バッキー事件|女性4人への性暴力と、制作方針を決めた栗山龍に懲役18年が言い渡された理由

公開日 2026年3月4日
最終更新 2026年8月28日

事件ステータス

発生年月日
2004年
都道府県
東京都
事件分類
強盗・監禁・暴行事件 / 性犯罪

2003年から2004年にかけ、アダルト映像制作会社「バッキービジュアルプランニング」の撮影現場で、出演女性に事前説明や承諾の範囲を超える暴力と性暴力が加えられ、重軽傷を負わせる事件が相次いだ。刑事裁判で栗山龍について審理された中心は、女性4人に対する強姦致傷・傷害などだった。

東京地裁は2007年12月19日、栗山を作品内容と制作方針を決め、監督らを動かした首謀者と認定し、求刑20年に対して懲役18年を言い渡した。栗山は個々の撮影現場にいなかったことなどを理由に責任を争ったが、裁判所は現場実行者との共謀を認定。2008年、東京高裁も一審の結論を維持した。

主な犯行時期2003年12月~2004年9月
関係会社バッキービジュアルプランニング
一審で審理された被害者女性4人
中心人物栗山龍
主な罪名強姦致傷(当時の罪名)、傷害など
一審2007年12月19日 東京地裁
一審判決懲役18年
求刑懲役20年
控訴審2008年 東京高裁、控訴棄却
事件の核心出演契約と個別の暴力・性行為への同意は別であること

「撮影に出る」と約束しても、何をされても受け入れたことにはならない

事件を理解するうえで最初に分ける必要があるのは、作品へ出演することと、撮影現場で行われる個々の行為へ同意することだ。出演契約が存在していても、事前に説明されていない行為や、本人が拒否・中止を求めた後の暴力まで承諾したことにはならない。

PAPSは、商業ポルノの制作過程で生じる被害の代表例としてバッキー事件を挙げている。撮影という外形があることで、現場で起きた行為が「演技」や「合意済み」と扱われやすい。しかし刑事裁判では、女性が実際に拒否していたか、危険な行為を受け入れていたか、暴力によって負傷したかが具体的に問題となった。

2003年12月から2004年9月、女性4人への犯行が栗山の裁判対象に

栗山の一審判決で対象となった犯行は、2003年12月から2004年9月までに行われた複数の撮影だった。女性4人が、撮影現場で集団的な暴力・性暴力を受け、重軽傷を負ったと認定された。

事件の性質上、被害の内容には身体的・性的な詳細が多いが、刑事責任を理解するために必要なのは、被害女性が中止を求めても撮影が継続されたことと、現実の傷害結果が生じたことにある。映像作品の制作という名目は、暴行や傷害の成立を消すものではなかった。

PAPSは「15人以上の被害」を把握、一方で起訴対象は4人分だったとする

支援団体PAPSは、事件をきっかけに当時の公判を継続して傍聴した経緯を公表している。同団体の活動記録では、被害女性は15人以上いたとされる一方、刑事事件として起訴できたのは4人分だったとしている。

この数字は、栗山の有罪判決が「被害者4人しかいなかった」と意味するものではない。反対に、PAPSが把握する15人以上をすべて刑事裁判で有罪認定された被害者数として扱うこともできない。裁判で認定された範囲と、支援団体が把握した被害の広がりは分けて読む必要がある。

2004年末から捜査が本格化し、制作現場の関係者へ広がった

PAPSの活動記録によれば、2004年12月、撮影で女性に重傷を負わせた事件をめぐり監督が逮捕された。その後、警視庁の捜査は制作会社の複数の関係者へ広がった。

問題になったのは、現場で直接行為をした人物だけではない。作品の企画、監督への指示、出演者や撮影スタッフの配置など、制作会社側で誰が内容を決め、どのような認識で撮影を続けさせていたかが調べられた。最終的に栗山自身も強姦致傷などで起訴された。

