島地裁が無期懲役 |
| 今泉俊太 控訴審 | 2025年7月22日、広島高裁が控訴棄却・無期懲役維持 |
発端は投資資金の回収をめぐるトラブルだった
竹内さんには、複数の人物から預かった投資資金をめぐる金銭トラブルがあった。返金を求める側にいた門美帆子は、資金を取り戻すため、回収を担う人物らと接触する。今泉俊太らが広島へ入り、竹内さんを事務所へ連れていく流れが作られた。
裁判では、竹内さんが被告人らから多額の金をだまし取っていたことも犯行の背景として認定された。ただし、その事情が暴行や強盗を正当化するものではなく、量刑判断で背景事情の一つとして考慮された。
事務所で拘束され、返金を迫る暴行が続いた
2022年6月、竹内さんは海田町の事務所に監禁され、投資資金の返還を迫られた。起訴内容では、脅迫と暴行が繰り返され、抵抗が難しい状態になった竹内さんから現金11万円が奪われたとされた。
今泉の裁判では、暴行の目的が金を奪うためだったのか、取引履歴を開示させるためだったのかも争われた。強盗致死が成立するには、暴行・脅迫と財物取得の結び付き、さらに暴行と死亡の因果関係を認定する必要があった。
竹内義博さんは姿を消し、遺体は見つからなかった
事務所での暴行後、竹内さんは公の場から姿を消した。遺体が見つからないため、通常の殺人・強盗致死事件で用いられる司法解剖による死因の特定はできない。捜査と裁判では、暴行の音声や共犯者の供述、竹内さんの状態、事件後の搬送に関する証拠などが積み上げられた。
「遺体がない」ことは直ちに死亡を認定できないことを意味しない。裁判所は、個々の証拠を組み合わせ、竹内さんが暴行後に死亡したか、その死亡に被告人らの行為が結び付くかを判断した。
2023年2月、男女7人を強盗致死容疑で再逮捕
捜査は監禁や死体遺棄など複数の容疑を経て進んだ。2023年2月13日、広島県警は男女7人を強盗致死容疑で再逮捕した。事件から約8か月後、遺体が発見されないまま、死亡を前提とした本格的な立件へ進んだ形だった。
3月6日、広島地検は今泉俊太と門美帆子を強盗致死罪で起訴し、ほか5人は強盗罪などで起訴した。7人全員が同じ罪名で公判を受けたわけではない。死亡結果について刑事責任を問われた中心人物と、現金を奪う行為などについて責任を問われた人物に分かれた。
共犯者ごとに役割と刑事責任が審理された
7人の裁判は一括して一つの判決になったのではなく、それぞれの関与に応じて進んだ。現場での暴行、監禁、金銭の取得、移動や遺体の処理への関与などが個別に検討され、先に判決を受けた被告人には有期懲役が言い渡された。
このため、事件全体を「7人全員が強盗致死で有罪」とまとめることはできない。2023年3月の起訴時点で、今泉と門の2人が強盗致死、ほか5人は強盗などの罪に分けられている。
門美帆子の裁判では「共謀」が争点となった
門の裁判では、ほかの被告人と暴行を加えて現金を奪う意思が通じ合っていたかが争われた。弁護側は強盗の共謀を否定し、無罪を主張した。検察側は、門が返金を求める立場で現場の暴力を黙認するなどし、犯行を共同していたと主張した。
2024年7月11日、広島地裁は、暴行して現金を奪う意思が暗黙のうちに通じていたと推認できるとして共謀を認定した。暴行は死亡する危険性のある一方的で執拗なものだったと評価し、求刑懲役14年に対して懲役11年を言い渡した。
今泉俊太は強盗致死と死体遺棄の一部を争った
今泉の裁判では、監禁に関する事実の一部を争わない一方、強盗致死と死体遺棄について起訴内容に誤りがあると主張した。弁護側は、暴行の目的は取引履歴を開示させるためで、財物を奪うための暴行ではなかったなどと主張した。
検察側は、投資資金回収のため今泉が暴行の中心を担い、現金を奪った後も暴行を続けた結果、竹内さんが死亡したと構成した。遺体がない中で、暴行時の音声や共犯者の供述をどこまで信用できるかが死亡認定の重要な部分になった。
