上申書殺人事件|死刑囚の告白で発覚した栗山裕さん保険金殺人と三上静男の無期懲役

公開日 2026年6月25日
最終更新 2026年8月28日
カテゴリー 2000年代 殺人事件 無期懲役

事件ステータス

発生年月日
2005年
都道府県
茨城県
事件分類
殺人事件

2005年、別の殺傷事件で一・二審の死刑判決を受け上告中だった後藤良次が、茨城県警へ一通の上申書を提出した。そこには、過去に自分が関与したとする複数の未解明事案と、関係者の名前が記されていた。

上申書を端緒に再捜査が進み、刑事裁判まで到達した中心事件が、2000年8月に死亡した阿見町の室内装飾会社社長・栗山裕さん(67)の事件だった。妻ら家族と外部の人物が共謀し、多額の生命保険金を得る目的で、持病のある栗山さんに長期間酒を飲ませた末に死亡させたと認定された。

上申書提出2005年
主な立件事件2000年8月の栗山裕さん保険金殺人
被害者栗山裕さん(67)
主要被告三上静男、後藤良次ほか
保険金約1億円
三上一審2009年2月26日、水戸地裁・無期懲役
三上控訴審2009年8月24日、東京高裁・控訴棄却
三上上告審2010年3月3日、最高裁・上告棄却
後藤一審2009年6月30日、水戸地裁・懲役20年

別事件で死刑判決を受けていた後藤良次が上申書を提出

後藤は、宇都宮市や水戸市で起こした別の殺傷事件で死刑判決を受けていた。その上告中だった2005年、茨城県内で過去に関与したとする複数の事件について上申書を作成し、県警へ提出した。

刑事手続上、上申書に名前が書かれただけで、その人物の犯罪が確定するわけではない。上申書は捜査のきっかけであり、実際に起訴するには供述の信用性、関係者の供述、金銭の移動などを別に裏付ける必要があった。

上申書に書かれた複数事案のうち、同じ形で有罪になったのは栗山さん事件

後藤の上申書は複数の死亡・遺棄事案に触れていたため、「上申書殺人事件」という呼称は一つの殺人だけを指すとは限らない。しかし、上申書に書かれた全内容が同じ証拠関係で立件され、全員の有罪判決につながったわけではない。

裁判で詳細な事実認定が行われたのが栗山さんの保険金殺人だった。ほかの記載内容については捜索や事情聴取が行われたものの、栗山さん事件と同じような確定判決が存在するわけではない。上申書の記述と、裁判所が有罪と認定した事実は同一ではない。

栗山裕さんには約1億円の生命保険がかけられていた

栗山さんは茨城県阿見町で室内装飾会社を経営していた。事件当時は肝硬変や糖尿病などを抱えており、家族側には会社経営や借金をめぐる事情もあったと報じられている。栗山さんには多額の生命保険がかけられていた。

確定した裁判では、家族側から殺害の依頼を受けた三上と後藤らが、保険金を得る目的で計画に加わったと認定された。死亡後に支払われた保険金は約1億円に達し、その取得をめぐる詐欺も審理対象になった。

約1か月にわたり酒を飲ませ、最後に高濃度のウオツカを強要

起訴内容や判決報道によると、栗山さんは2000年8月13日までの約1か月、繰り返し酒を飲まされた。もともと肝臓の病気などを抱えていることを利用し、病状を悪化させて死亡させる計画だったとされた。

最終段階では、96度の高濃度ウオツカを無理に飲ませたと認定されている。事件の特徴は、外見上は持病や大量飲酒による死亡と見え得る方法を用い、保険金取得につなげようとした点にあった。水戸地裁は後に、上申書が出るまで犯行が発覚しなかった「巧妙さ」を量刑理由の一つに挙げた。

2007年、三上・後藤・栗山さんの家族らが殺人容疑で逮捕

上申書提出後の再捜査を経て、2007年1月、三上、後藤、栗山さんの家族らが殺人容疑で逮捕された。事件から約6年半が経過してからの立件だった。

栗山さんの妻、娘、娘の夫の3人については、殺人や詐欺の罪で懲役13年から15年の判決が確定した。家族だけで完結した事件ではなく、外部の三上や後藤らが殺害方法や保険金取得に関与したという構図が裁判で認定された。

三上静男は一貫して関与を否定

三上は捜査段階から事件への関与を否定した。公判でも、後藤の上申書は自分に責任を転嫁するための虚偽だとして無罪を主張した。検察側は、三上が殺害の中心的役割を担い、後藤らに具体的な計画を持ちかけたと主張した。

この裁判の核心は、上申書という告発文書そのものではなく、後藤や共犯者の供述を信用できるか、その供述が他の事実と符合しているかにあった。後の控訴審も、多数の共犯者供述との一致を理由に、三上の関与を認めている。

水戸地裁は三上を「中心的役割」と認定し無期懲役

2009年2月26日、水戸地裁は三上に求刑通り無期懲役を言い渡した。判決は、三上が犯行で中心的な役割を果たしたことに加え、後藤が上申書を提出するまで事件として発覚しなかった点を重く評価した。

