フィリピンを拠点に活動した日本人犯罪集団「JPドラゴン」をめぐっては、警察官などを装う電話で高齢者を信用させ、現金やキャッシュカードを奪う特殊詐欺事件の捜査が続いている。福岡県警は、2019年以降に国内20都府県の約250人が被害に遭い、被害総額は約9億円に上るとみて組織の実態解明を進めている。
2025年から2026年にかけて、フィリピン当局に拘束された関係者が複数回に分けて日本へ送還され、福岡地裁では被告人ごとに公判が始まった。組織全体の被害額と、各被告人が起訴された個別事件の被害額は同じではない。2026年8月時点でも複数の被告人について審理が続き、認否や役割の主張も分かれている。
| 事件名 | フィリピン特殊詐欺「JPドラゴン」事件 |
|---|---|
| 主な時期 | 2019年以降 |
| 主な拠点 | フィリピン |
| 被害地域 | 国内20都府県 |
| 被害規模 | 福岡県警把握で約250人・約9億円 |
| 主な手口 | 警察官等を装う電話、現金詐取、キャッシュカード窃取 |
| 主な捜査 | フィリピンからの送還後に逮捕・再逮捕 |
| 2026年8月 | 複数の公判が継続中 |
海外の「かけ子」と国内の実行役をつないだ特殊詐欺
起訴された事件では、フィリピン側から高齢者へ電話をかけ、警察官などになりすまして「偽札が流通している」「口座が犯罪に使われている」などと不安をあおったとされる。電話を信じた被害者に現金やキャッシュカードを準備させ、国内の実行役が自宅を訪れて受け取る流れだった。
キャッシュカードを封筒に入れさせ、隙を見て別のカードとすり替える手口も使われた。暗証番号を聞き出した後、ATMから現金を引き出すため、電話役、受け子、出し子、回収役など複数の役割が連動する。海外にいる人物が被害者宅へ直接行かなくても、電話や指示を通じてどこまで犯行を共同したかが裁判で問われる。
検察側は、回収された現金の一部が送金や運搬によってフィリピン側へ持ち込まれたと主張している。組織内で誰が電話役を管理し、国内実行役を手配し、被害金を受け取ったのかは、個々の被告人の刑事責任と量刑を判断するうえで重要な争点となる。
約9億円は組織全体の捜査上の被害把握
福岡県警が示す約9億円は、JPドラゴンが関与したとみられる一連の特殊詐欺について捜査で把握した規模である。2026年4月の送還時点では、2019年以降、20都府県に住む高齢者ら約250人が被害に遭ったと説明された。
一方、刑事裁判では被告人ごとに特定の被害者、日時、電話、カード窃取、現金引き出しなどが起訴事実として示される。約9億円の全額が、一人の被告人の起訴額になっているわけではない。参加時期や担当した班、離脱した時期が違えば、成立する共謀の範囲も個別に判断される。
このため、組織名だけを基準に全員を同じ立場で扱うことはできない。公判では、通信履歴、送金記録、国内の実行役との連絡、押収された端末などをもとに、それぞれがどの犯行へ関与したかが審理されている。
2025年9月の送還後、三本竹朗被告らの公判が始まる
JPドラゴンをめぐっては、2025年9月にもフィリピンから関係者が日本へ移送され、福岡県警が逮捕した。2026年1月26日、福岡地裁で三本竹朗被告ら5人の初公判が開かれ、5人のうち4人が起訴内容を認めた。
起訴状などによると、5人は実行役らと共謀し、高齢女性宅へ警察官を装う電話をかけてキャッシュカードを盗み、現金計150万円を引き出した罪などに問われた。検察側は、三本竹被告が「かけ子」の取りまとめ役、他の4人が電話をかける役だったと主張した。
認否を認めた被告人についても、量刑を決めるには役割、犯行件数、得た報酬、被害弁償などの審理が必要になる。グループへの所属と個別事件への刑事責任は分けて判断されるため、公判は被告人ごとに進行している。
受け子の勧誘役・天野翼被告には懲役4年
先に送還された関係者のうち、受け子役を勧誘していた天野翼被告については判決が出ている。2026年4月27日、福岡地裁は詐欺と窃盗の罪で懲役4年を言い渡した。求刑は懲役5年だった。
天野被告は2022年、他の実行役らと共謀し、岐阜県内の高齢女性らから現金をだまし取り、キャッシュカードを使って現金を引き出したとされた。裁判所は、実行役の勧誘が特殊詐欺を成立させるために不可欠な役割だったとして、刑事責任を重く評価した。
この判決はJPドラゴンに関係する一人の被告人についての判断であり、組織全体に対する一括した判決ではない。2026年には、同じ名称で報じられる複数の公判が別々に進んでいる。
2026年4月、別の男女5人をフィリピンから送還
2026年4月7日には、岩本三矢子、大澤歩、原田訓睦、有馬伸行、矢野裕也の5容疑者がフィリピンから成田空港へ到着し、福岡県警に逮捕された。5人は2025年10月に現地当局に拘束されていた。
