札幌地方裁判所が2008年に認定した偽装肉の量は、約13万8044キログラムに及んだ。牛肉に豚肉、鶏肉、羊肉、鴨肉などを混ぜながら、箱には牛肉だけを原料とするような表示を付ける。2006年5月から2007年6月までの起訴対象だけで、虚偽表示は327回、出荷・引き渡しは331回に達していた。
北海道苫小牧市の食肉加工卸会社ミートホープで長く続いた偽装は、2007年6月に表面化した。元社長の田中稔は同年10月、不正競争防止法違反の疑いで逮捕され、詐欺も含めて起訴された。会社はすでに事業を停止して破産手続きへ入り、翌2008年3月、田中には懲役4年の実刑判決が言い渡された。
| 発覚 | 2007年6月 |
|---|---|
| 会社 | ミートホープ株式会社(北海道苫小牧市) |
| 元社長 | 田中稔 |
| 起訴対象の偽装量 | 約13万8044kg |
| 虚偽表示 | 2006年5月~2007年6月、327回 |
| 詐欺 | 14回、計3926万9453円 |
| 逮捕 | 2007年10月24日、不正競争防止法違反(虚偽表示)容疑 |
| 判決 | 2008年3月19日、札幌地裁・懲役4年 |
| 会社 | 2007年7月17日に自己破産を申請 |
会社設立から数年後には異種肉を混ぜる製造が始まっていた
ミートホープは1976年6月に設立され、食肉加工・卸売業を拡大した。2006年3月期の売上高は約16億4500万円で、本社工場のほか複数の拠点を持ち、大手食品会社やスーパー、ホテル、飲食店などへ商品を供給していた。事件は小規模な販売店の表示違反ではなく、加工食品の原料を供給する業者間取引の中で起きた。
判決は、会社設立から数年後には、焼肉用にできない端材の処理をきっかけとして、牛肉以外の肉を牛ひき肉へ混ぜる製造が始まったと認定している。取引先が小口の焼肉店から大量のひき肉を使う食品加工会社へ広がるにつれ、異種肉を混ぜた商品も大量に製造・販売されるようになった。起訴された約1年間の行為は、以前から続いていた偽装の一部だった。
豚・鶏・羊・鴨を混ぜ、見た目まで牛肉に近づけた
起訴された製品には、牛肉だけでなく豚肉、鶏肉、羊肉、鴨肉などが使われた。さらに豚の血液製剤で赤みを付け、肉を複数回ひく「二度挽き」などの方法で見分けにくくしていた。箱には「十勝産牛バラ挽肉」など、牛肉のみを原料と受け取らせる表示が付けられた。
裁判所は、こうした加工に加え、取引業者による抜き打ち検査の際に従業員へ隠蔽を指示していた点も認定した。単に原料を取り違えたのではなく、異種肉の混入を分からなくする工程と、発覚を避ける行動が組み合わされていた。
2006年には行政へ情報が届いていた
不正が大きく表面化する前年の2006年2月と3月、農林水産省側にはミートホープの牛ひき肉をめぐる情報が寄せられていた。4月から5月ごろには、不正の証拠とされた肉も北海道農政事務所へ持ち込まれている。だが、その段階で偽装を止める対応にはつながらなかった。
農林水産省が事件後にまとめた調査報告書は、初期情報への対応が遅かったこと、北海道庁への情報回付をめぐり国と道の認識が食い違っていたこと、持ち込まれた肉への対応が不十分だったことなどを問題点として挙げた。結果として、行政が情報を得てから実態が公になるまで1年以上が経過した。
2007年6月、偽装が表面化し取引が一気に止まった
2007年6月20日、牛ひき肉への異種肉混入が公になった。調査が進むにつれ、外国産牛肉を国産と表示した事例や、賞味期限表示をめぐる不適正な取扱いなども相次いで明らかになる。取引先では商品の回収や販売停止が広がり、ミートホープの製造ラインも止まった。
信用を失った会社には返品と取引中止が集中し、6月29日には全従業員を解雇した。7月17日、札幌地裁苫小牧支部へ自己破産を申し立て、負債は約6億7000万円。発覚から1か月足らずで、1976年から続いた事業は継続できない状態になった。
10月の逮捕は「詐欺」ではなく虚偽表示容疑から始まった
北海道警は2007年10月24日、田中稔ら4人を不正競争防止法違反のうち虚偽表示の疑いで逮捕した。この時点で問題とされたのは、豚肉や鶏肉を混ぜたミンチを牛肉100%のように表示して出荷した行為だった。取引先から代金を得たことについては、別に詐欺として立件が進められた。
