2015年5月31日朝、JR東京駅の丸の内南口改札内で保管されていた黄色いキャリーバッグが開けられた。中に入っていたのは、高齢女性の遺体だった。ところが、そのバッグが最初に見つかったのは約1か月前の4月26日。ロッカーに鍵を掛けない状態で残され、駅側の保管場所へ移された後も、持ち主は現れなかった。
女性の身元は11年以上が過ぎた2026年8月現在も判明していない。警視庁の身元不明者資料には番号1178として掲載が続き、2026年5月31日には警視庁刑事部捜査第一課が、現在も殺人事件として捜査を継続していると発信した。発見当初に「死体遺棄事件」として始まった捜査は、身元確認とともに死亡に至った経緯の解明を追う段階にある。
| バッグがロッカーで見つかった日 | 2015年4月26日 |
|---|---|
| 遺体発見 | 2015年5月31日 |
| 場所 | JR東京駅・丸の内南口改札内 |
| 女性の推定年齢 | 警視庁現行資料で70~90歳 |
| 推定身長 | 135~145センチ |
| 死亡時期の推定 | 2015年4月頃 |
| 身体的特徴 | やせ型、白髪交じり、前額部中央に約5ミリの隆起 |
| 主な所持品等 | カーディガン、タオル、鍵、黄色いキャリーバッグ |
| 現在 | 身元不明。警視庁が殺人事件として捜査継続 |
4月26日、鍵の掛かっていないロッカーに黄色いバッグが残されていた
警察が作成した情報提供資料では、黄色い縦型キャリーバッグが東京駅丸の内南口改札内のコインロッカーへ持ち込まれたのは4月26日とされる。当時報道によると、バッグはロッカーに施錠されておらず、管理側が回収して一時保管した。通常の「料金を払い、鍵を持って後で取り出す荷物」とは異なる状態だった。
共同通信の当時報道では、バッグは約1か月前に回収され、持ち主が現れなかったため5月31日に中身を確認したとされる。事件の発覚日は5月31日だが、警察が遺棄時期として注目しているのは4月26日前後。この約1か月のずれが、目撃情報や駅周辺の記憶をたどるうえで重要になる。
5月31日、保管期限を迎えたバッグから遺体が見つかった
5月31日午前9時ごろ、保管されていたバッグを職員が開け、女性の遺体を発見した。初期報道では、女性は衣服を身につけた状態で、目立った外傷は確認されなかった。薄い掛け布団のような白い布に包まれていたことも報じられている。
遺体は死後およそ1か月が経過していたとみられ、丸の内署は司法解剖を行って死因と身元を調べた。発見当初は目立った外傷がないと報じられたが、警視庁は捜査を継続した。2026年5月31日にも刑事部捜査第一課が、本件を殺人事件として捜査していると発信している。
現行の警視庁資料では「70~90歳、135~145センチ」
事件直後の情報提供ポスターでは、女性は70~80歳くらい、身長約140センチとされた。一方、現在の警視庁「身元不明相談」では、番号1178の女性について推定70~90歳、身長135~145センチと、より幅を持たせた情報が掲載されている。
身体的特徴は、やせ型、白髪交じり、前額部中央に約5ミリ大の「骨腫」様の隆起があること。公開された似顔絵でも額の中央付近にこの特徴が描かれている。年齢や身長の数字だけでなく、額の隆起や髪の長さなど、個人を思い出す手掛かりが複数示されてきた。
カーディガン、タオル、鍵――身元につながる物も残されていた
警視庁の現行PDFには、女性の着衣としてカーディガンが掲載され、所持品等としてタオル、鍵、黄色いキャリーバッグが示されている。キャリーバッグは遺留品そのもので、高さ約73センチ、幅53センチ、奥行き27センチ。キャスターが付いた古いタイプで、後ろから押して移動する形だった。
バッグの色と形は人目につきやすい。警察は事件当時から「4月26日ごろ、黄色い大きなキャリーバッグを押している人を見た」といった情報を募集した。東京駅は利用者が非常に多い一方、遠方から来た人物が通過する場所でもある。バッグを運んだ人物の生活圏や、東京駅までの移動経路は明らかになっていない。
歯科所見も公開されたが、氏名には結びついていない
