2018年5月7日夕方、新潟市西区で小学2年生の大桃珠生さん(7)が下校途中に行方不明になった。その日の夜、JR越後線の線路で遺体が見つかる。列車にはねられる前に死亡していたことが分かり、捜査は殺人・死体遺棄事件へ切り替わった。
逮捕されたのは近隣に住む小林遼だった。小林は珠生さんを車で連れ去り、わいせつ行為をした後に首を圧迫して死亡させ、遺体を線路へ置いたとして起訴された。検察は死刑を求めたが、新潟地裁は2019年に無期懲役。東京高裁も2022年に検察・弁護双方の控訴を棄却し、2023年12月に最高裁が被告側の上告を棄却して無期懲役が確定した。
| 発生日 | 2018年5月7日 |
|---|---|
| 場所 | 新潟県新潟市西区 |
| 被害者 | 大桃珠生さん(当時7歳・小学2年生) |
| 被告人 | 小林遼(事件当時23歳) |
| 最初の逮捕 | 2018年5月14日、死体遺棄・死体損壊容疑 |
| 殺人容疑の再逮捕 | 2018年6月 |
| 一審 | 2019年12月4日、新潟地裁・無期懲役 |
| 一審求刑 | 死刑 |
| 控訴 | 検察・被告双方 |
| 控訴審 | 2022年3月17日、東京高裁・双方の控訴棄却 |
| 最高裁 | 2023年12月20日付、被告側上告棄却 |
| 確定刑 | 無期懲役 |
学校から自宅へ向かう途中、7歳の珠生さんが姿を消した
珠生さんは5月7日、学校を終えて一人で自宅へ向かっていた。日常の通学路で起きた出来事だった。帰宅予定の時間を過ぎても姿が見えず、家族が捜し始める。
同じころ、小林は軽乗用車を運転中、路上にいた珠生さんと接触し、その後、車に乗せて連れ去ったと認定されている。交通事故として救急や警察へ届け出るのではなく、女児を車内へ入れて移動したことが、わいせつ目的の略取へつながった。
車内でわいせつ行為、その後に首を圧迫した
小林は車内で珠生さんにわいせつな行為をした。その後、首を圧迫して死亡させた。刑事裁判で大きく争われたのは、この首を絞める行為に殺意があったかという点だった。
弁護側は気絶させるつもりだったとして殺意を否定し、傷害致死にとどまると主張した。これに対し裁判所は、首を圧迫する時間や危険性の認識などから未必的な殺意を認定し、殺人罪の成立を認めた。殺意が認められるかどうかは、死刑と無期の量刑以前に、成立する犯罪そのものを左右する争点だった。
死亡後、遺体をJR越後線の線路へ置いた
珠生さんが死亡した後、小林は遺体をいったん自宅へ運び、夜になってJR越後線の線路上へ置いた。午後10時台、走行してきた列車が遺体に接触した。
この行為については死体遺棄・死体損壊だけでなく、鉄道交通を危険にさらした行為としても刑事責任を問われた。被害者が列車事故で死亡したように見せようとしたかどうかにかかわらず、死亡後の遺体を線路へ移し、列車が通過する状態を作ったこと自体が別個の犯罪として起訴対象になった。
列車事故ではなく、すでに死亡していたことが分かった
遺体が線路上で発見された直後は、列車事故も想定される状況だった。しかし司法解剖や現場検証が進むと、列車にひかれる前に珠生さんが死亡していたことが判明した。新潟県警は、下校途中の失踪と線路上の遺体発見を一つの殺人事件として捜査する。
現場周辺の防犯カメラ映像、目撃情報、通行車両の洗い出しなどから、近隣に住む小林とその軽乗用車が捜査線上に浮上した。事件発生から1週間後、警察は小林の身柄を確保する。
5月14日の最初の逮捕容疑は「殺人」ではなかった
2018年5月14日、小林は死体遺棄・死体損壊の疑いで逮捕された。事件全体がすでに殺人事件として捜査されていても、最初の逮捕容疑は遺体を線路へ置き損壊させた行為だった。
その後、捜査が進んで殺人容疑でも再逮捕され、最終的にはわいせつ目的の略取、当時の強制わいせつ致死、殺人、死体遺棄・損壊、電汽車往来危険など複数の罪で起訴された。逮捕時の容疑と、最終的に裁判で審理された罪名は同一ではない。
裁判の中心は「殺意」と「死刑を選ぶべき事件か」だった
裁判員裁判では、小林が珠生さんを連れ去り、わいせつ行為をし、首を圧迫し、死亡後に線路へ遺体を置いたという大枠だけでなく、殺害意思の強さと形成時期が詳しく審理された。
検察側は犯行の発覚を免れるために女児の生命を奪ったとして死刑を求刑した。弁護側は殺意を否定し、首を絞めた目的は気絶させることだったとして有期懲役を求めた。死刑求刑事件だったため、殺意の認定だけでなく、殺害が事前に計画されたものか、同種事件の量刑と比べ極刑が避けられないかも争点となった。
2019年12月、新潟地裁は殺意を認めながら無期懲役を選んだ