栗山は撮影現場にいない事件の責任を争った

栗山は裁判で無罪を主張した。争点の一つは、本人が個々の撮影現場で直接暴力を加えていない場合に、現場で行われた犯罪の共同責任を負うのかという点だった。

日刊ゲンダイの取材記事も、栗山が無罪を主張していたことを伝えている。一審は、栗山を単なる会社の名目的責任者とは見なさなかった。作品の方向性を決め、出演女性が現実に苦痛を受けるような映像を求め、監督側へ制作方針を伝えていたとして、実行者らとの意思連絡を認定した。

2007年12月、東京地裁が懲役18年――制作方針を決めた首謀者と認定

2007年12月19日、東京地裁は栗山に懲役18年を言い渡した。検察側の求刑は懲役20年。判決を報じた当時の産経新聞記事では、裁判所が栗山を事件の首謀者と位置付け、女性が中止を求めても撮影を続けた点や、生命に危険を及ぼしかねない行為だった点を厳しく評価したとされる。

量刑が長期の実刑となったのは、単発の現場トラブルとしてではなく、複数の女性へ同種の被害を繰り返し、制作会社の方針の中で実行された犯行として評価されたためだった。

現場を離れた指示でも共謀は成立する――控訴審でも責任を維持

栗山は一審判決を不服として控訴した。2008年の東京高裁では、個々の現場で栗山が何を認識し、監督らとどの程度意思を通じていたのかが改めて争われた。

控訴審は一審の有罪判断と量刑を維持し、控訴を棄却した。制作会社のトップがすべての現場で直接実行行為をしていなくても、犯罪となる内容を理解したうえで企画・指示し、実行者と意思を共有していれば刑事責任を負うという判断だった。

複数の制作責任者・実行関係者にも実刑判決

バッキー事件で刑事責任を問われたのは栗山一人ではない。撮影現場を指揮した制作責任者や実行に関わった人物も逮捕・起訴され、複数人に実刑判決が言い渡された。PAPSも、監督や会長など主要関係者へ実刑判決が出た事件として紹介している。

この点は、事件が一人の突発的な暴行ではなく、作品制作の過程で複数人が役割を持って進めた犯罪だったことを示す。栗山の18年という刑も、現場実行者から切り離された「経営責任」ではなく、共謀共同正犯としての刑事責任を前提にしたものだった。

被害映像が商品として残る――刑事裁判が終わっても被害が終わるとは限らない

制作過程での性暴力には、暴行や負傷とは別の問題も残る。撮影された映像が商品化されれば、被害者にとっては刑事裁判の終了後も、自分の被害場面が流通・閲覧され続ける可能性がある。

PAPSは、バッキー事件の加害者が処罰された後も当時の映像が販売されている問題を活動報告で指摘してきた。現在のAV出演被害相談でも、公開済み映像の削除や販売停止が大きな課題になっている。撮影現場の犯罪と、その記録が残り続ける被害は別々に続き得る。

2022年にAV出演被害防止・救済法が施行――現在は契約段階にも保護制度

バッキー事件から長い年月を経た2022年6月、AV出演被害防止・救済法が施行された。出演契約のルール、撮影・公表までの期間、契約解除などを定め、出演者が契約後も被害を避けるための制度が整えられた。

この法律をバッキー事件だけの直接的な結果と位置付けることはできない。ただ、PAPSが現在も同事件を「制作被害」の代表例として紹介しているのは、契約書の有無だけでは本人の意思や安全が守られないことを示した事件だからだ。

裁判が問うたのは「過激な作品だったか」ではなく、誰が何を承諾したか

バッキー事件を「過激なAVの事件」とだけ説明すると、刑事裁判の中心がぼやける。裁判所が見たのは作品ジャンルの好悪ではなく、女性が具体的な行為に同意していたのか、拒否後も暴力が続いたのか、傷害が発生したのか、そしてその実行を誰が企画・指示したのかだった。

東京地裁は栗山を制作構造の中心にいた人物と認定し、懲役18年を選択した。出演者、監督、制作会社という関係があっても、暴力への不同意は消えない。事件の刑事裁判が示したのは、その線引きを撮影現場でも適用するという判断だった。

参考資料・出典

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