身元確認のため、法医学・歯科関係者にも情報提供が求められた。杏林大学医学部法医学教室の公開ページでは、下顎右側第一大臼歯の治療痕に特徴があるとして、歯科医療関係者へ照会を呼びかけている。歯の治療は医療記録や過去の通院歴と結びつけば、身元特定の有力な材料になり得る。
それでも女性の氏名は判明していない。家族や知人が行方不明届を出していたか、歯科記録がどこに残っているか、過去にどの地域で暮らしていたかといった情報は、公開資料だけではつながっていない。氏名が判明していないため、死亡直前の居住地、通院先、交友関係なども特定されていない。
似顔絵だけでなく、頭蓋骨から復顔した顔も公開された
警視庁は2015年6月に複数の似顔絵を公開し、同年10月には頭蓋骨の立体模型などを用いて生前の顔を推定する「復顔」を実施した。テレビ朝日の当時報道では、人体構造を研究する専門家が遺体のデータをもとに模型を作り、樹脂で肉付けして顔を再現したとされる。
似顔絵や復顔は写真そのものではなく、本人の外見を推定した資料である。それでも、額の隆起、白髪交じりの髪、やせた体格と組み合わせることで、「昔の知人に似ている」「近所で見かけなくなった人ではないか」という記憶を呼び起こす狙いがあった。
「5月31日にロッカーへ入れられた事件」ではない
本件は「東京駅のロッカーから5月31日に遺体が見つかった」と紹介されることが多いが、5月31日はバッグを開けた日である。警察の情報提供資料は、4月26日に丸の内南口改札内のロッカーへ黄色いバッグが入れられたとしている。
警視庁の身元不明者資料は、女性が亡くなった時期を2015年4月頃と推定している。4月26日前後にバッグを東京駅へ運んだ人物の特定と、女性が死亡するまでの生活・行動の解明が現在も続いている。
初期の「死体遺棄」と、現在の「殺人事件として捜査」を分けて読む
事件発覚直後、警視庁は死体遺棄事件として捜査を始めた。当時は死因の鑑定前で、女性には目立った外傷がないと報じられていたため、殺害の有無まで公表できる段階ではなかった。
その後、警視庁刑事部捜査第一課は本件を「殺人事件として捜査」と明記するようになり、2026年5月31日にも情報提供を呼びかけた。殺害方法などの詳細は公表されていないが、現在は死体遺棄だけでなく女性の死亡そのものについて捜査が続く。
女性の名前が分からなければ、最後の生活もたどれない
殺人事件の捜査では、被害者が最後に誰と会い、どこで生活し、誰と連絡を取っていたかが重要になる。本件では、その出発点となる女性の氏名が分からない。遺体が発見された東京駅が生活圏だったのかどうかも、身元が判明しなければ判断できない。
警視庁は身元不明相談の対象として現在も情報を掲載している。女性を知る人、似顔絵や復顔に心当たりがある人、2015年春ごろから姿を見かけなくなった高齢女性を知る人、黄色い大型バッグを運ぶ人物を見た人の情報が、身元と事件の二つを同時に動かす可能性を持つ。
2026年現在も番号1178として掲載が続く
警視庁の身元不明者一覧には、2015年5月31日に千代田区丸の内で発見された女性が番号1178として残っている。身元が判明したとの発表、遺棄した人物が逮捕されたとの発表、刑事裁判が開かれたとの公表はいずれもない。
11年以上が過ぎても、女性は「東京駅のバッグから見つかった高齢女性」としか呼べない状態にある。事件の最初の課題は、誰が殺害に関与したかを追うことと同時に、女性の名前を取り戻すことにある。
参考資料・出典
- 警視庁「平成26年から平成27年発見の女性」番号1178
- 警視庁「身元不明女性1178 詳細」
- 杏林大学医学部法医学教室「JR東京駅コインロッカー内死体遺棄事件」
- 警視庁丸の内署「JR東京駅コインロッカー内死体遺棄事件 情報提供依頼」
- 琉球新報(共同通信)「東京駅コインロッカーに女性遺体」
- テレビ朝日「死後1カ月経過か 東京駅のコインロッカーから遺体」
- テレビ朝日「女性布に包まれていた 東京駅のコインロッカー遺体」
- テレビ朝日「コインロッカーに遺棄された女性の顔を再現、公開」
- 警視庁刑事部捜査第一課の2026年5月31日発信を収録したYahoo!リアルタイム検索
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。