逮捕容疑は、2022年に他の人物と共謀し、岐阜市の高齢女性へ警察官を装う電話をかけ、現金140万円をだまし取ったほか、キャッシュカードを盗んだというものだった。県警は5人を「かけ子」や国内実行役への指示役とみて捜査を進めた。
4月の送還は、前年9月の送還組とは別の手続だった。フィリピンでの拘束時期や日本側の逮捕状が異なるため、同じグループの関係者でも日本へ移される時期と起訴の時期はそろっていない。
兵庫県の被害事件で5人を再逮捕、回収役も新たに逮捕
福岡県警は6月10日、4月に送還された5人を再逮捕し、新たに現金の回収役とみられる24歳の男も逮捕した。再逮捕容疑では、2024年6月、兵庫県芦屋市の当時84歳の女性に警察官を装って電話し、現金553万円をだまし取ったほか、キャッシュカードを盗んでATMから300万円を引き出したとされた。
新たに逮捕された男は、公園のトイレに隠し置かれていた被害金の一部を回収した疑いが持たれた。海外の電話拠点だけでなく、日本国内で現金を受け取り、運び、別の人物へ渡す役割まで捜査対象が広がっている。
2026年7月16日、別の関係者5人の初公判
2026年7月16日には、福岡地裁で別の関係者5人の初公判が開かれた。2023年の窃盗事件が審理され、1人の弁護側は起訴内容を認め、1人は関与を否認し、残る3人は認否を留保した。
起訴状によると、5人は三本竹朗被告らと共謀し、2023年2月14日、大阪府岸和田市の高齢女性宅で警察官になりすましてキャッシュカード5枚を盗み、ATMから計約78万円を引き出したなどとされた。福岡県警は、この5人が事件当時JPドラゴンに所属し、同年2月から7月ごろに順次離脱して別グループを結成したとみている。
この公判では認否が分かれているため、被告人ごとに共謀の有無や役割を証拠で確認する必要がある。送還された関係者全員について一つの結論が出た段階ではなく、2026年8月時点でも複数の刑事手続が並行している。
2026年8月時点|送還と公判は終結していない
JPドラゴン事件の現在地は、「約9億円の被害が一つの裁判で確定した」という状況ではない。警察は組織全体の被害規模を約9億円とみている一方、裁判所では特定の被害事件について、被告人ごとの関与を審理している。
一部ではすでに有罪判決が出ているが、別の被告人については初公判や証拠調べの段階にある。フィリピン拠点の電話役、国内の受け子や回収役、被害金の移動を結ぶ証拠がどこまで立証されるかによって、今後も判決内容は被告人ごとに分かれることになる。
送還時期が違えば、逮捕・起訴・公判も別々に進む
日本側が逮捕状を取得していても、フィリピン国内で日本の捜査員がそのまま身柄を拘束できるわけではない。現地当局による拘束や退去手続を経て日本へ移送され、航空機内や到着後に日本側が逮捕する。現地での手続や拘束時期が異なるため、関係者は一度に全員が送還されたわけではなかった。
2025年9月に送還されたグループと、2026年4月に送還された5人では、逮捕された事件も公判日程も異なる。先に送還された人物の一部は2026年1月に初公判を迎え、天野翼被告には4月に判決が出た。一方、4月送還組は6月に別事件で再逮捕され、その後の起訴・公判へ進んだ。
同じJPドラゴンの関係者として報じられていても、起訴状に記載された被害者や犯行日が違えば別の刑事事件として審理される。さらに、関係者が途中でグループから離脱し、別の集団を作ったとされる時期があれば、その前後でどこまで共謀が続いていたかも個別に判断される。
電話役だけでなく、勧誘・回収・資金移動も捜査対象
特殊詐欺は、被害者へ電話をかける人物だけでは成立しない。被害者宅へ向かう受け子を集める者、現金やカードを回収する者、ATMから引き出す者、被害金を別の人物へ渡す者が必要になる。天野被告への判決では、受け子の勧誘が犯行に不可欠な役割として評価された。
6月の再逮捕では、公園のトイレに隠された現金の一部を回収した疑いで新たな人物も逮捕された。海外拠点の摘発だけではなく、国内で被害金を受け渡す経路まで追うことで、電話をかける側と日本国内の実行役をつなぐ構造が捜査されている。
2026年8月時点で公判が続く事件では、被告人が起訴内容を認めているケースだけでなく、関与を否認したり認否を留保したりするケースもある。最終的な刑事責任は、各公判で示される証拠と判決によって定まる。
参考資料・出典
- 福岡TNC「JPドラゴン5人の初公判、4人が起訴内容を認める」
- 福岡TNC「フィリピンから送還された関係者5人を逮捕」
- 福岡TNC「関係者5人の移送と約9億円の被害把握」
- RKB毎日放送「受け子勧誘役・天野翼被告に懲役4年」
- 福岡TNC「5人を再逮捕、兵庫県の高齢女性被害を捜査」
- 共同通信・熊本日日新聞「JPドラゴン関係者5人の初公判」
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