刑事裁判では、不正競争防止法違反と詐欺が区別して認定された。虚偽表示だけを処罰した事件でも、最初から詐欺容疑だけで逮捕された事件でもない。表示によって商品内容を偽った行為と、その偽装を隠して代金を受け取った行為が、それぞれ犯罪事実として構成された。
裁判で認定された詐欺は14回、3926万9453円
詐欺について裁判所が認定したのは、2006年6月から2007年5月までの14回だった。牛肉以外を混ぜた製品を注文どおりの牛肉製品であるかのように装い、取引先3社から合計3926万9453円の支払いを受けた。
同じ判決で、虚偽表示された肉は約13万8044キログラムとされた。ここで示された数字は、刑事事件として起訴され、裁判所が有罪認定した期間と取引に対応する。会社で長年行われてきたとされた偽装全体の総量を、そのまま表す数字ではない。
札幌地裁は利益目的と長期反復を重く見た
2008年3月19日、札幌地裁は田中に懲役4年を言い渡した。判決は、安い原材料を使って売上げと利益を上げようとしたことを利欲目的の犯行と評価し、取引先から求められる価格に応えるためだったという説明を、酌量すべき事情とは認めなかった。
量刑では、偽装表示が300回以上、詐欺が14回に及んだ反復性、混入量と詐取額、取引先が商品の回収などで損失を受けたことが考慮された。取引業者だけでなく、食品表示を信頼して購入する消費者の信頼を損なった点も重く評価された。判決はその後確定した。
事件は行政の情報受理と検査のあり方にも課題を残した
刑事裁判が問うたのは田中らの偽装と詐欺だったが、事件後には行政側の対応も検証された。農林水産省の調査では、情報提供の扱い、国と北海道の連携、立入検査で不正を見抜けなかった点などが具体的に検討対象となった。
ミートホープ事件で明らかになったのは、完成品の表示だけを見ても、原料段階の偽装は発見しにくいという問題だった。大手食品会社へ原料を供給する事業者で不正が続けば、その影響は複数の商品と販売先へ広がる。約13.8万キログラムという裁判上の数字は、その構造が実際の取引へ入り込んでいた規模を示している。
取引先にも商品の回収と信用損失が広がった
偽装された肉はミートホープの工場だけで消費されたものではなく、食品加工会社へ原料として納入されていた。発覚後、取引先は対象商品の回収や販売停止を迫られた。札幌地裁判決も、取引業者の信用が傷つき、商品回収などで多額の損失を受けたことを犯行結果として挙げている。
原料段階で「牛肉」と示されたものを受け取る側は、納品書や規格書に一定の信頼を置いて製造する。ひき肉のように加工後の外観だけでは肉種を判別しにくい商品では、その前提が崩れると流通の先まで影響が拡大する。偽装が一つの工場内の問題で終わらなかった理由はここにあった。
刑事判決の数字は「会社で行われた全期間」の総量ではない
判決が具体的に認定した虚偽表示は2006年5月29日ごろから2007年6月18日ごろまでで、偽装表示327回、出荷・引き渡し331回、対象肉約13万8044キログラムだった。詐欺は2006年6月から2007年5月までの14回、被害額3926万9453円。これが刑事裁判で確定した範囲となる。
一方、判決理由は、牛肉以外の端材を混ぜる製造自体が会社設立の数年後には始まり、取引拡大とともに量が増えたと認定している。したがって約13.8万キログラムという数字を「創業以来の偽装総量」と解釈することはできない。長期化した実態と、起訴され有罪となった犯罪事実は分けて把握する必要がある。
判決から2週間余り後、控訴されず懲役4年が確定
田中は2008年3月19日の実刑判決に対して控訴せず、4月3日に懲役4年が確定した。会社自体は前年7月に自己破産を申し立てており、刑事裁判が終わる時点では既に事業再開を前提とする状況ではなかった。
発覚から会社破綻、逮捕、起訴、判決確定まで約10か月。行政上の食品表示問題から始まった不正は、会社の存続を失わせるだけでなく、不正競争防止法違反と詐欺による刑事責任へ進んだ。
参考資料・出典
- 札幌地方裁判所 2008年3月19日判決(ミートホープ食肉偽装事件)
- 農林水産省「牛ミンチ事案の事実関係及び今後の改善策に関する調査報告書(概要)」
- 帝国データバンク「ミートホープ株式会社」倒産速報
- J-CASTニュース「ミートホープの田中社長ら4人、虚偽表示の疑いで逮捕」
- 北海道ファンマガジン「食の安全特設ページ―ミートホープ事件」
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