「高額」「即日即金」「ホワイト案件」。SNSや求人サイトでこうした言葉を使い、仕事内容を隠したまま人を集め、特殊詐欺や強盗、窃盗などの実行役にする募集がある。一般に「闇バイト」と呼ばれるが、実態はアルバイトではなく犯罪実行者の募集である。
警察庁は「犯罪実行者募集情報」という呼称を使い、匿名・流動型犯罪グループがSNSなどで実行役をその都度集める構造を重点的な取締り対象としている。2025年には、こうしたグループによる主な資金獲得犯罪の検挙人員が6,679人に上った。
| 警察庁の呼称 | 犯罪実行者募集情報 |
|---|---|
| 主な募集場所 | SNS、求人サイト等 |
| 典型的な文言 | 高額、即日即金、ホワイト案件など |
| 要求されやすい情報 | 運転免許証、顔写真、住所など |
| 主な犯罪 | 特殊詐欺、強盗、窃盗等 |
| 相談先 | 警察相談専用電話 #9110、最寄りの警察署 |
「闇バイト」は仕事ではなく、犯罪実行者を集める入口
募集投稿は最初から「強盗をしてほしい」「特殊詐欺の受け子を募集する」とは書かない。警察庁の2025年版警察白書は、「高額」「即日即金」「ホワイト案件」など、楽に高収入を得られるように見せる表現が使われる実態を挙げている。
応募後に別のSNSや匿名性の高い通信アプリへ移動させ、そこで初めて違法な仕事内容を伝える例もある。求人サイトに掲載された普通の仕事に見える募集から犯罪へ誘導された事例も確認されている。
応募者の身元だけを握り、指示する側は匿名化する
犯罪グループは応募者に運転免許証、顔写真、住所、家族構成などを送らせることがある。情報を握った後に応募者が離脱しようとすると、自宅へ行く、家族へ危害を加えるなどと脅して犯行を続けさせる。
一方、首謀者や指示役は匿名性の高い通信手段を使い、実行役と直接会わないことも多い。応募者は本名も住所も知られているのに、指示する側が誰なのか分からないという非対称な関係が作られる。
「使い捨ての実行役」をその都度補充するのが匿名・流動型犯罪グループの特徴
警察庁は、中核的人物を匿名化する一方、実行役をSNSでその都度募集し、検挙されると新たな者を補充する集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と整理している。固定した組織名や構成員名簿を持つとは限らず、犯罪ごとに人が入れ替わる。
この構造では、現場で逮捕されやすいのは受け子、出し子、強盗の実行役、運転役などである。上位の指示役へ捜査を伸ばすには、通信履歴、端末、送金、暗号資産などをたどり、現場にいない人物とのつながりを立証する必要がある。
特殊詐欺から強盗・窃盗まで、募集された実行役が使われる
犯罪実行者募集は特殊詐欺だけの問題ではない。2024年8月以降、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県で、SNS等を通じて実行役が募集された強盗事件などが相次いだ。警視庁を中心とする合同捜査本部は、2025年4月末までに関連事件で48人を検挙した。
被害者を拘束して暴行する強盗もあり、現場へ送られる実行役が「仕事内容を完全には知らなかった」としても、犯罪の結果は極めて重大になり得る。募集文言の軽さと実際に命じられる行為の重さには大きな隔たりがある。
2025年、匿名・流動型犯罪グループの主な資金獲得犯罪で6,679人を検挙
警察庁が2026年に公表した2025年の犯罪情勢によると、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員は6,679人で、前年より1,476人増えた。詐欺が3,075人で最も多く、薬物事犯、窃盗、風営適正化法違反、強盗が続く。
この6,679人すべてが「闇バイト」で集められたわけではない。警察庁は、このうち約3割がSNS上の犯罪実行者募集情報を犯行への応募・加担の経緯としていたと整理している。数字の意味を分けて読む必要がある。
検挙された人の約6割は20代までの若年層
同じ警察庁資料では、匿名・流動型犯罪グループによる主な資金獲得犯罪の検挙人員を年齢層別に見ると、20代前半が23.4%で最も多く、20代までの若年層が全体の約6割を占めた。
若者だけが関与する犯罪という意味ではないが、SNS上の高額報酬や短時間で稼げるという誘いが、若年層を犯罪実行役へ取り込む入口になっていることが数字にも表れている。
「普通の求人サイトに載っていた」は安全の証明にならない
2025年版警察白書は、一般的な求人情報を装い、応募後に違法な仕事へ誘導する事例を掲載している。募集段階で仕事の中身をぼかし、著しく高い報酬だけを強調する手口は、匿名掲示板だけに限られない。
仕事内容を説明しない、別のアプリへ移動させる、身分証や顔写真を要求する、家族の情報まで聞くといった流れが重なる場合、通常のアルバイト募集とは異なる危険信号になる。
約束された報酬が支払われる保証もない
警察庁は、犯罪を実行しても約束した報酬が支払われない場合があると明記している。実行役は犯罪グループの対等な構成員として守られるのではなく、捜査の前面に立たされる存在として扱われる。
逮捕されれば、強盗、詐欺、窃盗など実際に加担した犯罪について刑事責任を問われる。指示役に脅されていた事情は個別に評価され得るが、「闇バイトだった」という呼び方だけで犯罪行為が消えるわけではない。
警察は実行役の逮捕だけでなく、募集投稿の削除と中核人物の特定へ捜査を広げる
対策は犯行後の逮捕だけではない。警察はSNS上の犯罪実行者募集情報を探索し、投稿への警告、削除依頼、発信者の捜査などを進めている。2025年版警察白書では、AI技術を使った違法・有害情報の探索・分析も取り上げられた。
一方で、匿名・流動型犯罪グループの検挙人員のうち、主犯・指示役の立場にあった者は約1割とされる。現場の実行役だけでなく、資金を集め、人物を募集し、指示を出す中核へ捜査を到達させることが引き続き課題となっている。
応募して身分証を送った後でも、犯罪を実行する前に警察へ相談する
個人情報を送ってしまったことで「もう逃げられない」と思わせること自体が犯罪グループの支配手段である。警察庁は、応募してしまった人や抜け出せず困っている人に対し、警察相談専用電話#9110や最寄りの警察署へ相談するよう案内している。
脅迫を受けている場合は、自分だけで相手と交渉したり、要求された場所へ向かったりするより、警察に状況と送信した個人情報、連絡手段、指示内容を伝えることが重要になる。犯罪に加わる前の相談と、実行後の刑事手続は同じではない。
「闇バイト」という言葉の軽さと、実際の犯罪の重さを切り離さない
「バイト」という言葉には、短期の仕事や簡単な副業という印象がある。しかし実際に募集されるのは、詐欺の受け子、現金回収、強盗、窃盗などの犯罪行為である。
構造を理解するうえで重要なのは、募集投稿、個人情報の取得、脅迫、匿名の指示、実行役の使い捨てという一連の流れを見ることだ。個々の事件については、ルフィ広域強盗事件などで、指示役と実行役の関係を個別に確認する必要がある。
参考資料・出典
・警察庁「令和7年版警察白書」SNSを悪用した犯罪実行者募集の実態と対策
・警察庁「令和6年版警察白書」匿名・流動型犯罪グループの特徴
・警察庁「いわゆる『闇バイト』の危険性について」
・警察庁「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
・警察庁「令和7年の犯罪情勢」
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