1974年10月30日、千葉県市原市の住宅で、自動車タイヤ販売修理業を営む59歳の男性と48歳の妻が殺害された。2人の遺体は車で五井海岸へ運ばれ、重りを付けて東京湾へ遺棄されたと認定されている。長男の佐々木哲也は両親の失踪を警察へ届け出たが、住宅の血痕や車内の遺留物から捜査対象となり、11月5日に逮捕された。
佐々木は捜査段階で犯行を認めた後に否認へ転じ、父を殺したのは母で、母は別の第三者に殺されたと主張した。弁護側は目撃証言や血液型、自白の任意性を争ったが、裁判所は間接証拠と自白の信用性を認め、1992年1月に死刑が確定した。佐々木は現在も東京拘置所に収容され、無実を訴えて再審を求めている。
| 事件名 | 市原両親殺人事件 |
|---|---|
| 発生日 | 1974年10月30日 |
| 発生場所 | 千葉県市原市、遺体遺棄場所は五井海岸沖 |
| 被害 | 父親(59歳)と母親(48歳)が死亡 |
| 被告人 | 佐々木哲也(事件当時22歳) |
| 現在の状況 | 1992年1月30日に死刑確定、再審請求を継続 |
交際相手をめぐる父親との対立
佐々木は事件当時22歳で、ドライブインに勤務していた。両親は市原市で自動車タイヤの販売と修理を営んでいた。佐々木には交際していた女性がいたが、父親はその関係に反対し、女性を侮辱する発言をしていたとされる。親子の間では交際と生活態度をめぐる口論が起きていた。
確定判決は、1974年10月30日午後5時20分ごろ、佐々木が両親宅で父親と口論になり、テーブル付近にあった登山ナイフで父親を刺して殺害したと認定した。その直後、2階から下りてきた母親も、犯行を見られたため同じ刃物で殺害したとした。
佐々木は後にこの認定を全面的に否定した。そのため、事件の経過は「裁判所が認定した事実」と「佐々木と弁護側の主張」を分けて見る必要がある。佐々木側は、父親を殺害したのは母親であり、母親は自分が具体名を明かしていない第三者に殺されたという説明をしている。
親子間に対立があったことは動機を考える一事情となったが、対立があるだけで犯人と決めることはできない。裁判では、口論の存在を血痕や車内の遺留物、自白と組み合わせ、事件全体を説明できるかが検討された。
遺体を包み五井海岸沖へ遺棄したとの認定
確定判決によれば、佐々木は両親の遺体を住宅内に残したまま直ちに通報せず、発見を避ける準備をした。11月1日早朝、2人の遺体を包んで車へ積み、市原市の五井海岸へ運んだ。遺体には車輪などの重りを付け、海中へ沈めたと認定された。
遺体を自宅から海岸まで運ぶには、車両と時間が必要だった。捜査では佐々木の車のトランクから血痕の付いたタオルが発見され、住宅と遺棄場所を結び付ける事情とされた。両親宅の金庫から現金約30万円がなくなっていたことも確認された。
佐々木は、遺体遺棄を含めて自分は関与していないと主張している。弁護側は、車内や衣類の血痕の評価、母親が事件後に目撃されたとする証言、第三者が関与した可能性を指摘した。裁判所は個々の証拠を検討したうえで、佐々木による殺害と遺棄という検察側の構成を採用した。
遺体を海へ沈める方法は、自然に流されて発見されないことを期待したものと認定された。重りが外れるなどして遺体が見つかったことで、死因の鑑定と住宅内の血痕との比較が可能になった。遺体が発見されなければ、立証はさらに間接証拠へ依存していた。
自ら失踪届を出した後に住宅の血痕が見つかる
11月2日、佐々木は市原警察署へ両親が行方不明になったと届け出た。警察が両親宅を確認すると、居間から多量の血痕が見つかった。単なる外出や失踪ではなく、住宅内で重大な暴力が起きた可能性が高まり、殺人事件として捜査が始まった。
警察は家族と関係者の行動を調べ、事件当日に佐々木と父親が口論していたことを把握した。佐々木の車から血痕の付いたタオルが発見され、両親宅から現金がなくなっていたことも判明した。これらの事情から、佐々木が重要な捜査対象となった。
11月5日、警察は佐々木を殺人容疑で緊急逮捕した。逮捕時点では両親の遺体は見つかっておらず、血痕、車両、親子間の対立などの間接事実を基に身柄を確保した。遺体の発見前に逮捕したことや、その後の取調べ方法は、後の裁判と再審請求で自白の信用性を検討する際の重要な背景となった。
失踪届を出した人物が必ず事件へ関与しているわけではないが、佐々木の場合、届け出内容と住宅内の大量の血痕が一致しなかった。警察は、両親が自ら家を離れたという説明より、家の中で襲われた可能性を優先し、家族の車や金庫を調べた。
沖合で父母の遺体が相次いで発見
逮捕後の11月9日、市原市沖で父親の遺体が発見され、翌10日には母親の遺体も見つかった。2人が海中へ遺棄されていたことから、警察は死亡時期、傷の状態、遺体を包んだ物や重り、海へ運んだ方法を調べた。