三上側は控訴した。無罪主張は変わらず、後藤らの供述の信用性を争ったが、東京高裁は2009年8月24日、一審判決を支持して控訴を棄却した。高裁は、後藤や共犯者の供述が相互に符合しており、三上の関与を認められると判断した。

2010年3月、最高裁が上告を棄却し無期懲役が確定

三上側はさらに上告したが、最高裁第三小法廷は2010年3月3日に上告を棄却した。これにより、殺人・詐欺などについて三上に無期懲役を科した一、二審の判断が確定した。

事件後、三上は獄中から冤罪を訴え続けたと報じられている。しかし刑事手続上の確定した結論は、後藤らの供述を信用し、三上を保険金殺人の中心人物の一人と認定した無期懲役判決である。

後藤良次には懲役20年――上申書提出が「自首」と評価された

後藤自身も栗山さん殺害で起訴された。水戸地裁は2009年6月30日、検察側の無期懲役求刑に対し、懲役20年を言い渡した。裁判所は犯行の重大性を認める一方、上申書の提出によって未発覚だった事件を自ら申告した点について、刑法上の自首が成立すると判断した。

ただし後藤には、別の5人殺傷事件で2007年に死刑判決が確定していた。栗山さん事件で懲役刑が言い渡されても、死刑確定という別事件の法的状態が消えるわけではない。この二つの判決は別々の事件について成立したものだった。

「死刑囚が語ったこと」と「裁判で確定したこと」を分ける

この事件が特異なのは、警察が把握していなかった事案を、別事件で死刑判決を受けた人物が自ら書面で告白したことにある。しかし、告白が詳しいからといって、記された全内容がそのまま刑事裁判上の事実になるわけではない。

栗山さん事件では逮捕、起訴、複数の被告人の公判を経て、有罪判決が確定した。一方、上申書に含まれた他の事案は同じ結論に至っていない。上申書による告白と確定判決は、法的には明確に区別される。

栗山さんの家族3人には懲役13年から15年が確定

栗山さんの妻、娘、娘の夫も殺人・詐欺で起訴された。水戸地裁は2007年7月、家族3人に懲役13年から15年を言い渡し、その後いずれも刑が確定した。

保険金殺人の依頼側とされた家族に実刑が確定したことは、後に三上の公判で「後藤一人の告発だけで作られた事件ではない」ことを示す重要な背景となった。三上の裁判では、家族を含む複数の関係者の供述がどこまで一致するかが検討された。

上申書の「第2の事件」では北茨城市の土地を実際に捜索

上申書に書かれた別事案についても、警察は単に記述を読んだだけでは終わらなかった。2007年3月には、1999年に資産家男性を生き埋めにしたと記された「第2の事件」について、後藤を立ち会わせ、北茨城市の土地を捜索した。

当時の報道では、男性が実在したことや、男性所有の土地が三上によって売却されていた事実まで捜査で確認されたとされる。しかし、栗山さん事件のように殺人罪の確定判決に至った事案ではない。周辺事実の一部が一致しても、殺害そのものを立証できるかは別問題だった。

物証が乏しい事件で、裁判所が供述の信用性をどう見たか

三上の無罪主張が焦点になったのは、事件発覚まで長期間が経過し、犯行方法も病死に見せかける性質を持っていたためである。弁護側は、後藤が別事件の死刑確定者であることなどを挙げ、告発内容を信用できないと攻撃した。

これに対し控訴審は、後藤の話だけを単独で採用したのではなく、複数の共犯者供述との符合を重視した。供述者同士の説明がどこで一致し、外部の金銭関係や出来事と結び付くかを見たうえで、三上の関与を認定した。上申書は捜査の入口であり、有罪認定の唯一の証拠ではなかった。

三上と後藤で刑が大きく違った理由

同じ栗山さん事件で、三上は無期懲役、後藤は懲役20年となった。三上について裁判所は中心的役割を認定し、事件を最後まで否認した。一方、後藤は実行に加わった責任を負う一方、自ら上申書を提出して未発覚事件を捜査機関へ申告した。

後藤の判決では、この申告が「自首」と評価され、検察の無期懲役求刑より軽い懲役20年が選択された。これは告発したから無罪になったという意味ではない。殺人罪で有罪とされたうえで、量刑上、自首が有利な事情として考慮されたという位置づけである。

上申書は事件を発覚させたが、三上は確定後も冤罪を主張

三上は最高裁で無期懲役が確定した後も、自分は栗山さん殺害に関与していないとの立場を崩していない。後年の取材でも獄中から冤罪を訴えていたことが報じられている。

三上は確定後も無罪を主張しているが、刑事裁判では無期懲役が確定している。本人の主張が続いていることと、確定判決が存在することは別の事実として併存している。

参考資料・出典

関連データベース 殺人事件・重大事件をさらに探す
凶悪事件 日本の凶悪事件データベース 殺人・強盗殺人・無差別殺傷などを整理 死刑判決 死刑判決事件一覧 死刑判決が言い渡された重大事件を整理

関連事件

同じテーマの書籍を探す

この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。