2007年4月、JR西日本の特急「サンダーバード」で前年8月に起きた性暴力事件が報道されると、別の性犯罪事件で「公判中」の植園貴光が自由な状態で再び犯行に及んだかのような受け止めが広がった。国会でも、なぜ公判中の被告人が身柄を拘束されていなかったのかという質問が出た。
ところが、法務省側が時系列を確認すると、その理解は正確ではなかった。サンダーバード車内の事件は2006年8月3日で、別件の性犯罪が起きた同年12月より前だった。植園は2007年1月7日に傷害事件で逮捕されて以降、身柄拘束が続いており、4月21日の逮捕は、拘束中の植園を前年8月の事件で改めて逮捕したものだった。
植園はサンダーバード車内の女性1人に加え、2006年12月21日にはJR湖西線の普通列車内と大津市内の駅構内で別の女性2人に性暴力を加えたとして裁かれた。当時の刑法上の強姦罪などに問われ、大津地裁は2008年1月に懲役18年、大阪高裁も同年5月にこの刑を維持した。
| 事件発生 | 2006年8月3日、同年12月21日 |
|---|---|
| 主な場所 | 特急サンダーバード、JR湖西線普通列車、当時の雄琴駅構内 |
| 被害 | 20代女性3人が性暴力の被害 |
| 被告人 | 植園貴光 |
| 当時の主な罪名 | 強姦罪など(当時の刑法上の名称) |
| 一審 | 2008年1月17日・大津地裁、懲役18年 |
| 求刑 | 懲役25年 |
| 控訴審 | 2008年5月29日・大阪高裁、被告側控訴棄却 |
| 事件後の鉄道対策 | 非常連絡設備の周知、特急の女性専用指定席など |
最初に大きく報じられたのは、2006年8月のサンダーバード車内事件だった
2006年8月3日夜、植園は富山発大阪行きの特急サンダーバードに乗車していた。判決や当時の報道によれば、植園は20代の女性客の隣に座り、暴力団関係者を装うなどして脅迫し、女性を車内のトイレへ連れ込んで性暴力を加えた。
犯行は、駅や路上ではなく営業運転中の長距離列車内で行われた。被害者にとってその場から離れることが難しく、周囲には他の乗客もいるという公共交通機関特有の状況だった。この点は後の量刑判断でも、鉄道利用者全体に与えた不安や影響として扱われた。
12月21日には普通列車内と駅構内で、別の女性2人が被害に遭った
同年12月21日夜には、JR湖西線の普通列車内で別の20代女性が被害に遭い、さらに当時の雄琴駅構内でも別の女性が性暴力を受けた。大阪高裁判決を報じた朝日新聞は、サンダーバードの事件と合わせて女性3人への犯行を認定した一審判決を紹介している。
三件は、列車内または駅構内という、日常的に多数の人が利用する場所で続いた。検察は、通常なら安全に移動できると考えられる鉄道空間で被害を受けたことを重視し、被害者に長期的な苦痛を与えたとして厳しい処罰を求めた。
サンダーバード事件の被害者年齢は、報道時期によって「21歳」「22歳」と表記が異なる
サンダーバード事件の被害者について、2007年の逮捕時報道では「当時21歳」とする記事がある一方、2008年の一審判決報道では「女性(22)」と記されている。これは同じ被害者について、事件当時の年齢と報道時点の年齢をそれぞれ記した可能性が高く、別の被害者を指すものではない。
年齢表記だけを機械的に拾うと「資料が食い違っている」ように見えるため、本文では20代女性として扱い、事件日と報道日を混同しないようにする。性犯罪被害者の氏名は公表されておらず、事件理解に必要のない個人情報を推測して補うべきではない。
「約40人の乗客がいた」ことと、全員が犯行を理解していたことは同じではない
サンダーバード事件では、同じ車両に約40人の乗客がいたと報じられ、「乗客が誰も止めなかった」という点が強く注目された。当時の報道には、一部の乗客が女性への接触など異変に気付きながら、植園から威嚇されて通報できなかったとする内容もある。
ただし、車両にいた全員が性犯罪の全体を把握していながら意図的に黙認した、とまでは確認されていない。植園自身が周囲を威嚇したこと、被害が車内のトイレなど外から見えない場所にも及んだことを考えると、「40人全員が見て見ぬふりをした」と一括して評価するのは事実関係を粗くする。
国会で訂正された「公判中に自由の身で再犯した」という時系列
2007年4月21日にサンダーバード事件で逮捕された時、植園は2006年12月の別事件ですでに起訴され、「公判中」と報じられた。この表現から、起訴後に自由な状態でサンダーバード事件を起こしたような理解が生まれ、4月27日の衆議院法務委員会でも身柄拘束の判断が問題にされた。
5月16日の法務委員会で法務省側が示した時系列は異なる。サンダーバード事件は2006年8月3日。後に起訴された別の二件は同年12月で、傷害事件による逮捕は2007年1月7日だった。植園は1月7日以降、傷害事件や性犯罪事件による身柄拘束が続いており、4月21日は拘束中に前年8月の事件で改めて逮捕された。
したがって、「別の性犯罪で起訴されたのに保釈され、自由な状態でサンダーバード事件を起こした」という順番ではない。国会答弁は、当初の報道表現から生じた誤解を明確に訂正している。複数事件を扱う記事では、逮捕日や起訴日だけでなく、犯行日そのものを並べて確認する必要がある典型例だ。
2007年4月の「再逮捕」は、前年8月の事件を後から立件したものだった
