2007年11月1日、埼玉県川口市のアパートで、会社員の渡辺沙織さん(26歳)が死亡しているのが見つかった。室内には強盗の痕跡があり、渡辺さんのキャッシュカードを使って現金を引き出そうとする男が防犯カメラに映っていた。
捜査線上に浮かんだのは清田龍也だった。調べが進むと、渡辺さんの事件だけではなく、2005年から同じ川口市内で繰り返されていた住居侵入、強盗強姦、窃盗、強盗未遂がつながった。さいたま地裁は2008年11月、約2年8か月の間に犯罪性向が深まったと指摘し、清田を無期懲役とした。
| 犯行期間 | 2005年2月11日~2007年10月30日 |
|---|---|
| 主な地域 | 埼玉県川口市 |
| 被告人 | 清田龍也 |
| 死亡被害者 | 渡辺沙織さん(26歳) |
| 主な罪名 | 住居侵入、強盗強姦、窃盗、強盗未遂、強盗殺人 |
| 一審 | 2008年11月12日 さいたま地裁 |
| 判決 | 無期懲役 |
| 検察求刑 | 無期懲役 |
| 主な争点 | 渡辺さん殺害時の殺意、責任能力、量刑 |
2005年2月、無施錠の窓から22歳女性の部屋へ侵入
判決で最初の犯行とされたのは2005年2月11日だった。清田は金品を盗む目的で川口市内のアパートへ向かい、無施錠の掃き出し窓から22歳女性の部屋へ入った。
室内で就寝中の女性に気付くと、首を押さえ、「騒いだら殺すぞ」と脅した。衣類やマフラーで目と口をふさぎ、手足を縛って現金約1000円を奪ったうえ、性的暴行を加えた。女性は頸部に全治約1週間の傷害を負った。
2006年9月、盗んだ鍵を使って別の住居へ――犯行経験が次の侵入に使われた
約1年7か月後の2006年9月22日、清田は別のアパートへ侵入し、現金、財布、キャッシュカードなどを盗んだ。ここで手に入れたバッグには、別の女性宅の鍵と住所が分かる物が入っていた。
2日後、清田はその住所を探し当て、インターホンを鳴らして留守を確かめたうえで盗んだ鍵を使って侵入した。ところが51歳女性に発見され、折り畳みナイフを示して「金を出せ」と要求。女性が両手首をつかむなどして抵抗したため、強盗は未遂に終わった。
2007年7月、同じアパートで28歳女性を襲い、約95万円をATMから引き出した
2007年7月26日夜、清田は川口市内のアパートへ無施錠の窓から侵入し、浴室から出てきた28歳女性を襲った。「殺されたくなかったら抵抗するな」と脅し、目隠しと猿ぐつわをしたうえで手足を縛った。
現金1000円とキャッシュカード5枚を奪うと、暗証番号を聞き出し、近くのコンビニへ向かった。防犯カメラに顔が映らないよう変装し、2回の引き出しで合計94万5000円を盗んだ。その後、女性宅へ戻り、拘束された女性に性的暴行を加えた。
最初の犯行では謝罪、2007年には変装と証拠隠滅――裁判所が見た悪質化
判決は、一連の事件で清田の行動が変化した点を重く見た。2005年の最初の犯行後には女性へ泣きながら謝罪し、2006年の強盗未遂でも被害者に説教されて土下座したという。
しかし2007年7月の事件では、覆面用の袋を準備し、ATMでは顔を隠し、犯行後には発覚を防ぐための工作を行った。裁判所は、当初残っていた罪悪感が薄れ、強盗強姦、強盗未遂を重ねた末に、人命を奪う強盗殺人へ至ったと評価している。
10月30日、渡辺沙織さんの帰宅前に室内へ入り待ち伏せ
2007年10月30日午後6時45分ごろ、清田は渡辺沙織さんが住む部屋へ無施錠の窓から侵入した。室内を物色していた午後7時15分ごろ、渡辺さんが帰宅。清田はカッターナイフを示し、「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ」と脅した。
衣類で目隠しをし、タオルで口をふさぎ、ストッキングで両手首と両足首を縛った。さらに延長コードなどで渡辺さんをトイレの便器へ縛り付け、現金約8000円、キャッシュカード、クレジットカード、運転免許証などを奪った。
首だけではなく上胸部まで強く圧迫――裁判所は確定的殺意を認定
