1998年12月25日、三重県松阪市のアパートで暮らしていたフィリピン人女性2人が、森本信之(当時は沢本姓)と共犯者2人に首を絞められて殺害され、現金約1万3000円とネックレスなど時価約25万円相当の貴金属を奪われた。森本は被害者と面識があり、偽装結婚の相手を紹介すると持ちかけて共犯者を室内へ入れ、女性たちの注意を引き付けて殺害を容易にした。
森本らは事件前にネクタイ、ロープ、手袋などを準備し、被害者が多額の現金を持っているとの情報を頼りに強盗殺人を計画していた。実際に奪えた金品は想定より少なかったが、2人の生命は奪われた。森本はこれに先立つパチンコ店での強盗致傷にも関与し、約1920万円を奪って従業員に重傷を負わせていた。津地裁は2000年に死刑を言い渡し、名古屋高裁、最高裁も維持した。2004年12月に死刑が確定し、2026年8月時点で刑執行や死亡は確認されていない。
| 事件名 | フィリピン人女性2人殺害事件 |
|---|---|
| 発生日 | 1998年12月25日 |
| 発生場所 | 三重県松阪市のアパート |
| 被害 | 20代のフィリピン人女性2人が死亡。現金と貴金属を奪われる |
| 主要人物 | 森本信之(旧姓・沢本)、共犯者2人 |
| 現在の状況 | 2004年12月14日に死刑確定。2026年8月時点で収容中 |
被害者との面識から得た情報
森本は、同居していたフィリピン人女性を通じ、松阪市のアパートでホステスとして働く被害者2人を知っていた。被害者たちがまとまった現金を持っているという話を聞き、居場所や生活状況を共犯者へ伝えた。強盗の標的は、無作為に選ばれたのではなく、森本が持つ人的なつながりから絞り込まれた。
共犯者らは約7か月の間、金を得るために複数の標的を検討し、強盗や殺害を伴う計画を話し合っていた。森本は被害者のアパートの場所を知り、警戒されずに玄関を開けてもらえる立場にあったため、室内へ入る役割を担った。裁判所は、情報提供だけでなく、計画の実行に不可欠な役割だったと評価した。
被害者が外国籍であることや生活上の事情は、被害に遭う理由にはならない。森本らは、被害者たちが手元に現金を置いていると一方的に推測し、面識と信頼を利用した。実際に奪われた金額が少なくても、金品を得るために2人を殺害する計画を実行した事実は変わらなかった。
ネクタイやロープを準備した強盗計画
事件前、森本らは首を絞めるために使うネクタイやロープ、指紋などを残しにくくする手袋を準備した。室内へ入った後、2人を同時に制圧し、殺害して金品を探すことを想定していた。凶器を現場で偶然手にしたのではなく、持参した道具を用いる計画だった。
3人のうち森本だけが被害者と面識を持っていたため、訪問の理由を作る必要があった。そこで使われたのが、偽装結婚の相手を紹介するという話だった。被害者が話を信じて共犯者を室内へ迎え入れれば、外から無理に侵入する必要がなく、周囲にも異変を気付かれにくい。
裁判では、標的の情報収集、道具の用意、訪問の口実、室内での役割分担が連続した準備として認定された。金銭目的が先にあり、殺害は発覚を防ぎながら確実に金品を奪う手段として組み込まれていた。
偽装結婚の話でアパートへ入った3人
12月25日、森本は共犯者2人と被害者たちのアパートを訪れた。森本が知人として先に室内へ入り、偽装結婚の相手を連れてきたと説明したことで、被害者たちは2人も部屋へ入れた。面識のある森本が同行していたことが、警戒を弱める要因になった。
室内では、森本が用紙をテーブルへ出し、被害者たちに氏名を書かせた。2人が書面へ注意を向けている間に、背後に回った共犯者らがネクタイを首へ巻き付けた。話し合いや書類作成に見せかけた行動は、同時に2人を襲うための合図と機会を作るものだった。
玄関から押し入る形ではなく、信頼させて室内へ入り、注意をそらして背後から襲う方法が取られた。被害者側には攻撃を予測する材料がなく、逃げたり助けを求めたりする前に制圧された。
2人の殺害と室内から奪われた金品
共犯者らは女性2人の首をネクタイで締め、1人にはさらにロープを巻き付けた。森本も加勢し、ロープの両端を引くなどして殺害行為に加わった。2人はいずれも頸部を圧迫され、窒息死した。最高裁は、無防備な被害者を欺いて殺害した態様を計画的で残忍なものと評価した。
殺害後に室内を探したものの、森本らが想定していたような多額の現金は見つからなかった。奪ったのは現金約1万3000円と、ネックレスなど4点の貴金属で、時価は合計約25万円と認定された。得られた利益と比べても、2人の生命を奪った結果はあまりに重大だった。
森本は、標的に関する情報を提供し、室内へ共犯者を入れる方法を考え、被害者の注意を引き付け、絞殺にも加勢した。裁判所は、計画から実行まで中核的な役割を果たしたと認定し、単なる従属的な共犯とはみなさなかった。