大阪府警がサンダーバード事件で植園を逮捕したのは2007年4月21日で、犯行から8か月以上が経っていた。この時点で植園は、2006年12月の二件や2007年1月の傷害事件によりすでに身柄を拘束されていた。4月の逮捕は、自由に生活していた人物を新たに捕まえたという意味ではない。
法務省側は国会で、サンダーバード事件について大阪府警が4月21日に逮捕し、検察へ送致した後、5月11日に公判請求したと説明している。刑事手続の日付だけを見ると「公判中に別件で再逮捕」となるが、犯行日を並べると、8月事件の方が先に起きていたことが分かる。
「再逮捕」「公判中」という言葉だけでは、犯行の前後関係は分からない
同じ被告人に複数の事件がある場合、後から判明した古い事件について逮捕状が執行されることがある。植園のケースでは、2007年1月以降の身柄拘束中に、前年8月のサンダーバード事件について4月に別の逮捕手続が取られた。
このため、「公判中の被告人が再逮捕された」という報道上の表現自体は手続を示していても、「公判中に新たな犯行をした」という意味にはならない。国会で政府答弁が行われたのは、この二つが混同され、勾留や保釈の判断に問題があったかのような議論が生じたためだった。
植園は公判でサンダーバード事件の起訴事実を大筋で認めた
2007年6月の大津地裁公判で、植園はサンダーバード事件について起訴事実を大筋で認めたと報じられている。裁判では、三件の性犯罪の事実だけでなく、どの程度の刑を科すべきかが中心的な問題になっていった。
検察側は2007年11月の論告で懲役25年を求刑した。公共交通機関の中で女性を脅し、複数の被害者に対して短期間に犯行を重ねた点を厳しく評価した。被害者の一人には事件後に電車を利用できなくなったとされた事情もあり、被害の継続性も量刑資料になった。
弁護側は16歳時の交通事故による脳機能への影響を主張した
弁護側は、植園が16歳の時に遭った交通事故による脳機能障害が犯行に影響したとして、刑を軽くするよう求めた。大津地裁では情状鑑定が行われたが、採用された鑑定結果では脳障害は認められないとされた。
この点は、本人の性格や心理を外部から推測するのとは違う。裁判で実際に医学的な影響が争われ、鑑定が行われたうえで、裁判所が弁護側の主張をそのまま量刑上の大きな減軽事情とは認めなかったという経過である。
大津地裁は求刑25年に対し懲役18年を言い渡した
2008年1月17日、大津地裁は植園に懲役18年を言い渡した。求刑は懲役25年だった。判決は、公共交通機関で行われた犯行が社会や鉄道関係者へ与えた影響を重く評価し、厳しい処罰が必要だとした。
同時に、量刑は不利な事情だけで決められたわけではない。報道によれば、妻が植園の更生を望んでいることなども考慮された。裁判所は三件の重大性を認めながら、求刑どおりの25年ではなく18年を選択した。
大阪高裁も「18年は重すぎない」として控訴を棄却
植園側は一審判決を不服として控訴し、反省を深めていることや同種事件との量刑比較などから減刑を求めた。大阪高裁は2008年5月29日、被告側の控訴を棄却し、懲役18年とした大津地裁判決を維持した。
高裁は、公共の場での犯行で被害者の精神的な影響が大きく、鉄道利用者に与えた不安も軽視できないとした。反省の態度などを考慮しても、一審判決が不当に重いとはいえないという判断だった。公開されている主要報道では、少なくとも控訴審まで懲役18年が維持されたことを確認できる。
当時の「強姦罪」と、現在の刑法上の罪名は同じではない
この事件を扱った2007~2008年の判決・報道は「強姦罪」という当時の刑法上の罪名を用いている。現在の刑法は性犯罪規定が改正されており、同じ名称の罪がそのまま存在するわけではない。過去事件の罪名は、当時適用された法律に沿って記載する必要がある。
そのため、事件の説明では被害内容を現在一般に用いられる「性暴力」という言葉で示しつつ、刑事裁判の箇所では「当時の強姦罪などに問われた」と分けるのが正確である。現在の罪名を過去の起訴事実へ遡って当てはめることはできない。
事件後、JR西日本は非常連絡設備の周知や女性専用指定席などの対策を進めた
鳥取県が公開している人権教育資料は、この事件を契機として、JR西日本が車内の緊急連絡ボタンの活用を広報し、長距離特急に女性専用指定席を設けるなどの対策を講じたと説明している。事件は一人の刑事裁判だけでなく、列車内防犯の運用にも影響を与えた。
現在もJR西日本は、車内で犯罪行為を目撃した場合など、緊急を要するときには「車内非常ボタン」を押すよう案内している。サンダーバード事件で注目されたのは、公共空間に人が多くいるだけでは被害防止につながらないという問題だった。通報設備の存在と、その使い方を利用者へ知らせることが安全対策の一部になっている。
参考資料・出典
- 衆議院「第166回国会 法務委員会 第16号」2007年5月16日
- 衆議院「第166回国会 法務委員会 第14号」2007年4月27日
- 東京新聞「特急内強姦で懲役18年 植園被告に大津地裁判決」2008年1月17日(保存記事)
- 朝日新聞「JR特急車内で強姦、二審も懲役18年判決 大阪高裁」2008年5月29日(保存記事)
- 鳥取県「人権教育推進者用資料」鉄道における女性の安全対策
- JR西日本「AED・車内非常ボタン」
関連事件
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