強盗の後、清田は仰向けになった渡辺さんに馬乗りになり、頸部から上胸部を両手で強く押し続けた。判決によると、遺体には頸部から両鎖骨付近まで広い圧迫痕があり、輪状軟骨も骨折していた。
死因は、頸部から上胸部への強い圧迫による窒息。裁判所は、死亡まで少なくとも数分から10分程度を要する状況で、清田が渡辺さんが動かなくなるまで強圧し続けたと認定した。身体の重要部位へ長時間強い力を加えたことから、死亡結果を認識・認容していたとして確定的殺意を認めた。
弁護側は「声を出させないため」と主張――殺意が最大の争点になった
弁護側は、清田が渡辺さんの声を止めるため首周辺を押さえただけで、殺す意図はなかったと主張した。清田自身も、意図的に殺そうと思ったことはないという趣旨の供述をした。
裁判所は、積極的に「殺してやろう」と考えていたことと、刑法上の殺意は同じではないと整理した。渡辺さんが激しく抵抗して大声を上げたことで発覚を恐れ、清田が狼狽し、怒りを抱いた経過を踏まえ、衝動的に殺意を抱く動機もあったと判断した。
捜査段階の供述と犯行再現――力の強さと時間の認識を裁判所が検討
清田は公判では、どの程度強く、どれほど長く押さえたか記憶が明確でないと述べた。一方、捜査段階では「首を強い力で絞め続けた」という内容の供述をし、2008年1月の犯行再現でも頸部を強く押した状況を示していた。
判決は、供述調書に渡辺さんの抵抗する手から徐々に力が抜けていった様子など具体的な内容が含まれていること、取調べ録画から調書確認の状況も把握できることを挙げ、捜査段階の供述を信用できるとした。
借金とパチンコ――裁判所は責任能力の低下を認めなかった
弁護側は、清田がヤミ金融からの返済要求や多数の借金に追われ、ギャンブル依存症の影響で判断・制御能力が低下していたと主張した。
裁判所はこれを退けた。犯行では侵入先を選び、手足を拘束し、変装してATMを利用し、証拠隠滅まで行っている。意識障害、幻覚、妄想なども見られず、合目的的に行動していたとして完全責任能力を認めた。
借金は約460万円まで膨らんだ――金を作るため犯行を繰り返した
判決によると、清田は2003年ごろから消費者金融で借金を始め、パチンコで増やして返済しようとしてさらに借金を重ねた。2005年1月には約460万円に達し、金策が尽きたことが最初の侵入・強盗強姦につながった。
民事再生で借金が圧縮された時期もあったが、元妻に隠していたヤミ金融への返済や、生活費を用意するため再び借金とパチンコを繰り返した。2007年10月には、元妻へ渡すはずの給与をパチンコで使い、早急に金を手に入れようとして渡辺さん宅へ侵入した。
2008年11月、無期懲役――検察の求刑も無期懲役だった
2008年11月12日、さいたま地裁は清田を無期懲役に処した。判決原文の末尾には「求刑 無期懲役」と記載されている。検察が死刑を求め、それを裁判所が回避した事件ではない。
裁判所は、一連の犯行が計画的・悪質になり、約2年8か月で犯罪性向が顕著に深まったこと、渡辺さんを殺害した結果が重大であることを厳しく評価した。その一方、殺害された被害者は1人で、殺害そのものには事前の計画性がなかったこと、前科前歴がないこと、反省の態度や更生可能性も考慮した。
死刑を選ばなかった理由まで、判決は明確に書き込んでいる
判決は、清田の刑事責任を「極めて重大」としたうえで、死刑の適用は慎重でなければならないと述べた。そして、渡辺さん殺害が抵抗に狼狽した末の場当たり的な犯行だったことなどから、死刑に処すことには「躊躇を覚えざるを得ない」とした。
一方で、有期懲役にとどめる事案でもないと判断した。侵入、強盗、性暴力、窃盗を繰り返し、最後には一人の命を奪った2年8か月。無期懲役は、最後の事件だけではなく、その前に積み重なっていた犯行全体を見た量刑だった。
参考資料・出典
- 裁判所「平成19(わ)1951 住居侵入,強盗強姦,窃盗,強盗殺人,強盗未遂被告事件」判決全文
- 裁判所「裁判例検索」平成19(わ)1951
- 武蔵大学学術機関リポジトリ「テレビニュースに表象される女性被害者」
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