司法解剖により、2人は火災や水難で死亡したのではなく、刃物による多数の傷を受けて死亡したと判断された。住宅内の血痕と遺体の状況を照合し、両親宅が殺害現場であるとの見方が強まった。
一方、弁護側は母親を事件後に見たという目撃証言を挙げ、検察側の死亡時刻と矛盾すると主張した。また、佐々木の衣類に付着した血痕の一部が母親の血液型と一致しないという点も問題にした。裁判所は、目撃者の記憶の確実性、血痕が付着した経路、ほかの証拠との関係を検討し、これらは有罪認定を覆すものではないと判断した。
遺体発見により、殺害と遺棄の時間を推定できる材料が増えた。弁護側の目撃証言が正しければ母親の死亡時期が変わる可能性があるため、証人が見た人物の特徴、距離、時刻の記憶が詳しく検討された。確定審は誤認の可能性を排除できないと判断した。
自白後に否認へ転じ第三者犯行を主張
佐々木は逮捕当初、犯行を否認したが、取調べの途中で両親を殺害し、遺体を海へ捨てたことを認める供述をした。その後、再び否認し、初公判でも無罪を主張した。供述が大きく変化したため、自白が本人の自由な意思で行われたか、内容が客観証拠と一致するかが裁判の中心となった。
佐々木は、父親を殺したのは母親で、母親は自分の知る第三者に殺されたと説明した。しかし、その第三者について具体的な氏名を示さず、家族の一人が最も傷つく人物だという趣旨の表現にとどめた。弁護側は、具体名を明らかにできない事情があるとしながら、検察側の単独犯行説には合理的な疑いが残ると主張した。
検察側は、自白に犯人しか知り得ない内容が含まれ、住宅、車、遺体遺棄の状況と符合すると主張した。弁護側は長時間の取調べで虚偽の供述へ追い込まれたと反論した。裁判所は取調べ状況を検討し、自白の任意性と信用性を認めた。
自白の信用性は、供述が詳細であるというだけでは足りず、捜査官から教えられた内容でないか、客観的事実と合うかを確認する必要がある。佐々木事件では、供述の変遷と取調べの長さが問題となり、弁護側は心理的圧迫による迎合を訴えた。
佐々木が捜査段階で示した供述のうち、遺体の運搬や海中への遺棄に関する部分は、後に発見された遺体や車両の状況と比較された。弁護側は、その情報が取調官から与えられた可能性を指摘し、秘密の暴露に当たらないと主張した。
間接証拠と自白を総合して死刑判決
千葉地方裁判所は1984年3月15日、佐々木に死刑を言い渡した。事件発生から第一審判決まで約9年半を要しており、その間に目撃証言、血痕鑑定、自白調書など多くの証拠が審理された。裁判所は、自白だけでなく、両親宅の血痕、車内の遺留物、金銭の持ち出し、事件当日の対立、遺体発見状況を総合した。
判決は、父親との口論から殺害し、犯行を見た母親も殺害したと認定した。被害者が実の両親であること、2人へ多数回の攻撃を加えたこと、遺体を海へ沈め、自ら失踪を届け出て捜査を誤らせようとしたことを重く評価した。
東京高等裁判所は1986年8月29日、第一審の事実認定に不合理な点はないとして控訴を棄却した。弁護側が示した母親の目撃情報や血液型の問題についても、証言の信頼性や証拠全体との関係から、第三者犯行を示す決定的な事情ではないとした。
第一審判決まで長期間を要したのは、佐々木が否認し、鑑定や証人尋問が広範囲に行われたためでもある。裁判所は第三者犯行説を単に具体名がないという理由だけで退けず、検察側証拠との整合性を検討したうえで合理性がないと判断した。
控訴審は、確定的な直接目撃者がいない事件であることを前提に、個々の間接事実が偶然重なった可能性を検討した。それでも、住宅の血痕、車内の物、金銭、供述が一つの経過を示すとして、有罪判断を維持した。
死刑確定後も無実を訴え再審請求
1992年1月30日、最高裁第一小法廷は上告を棄却し、佐々木の死刑が確定した。最高裁は、両親2人を殺害し、遺体を海へ遺棄した結果の重大性、犯行態様、犯行後の隠蔽などを考慮し、死刑を維持した。
佐々木は確定後も無実を主張し、再審を求めている。2006年6月には第2次再審請求が申し立てられたとされる。再審では、確定審で検討された目撃証言や血痕、自白に加え、新たな証拠が確定判決へ合理的な疑いを生じさせるかが判断される。
2026年8月現在、佐々木に対する死刑執行や死亡は公表されておらず、東京拘置所に死刑確定者として収容されている。確定判決上は佐々木による両親殺害と死体遺棄が認定されている一方、本人は一貫して第三者の関与を主張している。現在の法的状態は有罪・死刑確定であり、再審によって判決が取り消された状態ではない。
再審請求が続いていても、開始決定が確定するまでは死刑確定者としての法的地位は変わらない。
2026年8月現在も、再審による無罪判決は出ていない。
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