パチンコ店から約1920万円を奪った強盗致傷
女性2人の事件とは別に、森本は共犯者1人とパチンコ店への強盗を実行していた。共犯者が以前勤務していた店を標的にし、深夜に建物へ侵入した。従業員へ包丁を突き付けて金庫を開けさせ、売上金約1920万円を奪った。
その際、従業員は木刀で頭部などを殴られ、頭蓋骨骨折、脳挫傷、左上腕骨骨折など、治療に約6か月を要する重傷を負った。森本自身も計画段階から関わり、実行行為を分担し、途中で共犯者へさらに殴るよう促したと認定された。奪った金の半分を受け取っている。
この強盗致傷は、死亡結果こそ生じなかったが、被害者が死亡してもおかしくない危険な犯行だった。裁判では、女性2人への強盗殺人と合わせ、金銭を得るために他人の生命や身体を顧みない一連の行動として評価された。
逮捕後に分かれた3人の刑事責任
森本は1999年1月に逮捕され、当時45歳だった。津地裁の初公判では起訴事実を認めた。共犯者を含む3人が同じ強盗殺人で起訴され、一審では3人全員に死刑が言い渡されたが、その後の経過は分かれた。1人は控訴審の途中で病死し、もう1人は名古屋高裁で無期懲役へ減刑されて確定した。
森本については、被害者と面識があり、犯行に必要な情報を持ち、訪問の口実を作り、実行時にも被害者の注意を引いて殺害に加勢した点が重視された。共犯者の1人が無期懲役になったことは量刑上考慮されたが、役割や関与の程度が同じとは判断されなかった。
控訴審で森本は反省の言葉を述べる一方、一審の死刑には納得できないとも述べた。弁護側は前科がないことや反省、共犯者との刑の均衡を主張したが、被害者2人を計画的に殺害した責任を軽くする事情にはならないとされた。
最高裁で死刑が確定した後の状況
津地裁は2000年3月1日、森本に死刑を言い渡した。名古屋高裁は2001年5月14日に控訴を棄却し、最高裁第三小法廷も2004年12月14日に上告を棄却した。最高裁は、被害者を欺いて室内へ入り、準備した道具で2人を殺害した計画性と、森本が中核的役割を果たしたことを明確に指摘した。
判決は、前科がないこと、反省の態度、共犯者の1人が無期懲役となったことを森本に有利な事情として検討した。それでも、2人を金品目的で殺害した結果、パチンコ店従業員に重大な傷害を負わせた別事件、被害者や遺族の処罰感情などから、死刑はやむを得ないと結論付けた。
2004年の上告棄却により死刑は確定した。2026年7月更新の死刑確定者資料では、森本について刑執行や死亡の記録はない。2026年8月時点の法的状況は死刑確定・未執行であり、森本は死刑確定者として収容されている。
想定した現金と実際の被害額、3人の役割
森本らは、被害者2人がまとまった現金を持っていると考え、強盗を実行すれば多額の金を得られると見込んでいた。そこで、突然押し入るのではなく、被害者と面識のある森本が偽装結婚の相手を紹介するという口実を用いた。女性たちに氏名などを書かせて注意を紙面へ向けさせ、その間に背後から首を絞める段取りだった。ネクタイ、ロープ、手袋を事前にそろえたことも、殺害を伴う強盗が偶発的に起きたのではなく、室内へ入る前から準備されていたことを示した。
室内から実際に奪われたのは現金約1万3000円と、ネックレスなど時価約25万円相当の貴金属だった。期待していた金額には届かなかったが、強盗殺人の成立は、犯行側が想定どおりの利益を得たかどうかでは左右されない。財物を奪う目的で被害者を殺害し、その後に現金や貴金属を持ち去った一連の行為が問題となった。女性2人は、金額について誤った情報を得た3人の計画によって、逃げる機会を奪われた。
3人の役割は完全に同じではなかった。森本は被害者と会話し、書類へ記入させる役割を担う一方、共犯者が最初の女性を絞殺する状況を作り、2人目の殺害では自身も加わったと認定された。共犯者の1人は刑事手続中に死亡し、もう1人には無期懲役が確定した。裁判所は、森本が被害者との面識を利用し、計画を成立させるために不可欠な役割を担ったことから、他の者と刑が異なることだけで死刑が不当になるとは判断しなかった。
量刑では、約7か月前に起こしたパチンコ店強盗致傷も重視された。森本らは閉店後の店舗へ侵入し、従業員を襲って約1920万円を奪い、被害者に長期の治療を要するけがを負わせた。大金を得た後にも再び金銭目的の犯行を計画し、今度は面識のある女性2人を殺害した経過から、単発の判断ではなく、他人の生命や身体を顧みず金品を得ようとする犯罪が繰り返されたと評価された。
森本は殺害の実行場面だけを切り離し、自身の役割が従属的だったと主張したが、被害者との接点を持つ者が協力しなければ、3人が警戒されずに室内へ入り込むことは難しかった。裁判所は、会話を続けて注意をそらす行為も、背後からの襲撃を可能にした共同実行の一部と捉えた。
関連事件
この事件に関連するテーマから、書籍・資料をまとめて確認できます。