広島地裁は多数回の暴行と死亡との因果関係を認定
2024年10月10日、広島地裁は今泉に求刑どおり無期懲役を言い渡した。判決は、胸部などへ相当な力を加える暴行が多数回に及んだことを認定し、竹内さんを死亡させた責任はほぼ全面的に今泉が負うべきだと評価した。
遺体がないため死因を解剖で特定することはできなかったが、暴行の内容や竹内さんの状態、事件後の行動などから死亡を認定した。事件の呼称にある「遺体なき」は、死亡が認定されていないという意味ではなく、物理的に遺体が発見されていないことを指す。
一審無期懲役に対し、今泉側が即日控訴
今泉側は一審判決当日に控訴した。2025年6月3日の広島高裁初公判では、一審に事実誤認があり、量刑も重すぎるとして判決の破棄を求めた。検察側は控訴棄却を主張し、審理は即日結審した。
控訴審で中心となったのは、一審が認定した暴行の内容と死亡結果に不合理があるか、無期懲役という量刑が重すぎるかだった。新たに事件全体を最初から審理し直すのではなく、一審判決に是正すべき誤りがあるかが審査された。
2025年7月22日、広島高裁も無期懲役を維持
2025年7月22日、広島高裁は今泉側の控訴を棄却し、無期懲役とした一審判決を維持した。高裁は強度の暴行が多数回続いたことや、事件後も竹内さんの遺体が発見されていないことなどを重く評価し、事実認定と量刑を変更する理由はないとした。
公開されている裁判経過で確実にたどれるのは、この広島高裁判決までである。少なくとも2025年7月22日時点で、今泉に対する一審の無期懲役は二審でも維持された。
判決後も竹内義博さんの遺体は見つかっていない
刑事裁判では竹内さんの死亡と被告人らの刑事責任が認定された一方、遺体そのものは発見されていない。判決によって死亡の法的評価が示されても、遺体の所在という事実上の問題は別に残る。
この事件では、7人の被告人が同じ罪で裁かれたわけではないこと、遺体がないまま死亡と因果関係が認定されたこと、そして主導的立場とされた今泉について二審でも無期懲役が維持されたことが、裁判経過を理解する要点となる。
強盗致死で起訴されなかった共犯者にも実刑判決
今泉と門以外の被告人についても、監禁や強盗、死体遺棄への関与が個別に裁かれた。債権回収役の一人は強盗の共謀を否定したが、広島地裁は、竹内さんが暴行されて抵抗できない状態にあると認識しながら金銭回収を続けたとして、2024年3月に懲役6年の実刑判決を言い渡した。
この判決からも、事件の刑事責任が「暴行を直接加えたか」だけで分けられていないことが分かる。暴行を利用して金を奪う意思が共通していたか、監禁や遺体の処理にどこまで加わったかによって、成立する罪と刑が変わった。
遺体がない裁判で、音声と共犯者供述が重みを持った
今泉の裁判では、司法解剖という直接的な死因資料が存在しないため、事件時の音声記録や共犯者の供述が重要な証拠となった。暴行の回数や強さ、暴行後の竹内さんの状態、その後の搬送状況をつなぎ、死亡したことと暴行との因果関係が認定された。
遺体未発見の事件で死亡結果を認定するには、単に行方不明になったという事実だけでは足りない。この事件では、事務所内で何が起きたかを示す複数の証拠を積み重ねた結果、強盗致死の死亡結果が認められた。
参考資料・出典
- ライブドアニュース「“遺体なき強盗致死”事件 男女7人を起訴」
- 日テレNEWS NNN「門美帆子被告に懲役11年の判決」
- 日テレNEWS NNN「今泉俊太被告 初公判で起訴内容を一部否認」
- 広テレ!NEWS NNN「今泉俊太被告に無期懲役の判決」
- FNNプライムオンライン「今泉俊太被告 控訴審初公判」
- ライブドアニュース「広島高裁が今泉俊太被告の控訴棄却」
- ライブドアニュース「海田町“遺体なき強盗致死” 債権回収役の男に懲役6年」
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