2019年12月4日、新潟地裁は小林に無期懲役を言い渡した。裁判所は、首を絞めれば死亡する危険性が高いと小林が認識していたとして殺意を認定した。被害者が7歳であること、わいせつ目的で連れ去ったこと、死亡後に遺体を線路へ置いたことも重い事情とされた。
一方で、検察が求めた死刑は選ばなかった。当初から珠生さんを殺害する計画を立てていたとは認められず、殺害行為は犯行の途中で生じた面があることなどを考慮した。被害者が一人だから自動的に死刑を避けたのではなく、計画性、殺意の形成、犯行態様、従来の量刑傾向を総合した判断だった。
無期懲役に、検察側も被告側も控訴した
一審判決後、小林側は殺意認定などを不服として控訴した。同時に、死刑を求めていた検察側も量刑が軽すぎるとして控訴した。東京高裁では、一審と同じ無期懲役を維持するのか、検察の主張を認めて死刑へ変更するのかが審理された。
控訴審では首を圧迫した時間が最大の争点となった。検察側は、意識を失った後も圧迫を続けたとして確定的な殺意を主張。弁護側は圧迫時間はより短く、目的は失神させることだったと反論した。
東京高裁は「少なくとも3分以上」と認定し、殺意を維持した
2022年3月17日、東京高裁は検察・弁護双方の控訴を棄却した。解剖医の証言などから、首の圧迫は少なくとも3分以上続いたと認定し、女児が死亡するかもしれないと認識した未必的な殺意があったことは明らかだと判断した。
一方で、検察側が主張したように、犯行発覚を防ぐため積極的に生命を奪おうとする確定的殺意まで認めることはできないとした。行動には場当たり的な面があり、極刑がやむを得ないとまではいえないとして、一審の無期懲役を維持した。
二審でも死刑にならなかった理由は「殺意なし」ではない
控訴審で死刑が回避されたことは、殺意が否定されたことを意味しない。東京高裁は殺人罪を明確に認めたうえで、殺意は未必的なものにとどまり、殺害自体が当初から計画されていたとはいえないと評価した。
つまり、裁判の最終結論は「殺害する意思がなかったから無期懲役」ではない。殺人罪が成立するほどの殺意は認めるが、死刑という刑罰を選択するには、犯行全体の計画性や殺意の強さ、従来の量刑との均衡を含め、なお極刑が避けられないとまでは判断できないというものだった。
2023年12月、最高裁が被告側の上告を棄却した
東京高裁判決後、被告側は最高裁へ上告した。最高裁は2023年12月20日付で上告を棄却する決定を出し、一審・二審の無期懲役が確定した。
刑事裁判はこれで終結した。小林は死刑確定者ではなく、無期懲役の確定受刑者となった。一審で死刑が求刑され、検察も控訴した事件だが、最終的な司法判断は一貫して無期懲役だった。
事件を受け、政府は「登下校防犯プラン」を策定した
事件は通学路の安全対策にも直接影響した。2018年6月22日、政府は「登下校防犯プラン」を取りまとめた。文部科学省や警察庁の公的資料は、同年5月に新潟市で下校途中の児童が殺害された事件を受けて策定したことを明記している。
プランでは、通学路の緊急合同点検、学校と警察の情報共有、地域ボランティアだけに依存しない見守りの担い手拡大、「ながら見守り」などが進められた。特に子どもの被害が15時から18時の下校時間帯に集中する傾向を踏まえ、学校から家までの間に生じる「見守りの空白」を減らすことが課題とされた。
珠生さんの事件は、刑事裁判と通学路対策の両方に結論を残した
珠生さんは特別な場所へ出掛けたのではなく、学校から自宅へ帰る途中だった。車で近づかれた子ども本人の注意だけで防ぐことには限界があり、事件後の対策は地域、学校、警察、自治体が見守りを重ねる方向へ広がった。
刑事裁判では殺意が認定されながら、死刑と無期懲役の境界が最後まで争われた。行政面では事件の翌月に全国的な登下校防犯プランが作られた。一人の小学2年生が通学路で命を奪われた事件は、加害者の刑罰だけでなく、子どもを日常の移動時間にどう守るかという制度にも具体的な変化を残した。
参考資料・出典
- SankeiBiz「新潟女児殺害、2審も無期懲役判決 東京高裁」
- ダイヤモンド・オンライン「新潟小2女児殺害事件の被告に無期懲役判決」
- TeNY新潟一番ニュース「新潟市西区女児殺害事件 被告の無期懲役が確定へ」
- 文部科学省「『登下校防犯プラン』について」
- 文部科学省×学校安全「登下校防犯プラン」
- 警察庁「トピックスI 登下校時における子供の安全を守るための警察の取組」
- 警察庁「登下校防犯プランについて」
関連事件
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